第15話
「ただいま」
家に着いてすぐ自分の部屋に入る。
ふーっと深く息を吐いて大きく息を吸う。
それを何回も繰り返し、自分の気持ちを落ち着かせた。
気持ちが落ち着いて来たので、制服を脱ぎ部屋着に着替える。
陽菜、電話出るかな・・・彼氏とデート中だったら申し訳ないな。
そう考えながら着替えが終わり、勉強机に座り鞄から携帯を取り出して陽菜に電話をかけた。
RRRR・・・・
しばらく呼び出し音が鳴り、「もしもし」と少しかしこまった声が聞こえた。
「陽菜?いきなり電話してごめん。今大丈夫?」
『千代?なんか久しぶりだね。今家だよ。大丈夫』
「よかった〜・・・あのさ・・・」
あ・・・でも陽菜になんて説明しよう・・・モリスがマド学の世界から来たって少し言ったけど結局本当のことだって陽菜に証明できてないし・・・。
イブのことも話はして知ってるけど会ったことないし・・・。
う〜ん・・・・。
『千代?どした?』
「・・・・あのさ、陽菜って彼氏とどうやって付き合ったの?」
『ぅえ?!なに?急に???本当にどうした?』
「実はね・・・ずっと友達だと思ってた人から・・・告白されて・・・ちょっと私の管轄外だから助けて欲しくて」
『え〜〜〜〜〜〜!!!告白されたの?凄いじゃん!ってか管轄外って・・』
「だって少女漫画は読むけどその中の出来事なんて私には一生縁がないって思ってたから・・・」
『そんなことないでしょ。女の子なら誰にでも有り得るんだよ。でもさ、誰?誰から告白されたの?あ!もしかして裕樹???』
「はぁ?なんで裕樹!?そんな訳ないじゃん・・・」
『違うのか・・・で?誰???私の知ってる人?』
「知ってはいるけど・・イブってコスの友達」
『あぁ〜、あの写真で見せてくれた超イケメンのコスプレイヤーさん??凄いじゃん!付き合うの???』
「いや・・・まだ返事してない・・・」
『え?なんで?好きじゃないの?』
「好きだけど、それが男性としてとか分からなくて・・・それに・・・」
『他に好きな人いるの?』
「え?!好きな人というか・・・気になる人というか・・・」
『わかった!マド学のモリスに似たあの転校生でしょ???』
流石陽菜。
「う、うん・・・でも、卒業までいないみたいなんだよね。あと2週間でまた転校しちゃうみたいで・・・」
『そうなんだ・・・それなら気持ち伝えたら??学生生活の恋人同士を経験できるのは今しかないよ?』
「でもさ、断られたら?気まずいまま別れちゃうじゃん・・・・」
『そうかも知れないけど・・・千代自身はどうしたいの??』
「・・・・」
『気持ちを伝えないまま友達関係で別れて後悔しない?』
「・・・」
『やっぱり気持ちだけ伝えておけばよかったって今後思ったりしない?』
「・・・・」
『決めるのは千代だよ。千代の人生なんだから』
「うん・・・・」
『もう!元気出してよ!千代が聞きたいなら、彼氏との馴れ初め話すよ?ただ、惚気かよ〜とかいう文句はやめてよ???』
「え〜??もう惚気宣言???」
陽菜の少しふざけた感じが今とても救われる。
陽菜と彼氏の馴れ初めを聞いたり最近のことを話したりしているうちに気持ちが晴れていった気がした。
お互いにそろそろ夜ご飯の時間が迫ってきたのでまた連絡すると言って電話を切った。
陽菜に電話してよかった。
気持ちが整理できた。
モリスは私のオタク人生の中の1番の推しキャラ。でもそれは漫画のキャラクターだと思っていたから。
実際に生身の人間として対面した今はまた別の感情が出て来ている。モリスが好き。
ちゃんと私の気持ち伝えよう。決めた。
断られるかもしれない。前にやんわり私の気持ちを言ったけど流されたんだよね。でもあれは少し勢いで言ったところもあったし、あのあと流れてしまったからちゃんと話せてないんだよね。
でも、2週間後には別れが来るかもしれない。また漫画の・・・紙上でしか会えなくなる。
この状況になっているのがそもそも奇跡なんだから。モリス本人に私の気持ちを伝えれるのも奇跡。そんな状況普通ならあり得ないんだもの。推しとリアルで会えてるんだよ?今、家で勉強も一緒にしてるし、登下校も一緒にしてる。今がとても特別な状態なんだ。告白して気まずくなったとしてモリスと紙でしか会えなかった時に戻るだけ。断られても私のモリス推しは変わらない。
「千代〜!ご飯だよ」
お母さんの声が響く。
私はよし!っと気合を入れいつもより大きい声で「はーい」と返事をした。
「あれ?モリスはまだ帰って来てないの?」
いつも勉強で座っているソファのところにもご飯食べる時に座る場所にもいない。
「なんか図書館で勉強してから帰るって連絡きてたわよ。遅くなるからご飯の時間に間に合わないですって」
図書館で勉強って珍しい。
今日モリスに気持ちを伝えようと思ったけど・・・今度にしようかな。
モリスが家にいなくて少しホッとしている自分がいた。
イブのことがあって顔を合わせにくかったし、気持ちを伝えようという覚悟が固まったけど正直モリスを目の前にしたら言えるかわからなかった。
ご飯を食べようとした時、携帯が鳴った。
陽菜からメールが届いたみたいだった。
陽菜から?
