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夢の飼い主

作者: 雪芳

 僕はとても現実的な現実主義者である。それは僕の言動から誰もが推測出来るほどである。

「夢は叶えられる範囲でしか叶えられないのだよ、A君」


 お琴をヘビメタ調に掻き鳴らす彼に僕は冷静に言い切った。

「叶えられる範囲にあるのは夢じゃなくて理想だよ。理想なんかで俺はイケないんだ、俺は俺のドリームを掲げるのさ。」

「真に愚かな考えだ。もっと世界を見たまえ。日本は今、不安定な状態にある。慣れないマネーゲームに手を出して小学生が株破綻する時代だ。琴ロッカーなど目指しても、近未来的に君はコンビニのゴミをあさるだけだろうね。いいや違うな君がゴミかな。」

「上等な人生だな」

 B君は聞耳もたずに琴線に触れる。サクラサクラのアルペジオだ。

「もっと堅実に生きるべきだ。中国の急激な経済成長はやがて大規模なバブルを引き起こし日本も道ずれに不況の奈落に落ちるだろう。その時救われるのは公務員。幼少から私のように勉学に励み知識を蓄えた賢人のみだ。」

「ふふふ、上等さ」


 A君の態度は変わらない。夢を見すぎて現実を理解する力の著しく欠如した人間なのであろう。

「友人として忠告をしたぞ。君が路上で餓死する日に思い出すのは今日の私の言葉だろうね」

「ああ、きっとそうだな。」

 僕の素晴らしい忠告に曖昧に返すと、彼は再び琴を引き出した。激しく、愚かに。


「君は野垂れ死ぬんだ」



 何年か過ぎて、私はあの日のことを思い出した。

 私はひとりで冷たくさめたコンビニ弁当を開けた。バイト先の店長から貰った廃棄物だ。僕は弁当をかきこむと、そのままポイと捨てた。部屋はゴミが断熱材の代わりをしている。弁当も今日から仲間に加わるのだ…。

 僕は横になった。ゴミが小さく揺れている。テレビの音に、反響しているのだ。

 テレビで、ある音楽家が司会の質問に答えている。


「えぇ、僕は夢には走りませんでした。」

「音楽は、夢ではなかったんですか?」

「そうです。僕にとって、この生き方は夢ではなく、確かな現実として見えていたんです。」

「それか成功の素ですか。」

「はい、このことは夢みがちな友人が教えてくれました。彼は未来を夢見すぎて、現実が見えなくなっていました。なのに僕を夢追い人と言っていた。」

「ははは、反面教師ですね。では、そろそろ歌っていただきましょうか。曲は勿論、あの曲です。

…サーリアル。」



 懐かしい琴の音色が聞こえる。僕は目をつむって、その音楽に聞きいった。今は輝かなくなった自信が、綺麗な涙を流してまた黒ずんだ。


 夢はいつから夢だったろう。

 夢を見ないという夢に、無知ゆえにとり殺された僕に、残されたのは皮肉なことに、夢だ。

 夢の中で君が輝いている。眩しいのに悔しくないのは、疲れきった体のせいだろうか。




 僕はとても現実的な現実主義者である。それは僕の言動から誰もが推測出来るほどである。




2008年作成。

またしてもBUMP OF CHICKENのインスパイア。

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