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昔々あるところに、とても傲慢で自己中心的で自信過剰な王女様と、優しくおおらかだが不器用な公爵令息がいました。

作者: Rio

誤字脱字ありがとうございます。

昔々あるところに、とても傲慢で自己中心的で自信過剰な王女様がいました。


王女様は、国王様の5人の子供のうち末っ子で、たった一人の女の子でした。

それはそれは、大切にされ、甘やかされてそだったのです。


小さい頃はまだかわいく見えていた我儘さや、自己中心的な言動は、成長するにつれ、嫌悪されるものへと変化していきました。




誰よりも自分が一番優れていると自負していた王女様は、運命の出会いをします。


栗色の緩やかなウェーブのかかった髪に、エメラルドグリーンの優しそうな瞳。


彼は、公爵家のお坊っちゃまでした。


彼はとても礼儀正しく、おおらかで、常識的な人でした。


王女様は一目で彼を気に入り、父である国王様にお願いしました。


「彼と婚約させて!!わたくしが婚約者になるなんて、とても光栄でしょう!わたくしの婚約者になれるなんてとても幸せだわ!!」


嬉々とした娘の様子を見た国王様は、苦笑いをして拒否しました。


「いいかい、レティシア?彼と君は結婚できない。よって、婚約もできないんだ。彼の家門では君にはとても・・・合わないんだよ。」


国王様の苦虫を潰したような顔を見ながら王女様は不思議に思いました。


なにせ、王女様は国王の娘で、彼は公爵家の嫡男。

王女にとって、とても釣り合いのとれている家門です。


王女様は、国王様の真理を察せず、国王様の言葉を額面通り受け取ってしまいました。



彼と同じ空間にいたくて、お茶会を開いても男性は呼べず情報を仕入れるくらい。


大っぴらに彼の情報を探っていた王女様の気持ちは、既に貴族たちのなかでは知らぬものはいない状態でした。


夜会で彼を見れば突撃し、他の令嬢といれば彼のとなりに居座り、絶対にその場を明け渡しはしない。


彼はいつも、困ったように苦笑するのですが、王女様は彼の自分に対する気持ちを疑いもしていなかったので、喜んでいると思っていました。


実際は王女様の言動に困っていたのですが・・・・



そんなある日、王女様は噂を聞いてしまいます。


それは、才色兼備と名高い侯爵令嬢が彼と良い仲だというのです。


王女様は案の定突撃します。


「あなたね!わたくしのアンソニーに近付く・・・」


王女様は驚いて目を見張りました。


目の前の令嬢はとても美しかったのです。

見た目だけではなく、所作など全てが美しかったのです。


王女様が怒鳴りこんでも、礼を失っさず、しずしずと王女様の話を聞いていました。


王女様は人生で初めての嫉妬と羨望、そして敗北感を味わいました。



ふと、侯爵令嬢の周囲にいた他の令嬢の言葉が聞こえました。


「・・・相変わらずねぇ。恥ずかしくないのかしら。レディアナ様の目の前にたってご自分が恥ずかしいと思わないなんて。」


「レディアナ様は貴族令嬢どころか、王女様といっても過言ではないかたよね。」


「・・・王女様は美しいかただけど、ねぇ・・・?考えも足りないし、賢くもないし。」


「自信過剰で我儘だもの。」


「陛下や王太子殿下が素晴らしいかただから、王女様のバカみたいな我儘通りに動いていないだけで。」


「本当よ。世の全てが自分の良いなりだと思っているもの。」


「アンソニー様だって迷惑なのに、相手が王女様なことではっきり言えないだけで、我慢してらっしゃるのに。それに気づかないなんて・・・」


「国王様や王妃様、王子殿下たちは素晴らしいのに、なぜ王女様のような人が生まれたのかしら。」



令嬢たちがクスクス笑っていました。


王女様は怒りよりも恥辱や悲嘆の感情が大きくなりました。


王女様はなんとか泣かずにその場をあとにしました。




侍女たちを振り切って部屋に戻ろうとした王女様は、王宮の図書室に入ろうとする公爵令息に気づきます。


彼から嘘だと言ってほしい一心で、彼のもとへと走りました。


ですが、一歩遅く彼は中に入って扉を閉めてしまいました。


王女様はとっさに扉を明けようと取っ手に手を掛けました。


