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よし魔王討伐だ!ってもう討伐終わってるんですか

作者: なのだ_4

俺はこれほどまでに勇者らしくない勇者を知らない

「ねーマヒロ~。風呂沸かしてきてくれな~い?ね!お願い、ね!」

「はいはい」


 呆れた表情で返事を返す俺は愚痴をこぼしながら風呂場へ向かった。


 ったく少しは動けよこのクズ勇者が。可愛げがないんだよ。可愛げが。


「なんだって、マ・ヒ・ロ・く・ん?」


 怖い怖い怖い。お願いだからその振り上げた拳下ろしてください!


「まったく、始めからさっさとやればいいのよ」


 そう言うと彼女は再びソファに寝っ転がり読み途中だった漫画を読み始める。


 本当にめんどくさい能力持っていやがる。

 彼女の持っている能力、思考(ソート)。このせいで俺の心の声がすべて筒抜けだ。


「はーやーくー!」


 ったく何が「はーやーくー!」だ。そのバタバタ動かしてる足へし折るぞ。


「マヒロく~ん?」

「すみません。すぐやってきます。」




 こんな俺たち二人の関係が始まったのは忘れもしない今から三か月前のこと。


 俺、鳴沢茉広(なるさわまひろ)はごく普通の高校生だった。

 特にこれと言って長所と呼べるところもなく見た目、成績、運動、とすべてにおいて平均値だった俺は当然彼女なんていたこともなく友人と呼べる人も少なかった。

 学校に行っても対人との交流は避け、ただひたすらに転生もののラノベとの睨めっこ。


「あー明日も学校とかめんどすぎだろ、もう読むラノベもねーよ」


 俺はその夜布団の中でそんなことを呟いた。

 再び始まる退屈な学校生活に逃れることのできない現実、そういった負の感情が心の中でたまっていく。


「もういっそこのまま永遠の眠りにでもついてくれたら楽なのに」


 ふとそんなことを思い、深い眠りについた。

 だがこの深い眠りが本当の意味での深い眠りとなってしまった。




 幸運なことか次に目を覚ますと俺は異世界へと転生していた。

 普段見慣れた殺風景な天井から、見たことのない景色が目の前に広がっていたためすぐに気が付いた。

見た目はそのままに服装だけが駆け出しの冒険者のようなものに変わっていた。


「おい嘘だろ。ここってまさか・・・」


 夢にまで見た異世界転生。

 突然の出来事に驚きを隠せなかった俺は興奮と高揚感で全身に鳥肌が立ったことを今でも覚えている。


「ここは駆け出しの街なのか?見た感じ平和そのものだ」


 辺りを見渡すとにこやかな表情の街人たち。

 唯一あったギルドに行ってみるもそこにいる冒険者たちに緊張感はなく、まだ朝だというのにたらふく酒をのんでいた。


 いやいや勘違いするな鳴沢茉広、十七歳童貞。

 こういう場合に限って大抵中央都市は魔王軍の圧力によって壊滅状態に瀕しているのが通常のシナリオだ。ここで勘違いしてしまってはダメだ!


 普段読んでいたラノベの知識をフル活用して頭の中を整理した。


 すると何を思ったのかグッと拳を握りしめると、辺り一帯に聞こえる声量で俺は後に黒歴史となるイターい言葉を宣言する。


「俺は魔王を打ち取りしため転生した勇者マヒロ!

魔王軍に苦しめられている弱き者を救うべく下界から舞い降りた!

安心しろ。魔王はこの俺が討伐するッ!!!」


 決まった・・・

 今日から俺の勇者への物語が始まる。

 そう俺は今日から“キモオタ”と言われ続けた人生に終止符を打つッ!


 とそこにビール片手に胸元が強調された服装の一人の女性が近づいてきた。


「ちょっとちょっとちょっと、あんた何言ってんの?魔王なんてもういないわよ?」


 ち、小さい・・・ん?てかこいつ今なんて言った?


