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オタクですがなにか?  作者: 夏目 涼
3/17

第3話

「やっと終わった〜」

「今日そんなに辛い授業ばっかりだったの?」


私は陽菜と合流し学校を出る。


「うーん・・・徹夜したから眠くて辛かっただけなんだけど・・・」

「なんじゃそりゃ!」


2人で笑いながら歩いていると私の携帯が鳴る。


「電話?」

「いや、メール」


メールを確認すると本屋から予約していた漫画本が届いたという通知メールだった。


「今日届いたんだ!取りに行かなきゃ!」

「何が届いたの?」

「マド学の最新巻と、ツーピースの最新巻と、呪術回転の最新巻と、転スムの最新巻!」

「そんなに最新巻ばっかり・・・いつ読むのよ。受験生」

「・・・まだ先じゃん!受験は。少しは休憩も必要よ」


陽菜はため息をつく。


「宿題くらいはちゃんとしなよ」

「もちろん!」

「じゃあ、先帰るね」

「うん!また明日ね」


家とは反対方向の本屋に向かうために陽菜と別れた。


待ちに待った私の大好きな漫画たちの最新巻!早く読みたい!


足早に本屋に向かう途中で裕樹と信号待ちで会ってしまった。


「・・・お前、家こっちだっけ?」

「違うけど・・・本屋寄りたくて」

「へぇ・・・参考書でも買うのか?今から勉強すれば少しでもいい学校に行けるかもな」


にやっと笑いながら言う。


言えない!漫画を買いに向かってるなんて。ただでさえ今日授業中に寝てたのに。


「そ、そうだね」


はははっと誤魔化すように笑う。


ま、本屋の中までついてくる訳じゃないし・・・。


特に何か喋ることもなく本屋への道を2人並んで歩く。

裕樹は相変わらず勉強用の暗記用のメモを見ながら歩いている。

休み時間だけじゃなく下校の時も勉強しているのだ。


「そんなに勉強してどうするの?」


私はいつも疑問に思っていることを口に出していた。

はっと口を押さえて裕樹の顔を見る。


「ごめん・・・つい気になって」

「・・・お前には関係ない」


裕樹は暗記用のメモを見ながら冷たく言い放つ。


「そうだよね・・・ごめん」


私はしょんぼりしながら歩く。


確かにそうだ。裕樹が勉強していようがしていまいが私には関係ない。

質問してしまったことを後悔した。隣の席とはいえそんなに話をしたことないのに。

急にプライベートなことを聞く変なやつと思われたに違いない。


「医者になるためだ」

「・・・・え?」


いきなりの返答に私は驚く。


「・・・んだよ」

「医者になるの?」

「そのために頑張ってんの」

「そうだったんだ。すごいね。夢があるなんて」

「お前はないのかよ」

「私は・・・ないなぁ」


得意なことは特にない。好きなことはあるけど漫画、ゲーム、アニメ・・・。好きなことに携われる仕事に将来つきたいなと思ったことはあるけど絵が上手くないし、物語を考える才能もない。


「ふーん。ま、いいんじゃね?これから見つかるかもしれねぇし」

「ありがと」


相変わらずメモから目を離さない裕樹を見て、私は少しクスリと笑った。


そっけないけど、なんだかんだ優しい。


私の少し心臓がドキドキいって顔が熱いのは気のせいだろうか。




















私は、家に着き自分の部屋に入る。

買った漫画を机の上に置き、部屋着に着替える。



夢か・・・裕樹は医者になるために頑張ってるんだよな。

私の夢はなんだろ。


思い浮かぶのは夢というか・・・願望だ。


もし叶うなら、モリスに会いたい。私がマド学の世界に入るか、モリスがこっちの世界に来るか。どっちでもいい。

あっちの世界に行ったら魔法死ぬほど勉強する!モリスのために!

こっちの世界に来たら、こっちの世界のこと教えてあげるし。そうなれば勉強頑張れると思う!モリスのために(?)