中から数人の男性の声が聞こえ、王女様はついつい扉の隙間から中を覗きます。



図書室のなかには、数人の貴族令息がおりました。


彼らは楽しそうに話しています。


王女様はいつものように彼のそばにいきたかったですが、先程の令嬢たちのようになにか言われるのではと思い、自室へ戻ろうとしました。



「アンソニー!さっきは見物だったんだぞ。」


「そうだ!レディアナ嬢のもとに王女殿下が例のごとく突撃したんだか、レディアナ嬢を見たとたんその場で固まっていたぞ。」


令息たちが笑いだします。


「これで王女様からの付きまといも収まると良いな」


「・・・そうだな」



王女様はショックで立ち尽くしてしまいます。


公爵令息は疲れた様子でため息をついて返事をしていました。


王女様は何とか自分の部屋に戻り、その日から一週間引きこもりました。


国王様や王妃様、兄王子たちもとても心配しました。


ですが、王女様は知らなかったのです。


自分が我儘で自己中心的だと。

みんなに嫌われていると。


自分の両親や兄たち、侍女や執事たちにも嫌われていたと思うと、怖くて人前に出られなかったのです。


王女様は悩みました。


誰もそれが駄目だと教えてくれませんでした。


いや、自分で気付こうとしなかったのです。

周りの声を聞こうとせず、自分の思い込みだけで過ごしていたのです。


王女様は決めました。

誰よりも素晴らしい王女になると。


王女様は恥ずかしいと思いながらも、件の侯爵令嬢に連絡しました。


侯爵令嬢の前に仁王立ちし・・・


「あなたをっ・・・!!・・・わたくしの・・・家庭教師にしてあげるわっ!」


侯爵令嬢は笑みを深めました。




その日以来、王女様は怯える毎日を送ることになりました。

侯爵令嬢はとても厳しく、甘えを許さない人だったのです。


王女様は何度も心が折れそうになりましたが、王女様が正解を導き出すと、侯爵令嬢は優しく誉めてくれるのです。


単純な王女様はそれが嬉しくて頑張り続けました。


変わっていく王女様に、周囲も徐々に評価をあげていきました。


夜会や王宮で、何度か公爵令息に会いましたが、礼をするだけで、突撃することも声をかけることもなくなりました。


時々公爵令息が話しかけてきましたが、無難な会話で終わりました。


今まで王女様をバカにしてきた人たちは、変わった王女様に魅了されていきました。






ある日、他国で起きていた戦争が激化したことで、王女様の国も巻き込まれてしまいました。


災害のあとで、戦争をするほどの国庫も活気もない王女様の国は何とか戦争を避けたかったのです。


そこで白羽の矢が王女様にたちました。


他国との婚姻で結束を強くし、戦争を起こした国に対抗しようということになりました。


王女様は悲しむ両親に言いました。


「わたくしはこの国の王女です。国も民も愛しております。わたくしの生まれた理由はきっとこの時のためだったのです。」


王女様は微笑みました。

美しく。

気高く。


国王様も王妃様も兄王子たちも泣きながら王女様を抱き締めました。


王女様はなぜ皆が泣いているのか理解できませんでした。


そう、王女様は"愛"というものがわからなくなってしまったのです。


国王様や王妃様が「愛されるために生まれてきた」「愛しているのよ」といっても、何が愛なのかわかりません。


愛しているならなぜ止めてくれなかったのか。

愛してるならなぜ教えてくれなかったのか。


愛してるならなぜ怒ってくれなかったのか・・・


その事だけが王女様のなかで堂々巡りをしていました。






とうとう、王女様の輿入れの日が来ました。

王女様の周囲は皆泣いていました。


けれど、王女様はなぜ皆が泣くのかわかりません。


嬉しくて泣いているのか、と思ってしまうほどです。

それほど嫌われていたのか、と勘違いしていました。


でも、ただ一人。

泣きも笑いもしてない人がいました。


王女様の家庭教師の侯爵令嬢でした。


無表情で王女様を見据えます。

怒っているようにも見えます。


王女様は、侯爵令嬢から習った微笑みを浮かべます。


侯爵令嬢は一瞬泣きそうな顔になりましたが、一度俯いたあと、腰を曲げ頭を下げました。


