自分を刻み込みたい
俺の休日を待っていたように、妻にデパートとか服屋さんを何軒も連れ回された。
実物を見て下着を選べと無茶を言うので、一番高いヤツと答えておいたのだが、妻は「良いの。嬉しいわ」とご満悦だ。
ツルツルとした生地の服は、紺色に白い縁取りがあるものを選んだ。
決して、〈あっこ〉先生の水着に似ていると思った訳じゃないぞ。
少し丈が短いワンピースは、目が痛くなるほど鮮やかな青い色を俺は指さしていた。
「わぁ、すごく目立つ色ね。私に着こなせるかな」
三着目の服は、真っ白なものが良いと言ったと思う。
「シンプルだけど、花嫁さんが着ても良いような服を選んでくれたのね」
妻は俺が選んだ服を胸に抱いたまま、俺をじっと見詰めていた。
妻の唇は、かなり治っているようだ。
風呂に入った後、妻が買ったばかりの白い服を着て、俺の前に跪いている。
「口でやらせてください。 こんなことをするのは〈あなた〉が初めてです。 もちろん、浮気相手にはしていません」
妻は胸元のボタンを全て外してから、俺のパジャマとパンツを降ろしていくけど、俺は少しも動けないでいた。
どう動けば良いのか、どう声をかければ良いのか、何も分からなかったんだ。
下着は付けていないため白い服からこぼれている、妻の胸をただ見ていたと思う。
我に返って妻の顔を見ると、すごく嬉しそうな表情に見えた。
何がそんなに嬉しいのか、一生懸命にしゃぶりついている。
顔が〈ひょっとこ〉みたいになっているから、少し笑ってしまうじゃないか。
そうしたら妻はもっと嬉しそうな顔になって、俺の手を胸に持っていくじゃないか。
柔らかな妻の胸の先は固くなっているから、そっと摘まんでしまうのはしょうがない。
そうしたら妻は嬉しそうな顔から、耐えているような顔に変わっていった。
耐えきれないのか、咥えたまま、〈あん、あん〉とくぐもった声を出しているぞ。
俺も耐えきれなくなり、放ってしまう。
妻の喉がゴクゴクと動き、少し苦しそうな顔へとまた変わった。
粘りが強いせいだろう。
「これでダメなら、もう後が無いと思っていました。 本当に良かった」
妻は白い服から胸を出したまま、涙を流し続けている。
俺が妻を抱き寄せ頭をなぜているのは、良く頑張ったと言う意味なんだろうか。
それじゃあまりにも傲慢すぎやしないか、口でしてくれたお礼なんだろう。
次の日の夜は、花柄の豪華な下着を俺が脱がして、今キスをしているところだ。
「〈あなた〉のキスはすごく甘いの。 世界中の誰よりも、私を熱くするわ」
行為の最中の妻はこんなに饒舌じゃなかったけど、俺を奮い立たせるように言葉を投げてくる。
俺に自信を取り戻させるためなんだろう、話半分以下に聞いても、やっぱり実際口に出して言われると少しは信じてしまう。
男はなんて単純な生き物なんだ。
特にオスでいる時は、コロッと騙されてしまう。
胸を揉んでいる時にも、妻は恥かしくなってしまうことを言ってくる。
「〈あなた〉に揉まれたら、すごく感じちゃうわ。 こんなに気持ちが良いのは初めてよ。 固くなっているところを、今触ったらいけないんだからね。 私、おかしくなっちゃうもの」
妻の下腹部には俺の名前のタトゥーが、かなりの大きさで彫ってあった。
名前の両端には、ハートマークまである。
「女性に彫師さんに彫って貰ったの。 ちょっと大きすぎたかな」
英語の筆記体はテレビで見たことがあるけど、日本語で俺の名前ではあんまりカッコ良く見えない。
「はぁ、もう銭湯や温泉には入れないし、ビキニの水着も着れないじゃないか」
「そんな事はどうでも良いの。 〈あなた〉が納得してくれるのが最優先よ。 それに温泉には家族風呂もあるし、ビキニが見たいのなら、〈あなた〉の前だけで着てあげるわ」
俺は自分の名前のタトゥーを、指でなぞってみたけど、他の皮膚と感触は変わらない。
だけど妻に俺の名前が刻まれているんだ、とても奇妙な感じに思えてしまう。
妻は俺を一生離すつもりは無いのだと、強く感じてもしまう。
「んんう、〈あなた〉に愛の印を触られると、とても感じてしまうわ。 もう中も治っているから、一杯触って私をぐちゃぐちゃにしてよ。 私をもう一度〈あなた〉のものにして欲しいの」
妻は俺が触れれば触れるほど、甘い吐息を吐き、自分がいかに感じているかを大きな声で言ってくれた。
俺にしがみついて足も絡ませて、爪で俺の背中をかきむしっていた。
タトゥーの代わりに、自分を刻み込みたいのだと思う。
うわぁ、痛いと思ったけど、妻の中は熱くて気持ちが良い。
うねうねと動き俺を締め付けて搾り取ろうとしている。
行為が終わった後、妻は荒い息をつきながら俺の胸に顔を埋めてきた。
「うふふ、感じすぎちゃって頭が真っ白になったわ。 こうして〈あなた〉に抱かれるのは、本当に幸せよ」
「俺も気持ちが良かったよ。 真っ白な気持ちになれた気がする」
「うぅ、〈あなた〉、本当にありがとう。 私は崖っぷちだったんだ。 もうダメかと思っていたのよ。 離婚したら〈あなた〉は心に大きな傷をつけたまま、自信を持てない人生を送ることになるわ。 愛している人をそうさせてしまった、私は申し訳なくて、私の裸を見て泣いている〈あなた〉を一生夢に見てしまうでしょう。 そんなの狂うしかないよ」
妻はしがみついて泣き続けるから、俺は妻のお尻をなで続けた。
それほど大きくはないけど、柔らかくて丸くて、俺の妻のお尻だからだ。
大袈裟に「感じる」「気持ち良い」と行為のたびに言い続けたのが、悪い影響を与えたのか。
元から妻は性欲が少し強かったのか、好奇心が異常なのか、俺にちょっとアブノーマルな要求をしてくるようになってしまった。
夫婦生活はあの行為だけじゃなく、日々の生活が尊いとは思うのだけど、妻に可愛くおねだりをされると断れなくなってしまう。
もう浮気されるのは御免だし、妻は家事も仕事も頑張っていると思う。
もちろん俺に愛の言葉を囁いて、夜は甘えてくるんだ。
旅行に行けば家族風呂で俺を淫らに誘うし、ビキニを選ばせてキッチンでセクシーなポーズを決めたりする。
それを「はい、チーズ」とカメラで撮っている俺は、痛々しいほど間抜けだと思う。
真夜中なのに公園へ散歩に行きたいと言うし、大人のおもちゃ屋さんに一緒に来てほしいとも言ってきた。
「うふふ、ゾクゾクしちゃうね」
俺はその前にすごく恥ずかしいぞ。
もう直ぐ浣腸の薬が必要と言われそうで、とても怖くなってくる。
「もう何種類か試したら、私を孕ませてね。〈あなた〉の赤ちゃんを産んであげる。それが当面の私の夢なんだ」
― 完 ―
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同じく浮気物の「夜遅くに帰ってきた妻の下の毛が、そられていた」もございますので、こちらもどうぞよろしくお願いします。
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