私はガッツポーズをする・・・が現実を思い出し手を下げる。そんな夢叶うわけがない。つくづく自分のオタク思考に嫌気がさす。異世界転生とかあればいいのにと思う。でも戦うのは嫌だけど。この先、大人になればこの考えも薄れてくるのだろうか・・・。

チラリとさっき買ってきた漫画を見る。

すぐに読みたい!続きが気になる!

でも・・・


「宿題してからにしよう!」


私は漫画をベッドに置き、勉強机に座った。




『・・・よ』



また空耳が聞こえる。


『千代』


私を呼ぶ声?



「千代!ご飯だよ!」


母の声が響く。


なんだ。お母さんの声か。

またモリスが私のこと呼んだのかと思って焦ったわ。


「今行く〜!」


私は自分の焦りをごまかすように少し大きめの声で返事をした。













次の日、いつもの場所で陽菜と合流する。


「そういえばどうだったの?新刊は?」


少し呆れたように陽菜は聞いてくる。

陽菜は漫画やアニメが好きだが最近はその熱も冷めてきている。その理由もわかる。

受験もあるし、これくらいの年齢はファッションにも興味が出てくる時だ。それに、異性にも・・・。それなのに、毎回私に話を合わせてくれているのだ。嫌いになったわけではないと思うけど、もっとファッションのこととか話したいんだろうなと思う。本当は気づいているがなかなか言い出せない自分がいた。こんなオタクな話、気兼ねなく話ができるのは私には陽菜しかいないから。


「凄かったんだよ!」


私は、ふと過った考えに蓋をして、興奮気味に新刊の内容を陽菜に話す。

陽菜は相槌を打ちながら楽しそうに話を聞いてくれている。


私は話しながら陽菜のそんな顔を見てある決意をした。












学校に着き、いつも通り廊下で陽菜と別れる。


「じゃ、また後で」


陽菜が笑顔で私に手を振って去ろうとする。


「待って」


私は、陽菜を引き止める。


私の気持ちが変わらないうちに。

きっと後で後悔すると分かっているけど。私の大好きな陽菜のため。



「あのさ、明日から別々に登下校しない?」















ちゃんと私は笑えていたんだろうか。


家に着き、ただいまの言葉もそこそこに魂が抜けたように私はゆっくり部屋に入る。


制服のままベッドに横になる。


陽菜の為を思って取った提案だった。

さっきの出来事を思い出す。







『え?急にどうしたの?・・・・・分かった〜また千代の冗談でしょう』


ケラケラと笑いながら陽菜は私を指さす。

私は、じっと陽菜を見る。

私の真剣な表情を見て、陽菜も笑っていた顔を真顔に戻した。


『え?本気なの?保育園から一緒に行ってたんだよ?それをこの中途半端なこの時期に?なんでよ!』


今まで見たことない姿を見せる陽菜。

私はそんな陽菜の反応を見て、不謹慎にも少し嬉しかった。


『陽菜・・・もう漫画とかゲーム・・・読んだりしてないでしょう?』


陽菜は少しギクリとした表情を見せる。

私は陽菜の反応に気がつかないフリをしながら話を続ける。


『本当は結構前にそうなってるのは知ってたの。でも、私が陽菜の優しさに甘えてた。陽菜から登下校もうやめようって言われるまで・・・ギリギリまで一緒にいれたらって思ってたけど』

