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オタクですがなにか?  作者: 夏目 涼
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第14話

イブに相談して私の心は軽くなっていた。特に何かアドバイスをもらったわけじゃないけど、スッキリした。


話を聞いてもらえるだけで違うんだな。

やっぱり友達って大事だな。

そういえば最近陽菜に連絡してなかったなぁ。気を遣ってたけど帰ったらメールでも送ろうかな。


そんなことを考えながらハンバーガー屋を出て、イブと近くの駅に向かう。イブは電車通学していると話してくれた。


なんだかんだ私、”イブ”の方ばっかり見てて”伊吹”のことは何も知らなかったんだな。友達なのに・・・性別もどちらでもいいと思っていたけどそれは綺麗事で、ただ知ろうとしなかっただけかも。


少し凹みながら、イブに色々聞いているとあっという間に駅に着いた。もう日も傾き始めていたからなのかイブは駅に着くとすぐ「またね」と改札に向かって歩いて行こうとした。

が、私は「ちょっと待って」とイブを呼び止めた。


「あのさ、コスイベ以外の時はさ・・・素のイブで会いたいな」

「千代殿?」


私の言葉にイブは首を傾げる。

それもそうだ。出会ってから2年そんなことを言ったことがないのになぜこのタイミング?と思っているだろう。


「ずっと友達だと思ってたけど、今日イブが男性だって知ったし・・・昔野球やってたったこと知ったし・・・イブのこと何にも知らなかったんだなって思って。ずっとイブは私のお姉さんでありお兄さんだったからそんなの気にしてなかったんだけど、今日色々知ってそんなの友達って言えるのかなって思っちゃって・・・」


私はイブに向かってまっすぐ目を見て話す。

不器用ながらに私の気持ちが届いて欲しくて、一生懸命だった。


イブはクスッと困ったような笑顔を見せて私の方に戻ってきた。


「・・・やっぱり可愛い。なんでそんなに真っ直ぐなの・・・」

「ぅえっ?!可愛くないってば!・・・でもそう思ったの。もっと伊吹を知りたいって」

「嬉しいけど・・・でも、だめ・・・伊吹オレで会うのはダメだよ・・・」

「え・・・?」


気が付くとイブの顔が目の前にある。少し離れた距離から腰を曲げて私の目線に合わせていた。

どことのなくいつものイブのキャラじゃない・・・気がする。


「これまでは千代殿と会うときは必ずコスプレで会ってきたんだよ。コスプレしているときは”高橋 伊吹”はいなくなってキャラになりきれるから。今日は千代殿が困ってるからこの姿で会ったけど・・・この姿で会うと伊吹オレの気持ちが抑えられなくなっちゃうんだ。・・・だから駅ですぐ帰ろうとしたんだけど」

「イブ?」


ゆっくりとイブは自分がかけているメガネを外す。

その何気ない動作のイブに目が惹きつけられる。


そういえば、初めて会ったあの時もそうだったな。

見た目もそうだけど、あの時は動作も綺麗で目が惹きつけられた。


イブはゆっくりと近づき、私の顔を両手で優しく包み込む。

イブの顔が近づき口と口が触れそうな距離で止まる。


私はそんなイブの行動ひとつひとつに見惚れていた。


「千代殿があんな可愛いこと言うから抑えられなくなっちゃった。でも嫌なら離れて?千代殿が嫌がることはしたくない」


イブがいつものキャラじゃない。イケメンキャラを演じてるだけ?それともこれが伊吹なの?


至近距離のイブの視線を離せない。まるで吸い込まれるみたいだ。そして、自分の心臓がバクバク鳴っていてうるさい。


いま、何が起きてるの?何が起ころうとしているの???

嫌なら離れる?別に嫌じゃなかったらどうしたらいいの?