彼女に習い、執事や侍女たちも頭を下げます。


王女様はたても暖かい気持ちになって、馬車に乗り込みました。


小窓から皆を見ます。


彼を探しました。

結局いつも探していたんです。


最初は見返すつもりで侯爵令嬢に教えを乞うていました。

でも、いつも彼を目で追い探してしまっていました。



馬車がゆっくり走り出しました。

王女様は二度と会うことのない彼を想って、涙を流しました。





数時間がたち国境沿いにつきました。

なにやら騒ぎがあったらしく、立ち往生しているようです。


すると、馬車の扉が急に開きました。

「殿下!」


目の前には公爵令息がいました。


王女様は驚きのあまり目をみはります。

「どうして・・・」


「お慕いしています。どうか、どうか・・・私と結婚してください。」

彼の言葉が王女様の心を溶かしたのです。



二人は手に手をとって、生涯愛に溢れた家庭を作り、幸せに暮らしましたとさ。











「わぁ!わたちもおひめしゃまになりゅー!」

舌足らずな小さな女の子が頬を染めて喜んでいる。


娘にお話を聞かせていた女性は、子供らしい答えに微笑む。


「母上。」

女性の隣から、真面目そうな声が聞こえた。

「その物語は愚策です。国のために婚姻すべきを、手と手をとって、逃げたのでしょう。」


「にげてないもん!違うもん!お兄様のサイアク!!」


「だが、王族たるもの国のために生きなくてはならない。それが義務だ。」


真面目な兄とロマンチストな妹の言いあいを楽しそうに聞いている女性は、ふと夫がこちらに来る姿が目にはいった。


「楽しそうだね。」

夫も愛しそうに子供たちを見ている。


「あら。あなたの作戦に見事に引っ掛かった恋人たちの物語を聞かせていたのよ。」

子供たちの母、レディアナは恨めしそうに夫を見上げた。


「ははっ。仕方ないだろう。父上も母上もレティのことを溺愛しすぎて、甘やかしすぎていたんだから。」


「それは、陛下にも言えることでは?」


「君ならなんとか出きると思ったんだ。実際できただろう?」


レディアナは、ため息をついて視線を子供たちに戻した。


5才なのに大人びすぎた長男。

3才なのにませすぎて、ロマンチスト過ぎる長女。



当時、レディアナは王太子との婚約が内定していた。

元々二人は仲が良く、想い合っていた。


ある日王太子が「ねぇ、ディー。僕のかわいい最高の妹の性格を矯正してくれないかい?」という提案をされた。


まず、妹自慢からの性格矯正という言葉。

不釣り合いだ。



私は渋々了承し、まずは彼女のたっかい鼻っ柱を折った。

一刀両断に。


元々ポジティブなレティシア王女は、レディアナの思惑通りプライドを捨て、師事してきた。


誤算だったのは、"愛"に対する認識が斜め上をいき、周囲の愛情を信じられなくなってしまったこと。



そして、レティシア王女の想い人も何があったのか、一途な王女から避けられ自暴自棄になっていた。


当時二人はスレにすれ違い、呆れを通り越しとても笑えた。


当時、王太子はアンソニーに理由を聞いたが、アンソニーは心当たりがないらしく毎日不安そうにしていた。


あの時のアンソニーは、毎日顔面蒼白で胃の辺りを抑えていたわ。

正直、鬱陶しかった。



レディアナは昔を想いだしため息をつく。




現在、国王一家は園庭にて散歩ランチをしていた。


国王は執務を抜け出してきている。


「そろそろ皆揃うわね。」

レディアナはため息をつき、子供たちと夫を呼ぶ。


ため息ばかりついて幸せが逃げそうだわ。


侍女たちが椅子を用意したりしていると、園庭の出入り口の方からぞろぞろと人が入ってきた。


先代国王と王妃、そして現国王の弟たちである。


彼らはそれぞれ公爵や侯爵となり、巨籍降下していた。

今日彼らが集まったのは偶然ではない。

子供たちが各家の子供たちと、祖父母に手紙を出したのだ。


『いついつにレティシア叔母上が登城します』


まさかの長男が送った。

5才らしからぬ達筆ぶりで。


なにせ、彼はレティシアおばさまのことが大好き。

レティシアに釣り合う男になる、というのが目標らしく、日々研鑽を積んでいた。


