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オタクですがなにか?  作者: 夏目 涼
9/17

第9話

次の日。


モリスと朝学校へ向かっていると、凪が話しかけてきた。


「おはようございます。護澄先輩」

「お、おはよう」


モリスは昨日のことがあったからなのか凪のことを警戒している。

凪はそんなモリスの反応を気がついているのかいないのか、モリスの隣をピッタリとついて歩く。

そして、一緒に歩いている私を見る。


「あの・・・一緒に登校しているってことは護澄先輩の彼女さんですか?」

「んぇ?!いや・・・違うけど・・・」


まさかの質問だった。

まぁ、確かに昨日も一緒にいて今日も朝一緒に登校してるだなんてどんな関係だよって思うよね。


「家が近所だから学校への道覚えるまでは一緒に行こうってことに・・・」

「ふーん・・・。そうなんですね」


そう言いながら凪の視線は全く納得していなかった。


私は、こういう自分に自信のある人が苦手だ。

私自身、自分に自信がないっていうのもあるがそれ以上に理由があった。


私は小学生の時にクラスの中心人物からいじめに遭っていた。

理由は漫画やアニメが好きなオタクで地味でブスでキモイから。

確かに、見た目もパッとしない。そんなこと自分でも分かっている。

小学生だとだんだん異性に興味を持ち始める年頃で、男子とギャル風の女子に虐められた。



”女のくせにゲーム?”

”うわっ!漫画のキャラクターの人形持っている!”

”キモ!”

”ブス!”


男子から笑われ、ギャルの女子からは気持ち悪がられた。

その時いつも助けてくれたのが陽菜だった。


「私も漫画とかアニメ好きだよ!!!!千代ばっかりに言うんじゃなくて私にも言ってみろ!!!!」


陽菜は私のヒーローだった。

陽菜は可愛くて、優しくて、男女問わず好かれていた。学年で人気者だった。陽菜が私を庇いにくると私を虐めていた子は何も言えずに去って行った。


「千代!好きなものは自信持って好きって言わないと!」


そんな言葉をあの時陽菜がかけてくれてくれてなかったら好きなことを隠して生きていたかもしれない。

いや、もしかしたら漫画やアニメを恨んでしまっていたかも・・・。


でも今では、自分の好きなことを隠そうと思わない。好きなことは好きって自信を持って言える。

確かに今受験の時期で、勉強より趣味を優先するのは自分でもダメだなって思うから自粛してるけど・・・。


改めて陽菜の存在が大きかったことを実感する。

でも、私も陽菜のために強くならなきゃ。いつまでも陽菜に頼ってちゃダメだ。


私はグッと拳を握って自分を奮い立たせる。

漫画やアニメをバカにされたあの時も悔しかったけど、今何より大好きなモリスを奪られてもいいの???

あと一ヶ月しか一緒にいられないかもしれないのに・・・。

後悔だけはしたくない!!!


「違うけどっ・・・」


私は声を大きくしてまっすぐ凪の方を見て言った。



「私はモリスのことが好き!!」










凪はしばらく沈黙した後に”先に行きますね”と行ってしまった。

今は私とモリスの2人が登校の道に取り残されている。

モリスの足は止まったままだ。


あ~~~~・・・・やってしまった。

これは気まずいパターンなのでは。

しかも、なぜあの子は去っていったの?

私の告白で諦めるくらいの気持ちだったのか???

それよりも・・・

私はこの気まずい沈黙に耐えきれない!!


「えーーーっと・・・・こ、これでモリスに言い寄ってくる女の子が少なくなるといいね。とりあえず、学校向かおうか?遅刻するし・・・・」


と、誤魔化してみる。

しかし、モリスはフリーズしているのか一点を見て動き出す様子がない。

私はモリスの目の前で手を振るが反応なしだ。


「えーーーーっと・・・モリス????」


モリスの顔を覗き込むとモリスの意識が戻ったように動き出す。


「っえ・・・?」

「遅刻するし学校行こう?」

「お、おう・・・」


なんだかんだ時間が経ってしまい、遅刻ギリギリだ。少し早歩きで行かないと。


勢いで告白しちゃったけど、モリスはどう思っただろう。

もし断られても気まずくならないようにだけはしなくちゃ。

気にしてないよ!って。そのまま友達でいようって。

うん!大丈夫。きっと私なら言える。慣れてるし。

















「お前らわかっていると思うが来週から中間試験だからな〜・・・高校受験前の大事な時期だし、この結果次第で志望校の偏差値に届くか分かってくるから努力しておけよ」


担任の先生が朝のHRで言う。


あれ・・・来週、中間試験だっけ?

