表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/33

『第16話 紫茶のおいしいレストラン』/6・衛士隊だ!


 周囲が寝静まり、大通りからの漏れ聞こえる騒ぎも小さくなった時分。猫足亭に4人の男が現れた。モネスト達である。

 遠くから日付が変わる時刻の訪れを告げる鐘が聞こえる。それが消えるのを合図に、ヒッコリーが猫足亭の扉を叩く。

「ボス、お待ちしておりました」

 中からペリアが顔を出し、4人を招き入れる。店内には簡単な料理が用意され、紫茶の香りがそよいでいる。

「この香り、久しぶりだ。お前らがいなくってから、出がらしみたいな紫茶ばかり飲んでいたからな。だが、おかげでお前達の居場所を突き止めることが出来たわけだがな」

 皮肉めいた言い回しにペリアもタセも強張った笑みを浮かべるだけで言葉が出てこない。彼の失われた左腕が2人には恐ろしかった。「俺は片腕を失うほどの目に会っている間、お前らは楽しく店を切り盛りしていたのか」と責めているようで。

「こんな時間ですが、酒と料理も用意しましたのでできましたら」

「ああ、お前の料理も久しぶりだからな。食いながらでもお前達がどうしてアクティブから逃げだしたか、どうして今まで何の連絡もよこさなかったかじっくり聞かせてもらおうか」

 ペリアもタセも生きた心地がしなかった。これまでのことを説明するにもおどおどし、言葉に詰まり、目を見開いたまま息も絶え絶えで端からは拷問を受けているようにしか見えなかった。

 そんな2人をヒッコリー達は料理を食べ、ニヤニヤしながら眺めている。

「さてと。ちと呑み足りないが、酔わないうちに金の話をしておかないとな。話はヒッコリーから聞いているな。預けた金のうち、お前らの取り分をのぞいた285万ディル、返してもらおうか」

「はい」

 これで解放されるとの安心感からか、ペリアは厨房の隅に隠すように置いていたケースを4つ持ってきてテーブルに置いた。開けると中にはディル金貨がぎっしり詰まっている。いや、5つめのケースだけ少し隙間がある。

「お預かりしていた285万ディル。ご確認を」

「その必要は無い」

 目の前の金貨を一瞥すらせずモネストは言い放った。それをペリアたちは、確認するまでもなく正しい金額だと受け取った。それほど彼は自分たちを信用しているのだと。だが

「こいつは預けた金じゃねえ」

 言うのを合図にヒッコリー達がペリアたちを取り囲む。

「そんな、ボス、間違いなく285万ディルあります」

「それはわかっている。その金額は間違いないだろう。でもな、俺は『預けた金』と言ったんだぜ。預けた金額じゃねえ。ここにあるのはお前らがサークラー教会から借りた金だ。俺が預けた金をそのまま持ってこい」

 途端ペリアたちが青ざめた。

「そ、そんな無茶な」

「どこが無茶だ。ボスが預けた金を守り続けたなら簡単だぜ。それをそのままここに持ってくれば良いだけなんだからな」ヒッコリーがニヤニヤしながら彼の耳元に口を寄せ「お前らが金を使い込み、慌てて同じ金額を用意したんじゃなければな」

 ヒッコリー達がペリアたちの腕を取り、無理やり立たせる。

「覚悟は出来てるだろうな」

 立ち上がったモネストが大振りのナイフを抜いた。

「待ってください。金額は同じなんです。勘弁してください。それに俺達がどんな思いで衛士達から逃げてきたか。ボスたちはみんな捕まって、タセと2人だけで金を抱えて、いつ衛士達が来るかわからない状態で」