手紙をもらった弟たちと祖父母は、半年振りにレティシアに会いに来ていたのだった。



「すまないね。いつも君にばかり負担をかけて」

夫である国王が、レディアナのとなりに腰掛け苦笑した。


「わたくしも、レティがかわいくて仕方ないですから気持ちは理解しますわ。」


「そうなんだよね。なんだろうね、我儘言ってても、気位高くても、もう、凄くかわいいんだよね。身内贔屓なのかな?」


「・・・もう黙った方が良いですわ。」

妻は夫に冷たい視線を投げた。


夫の一家は皆こんな感じ。

本気でレティシアがかわいくてかわいくて仕方ないのだ。


どんなに性格がひん曲がっていようと、それでも良いとさえ思っていた始末。


しかし、一家のなかで一番ましな夫は、妹の将来を心配して、レディアナにレティシアの性格矯正を依頼したのだった。



レティシアは知らないが、本当に彼女は愛されている。

家族からも、城の使用人たちからも。


彼女は傲慢だし我儘だったが、誰よりも優しく、観察力にも優れていた。


使用人の誕生日や子供の名前まで全て暗記していた。


そして、極めつけはツンデレなのだ。


親の具合が悪い侍女に文句をつけて休みをやった。

薬や医師を持たせて。


ふん、といって医師を押し出すのだ。

お陰で、侍女の親は今も元気だ。


そんなレティシアは、使用人たちからも真綿にくるまれ大切にされていたのだ。






一家が各自席に着きレティシアをまつ。


少ししてレティシアは、大きなお腹をいとおしそうに抱えながら園庭へと入ってきた。


夫となったアンソニーに手を引かれて。



「陛下、王妃様、遅くなり申し訳ありません。」

レティシアは美しい所作で礼をする。


「レティはなにも悪くないよ。妊娠中なのに呼び出す方がおかしいんだから。」


心配そうに妻の顔を覗き込むアンソニー。


まぁまぁ不敬な言葉だが、誰もがレティシアに夢中で聞いていない。




レティシアが子供たちにつれていかれ、アンソニーはその場に残された。

とてつもなく絶望的な顔をしている。


祖父母や陛下たちもあとを追っている。


レディアナはため息をついてアンソニーに椅子を勧めた。


「もうすぐ子供が生まれるのだからしっかりしたらどお?」


「・・・わかっています」


アンソニーは子供にレティシアがとられると想い、ずっと子供を作らなかった。


おぉっと!夫婦の営みはもちろんあったが。


しかし、周囲から跡継ぎができないことで、レティシアが攻められ、あまつさえ愛人まで進められ、子作りに賛成したのだった。



重い。



アンソニーはレディアナのいれたお茶を啜っている。


「そういえば、レティがあなたを避けた理由ってなんだったの。」


レディアナの言葉に、アンソニーは肩を震わせた。


少し黙りこくってから口を開く。


「・・・レティに興味をもってもらいたくなくて・・・他の男の前では、その男たちの会話に合わせていたんだ。・・・どうやら・・・」


そこで口ごもる。


「・・・もしかしてレティに聞かれたの?」

レディアナの言葉に頷いている。


なんと言うか、本当にすれ違いにすれ違いを重ねた夫婦ね。






あの日、レティシアが輿入れしようとした日。

アンソニーは婚姻じゃなくても和平協定を結べないかと、人脈を全て使って近隣諸国の架け橋となった。


急いでいたが間に合わないかとヒヤヒヤしたが。


なんとか、レティシアの輿入れに間に合ったのだ。


近隣諸国との和平協定により、戦争を仕掛けた大国は大敗。

現在は、各国に賠償金を払い続けている。


レティシアのために、何とかしたアンソニーの手腕に、レティシアとの結婚を反対することはできなかった。


そうして二人は結ばれた。


今ではオシドリ夫婦だったりする。





アンソニーが急に立ち上がってレティシアのそばに走りより、抱き上げた。

皆が驚いているなか、彼は周囲に指示を出していた。




15時間後、レティシアはかわいい女の子を産んだ。

アンソニーの第一声は「絶対に嫁に出さない・・・」だった。


アンソニーの言葉に、レティシアは幸せそうに声をあげて笑った。

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