『じゃ、卒業までっ!』

『理由はそれだけじゃないの・・・。陽菜、彼氏出来たでしょう?』

『え・・・・?』


陽菜は驚き絶句する。


『・・・知ってたの?』

『知ってた。そして彼氏と高校では別々になっちゃうことも・・・』


陽菜は泣きそうな顔になる。


本当は残り少ない同じ学校の時間。登下校彼氏としたいだろうに・・・私のことを優先してくれて。本当に陽菜は優しい。



『残り少ない中学校生活・・・彼氏と過ごしなよ。私ともたまには電話とかメールしてね』

『千代ぉ・・・・』


陽菜が好きな人と登下校したいとか知ってるもの。

その夢、私が潰すわけにはいかないじゃない。陽菜には幸せであって欲しいんだもん。


『大好きな親友のためだもん!彼氏優先して。たまにマド学の話したくなったら電話していい?』

『もちろんだよ!これからも親友でしょ』


学校の廊下にもかかわらず私と陽菜は熱い抱擁をした。今生の別れかのように・・・。私には同じようなものだけれど。


その後の授業も全然頭に残ってない。

ボーっとしすぎてどうやって帰ってきたのかもあまり覚えていない。


学校から家に帰る途中で、陽菜が笑顔で彼氏と手を繋いで歩いているのを見かけた。とても楽しそうだった。


良かったんだ。これで。


ベッドに横になりながら泣きそうになる目を腕で塞ぐ。


声をあげて泣きそうだ。失恋ってこんな感じなのかな。ちょっと違うか・・・でも悲しいのは一緒だろうな。


色々考えながら気がつくと私の意識は遠くなっていた。





















私は、気がつくと漫画でよく目にする学園の景色の中に立っていた。

魔導士学園ヴァースの中庭。何度も何度も漫画を読み返しているから目に焼き付いている。3Dの状態で見るのは初めてだけど・・・。いつも何かと主人公”レイス”とライバル”モリス”が魔術の対決をしている場所だ。



なんでこんなところに?

夢・・・・?



キョロキョロと周りを見渡す。

自分の服装を見るとちゃんとマド学の制服を着ている。自分の姿でこの服を着ているのか、よく漫画とかである誰かに憑依してこの服を着ているのか・・・。



まさか私の願いが叶ったの?

マド学の中に私が入れるなんて!!!


興奮する気持ちが湧き上がってくる。

この中庭にいないってことはみんな教室にいるのか、寮にいるのか・・・。

いつここに来るのかわからないから探しに行ってみようかな。

せっかくだからモリスと会いたい。



漫画で描かれていない部分が見れて嬉しいと思っている自分と、なんでこんなことになったのか冷静に考えている自分がいる。

なんとか迷いながら教室に着いた。


「〜で、魔法を発生させるために・・・」


教師の授業の声が聞こえる。


1年1組。レイスのクラスだ。

チラリと教室の中を見る。光り輝いて見えるのがレイスだ。やっぱり主役は違う。オーラが漂っている。

隣の席に座っているマドンナ”ティーナ”もいる。


本当にマド学の世界にいるんだな。

えっと・・・確かモリスの教室は1年5組だったっけ。


気づかれないようにゆっくりと廊下を進む。

1年5組の教室をチラリと覗く。


前から2番目の窓側の席。何度も何度も漫画で読んだから覚えている。

眼鏡をかけた黒髪姿。


いた。

モリスだ。


自分の胸が高鳴るのが分かる。


やっぱりかっこいい!!!

漫画で何度も何度も見た光景をこの目で見れるなんて・・・。


感激してついつい廊下でモリスを拝んでいると後ろから圧を感じる。


「ここで何をしているんだ?」

「・・・え?」


後ろを振り向くと、厳しいとみんな恐れているフォワード先生が立っていた。

元々強面の先生だけど、それでも怒っているのはわかる。


オーラが怒ってる!!!

これはみんなから恐れられるのわかるわ・・・。


「授業中だぞ。何をしている?」


まさかフォワード先生の圧を体験することになるとは思わなかったが、ここは誤魔化さないと。


「えーっと・・・トイレ行ってて・・・今自分の教室に戻るところです・・・」


何年生の設定なのか、何組なのかも分からないけど・・・。

とりあえずそう答えておこう。


そう言って、ゆっくりモリスの教室から離れようとすると・・・


「ふざけてないで自分の教室に戻りなさい」


フォワード先生は去ろうとした私の首根っこを掴んで1年5組の前に戻す。


えぇ?!

私、モリスと同じクラスなの?!


心臓がバクバクいう。


「は、はい。すみません・・・」


とりあえず、フォワード先生の目が怖いのでさっさと後ろの入り口から教室に入る。


どの席なのか分からない・・・。とりあえず空いている席に座ればいいのかな・・・?


キョロキョロと空席を探す。


あ、あった。

・・・え?あの席って・・・。


前から2番目の窓側の席の横・・・。

まさか!!!

モリスの横の席!?