忘れてたな。完璧に。

兄ちゃんの野球なんて見に行ってる暇ないじゃん。モリスはテスト楽勝だろうしなぁ・・・行くって1回行っちゃったから律儀なモリスの性格上絶対行くだろうし・・・。

私も推しの初めての瞬間は見たいし・・・。そのためにその他の時に勉強頑張ればいいか!!

よし、学校の休み時間も勉強しよう!土曜日のために!!!

















1限目が終わり、2限目までの10分の休憩時間になった。

私はささっと昨日モリスとした試験対策問題集を出した。


相変わらず、前の席のモリスは人混みに囲まれている。初日の時よりは人数は減ったが女子ばかりだ。他のクラスの女子も混ざっているみたいだ。


くそう・・・モリスに手を出したら許さん!


口には到底出せないが心の中で叫ぶ。


「休み時間に勉強って・・・どうしたんだ?頭でも打ったのか?」


急に隣の席の裕樹が声をかけてきた。


「失礼ね。勉強して悪い?」


ギロリと精一杯裕樹を睨む。


あんた自分の勉強邪魔されると怒るくせに私の勉強は邪魔するんか。


「いや、いつもなら漫画の話とかしょうもないこと喋ったり、携帯触ったりしてんじゃん。お前が勉強してるって・・・今日は雪でもふるんじゃねーの?」


しょーもない話って・・・失礼な。そりゃ、いつもは勉強しませんよ。携帯でモリスの画像みて癒されたり、漫画やアニメ見たりしてる方がいいよ。

でも!!今回は絶対に外せないイベントがあんのよ!!!その為なら休み時間なんていいのよ。中間試験も頑張らないといけないし。


「こんな梅雨の時期に雪降ったら大ニュースになるね〜」


裕樹に皮肉を言って問題集に視線を戻す。


「千代、なんの勉強してんの?」


前方から話かけられ、驚いて顔を上げるとモリスは人混みを無視してこっちを向いていた。

モリスを囲んでいる人たちはそれぞれで話が盛り上がっているようで、モリスが後ろを見ていることに気がついていない。


「っ!!!えっと・・昨日教えてもらった数学の復習してるんだけど・・・」

「そう?わかりそう?祐樹みたいにうまく教えれたかわからないけど・・・。人に教えてると俺も復習になるしまたわからなかったら聞いて」

「ありがとう!モリスが教えてくれたから数学だけ成績上がりそうだわ」

「なんだよそれ・・・」


私の言葉にモリスはくすっと笑う。

そんな私とモリスの会話を見ていた裕樹が、


「・・・お前ら昨日会ったばっかりじゃねーの?なんでそんなに仲良いの??」


と質問を投げかけてきた。


「え・・・っと・・・」


あ〜・・・しまった。

私の家に居候してるなんて言ったらどうなることやら・・・。

ここは適当に誤魔化して・・・。


「なんでって俺、千代と同じ家に住んでるから」

「え????山田と同じ家???どういうこと??」


ぎゃー!!!!

モリス!??!?!?!言っちゃった!!!!


裕樹は思ってもいなかった答えが返ってきて頭が追いついていないようだ。目を瞬きさせて私とモリスを交互に見ている。

モリスを囲んでいた人たちも集まってきた。


「え?山田さんと斎藤くん同棲してんの?」

「いや、実家だから同棲とは言わんだろ・・・」

「え?じゃ、どう言うこと??親戚とか?」


話がクラス中に広まって、ざわつき始めた。


あーーーー!!

勉強しようとしたらこれだ・・・この時間はもう勉強できないな・・・。


私は、深呼吸して心を落ち着かせる。

そして少し大きめの声で説明を始める。


誤解されて変な噂が広がるのが一番まずい。

噂というものは非常なまでに広がりやすく、とんでもないことが付け加えられ拡散されていくものだ。


「あのね・・・斎藤くんのお母さんと、うちの母が友達でね・・・斎藤くんの両親が海外に転勤になっちゃったんだけど、斎藤くんを中学は日本の学校を卒業させたいってことで斎藤くんのあ母さんに頼まれて家に居候することになったの。だから一緒の家に今は住んでるってことになるかな」

「そうだったんだ。なんで秘密にしてたのよ〜」

「そうだよ」


いや、言ったらこうやって騒がれるからじゃん・・・・・とは言えない。

モリスにちゃんと口止めしておくんだった。


「いや、別にわざわざ言うことでもないかなって・・・」

「何?自分は後からいくらでも喋れるからって?私たちをバカにするために黙ってたの?」

「確かに・・・みんなの輪に入ってこなかったよね。みんなが一生懸命に護澄くんと喋ろうとしていたの陰で笑ってたんじゃない?性格わるっ・・・」

「それはヤバい・・・優越感に浸ってるってやつ?自分の顔見てからしなよ」


また・・・

まただ。

悪口言われてる。

私悪いことした?そんなに言わなかったことがいけないことなの?




