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傀儡の花苑より  作者: terurun
第一章:いつかの再逢
15/22

14:不穏






 それからは、地獄の様な毎日だった。

 腕立て腹筋は勿論の事。遂には木刀の素振り等もさせられて、毎日筋肉痛である。

 コルは四歳児の限界とやらを弁えていないのか、遠慮なく鍛えさせる。

 ダイアに対しては遠慮を知っているのだが、俺に対してはまるで知らない。

 全く困った物だが、だからと言って抗える程俺は未だ強く無い。

 強くなりたい……とも思うが、そもそも年齢が年齢なのだ。

 我慢するしか無いと割り切っている。


 ちなみにティリムはと言うと。

 その様を側から見てニコニコしているのだ。

 俺の中身が四歳で無いと分かった時から、もう俺の事を子供と扱わなくなった。

 まぁティリムの前で演技しなくても良くなったと考えれば良いが、もうティリムから子供の様な扱いを受ける事は叶わなくなる。

 つまり、毎日のスキンシップも無くなるのだ。

 頬へのキスや、ハグなども無くなってしまった。

 何とも寂しい。

 毎日の楽しみが、消失したのだ。

 とても悲しい。

 その日は激しい寂寥の念に苛まれ、一人ベッドで泣いたものだ。

 あ、それまでは同じベッドで寝ていたが、その日から俺は俺専用の部屋を貰い、そこで一人で過ごす事となったのだ。

 なので当然寝る時隣にティリムはおらず。

 寂しい。



 ◆



 そうして約一年が経過した。

 俺は五歳。

 ダイアは四歳である。

 ダイアも結構喋れるようになってきた。

 今までは「ちゃちつちぇちょ」と発音していたのも、しっかりと「さしすせそ」と発音出来るようになった。

 前の発音も可愛い事この上無しであったが、今の発音もそれはそれで可愛い。

 まぁダイアは何していても可愛いのだ。

 ずっとそのままでいて欲しいものである。


 俺はずっと木刀の素振りと模擬刀で刀の稽古であったが。

 ダイアはと言うと、木刀で俺の真似をして居た時、何故か突きが上手かったのでコルが試しに細剣(レイピア)のレプリカを持たせてみたら、これが大成功だったのだ。

 今や、模擬戦でもしようものなら惨敗してしまうだろう。

 それ程までに、ダイアは才能に恵まれていた。

 実に羨ましい限りだが、悔しくは無い。

 それでもダイアは俺を慕ってくれている。

 何ならコルよりも慕ってくれているかもしれない。

 だからこそ、悔しさより先に嬉しさがくるのだ。

 しかしながら俺もダイアも、真剣を握った事は無い。

 コルは握らせようとするが、ティリムが猛反対するおかげで未だ誰も傷つけずに済んでいる。

 たった一年しかまだ刀を触っていないのだ。

 それに未だ五歳と四歳の幼児なのだ。

 そんな子供の真剣を触らせてはいけない。

 それは当然であり、これに関してはティリムの方が正しい。

 そんなこんなで、刀やレイピアの稽古は、趣味の範疇で行われた。



 ◇

 


 そしていつもの様に朝起きて食卓のある一階へ降りた時。


「ティリム! 至急来てくれ!」


 いつも来ている筈の食卓に居なかったコルが、突然そう叫んだ。

 その声に、余裕は無い。


「――アイジス。貴方も来なさい」

「分かりました」


 何故かは分からないが、俺も呼ばれたので着いて行く。


 そして着いたは書斎。

 コルはそこにある机の上に、世界地図を広げて待機していた。


「……どうしたの?」


 神妙な面持ちで、ティリムは訊ねた。


「あぁ、アイジスも来たのか…………まぁ良い。アイジスも何れ通る道だろうしな。聞いておくと良い」


 コルも、いつもと違い真面目な表情で俺の存在を容認した。


「――――皇国が、宣戦を布告した」

「なっ…………!」


 ティリムが目を見開く。


「兵数は単純計算で通常の五倍」

「………………え?」

「その上もう既に進軍を続けていて、交戦の予定地には恐らく一週間後には到着するだろう」


 ティリムは突然の出来事に無言を貫く。

 何も言葉が出てこないのだ。


「その予定地は……何処なの?」


 取り敢えず領主として確認しなければならないのはそこだ。

 交戦地を把握し、それを元に避難計画を立てる。

 それこそが領民を守る領主としての義務であるのだ。


「予定地は……ここだ」


 この世界は、大陸一つで形成されている、と前述した。

 そして西半分がガイムーン王国。

 東半分がライア=ヴァルヘルム皇国。

 ちなみに領主ロメオの支配するこの領地は、特に名前が無く、一般にロメオ領と呼称されている。

 そして、皇国との国境付近に位置している土地の一つでもあるのだ。

 そして本題だが。

 今回の予定地は、ロメオ領より十数キロ北に離れた国境付近。

 ここへ戦禍の及ぶ事は無いと見える。


「そう…………」


 ティリムも少し胸を撫で下ろした。

 流石にこの距離。

 戦禍がこちらへと飛び火する事は無いだろう。


「なら問題は……」

「領民に公表するか否か…………」


 先ずティリムとコルが考えあぐねるは、それ。


「……え? 公表しないんですか?」


 もし為政者が、知っていたのに公表しないなど、考えられない。

 信用問題に関わる重要な案件なのだ。

 逆に公表しないなど、あるのか?


「――若し公表したとして、それは民にとってストレスとなる」

「……はい」

「民の持つ心の不安とは、時に何を仕出かすかわからないのだ。況してやその不安の起因が、領主のものだったとすれば、その矛先は私に向く」


 それは……どうなのだろうか。

 もし言わなかったら言わなかったで、それに起因した何か暴動等が起こる気もする。

 何か……そうならない確証が、コルにはあるのか…………?


「ですがお父様。若し言わなくて、人伝に宣戦があった事が民の耳に入った時。それこそ――――」

「アイジス」

「…………何でしょうか」

「この王国は無敗なのだ。これまでも、これからも」

「ですが、皇国側は兵力を五倍に増強させたのでしょう? なら今までとは話が――」

「アイジス‼︎」


 突然、コルの怒号が飛んだ。


「ならお前は……我等が王への信心を無くせというのか?」

「いえ、そういう訳では――」

「我等が王を信じるのが、末席であれど臣下である我が役目なのだから……それだけは譲れない」


 そうだ。コルは昔からそういう人だった。

 兎に角王が大好きで。

 人一倍の信心を抱いていた。

 だからこそ、王国が勝利する事を絶対条件と考えている。

 だからこそこの戦争を領民に秘匿するという考えに至るのだ。


 ――こうなると、俺には何も出来ない。


 だからこそ何時もはティリムに頼っていたのだが、そのティリムでさえ王に心酔しているのだ。

 なので今俺が何を言おうと、全ては水泡に帰すどころか、見限られてしまうかも知れない。

 仕方無い、合わせるしか無いか…………


「――そうですね。要らぬ心配を掛けるのも、民にとっても不快でしか無いでしょうし」

「だろ。だから、万一の事があった時の為の避難経路を考えよう」


 そうしてコルとティリムは、地図と睨めっこしながら、詳しい対策を抗議し始めた。



 ◇



 妙な胸騒ぎがする。

 何か、拭えない不穏が、心の中で蠢いている。

 この心配が杞憂で終われば良いが。



 だが現実は、そうはいかない。











 

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