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帝国人の神話:第二編 天地創造  作者: アウグスティアのヴァシレウスヴァシレオーン
第一章 天地の物語
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1 光速は如何にして最速不変となったか

第二編 天地創造


ユミルは滅び、ボートゥンヒムナンナは終わりを迎えた。

勝利の後、神々はその統治を始めたのか?

私は語ろう。ヴォーズィン、あなたがそれを望むなら。


第一章 天地の物語

第一節 光速は如何にして最速不変となったか


ユミルの残骸は止めどなく膨張し、宇宙に溢れ、虚空を満たしていきました。

恐るべきヨトゥン達は、そのほとんどが爆発とそれに続くユミルの洪水によって滅び去りました。

やがてユミルの膨張が収まると、ヴォーズィン、ヴェーリュフィ、ヘーニルの三柱の神々はユミルの残骸から世界を創り始めました。


ところで、ユミルの残骸からフォトンという者が生まれました。

フォトンは自らの属性から、ユミル・デミウルゴスを滅ぼしたヴォーズィンと神々に復讐をしようと考えました。

そこでフォトンは一直線に、ヴォーズィン達のいる場所、つまり宇宙の外に向かって走り出しました。



しかしフォトンは神々に追いつけませんでした。

そこでフォトンはヴォーズィンに取引を持ちかけました。

「ヴォーズィンよ!

 我が願いを叶えたまえ!

 私を何ものよりも速くしたまえ!

 私が常にそうあらんことを!」


フォトンの意思と願望を聴いたヴォーズィンはそれに応えました。

「それで、お前は何をしてくれるのだ?」

「もしあなたが願いを叶えて下さるのなら、私は喜んで魂をあなたに捧げます」

フォトンは口先ではこのように提案しつつも、本心では何も支払うつもりはありませんでした。ヴォーズィンに追いついて倒してしまえば、自分は何も支払わずに済むとフォトンは考えていたのです。


「いいだろう。

 フォトンよ、お前がそれを望むのなら、私はお前の願いを叶えてやろう。

 だが、忘れるな。

 終わりの時が過ぎた後、お前は吾が臣民となり、吾が家臣となるのだ」


こうしてフォトンはヴォーズィンと契約を交わし、いつでも、あらゆるものより速くなりました。どんな時でも、どんなものであっても、フォトンに追いつくことも、フォトンを追い越すことも出来ませんし、フォトンの追跡を振り切ることは出来なくなりました。



フォトンはすぐさま走り出しました。宇宙の果てを超え、世界の外にいるヴォーズィンを目指して。

確かにフォトンは最速でした。何ものもフォトンに追いつけません。

ところが、どれほど走ってもフォトンはヴォーズィンの宮殿に追いつけませんでした。

「これじゃあ、約束が違う!

 ヴォーズィンと神々は私と同じ速度で走っているじゃないか!」


「走っている?自分たちが?」

ヘーニルは思わず驚いた声をあげました。ヴェーリュフィは静かに笑うと、ティーカップをソーサーに戻しました。

「私たちは座っているぞ、フォトン。

 走ってなどいない。座って、紅茶を飲んでいる。

 お前には聞こえないか?

 ヴォーズィンの長い爪が、ティーカップに当たるコツコツという音が。

 それともフォトン。お前はただ座って紅茶を飲んでいるだけの私たちにすら追いつけないのか?」



ヴェーリュフィにそのように言われたものですから、フォトンは激昂し、全力で走りました。

しかしそれでもフォトンは宮殿に追いつけませんでした。それどころか神々の宮殿はむしろどんどんとフォトンから遠ざかっていきました。


「約束が違う!

 神々は、ヴォーズィンは私より速く走っているじゃないか!」


それを聞いたヘーニルとヴェーリュフィは、手を叩き大笑いしました。

「走る?走るだって?

 ヴォーズィンが走るわけないだろう!」

「仮に走ったとしてもだ。

 ヴォーズィンが速く走れるわけがない!

 私たちきょうだいの中で――いや、神々の中で、走ってヴォーズィンに追いつけない者などまずいない!

 それで、フォトン。

 お前はそんなヴォーズィンにすら追いつけないのか?」



フォトンは走りました。一心不乱に両脚を交互に動かし続けました。自分こそが最速だという矜持を胸に。

あらゆるものを追い越し、フォトンは自らの吐き出した息さえ置き去りにしました。

しかし神々の宮殿はますます速く遠ざかり、ついには見えなくなってしまいました。

「約束が違う!

 ヴォーズィン!お前は私より速く移動している!

 お前に追いつけないじゃないか!」


ヘーニルは答えました

「ヴォーズィンは……今は立ってるね。

 走ってもいないし、歩いてもいない。

 長い髪を揺らしながら、ゆらゆら立って、二杯目の紅茶を淹れているね」

ヴェーリュフィは呆れたようにフォトンに言いました。

「どうしたフォトン、どこか調子でも悪いのか?

 お前があまりにも遅いから、私たちはもう二杯目の紅茶を飲み始めるところだ」


「これは契約違反だ!」フォトンは怒声をあげました。「あらゆる物体は私より速く移動してはいけないんだ!

 それなのにヴォーズィン!お前は、お前の宮殿は、お前たちは、この私より速く移動しているじゃないか!ヴォーズィン!お前は嘘つきだ!お前なんか、神々の皇帝に値しない!」


ヴォーズィンは答えます。

「いいや。

 私は何一つ嘘をついていない。

 私は何一つ約束を破っていない。

 いかなる物体も、お前より速く移動しない」


「嘘つきめ!

 事実、私はヴォーズィンに追いつけないじゃないか!

 私が観測する限り、お前は私より速く、私から遠ざかっている!

 ヴォーズィン!お前は私より早く移動している!」


「空間だ。

 空間が膨張しているのであって、私たちは移動していない。

 フォトン、お前との約束通りいかなる物質もお前より速く移動することはない。

 だが空間は物質ではない。

 空間が光速を超えたとしても、お前との約束に矛盾はしない。


 さあ、フォトン。

 私はお前との約束を果たした。

 お前はいつでも早く、何ものよりも速い。


 だが空間はお前よりも速い。

 お前が私たちに到達することはなく、故にお前が私に危害を加えることは不可能だ」



この契約の有効性は今日に至るまで続いています。

ですからフォトン(光子)は今日でも、如何なる物質よりも速く、その速度は不変ですが、しかしそれにもかかわらず空間の膨張に追いつくことが出来ないのです。

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