全く考えていなかった少女漫画のような展開に頭がついていかない。身体も動かず固まったままだ。




しばらく経って、ゆっくりと優しく唇が重なる。

自分の身に何が起こっているのか全然理解出来ない。


私の頭が、イブとキスをしていると認識したのはお互いの唇が離れた後だった。



そのままイブが優しく私を抱き寄せる。


「だからこの姿で会いたくなかったんだよ・・・千代殿への愛が溢れちゃうから」

「え?それってどういう・・・」


私はイブの顔を見ようと抱き寄せる身体から離れようとする。

しかし、さっきよりも少し強めの力で抱き戻された。


「・・・・・ごめん。今はだめ。多分オレ顔真っ赤だから。恥ずかしいからもう少し待って・・・」


可愛過ぎるやろ。そのセリフ。イブさん反則ですよ。イケメンがその言葉使ったら反則です。


イブの言葉でオタクの私が戻り、冷静さを取り戻した私の頭が今の状況を理解すると私の顔も真っ赤になるのを感じた。


え?私、イブとキスした?それで・・・今駅前で抱き合ってる?めっちゃリア充じゃん。

じゃ、なくて!え?イブって私のこと好きなの・・?え?いや、まさか。そんなこんなパッとしない平凡な腐女子オタクなんて好きになるはずが・・・。かといってイブは女子なら誰でもいいっていうチャラ男なわけ絶対ないし。


グルグルとこの状況の理由を頭の中で考えた。

そんなことを考えているのを知ってか知らずかイブは話し出した。


「オレ、千代殿のことが好きだ」


え?このスタイル抜群のこのお人が・・・?素顔もイケメンで、コスしてる時は超絶イケメン&絶世の美女と言われている超人気コスプレイヤーのイブが私のことを好きですと??


私は人生で1番の衝撃の出来事をこの短時間で理解できるわけもなかった。

イブは抱き寄せていた私の身体をゆっくりと離した。


私の頭は再びフリーズし、現状の理解で一杯一杯になっていて自分が話したい言葉もなかなか出てこない。


「本当は言うつもりじゃなかったんだけど・・・。急にこんなこと言われて戸惑ったよね。千代殿にはモリス殿がいるのに・・・今こんなこと伝えられても困るよね」

「・・・モリス」


そうだ。モリスが後2週間で元の世界に戻ってしまうから私は焦ってイブに相談して。・・・焦って・・・何をしようとしていたんだろう。

お話?お勉強?愛の告白?

したところで今後も一緒にいられるわけじゃない。離れるのが辛くなるだけじゃないの?

一緒にマド学の世界に行けるのならどんなにいいか。モリスがこの世界に残ってくれるならどんなにいいか・・・。


「千代殿?!」


私はイブの驚いた顔を見て自分が涙を流していることに気がついた。


「あ、あれ?別に泣きたいわけじゃないんだけど・・・」


服の袖で涙を拭いても溢れてくる。

イブがカバンからハンカチを出して貸してくれた。

返すのはいつでもいいからと言い残して改札へと去っていった。


1人になって少し冷静に考えたかったのでありがたかった。


私は家に帰る道を1人歩きながら考えた。



イブの気持ち全然気がつかなかった。

いつも私の相談とか乗ってもらったり、一緒にイベント行ったりしてたのに。

キスは・・・嫌じゃなかった。イブの優しさがすごく伝わってきた。イブのこと男性として好きなのかと聞かれると正直分からない。ずっといいお姉さんでありお兄さんだったから。男性としてそもそも見たことがなかった。

でも、今日のことがなかったらモリスのこともこんな風に考えれてなかったかも。

私はモリスとどうなりたいんだろう。

はっきり言うと、モリスのことは大好きだしずっと一緒にいたい。でもそんなこと無理なのは分かってる。そもそも別の世界の人がたまたま今一緒の世界にいるだけ。今の状態が奇跡なんだ。あと2週間もしたら一生会えなくなる。モリスがいなかったいつも通りの日常に戻るだけ。たとえ私がモリスに愛の告白をして結ばれたとしてもその先は?別れが辛くなるだけじゃない?結ばれたらまだいいけど、振られたら?一緒にいられる大事な時間が気まずくなる・・・それだけは嫌だ。それだったら、残りの時間を友達みたく一緒に遊んだり勉強したりしていい思い出で終わった方がいいんじゃない?


色々な考えがグルグルと頭の中で回るが結論は自分の中では出せない。


家に帰ったら陽菜にメールしようと思ったけど、電話しよう。相談しよう・・・。

ちょっと私にはキャパオーバー過ぎる。

イブに相談してスッキリしてたはずなのに、また新たな悩みが出来てしまった。


私はもう日が沈みかけている空を見て急いで家に帰った。



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