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『第15話 鏡の極意/7・映る自分』

「一晩中、ずっと鏡を見続けたって本当ですか?」

 2日後の朝。前日のファウロ・ベーカリーで売れ残ったパンとミルクという簡単な朝食中にルーラは居間の隅に置かれた鏡を指さした。これはその内道場の生徒達が取りにくることになっている。

「本当。水を飲むときも食べるときも、オシッコするときもずっと鏡の前で自分の姿を見つめ続けたの。最初は良かったんだけど、その内段々自分の姿がどうしようもないほど醜く感じるようになってね。オシッコの時なんか情けなかったわよ。

 伝授の前になんかいっぱい食事させられたのよ。最初は食べないと体が持たないほど厳しい方法なのかと思ったけど、今思えばトイレを近くするためのものだったのよ」

「じゃあもしかして大きい方も」

 スノーレがパンをミルクに浸す。食事中にする話ではないが、3人ともそんなことは気にしない。

「私はしなかったけれど、今までの中には、やった人もいたらしいわ。鏡に映る自分がウンコする姿をじっと見続けるのはキツかっただろうなぁ」

 その時、遠く離れた路上でジーヴェに悪寒が走ったが、3人がそれを知る由もない。

「人はどうして自分の姿を見ることが出来ないのか? それは自分の醜さを見たくないから」

「何それ?」

 スノーレの呟きにクインが聞いた。

「昔呼んだ本に書いてあったの」

「そういう考えは好きじゃないな」

 クインは静かに鏡の前に立つ。無数の亀裂が入った表面に映る自分を指でなぞり

「で、醜い自分とにらめっこするのも何か悔しいから……話を始めたんだ。鏡に映った自分自身と。ネタがないものだから聞きにくいこと、言いにくいことを言い合って。両方自分なのに。

 人はどうして自分の姿を見ることが出来ないのか? それはズバリ、自分がどれだけいい男、いい女かをいろいろ想像して楽しむ為よ!」

 振り返り言い切ったクインにスノーレは返す言葉に迷い

 ……しーん……

 沈黙が生まれた。

「ちょっと、何かツッコんでよ。私がおバカみたいじゃない!」

 笑いながらクインは鏡を軽く叩き

「せっかくだから2人も見る? こんな大きな鏡を見る機会なんて滅多にないわよ」

「言われてみれば、自分の顔ってじっくり見たことないです」

 ルーラが鏡をのぞき込む。髪の短い中性的な顔立ち。美しいと言うより健康的で少し日に焼けた顔。

「あたしって、こんな顔しているんだ」

 にっこり笑って鏡に映った自分を指でつつく。当然ながら鏡の中の彼女も同じ動きをして、鏡に触れると同時に指と指がくっついた。

「おはよう。あたし」

 その様子にクインは

「ルーラだったら、案外簡単にこの試練クリアできるかもね」

「同感」

 声を上げずに笑う2人に教会の鐘が聞こえる。

「あ、やば。のんびりしすぎた」

 クインが立ち上がり、大急ぎでパンとミルクを平らげる。

 部屋に駆け込み私物の入ったバッグに手に

「お先に!」

 ルーラの肩を軽く叩いて駆け出ていく。


 朝。職場に行く者、仕事を始める者、夜勤明けでこれから帰る者。そう言う人たち目当てに店を開けている者。

 そんな人たちの中、クインが衛士隊本部に向かって鼻歌交じりでスキップしながら

【あっちから いい男がやってくる♪

 こっちから いい男がやってくる♪

 いい男 いい男 私に向かってやってくる。

 ちょっと気取ってポーズを取れば そろって目の前通り過ぎ。

 何で私を口説かない?】

(「いい男がやってくる」作詞・作曲 クイン・フェイリバース)

 軽やかな足取りで進む彼女の背中、髪を束ねる赤い珊瑚の髪留めが揺れていた。


(終わり)


 クインの過去編。彼女も結構波瀾万丈の少女時代を送っています。「いい男レベルが上がった」の誕生秘話も入っています。

 本編の極意、自分もちょっとやってみましたがダメです。バーバよりは遥かに短い時間でギブアップしました。鏡映った自分を長時間見つめ続けるのはかなりキツいです。

 作中に書いたクイン自作の歌。結構気に入っていて、男ですけれど勝手なリズムで歌っています。


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