なんだろう。さっきの電話のことの続き??
『今、コンビニに行こうと思って家を出たらたまたま転校生を見かけたよ。でも、転校生に彼女がいるみたいだけど知ってた?』
え?モリスに彼女???
続けて写真が添付されてくる。
恐る恐る私は写真を開いた。
そこにはモリスと制服女子が抱き合っている写真だった。
どういうこと?
モリスに彼女???そんな感じに見えなかったけど・・・。
・・・だめだ。頭が回らない。
私は夜ご飯もほとんど口にせず部屋に戻った。
陽菜にはモリスに聞いてみるとだけ返信した。
今日は色々ありすぎだ。一つ整理できるとまた新しい問題が出てくる。
どうしたらいいの。
時計を見ると21時だった。
モリスの帰りが遅い・・・もしかしてあの写真の子と一緒に図書館で勉強してるのかな。
そう思っているとタイミングを測ったかのように玄関のドアが開く音が聞こえた。
「母さーん!お腹すいた〜」
「ただいま」
兄とモリスが一緒に帰ってきたみたいだ。
「すぐ準備するわね。護澄くんもご飯が先でいい?」
「はい。ありがとうございます」
「今日は唐揚げだ!モリス、先に着替えてこようぜ」
隣の兄の部屋のドアが開き閉まる音がした。
私は再び陽菜から送られてきた写真を見る。
この相手の子の制服はうちの学校のやつだな。誰なんだろう・・・うちのクラスの子かな。いつも学校で数人に囲まれてはいるけど特定の子がいるとは思わなかった。
なんで私はモリスが他の子を好きにならずにずっと私と一緒にいてくれると思ったんだろう。
そんなことを思うと涙が出そうになる。
その時、コンコンっと部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「・・・何?」
私はそっけない声で返事する。
「あ、俺・・・モリスだけどちょっと話せるか?」
モリス?なんだろう。彼女ができた報告?
どうしよう・・・モヤモヤする。
私はゆっくりと部屋のドアを開ける。
ドアの前には悲しそうな顔のモリスが立っていた。
「どうしたの?」
私の心臓が激しく鳴る。モリスがこんなに悲しそうな顔をしているところは見たことなかった。
「いや・・・ちょっと確認したいことがあって・・・」
「え?なに?どうかした?」
「・・・・」
モリスは思い詰めたような顔をしてどう話そうか悩んでいるみたいだ。
私はモリスの言葉を待つ。
「おい、護澄。ご飯冷めるぞ・・・って千代?」
モリスがなかなか来なくて兄がモリスを呼びに来たみたいだ。
なんだか気まずい雰囲気が流れる。
「えーっと・・・とりあえずご飯食べてきたら?その後私の部屋で話そ?・・・私もモリスに聞きたいことあるし」
「え?俺に?」
「うん。だから食べ終わったら私の部屋に来てくれる?」
「・・・わかった」
そう言って、私は部屋のドアを閉める。
モリスが私に聞きたいことってなんだろう?あんなに思い詰めた顔してるなんて・・・もしかして今日一緒に帰らなかったから嫌われてると勘違いしてるとか????いや、そんなことで思い詰めないか・・・。
それより、写真のことどう聞こう・・・告白しようと覚悟した矢先に彼女ができていたかもしれないなんて・・・。
聞くのが怖い・・・彼女が出来たって言われるのが。
また色々悪い考えが頭を巡る。
私は自分の顔を軽く両手で叩く。
だめだ。そんな悪いことばっかり考えてたら気持ちがだんだん落ち込んでしまう。
彼女が出来たんなら明るく祝おう!それなら心置きなく友達として残りの時間を過ごして別れられる。
彼女が出来てないならそれはそれで安心するし。
自分に気合を入れ、散らかっている部屋を少し片付けることにした。