 彼女は今にも笑いだしそうなその口をもう一方の手で押さえ俺の顔を見つめる。

 だがその目は完全に俺を嘲笑っていた。


「お嬢さん、お気遣いありがとう。だが安心したまえ。俺は君のような人たちを救うため生まれ変わったナイトさ」

「は何言ってんの?救うも何も討ち取ったのはこの私よ?」


 どうやら相当酔っているらしい。でなきゃこんな小柄な女性に魔王が討ち取れる訳がない。


「おーい、聞こえてますかー?・・・はぁー、自分の世界に入り込んじゃったよこの“陰キャ”」

「だだだ、誰が陰キャだ!お、俺は別に、好んで一人になってただけだし、べ、別に避けられてたとかじゃ・・・な・・・ぃ・・・」


 徐々に小さくなる声。


「あーわかったわかった。私が悪かった。

それより自己紹介がまだだったわね。私の名前はサレーナ。またの名を勇者サレーナよ」


 勇者・・・どういう事だ?この世界は本当に魔王が討伐されたと言うのか。


「さっき言ってた討伐ってまさか・・・」

「そうよ、魔王よ!」


 そうして俺の勇者への物語は初日にして終了。

 いろいろあって今は勇者サレーナの家に居候させてもらっているわけだ。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 俺たちの一日は昼から始まる。


 その理由は言わずもがなあのクズ勇者のせいである。


 毎晩毎晩魔王を討ち取ったときの懸賞金で飲みに出ては吐くまで飲み続け、帰ってきてからはリセットされた胃袋に再度アルコールを流し込む。

 深夜三時、俺はそこから参戦だ。

 熟睡している俺を無理やりこのクズは起こし明け方まで付き合わされる。


 前に一度「別に家で飲まなくても、もう一軒行ってこればいいだろ?」と言ったことがあるのだが「そんなマネするわけないでしょ。だって深夜三時よ?この罪悪感をマヒロと飲むことによって半減させているんだから」と真剣な顔で訳の分からんことを言い出す始末。


 そうして今日もこのクズ勇者を起こすのだが・・・


「おーい起きろサレーナ。もう昼の一時だぞってうわ、酒くさッ!」

「んーんにゃにゃ」

「おい起きろって!聞いてるかー、ってやっぱり駄目か・・・」


 とこのように彼女は全く起きないのだ。


 腹を出して寝ているのだがまったく色気を感じず、時々下乳が見えると言う本来ならこれ以上ないイベントが発生することもあるのだが驚くことに自分の胸を見ているような不思議な感覚に陥る。

 何が言いたいかって?まな板なのだ。


 はぁーできればこれは使いたくなかった。

だが流石にこの俺も昼二時の罪悪感は耐えられない。


 茉広は心を無にしてサレーナの耳元でボソッと呟いた。


「起きろやこの貧乳勇者。色気がねーんだよ色気が」

「だーれーがー貧乳勇者じゃ。このヤロー!!!」


 耳元に近づいた茉広の顔面目掛けてサレーナは渾身の一撃を喰らわせた。


「さ、さすがわ元勇者・・・容赦ないな・・・グハッ・・・」


 サレーナの強烈な一撃を喰らった茉広はその場で崩れ落ちた。

 それから三分ほど経過し目が覚めた俺は衝撃の光景を目にする。

 あろうことかあのサレーナが泣いていたのだ。


「ッぐ、ッぐ、ッぐ、ひ貧乳じゃないもん・・・」

「やっと目が覚めたか」


 茉広は頬に手を当てながらゆっくりと立ち上がる。


「なんだそんな気にしてたのか?知らなかったよ。何しろ毎日胸を強調するものばかり着るんだ・・・」


「勇者の導き!!!」


 グハッ、、、


 魔王にも喰らわせた技を喰らった茉広は再びその場に崩れ落ちた。

 そしてもう二度と茉広はサレーナの前でそれに触れることはなくなった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 その日の晩のこと。

 茉広はサレーナの入っている風呂の温度調節のため外に出て薪を組んでいた。


「おーいこんくらいか~?」

「そそ。いい感じじゃない!やっとこの私のことを理解してきたのね」


 嫌でも理解するだろ。


「マヒロ!」

「ごめんなさい!私が悪うございましたッ!」

「何謝ってんの?いいから早くマヒロもお風呂に入りに来なよ~?」


 おっと、

 今この勇者様は何とおっしゃいましたか?気のせいかな「入りに“来なよ”」と聞こえたんだが。

 もしかして一緒に入ってもいいってこと?えそう言うこと!

