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「わたしを離さないで」カズオ・イシグロ著

信用できなくなるのは、読者自身


臓器提供を目的として造られた人造人間の回想録。

2010年に映画化され、また、漫画「約束のネバーランド」の元ネタとも言われており、英国人作家であるカズオ・イシグロの中でも知名度の高い作品。


あらすじ

 起:親のいない子供たちの学校。そこで、主人公の女性は、少女時代を過ごす。主人公たちの学校でのステータスは特殊で、画力が何よりも重要視されていた。そして、絵が”マダム”という人物に認められ、それがどこかの展示会に出品されることが、最大の栄誉とされていた。そんな中、主人公は、とりわけ絵が下手な問題児の男の子に惹かれる。しかし、恋敵の存在もあり、うまくいかなかった。

 承:ある日、主人公は自分の部屋で、ぬいぐるみを子供に見立て、音楽を掛けて歌う。その曲の名前は「わたしを離さないで」。その様子を偶々見ていたマダムは涙を流す。卒業の日が近づく。教師の一人が、彼女たちに”真実”を伝える。

 転:学校を卒業し、臓器提供の時が近づく。提供までの間、主人公はほかの臓器提供者の介護人として働く。そして、恋した男の子、恋敵と再会する。臓器を抜かれ、死の淵にある恋敵は、過去の行いを主人公に懺悔し、彼女にある重要な情報を提供する。

 結:<省略>


面白ポイント①:悲壮感の無さ

⇒滅茶苦茶重いテーマの作品ですが、その語り口に不思議と悲壮感がありません。(かといって、明るい感じでもないですが、、、)

→これが、イシグロ氏の特徴といわれる”信用できない語り手”という手法の効果なのでしょう。

→物語の語り手は、人造人間の女性です。従って、臓器提供のために不条理に”殺される”運命にあるのですが、あんまり絶望してる感じはないです。私なら、泣きながら、恨みの言葉をわめき散らかしそうなもんですが、彼女は、「いやだなぁ。」くらいにしか思っていない感じです。そんな調子で、語っていくのです。


面白ポイント②:湧き上がる悲壮感

⇒彼女たちは、(我々からみたら)理不尽な運命を無意識的に受け入れています。だから、語り口に悲壮感がないのです。そんな彼女たちを見ると、”我々”は同情せざるを得ません。読み進めていくほど、<文章中からではなく、読者自身の中から>悲壮感というべき感情が湧き上がってきます。


結び:信用できない私たちの感覚

→読者は同情する立場であり、主人公は同情される存在です。

⇒本当にそうでしょうか?

→「彼女たちは必ず臓器を抜かれて死ぬ」というのが、我々と違うところ、、、我々も「いつか必ず死ぬ」のです。臓器は抜かれないでしょうが、必ず死ぬという点は全く同じですし、死ぬときは結構苦しまなければならない運命です。それは理不尽だとは思いませんか?

→そんなことを考えているうちに、読者と主人公の境界線は曖昧になり、心を満たしていた悲壮感は、私たち自身へと流れ込んできます。だけど、絶望することはありません。生きればいいのです。あの信用できない語り手のように。

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