また・・・虐められるの?私・・・





小学生時代の記憶がまた蘇る。

私の身体は小刻みに揺れてしまう。








「別に山田の行動、優越感とか陰で笑ってるとかそんなふうに見えなかったけど?そんな皮肉言うお前らの方が性格悪くね?」


裕樹が周りの人たちに向かって言った。


「え?皮肉って・・・内緒にしていたのは本当のことじゃん」

「内緒って・・・わざわざ一緒の家に住んでます!って言う方が自慢っぽくね?っつーかさ、俺はお前らみたいに自分が喋りたいからって周りの迷惑気にせずに斎藤に話しかけに行く方が俺はどうかと思うけど?」


裕樹の言葉に誰も言い返せなかった。


裕樹がこんなこと言ってくれるなんて意外だった。

いつも周りのことなんて気にせずに勉強しているから周りの人のことなんて興味ないんだと思ってた。


「祐樹の言う通りだ。千代は俺のこと独占しようとか思ってない。昨日だって2年生の子が俺と話したいって言ってるの教えたり、写真撮るの手伝ったりしてたし。優しいよ・・・千代は」

「・・・モリス」


あーーー、もう!私のこと、モリスが庇ってくれてるのに私がこんなに縮こまってどうする!!!!


私は震えていた自分の身体に気合を入れるかのようにこぶしでたたく。


よし!!!気合入った。

もう大丈夫。


「私は勉強するからもうこの話は終わり!」

「だな。俺も一緒に勉強する」

「う、うん」

「さ、俺も勉強に戻ろう。これ以上ここにいたら斎藤から嫌われるぞ〜?」

「っ・・・行こう!」


モリスを囲んでいた人たちは不満を言いながらもワラワラと解散していった。


「裕樹、ありがとう。本当に助かった」

「別に・・・本当のこと言っただけだし」

「やっぱりこっちの女の人・・・俺苦手だ・・・」


モリスはゲッソリとした顔をしていた。


「イケメンなのに、斎藤は女子苦手なのか?」

「苦手というか・・・あんまり喋ったことなくて。あんなにガツガツこられると正直怖いんだよな」

「まぁ、確かにな。あれは怖いわ」

「ふふっ・・・吉田くんとは気が合うよ」

「俺みたいに興味ないってしとけばいいんだよ。変に愛想振りまくってるとしんどいぞ?」

「そうだね・・・そうしてみるよ」


漫画の中だとモリスって裕樹みたいに一匹狼で誰に話しかけられても笑わないしそっけない態度取るものだと思っていた。漫画やアニメでそういうところばっかり描かれてたからなのかな?

でも実際は、気を使いすぎじゃない?って思うくらい気を使う。困ってる人がいたら声を掛けてるし、頼まれてもいないのにノート配り手伝ったり・・・。家でも食器並べるの手伝ったり色々している。

言いたいことはハッキリ言うけど、別に嫌じゃないことは快く引き受けているし。昨日の凪の写真の件もそうだ。そんなのしてられるかってさっさと去りそうなのに結局先生に止められるまで対応していた。

きっと今も裕樹にああ言ってるけど結局できないんだろうなって想像できる。モリスは優しいから。

どうしよう・・・モリスのこと知ってもっと好きになってる。


「千代・・・大丈夫?さっきひどいこと言われてたけど」


モリスが心配そうにこちらを見ている。

私はにっこり笑って、


「モリスのおかげで大丈夫だった!ありがとう」


と、言った。

モリスはホッとしたように強張っていた顔を緩めた。



ちょうど2限目の予鈴が鳴った。

モリスは前を向いて次の授業の準備をし出す。

私も問題集を片付けで次の授業の教科書などを取り出す。


本当にモリスと裕樹がいなかったら私またあの闇に落ちてた・・・。


酷いことを言うのも人間だが、助けてくれるのもまた人間だ。

人間が嫌いだと思うことはあるが嫌いになりきれないのは、陽菜やモリスや裕樹みたいに助けてくれる人がいるからだ。


少しずつだが私も強くなっている。人に支えてもらいながらだけど・・・。

まだまだ人生は長い。これからもたくさん壁はやってくるだろう。でも、きっとその時に助けてくれる人はいると信じている。私が傷つけるあちらの人間にならなければ、きっと。誰かが見てくれている。そう信じることにしよう。


目頭が少し熱くなったが、目を擦って私は前を向いた。



















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