 なになに神様もいいことすんじゃねーか。貧乳なのは残念だが結構いい肉付きしてると思ったんだよな。にしし・・・


「急いで向かわせていただきますッ!!!」


 そう言うと組んでいた薪をその場に置きさり急いで風呂場まで走り出す。

 だがこの時茂みの陰から怪しげな目線を感じ取った茉広はその場で足を止めた。


「誰だッ!一体そんなところで何してる!!」


 その茂みに隠れていたのは生き残った魔王軍の残党だった。幹部と思われる人物一人にその部下約三十人が一斉に茂みの中から姿を現す。


 おいおい嘘だろ・・・嘘と言ってくれ・・・




 一方そのころサレーナはと言うともうすでに風呂を出て入浴後の保湿をしていた。


「この風呂を出てからの保湿が大切なのよ」


 鼻歌を歌いながら全身に保湿クリームを塗る。

 上半身から塗りはじめ太もも、ふくらはぎと全身をこまなく塗る。


「私はこの太ももが魅力的なんだから」


 クリームを塗るその指はむっちりとした太ももにのめり込む。

 

「んーこんな感じかな、おお我ながらいいスタイルしているじゃないか」


 洗面器の鏡に向かって全裸でポーズをとっている時勢いよく扉が開いた。


「おいサレーナ!!!助けてくれ!魔王軍の残党がって何してんだよ・・・」

「は!え、えーとこれは・・・ってみ、見るなバカ者ッ!」

「だ、誰がお前の裸なんか見たいんだ・・・よ・・・」

「そんな鼻の下伸ばして言われても説得力ないわよ!」

「しょ、しょうがないだろ!俺だって生まれて初めて女性の裸見るんだから」

「え、なに興奮したの?」

「なんでちょっと嬉しそうなんだよ・・・ってそれより大変なんだ!今魔王軍の残党が攻めてきて俺一人じゃ対処しきれない」

「何言ってんのよ。魔王軍なんて私がすべて倒し・・・あ」

「おいなんだよ今の“あ”って」

「何でもないわ」


 言えない。実は奇襲で魔王を倒したから魔王以外の幹部らは全員そのままにしてあるなんて。絶対に言えない!!


 そう実は勇者サレーナはその面倒くさがり屋の性格ゆえ魔王は討ち取ったもののその幹部や部下たちまで倒すのは面倒だと思い奇襲した後そのまま帰ってきたのだ。

 今まさにその恨みを持った魔王軍の一部が攻めてきているという訳だ。


「なんでもいいとりあえず行くぞ!」

「マヒロ、ごめんなさい。私いけないわ」

「こんな時に何言ってんだよ!二人で手を合わせないと倒せないって」

「ううん、そう言うことじゃない。私もうお風呂入っちゃったの。分かるでしょ?」

「冗談だろ」

「こんな時に冗談言ってどうすんのよ。大マジよ。だってもうパックまでしちゃってるのよ?ね、お願い、私のナイト様、、、」


 やめて、お願いだからそれだけは本当にやめて!!!俺の消えない黒歴史だから!


「ったく俺が死んでも知らないからな」

「はいはい、応援してる頑張れー元勇者希望~」


 戦いは長期戦に持ち込まれた。

 前世武道をやっていたわけではないが格ゲーで鍛え上げられた感覚で何とか部下の十人ほどを倒すことができたが一人では分が悪すぎるためそこから均衡状態が続いた。

 もう少しで俺の体力もそこを尽きる。そう思ったその時、背後から俺を呼ぶ声が聞こえた。


「マヒロ~テレビのリモコンどこにやったか知らなーい?って何その怪我?!ぼろぼろじゃないまだ戦ってたの?この後私の好きなワイドショーが始まるのよ。しょうがないから参戦してあげるわ。十分でかたずけるわよ」

「お、おう」


 その後本当にたった十分で襲撃に来た幹部一人部下二十人を一人でかたずけたサレーナにただただ唖然とする茉広だった。






 だが二人は後に知ることとなる。サレーナが倒した魔王が実はまだ生きているということに。

そしてそれを知った二人は再び討伐すべく冒険に旅立つのであった。


「まだ生きてたんだって。えへへへへ、てへぺろ!」


 いや全然可愛くねーんだよ、可愛く。


「勇者の導き!!!」

「お、おい頼むからそれは俺じゃなく魔王にやってくれーーーー」


二作品目は転生ものに挑戦してみました!

もしよかったら一作品目も読んでみてください。

すでに読んだことあるよと言う方は今絶賛連載する作品を書いているところなので楽しみにしていてください!!!

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