さっきよりもドキドキする胸を落ち着かせる為に深呼吸する。

ゆっくりと席に座る。

ドキドキしている胸が収まるわけでもなくまた呼吸を整える。

机の引き出しから教科書を探すが、今の授業が何なのかが分からない。

周りの人の机を見渡してどんな教科書を置いているのか見るが、よく分からない。


どうしよう・・・。誰かにそっと聞く?でも名前知っているのモリスくらいだし。しかし、モリスに話しかける勇気がない。くそっ!なんてチキンなんだ!わたし!!!


どうしようか迷って、結局机に何も出さずにじっと先生の説明と前のボードを見る。


「今はホーリィ魔法の授業だ」


ボソリと左隣から声が聞こえる。

ゆっくり左隣を見ると心配そうに私を見ているモリスがいた。


モ、モリスから話しかけてきたぁ~~~!!!!!


私の心臓がドキドキを通り越してバクバクいっている・・・。

心臓もつのかこれ・・・。


「授業始まった途端、出て行ったけど大丈夫だったのか?」

「う、うん。大丈夫」


え?私、話しかけられたよね?モリスから・・・一匹狼だと思っていたから話しかけられるとか思ってなかった。しかも、会話した!モリスと!ヤバッ・・・・ヤバぁ~~~~


もはや授業なんてそっちのけで叫びたいし、踊りだしたいし、ガッツポーズ取りたいこの状況で、私の精神がどうにかなりそうだが、頑張って顔に出さないように机の引き出しからホーリィと書かれた教科書とノートを取り出す。

なぜかこの世界の文字が読めるようだ。そういえばモリスと会話できてたし、フォワード先生の言葉も理解できてたな。

まぁ、だいたいこういう系は謎に読めたり話せたり出来るようになるのよね。なんかの翻訳機が働くのかしら。


























休み時間になった。

私の世界の学校と同じように各自仲のいいグループに分かれている。


隣のモリスを見ると勉強している。

なんだか現実世界の裕樹の姿とかぶって見える。


顔は全然違うけどね!(必死


真剣に勉強しているモリスを見て、私は話しかけてもいいものかと少し迷ったが、これを逃すと永遠にチャンスは来ないと自分に言い聞かせる。


冷たくあしらわれるかもしれない・・・。

でも後悔だけはしたくないもんね。


「さっきはありがとう」

「・・・別に・・・困ってたみたいだから」


私の顔を見ることなくモリスは答える。


う~・・・思った通りの塩対応。

でも、無視はせずにちゃんと返事返してくれてる。


私の理想の相手が目の前にいる。

もう一生こんな機会ないかもしれない。


私は勉強をしているモリスの手を触った。


「っ!?」


モリスは驚いて私の顔を見る。


やっと正面の顔が間近で見れた。

また私の心臓が大きく跳ね上がる。


「何?」

「あ・・・ごめん。つい・・・」


私は、はっと正気に戻り顔が熱くなるのを感じる。


なんて大胆なことを!ここは教室だよ?!

・・・でもこれは夢だから後悔しないようにしとかないと。

いつまたこんなリアルな夢が見れるか分からないし・・・。


少し名残惜しいが、モリスに触れてた自分の手を離す。

と、その時急に目眩がする。後ろに倒れそうになる私を咄嗟にモリスが支えてくれた。


「おい!大丈夫か?・・・おい?」


モリスに抱えられたまま、私の意識は遠くに消えていった。





















「はっ!」


私は勢いよくベッドから起き上がる。

時計を見ると夜3時を指していた。

制服のままの姿を見て、ここは現実世界なんだと理解し、もう一度ベッドに横になった。


すごくリアルな夢だった。

マド学の世界に入った夢。

モリスと話す夢。モリスに抱き抱えられてた。


いい夢だったな。


夢の内容を思い出して顔が緩む。

陽菜とのことが少しは紛れそうだ。


改めてベッドから体を起こし、制服を着替える。

顔を洗いに部屋を出ると誰かとぶつかった。


「うわ!」

「っ!」


この時間に起きてるって誰?お兄ちゃん?


廊下の電気をつける。

私はぶつかった人物を見て驚いた。


「・・・え???モリス?!」
















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