「お前達の都合なんかしらねえな。ま、せっかく用意してくれたんだ。この金はありがたく頂戴しておく。お前の紫茶が飲めなくなるのは残念だが、たかが茶だ」

 頬を緩ませるモネストの顔にペリアもタセも悟った。最初から自分たちを許す気などなかったのだ。ただ、金さえ出来れば何とかなると思わせ、用意させるのが目的だったのだ。

「せっかくだ。最後の茶代ぐらいは出してやろう」

 モネストはケースから金貨を1枚取り出し「ほらよ」とペリアの胸ポケットに入れた。

「ごちそうさん」

 ニヤニヤ笑いに囲まれ、震えたまま動くことも出来ないペリアに向けてモネストがナイフを構えたとき、激しい轟音と共に扉が割れ、弾けるように中に倒れ込んだ。

 思わず動きを止め、振り返るモネストたち。

 開いた扉からイントルスの巨体とメルダーが入ってきた。

「衛士隊だ。アグラン・モネスト一味。アクティブより逮捕要請が出ている。全員逮捕し、強制送還する」

 入ってきたメルダーの声が店内に響く。彼の後ろから魔玉の杖を構えたスノーレが姿を見せる。

「なお、アクティブは抵抗するようならば死体でもかまわないと言っている。お前達の無断出国が相当頭にきているようだ」

 にやりと笑うメルダーに、ヒッコリー達はペリアたちを突き飛ばして一斉に裏口に駆けだした。

 裏通りに飛びだした彼らを

「いらっしゃい」

 と待ち構えていたクインとギメイ、ルーラが得物を手に受けて立つ。

「お前はあの時の」

「結局は牢屋行きね」

 クインのサーベルが半ばヤケになって斬りかかるヒッコリーのナイフを叩き落とし、さらに峰の一撃で打ち据える。ブロンはギメイの一撃でのされ、もう一人もルーラの槍で足を刺され昏倒させられた。

 メルダーとイントルスに気圧されるように、ナイフを手にしたモネストが店内から出てくる。

「諦めたらどうだ」

 だが、第3隊の面々に囲まれてもモネストは諦める様子を見せず、ナイフを構え、自分を囲む面々を見回す。メルダー、イントルス、クイン、ギメイ、ルーラ。彼らの外からはスラッシュが弓を構えている。

 モネストは彼らを一瞥すると、一番与し易いと見たのかルーラに襲いかかった。

 斬りかかる彼の体を捻るようにかわすとそのまま流れるように槍を回して彼のナイフを持つ腕を打つ。激痛に耐えながらナイフを放さずにいる彼の横に回ると、今度は槍で膝の裏を激しく打つ。

 たまらず膝が崩れ倒れる彼に、イントルスがナイフを持つ手を押さえるようにしてのしかかった。さしものモネストも、不自然な体勢で押さえつけられたままでは彼の巨体をはねのけることは出来ない。そのままイントルスはもがくモネストの首に腕をかけ、あっさり絞め落とす。

「それにしても、私たちに囲まれた悪人ってなぜかみんなルーラに向かっていくのよね」

 クインはそれが気に入らないようだった。

「多分、1番弱そうに見えるんじゃないですか」

 スラッシュの言葉に皆が納得するように頷く。

「少なくともクインに向かう理由は無いな」

「あら、私そんなに強そうに見える?」

「強そうと言うより、怖そうだ」

 笑うギメイの脳天を、クインがサーベルの鞘で叩いた。


 店内ではスノーレの見張る前で、ペリア夫妻が逃げる気力も無くしてがっくりうなだれている。

 2人の前には、彼らの似顔絵の入った手配書が置かれていた。

 外から入ってきたルーラがそれを見て

「やっばり……」

「ええ、認めたわ」

「……過去というものはいつまでもついて回るものですね」

「過去は自分の土台だもの」

 スノーレの言葉に2人は疲れた笑いを浮かべ

「ここでの商売は楽しかった。できればずっと続けていたかったですけれど」

「あいにくだが、お前さん達の仕事で商売どころか人生が終わってしまった人もいるんだ」

 トップスの言葉にいきなり記憶を張り倒されたかのように、ハッとして、そのまま申し訳なさそうに肩をすくめた。

「私たちって、どれぐらいの罪になるんでしょうか?」

「大丈夫です。きっとすごく軽くすみますよ」

「ルーラ、勝手なこと言うものじゃ無いわ。確かに2人は1番の下っ端で、しかも今回切り捨てられようとしたみたいだけれど、死者まで出た強盗の共犯で、盗んだお金を持ってずっと逃げ続けていたのよ。せめて逃げずに自首していたならばね」

「その通りです」

 ペリアは澄まなそうな笑みをルーラに向け

「すみません。何度も来て頂いたのに、もう料理を出せません」

 すっかり覚悟を決めた2人の姿に、ルーラは

「あの。衛士隊の迎えが来るまでどれぐらいかかりますか?」

 裏口から様子を見に入ってきたメルダーに聞いた。

「30分とかからんが。どうした?」

 ルーラはそれに返事をせずペリアに向き直ると

「お願いがあります。紫茶を一杯入れて頂けませんか」

「え?」

「食後に出てくる紫茶、あたし大好きなんです」

 落ち込む空気を払うような笑顔だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