第十四話 早河さんの問い
長らくお休みをいただいていましたが、本話より通常どおり更新していく予定です。
「話し声デカすぎ。お前らの行動、クラス中に広がってんぞ」
早川さんは私にスマンと言い、合掌した。吉川くんは盛大な溜息を吐く。
「……変なことに首突っ込むな」
「変、ね。吉川は変って分かりながら、わざわざ深入りしにきたんだ?」
命知らずの早河さんは吉川くんを揶揄する。恐る恐る彼の表情を窺った。
「ああ、そうだよ」
彼は私を瞥見するとトイレの中に消えていった。
トイレの中ではまだ男女が絡み合っているだろう。それを知ってか知らずか、吉川くんは自ら乗り込んでいった。どういう意図があってのことか理解しかねる。早河さんはのんきに鼻歌を歌いながら私の癖髪を弄んでいて、ちっとも吉川くんのことを気にかけてはいなかった。
「由はいいなあ」
鼻歌をふと止めた早河さんは呟いた。普段のおどけた様子は消え失せている。彼女の濃褐色の瞳が翳り、憂いを帯びたことに私はドキリとする。表情は凄艶で何かに魘されているようにも見えた。
「え?」
彼女は頭を数回振ると、にっかと晴れやかな笑顔を作った。取り繕ったようなそれに、私は違和感を拭い去れなかった。なんとなく訊き返してはいけない気がする。
「私のことどう思う?」
唐突な質問に私は首を傾げた。
「第一印象とか、私の性格どう思っているか。ぶっちゃっていいから」
苦笑いをして直接的に問いただす彼女に、嫌味な様子はなかった。
こうして改めて問われると、答え辛いものがある。取り繕う言葉を私は持っていなかった。拙い自分に嫌気がさす。私ができるのはありのまま、思ったことを口に出すことだけ。
「クラスのムードメーカーで、明るくて……姦しい」
早河さんは一言一言を噛み締めるように頷いた。
「学校にメイクをしてきて、スカート短くて、校則違反は当たり前、話かけ辛い人」
赤茶色の髪。スカートは切られて膝上十五センチ以上。ルーズソックス。両耳のピアス。研究を重ねられただろう完璧なメイク。派手なネイル。全てが近寄りがたい。今こうして会話をしている人は、私が苦手とするカテゴリの中にいる。
「だよね。自覚してる。他人にどう思われようと気にしないはずだったんだけど、最近ホント参っちゃって。由を見てると大人しくて、勉強が恥ずかしくない程度できる、そんな人になりたいなあって思う」
一体どうしたのだろう。彼女の様子が変だ。拗ねて口をすぼめて不機嫌な表情は見たことはあったが、このような類の、自分をせせら笑うような態度は見せたことがなかった。
「私エンコーしてるってウワサされてるんだよ? 好きな人の耳に入っちゃったし」
胸をナイフで抉られたような衝撃を受けた。泣いて告白してくれたなら、私は掛ける言葉を精一杯考えただろうに。莞爾として笑っている彼女が腹の内に何を抱えているのか、考えるのが恐ろしかった。