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『第17話 テジナーシから来た男』/1・衛士隊だ!


 繁華街の賑やかさからも遠ざかる夜。ウブ南東のセンメイ川沿いに立ち並ぶ倉庫兼住居のひとつに10人以上の武装した男女が突入した。

「衛士隊だ! ボルケーノ一味、観念しろ!」

 主に魔導品を狙う盗賊団ボルケーノ一味の存在をつかんだ衛士達が一斉に踏み込んだ。虚を突かれた一味は倍以上の人数にもかかわらず、一斉に魔玉の杖や剣を手に逃亡を始める。

「戦士達は後でも良い。まず魔導師を押さえろ!」

 40人を越える乱闘の中、踏み込んだ第3隊のネグライド・バー・メルダー隊長の声が響く。魔導品を狙うだけあって一味には魔導師が多い。攻撃魔導を連発されたら被害が大きくなる。いつもは押し入ってきた盗賊団を迎え撃つ形が多いのに、今回それを待たずに衛士隊が強襲したのはできるだけ被害を防ぐためだ。

 武器を手にしていない一味が手近な物を投げつけ、剣を手にしたものは衛士を迎え撃つ。その間に一味の魔導師が手早く攻撃魔導を発動させる。建物の中を爆炎が、電撃が飛び交う。とっさに発動させたため、威力はしょぼいが衛士達を牽制するには十分だ。

「くそったれが!」

 一回り小柄な衛士ヌーボルト・ギメイが、今まさに攻撃魔導を発動させようとした魔導師の顔面に蹴りを入れひっくり倒す。だがその間にも他の魔導師が発動させた爆炎魔導が発動窓を片っ端から破壊し外への脱出路を作る。

 そこから何人かの魔導師が飛行魔導で飛び出そうとするが、衛士ギガ・バーン・イントルスが投げたメイスの直撃を受け、勢いのついたままバランスを崩してそのまま壁に激突する。

 数人の魔導師が外に飛び出すものの、外では衛士トリッシィ・スラッシュが弓を構え、待ってましたとばかりに彼らを次々射落としていく。

「下っ端は引っ込んでなさい。ボスはどこ?!」

 戦いの中、クイン・フェイリバースがサーベルを振るいながらボスのボルケーノを探す。盗賊を叩きのめした彼女と、荷物の陰に隠れて魔玉の杖を構える男と目が合った。40才ほどの頬のこけた痩せぎすの男。しかしその目はギラギラして殺気の塊だ。クインの頭の中で、事前に見ていたボルケーノの似顔絵とその男の顔が合致した。

「見つけた。ボスのくせにこそこそ隠れているんじゃ無いわよ」

 突進する彼女に、ボルケーノは挑発的な笑みを浮かべて杖をかざした。その先端の魔玉は光り輝いている。

「こんのぉ!」

 クインが足下の小さな瓦礫を彼めがけて蹴り飛ばすが、彼はそれを簡単にかわし杖を天井に向ける。

 倉庫の天井で爆炎魔導が発動、屋根が一瞬下から突き上げられるように膨れ崩壊、クインを始め、下で戦っている衛士と盗賊達に降り注ぐ。立ち上る埃の中からボルケーノが飛行魔導で大空へと飛びだした。

「衛士隊め。詰めが甘いな」

 笑みを浮かべるその目の隅に精霊の槍を構えたルーラ・レミィ・エルティースが突っ込んでくるのが映る。

 とっさに横にそれてルーラを躱すと風の精霊を纏ったまま空中で振り返る彼女と対峙する。

「衛士隊に精霊使いがいるとは聞いていたが、こんな小娘とはな」

 突っ込んでくる彼女をボルケーノはたやすく躱すと、自分の方から彼女の背中にぶち当たるように抱きついた。

「精霊使いは力が強いだけで小細工は出来ん。隙だらけだ」

 魔導師はよほどの熟練者でない限り、1度に2つの魔導を同時に使うことは出来ない。ボルケーノもそうだ。飛行魔導で飛んでいる間は他の魔導を使えない。しかし、こうして飛んでいる相手にしがみつけば飛行魔導は使わなくて済む。

 ボルケーノは杖の魔玉をルーラの体に押し当てると、電撃魔導を発動させた。瞬間的な発動なので威力は小さいが、密着での発動だけにダイレクトに彼女に見舞える。

 全身を電撃に貫かれルーラの意識が吹っ飛び気絶した。笑みを浮かべてボルケーノは彼女から離れると飛行魔導を発動させた。意識を失ったルーラはそのまま落ちていく。このままでは地面に激突し即死だ。

「ルーラさん!」

 崩れた倉庫の埃を払う第2隊の魔導師シェルマ・オレンダが落下する彼女を見て飛行魔導を使う。強烈な魔力で自分の体を彼女めがけて放り投げる。

 落ちるルーラの体にぶつかるように抱きとめると、そのままの勢いでセンメイ川に落下、派手な水しぶきを上げる。

 ほお。と感心したような声を上げるボルケーノの頭上から第3隊の魔導師スノーレ・ユーキ・ディルマが落ちてきて彼にしがみつく。さきほど彼がルーラに対してやったのと同じ戦法だ。

 落下しながらボルケーノはスノーレを振りほどくが遅かった。すでに彼の高度はスラッシュが狙えるまでに下がっている。

 崩れた倉庫の一角。埃にまみれたスラッシュが矢を構え、上空のボルケーノめがけて射る!今のボルケーノの高さは建物の5階ほど。彼の腕ならまず外さない。矢はボルケーノの右肩を貫く。バランスを崩しかけたところへ2本目の矢が左腿を貫いた。

 痛みが彼の飛行魔導を途絶えさせ、そのまま墜落する。

 センメイ川からずぶ濡れになってオレンダがルーラを抱えて上がると、彼女の体を横たえた。

「ルーラさん。大丈夫。死にやしません」

 気絶した状態で落ちたおかげでルーラは水を飲んでいない。軽く頬を叩くと、うっすらと目を開けた。

 オレンダの使い魔・虎猫のアバターが精霊の槍を加えて2人に駆け寄っていく。

 ボルケーノはスラッシュの矢を受け、地面に転がっていた。墜落時に足を折ったのか、あらぬ方向に曲がった足で苦痛に悶えている。魔玉の杖はすでにスノーレによって取り上げられていた。

「手こずらせたな。お前の部下達も災難だ」

 埃まみれのメルダーがクインを従えボルケーノを見下ろした。

 瓦礫の山となった倉庫から、イントルスら衛士達が半ば生き埋めにされたボルケーノの部下達を引っ張り出していた。


「よくやった。ボルケーノといえば魔導師連盟から重要手配書が回ってくるほどの大物。それを捕まえたとなれば、次の選挙で私が魔導師連盟の推薦を受けられるかもしれん」

 ウブ衛士隊総隊長のミコシが上機嫌で前に立つメルダーと東の衛士隊長ソン・トップスの肩を激しく叩く。

「総隊長殿、失礼ながら喜ぶのはまだ早いかと」

「そうです。ボルケーノ一味は魔導品の扱いでは裏市場の顔。今回の網にかからなかった仲間も多く、そいつらが彼を取り戻すため襲撃することは十分考えられます」

 まだ喜びに至らない2人に対し、ミコシは変わらぬ浮かれ顔で

「確かにそうだ。しかし現在、魔導師連盟の総本山であるテジナーシから護送のための特別馬車と魔導衛士達がこちらに向かっている。彼らにボルケーノを引き渡せば後は向こうの責任だ」

 その言い回しに、さすがに2人も顔をしかめた。


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