#7 突然の出来事(1)
宇宙空間。アリーヤは、宇宙船の操縦席の中で、うずくまっていた。
10歳の頃かな?まだ世界が新しく見えて、丁寧語と、くだけた言葉の区別が分からなかった頃。まだ世界が広く見えて、大人が大人に見えた頃。アリーヤとその友達は、みんな子どもだった。
宇宙船は、ピンク色の光をらんらんと輝かせながら前方へ進む。
アリーヤは、自身のスマホのメールに、メッセージを書いていた。
「エヴァルドへ。今、どこにいますか?無事ですか?」
彼女はメールを送信したが、エヴァルドという人物からの返信は無かった。
「アリーヤ」
ふと、彼女を呼んだ者がいる。イトウ・マイクだ。
「何を見てるんだ?」
「何って、スマホだよ?」
「スマホ…… なんだ?それは」
「なんだって……スマホはスマホじゃん。あ、そっか。この宇宙にはスマホが無いの?」
「聞いたことがないな」
「じゃあ、スマホの充電器も無いってこと?」
「おれが知る限りでは、無いな」
「そんなぁ〜、私、ママとも連絡したいのに……今、充電が40%くらいなんだよ!」
「そんな事、おれに言われてもな……」
アリーヤは充電残量の事を考え、スマホの電源を切った。
「とにかく、宇宙を平和にするんだったら、まずレジスタンスと合流しなきゃ」
アリーヤは宇宙船を操縦しながら言った。
「そのレジスタンスはどこに居るんだよ。名前は?」
「そんなの聞いてない……」
「名前がわからないんじゃ、探しようがないな。宇宙は広いんだぞ」
「メンバーの1人の名前はコア。でも、そのコアも行方がわからないの。」
「コアとの通信手段は?」
「無い……」
アリーヤ達は、旅に出たのはいいものの、どこへ行けばいいのか分からず、途方に暮れた。
「とにかく、行動しないと始まらないので、レジスタンスとデッド・オリオンの情報を集めます!」
アリーヤは、乗っている宇宙船の近くの惑星を探そうと操縦席の機械をいじった。
突然、宇宙船の操縦席の一部が赤く光り出し、アリーヤのカメラもピンク色の光を出した。カメラの光はまっすぐ前方を向いている。
「これは……なんの信号?」
「惑星ロッソからの救難信号か」
操縦席のパネルに表示された文字をマイクが読んだ。地球の言葉ではない。
「そうと分かれば発進だね!」
「ま、まてアリーヤ!」
マイクが止めるのも聞かずに、アリーヤは宇宙船を惑星に向けて発進させた。
宇宙船はピンク色の光に包まれ、猛スピードで宇宙を進む。ジャガイモ型の小惑星たちを避け、アリーヤの宇宙船は惑星ロッソまで来た。
「カメラの光をたどって、事情を訊きましょう!」
はりきるアリーヤ。
すると突然、宇宙船の後方にオレンジ色に光る宇宙戦闘機の集団が現れた。戦闘機は予告も無しに、アリーヤの宇宙船をオレンジ色の光線で攻撃してくる。悲鳴を上げるアリーヤ。光線は次々に宇宙船に命中し、宇宙船は大気圏を通って惑星ロッソの北側の地上へと不時着した。辺りは砂漠であったが、オレンジ色に光る宇宙戦闘機たちが追いついてきた。オリオン座のマークを付けた兵隊たちが、宇宙船をとり囲む。
「マイク、ケガはない?」
宇宙船内のアリーヤは、マイクにケガが無いことを確かめると、落としたカメラを拾う。カメラに傷が付いていないか心配気味だ。
「あいつらは何だ?」
操縦席のモニターをのぞき込むマイク。アリーヤにはその兵士たちに見覚えがあった。
「デッド……オリオン!」
モニターに映るデッド・オリオンの兵士たちを見たアリーヤは言った。
操縦席に座り、宇宙船を離陸させようとするアリーヤ。すると、灰色をした小型の飛行物体が空から現れ、その中からクモ型の小型ロボットが宇宙船の表面に張り付いた。ロボットはオレンジ色の電磁波を発する。操縦席の操作パネルにもオレンジ色の電気が流れ、アリーヤは思わず飛びのいた。
「大丈夫か、アリーヤ!」
「うん、無事だよ」
自身の両手をいたわるアリーヤ。震えている。
「その宇宙船は離陸不能である。パイロットは全員すみやかに、デッド・オリオンに投降せよ」
デッド・オリオン側からのアナウンスが流れてくる。それを聞いたマイクは、アリーヤに言う。
「おれが時間をかせぐ。その間に逃げろ!」
腕時計型の何かをアリーヤに手渡し、操縦室から出ていくマイク。
「まって、マイク!」
「アリーヤ、逃げろ!」
宇宙船から外へ飛び出したマイクは、光線銃を向け、オリオンの兵隊に向かって行く。
「やめて、マイク!」
アリーヤの叫びもむなしく、オリオンの兵士に光線銃で腹を撃たれたマイクは、その場に倒れこんだ。
「マイク!」
アリーヤは思わず外へ出て、マイクのもとへ駆け寄った。
「逃げろと言っただろ?アリーヤ」
「そんな……逃げられないよ」
マイクは倒れこんだまま、目を閉じた。周囲を囲む、デッド・オリオンの兵士たち。アリーヤは座り込んだまま両手を上げ、兵士たちを睨みつけた。
11歳の頃かな?まだ世界を平和にできると信じていて、友達とも仲直りができると信じていた頃。必死に友達と話し合ったけど、その子は離れて行っちゃった。
アリーヤはマイクをかばうように、倒れている彼の上に覆いかぶさった。涙があふれそうだった。
つづく。
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