#6 生きてほしい(2)
朝食を終え、街を歩く2人。
「アリーヤ、キミはどこから来たんだ?」
「コロニーの外からだよ。ちゃんと2人とも、入国審査は済ませて入ったから気にしないで」
「2人?もう1人いるのか?」
「あぁ、その人は今、別居中」
「ケンカしたのか?」
「してないよ!それぞれの夢を、追いかけてるの!」
アリーヤとマイクは噴水の出る公園に着いた。
アリーヤは噴水を背景に、マイクを写真に撮った。
「記念にどうぞ」
カメラ下部から出てきたその写真を、マイクに手渡すアリーヤ。
「いらん」
そっけなく返事をするマイク。2人は、昨日の橋に通りかかった。
「アリーヤ、昨日ここで会った時から、気になっている事がある。キミはおれの名を知っていたな」
アリーヤは昨日、マイクを助けた時、彼の名前を呼んでいた。
「ある人が、エデン・コロニーには天下の剣豪が居て、その人を仲間にすれば良いって言ってたの。」
「それがおれか?」
アリーヤはうなずいた。
「剣豪だったのはおれの親だ。おれは剣豪じゃ無い。」
「そっか。ウワサはあてにならないね。」
「そのために、おれを助けたのか?」
「ちがうよ。」
「ちがう?」
「私はある組織から宇宙を救うために、旅をしているの。でも、マイクを助けた理由はそんなのじゃ無くて、生きて欲しいと思った。目の前で橋から降りようとしているマイクを見て、止めなきゃって思ったの。」
「生きて欲しい?会ったこともないおれにか?」
「ここは地球人にとって不利な場所。こんな所はもうサヨナラして、私と一緒に旅をしない?宇宙船をもってるの。」
「……」
マイクは、黙り込んだ。
「ごめん、こんなの勧誘みたいだよね。強制はしない。5日、猶予をあげるから、その間に決めといて。」
アリーヤは立ち去った。マイクは1人、考え込んだ。
「ミノリ、おれはどうすれば良い?」
そこへ、身の丈2メートルの巨大な宇宙人が現れる。
「見つけたぞ、マイク・リデル!お前を連れて行く!」
大きな宇宙人はマイクにつかみかかった。
つかみかかってきた腕をはらうマイク。が、大きな宇宙人はなお、追いかけてくる。
一方、別の場所にいるアリーヤは、考えていた。
「冷蔵庫にある野菜とか、勝手につかっちゃったけど、マイク怒ってないかな……」
マイクの身に起こっている事は知らないようだ。
アリーヤは商店街に入った。
地球産の野菜や果物は、ちらほら見られたが、肉類や穀物らしきものは無く、代わりに青い色をした宇宙生物の肉類が並んでいた。
「これが文化の違いか……」
アリーヤは驚きを隠せなかった。
「コアが居てくれたら、いろんな場所を説明してくれるんだろうけどなぁ」
その時、アリーヤが首に下げているカメラがピンク色に発光し、アリーヤが来た道を指し示した。
「これは、何!? まさか、マイクの身に何か起こったの!?」
アリーヤはその光の方角へ向かって走り出した。
イトウ・マイクは追い詰められていた。
大きな宇宙人は手に刀を握り、襲いかかってくる。マイクはそれを避けるので精一杯だった。
「イトウ・マイク・リデル!お前に残された選択肢は1つ!」
大きな宇宙人は声を荒げた。
マイクは答えた。
「分かってるよ。お前はキミタケの刺客だな?」
「そうだ!お前がキミタケ様の所に来ないのなら、ミノリと同じ運命を迎える事になるぞ!」
宇宙人の挑発に、マイクは乗ってしまった。
「なん、だと?おれを怒らせたな!」
突如、何もない空間に刀が転送され、マイクはその刀を手に持った。
マイクはその刀で、刺客の宇宙人に立ち向かう事にしたのだ。
刀と刀がぶつかり合う。
そこへ、アリーヤが駆けつける。
「刃傷沙汰は、やめろー!!」
精一杯、叫ぶアリーヤ。
「なっ、何だ!?」
大きな宇宙人が、アリーヤの方へ振り向いた。
「すきあり!!」
マイクは、相手の刀を、自身の刀で弾き飛ばした。
大きな宇宙人の刀は、遥か遠くの、空き地の地面に付き刺さった。
さらにアリーヤがカメラのフラッシュを浴びせると、刺客の宇宙人は逃げて行った。
「このままで済むと思うなよー!!」
宇宙人はそう叫び、あわてて走って行った。
「サンキュー、アリーヤ」
マイクはお礼を言ったが、アリーヤは心配そうな表情でマイクにたずねる。
「ケガは無い?」
「ああ、このとおり。先に言っておくが、おれはサムライでも忍者でもない。」
マイクは冗談を言ったが、アリーヤは笑わなかった。
「旅の件だが、……おれも同行しよう。宇宙は危険な場所だ。キミを守るよ。」
そう言われて、アリーヤは笑い出した。
「あはは、分かった!私を守ってくれるマイクを、私が守るよ!」
「なんだそれ!」
楽しく笑い合ってる二人を、遠くで見守っている人物がいた。
リーフ・フライである。
「イトウ・マイクよ。少々たよりないが、アリーヤの護衛についてもらうぞ。いづれまた会おう、キャプテン・アリーヤ!」
マイクはその日、思い出の写真に向かってこう言った。
「ミノリ、……おれは旅にでるぜ」
アリーヤはマイクと共に、エデン・コロニーを出た。
一方、別のスペース・コロニー。
レジスタンスの作業員は、人工知能のコアから記録チップを取り出した。
「チップは無事だぞ」
「そのようね」
指令室。
チップの内容は、全て映像として写しだされた。
「コアは敵に正体を気付かれ、あわてて脱出ポッドから逃げたのか……なんてざまだ」
「そして、コアをかくまってくれた少女が、アリーヤってわけね。」
コアのマイクロチップの映像を見終わったジーン総帥は、宇宙空間へ生身で飛ばされたアリーヤの生存を、信じていなかった。
すっかり修理されたコアは、司令官に訴える。
「アリーヤは地球を、否、宇宙を救いました。クレッセントも、彼女の力が必要です……」
つづく……
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