第12話
私は家に着き、着替えもせずベッドに横になる。
私はなんであんなに意地を張ってモリスと距離を置こうとしたんだろう。
別に一緒に帰ったっていいのに。
あの時のことが脳裏によぎる。
自分の気持ちより周りを気にしてたら自分が絶対に後悔するの分かってるのに・・・。
私は机の上に置いてあるカレンダーを見る。
もし、本当に一色先生が漫画の続きを描き始めて週刊スクワットで連載が始まったてモリスが向こうの世界に戻ってしまったら・・・。
期限は1ヶ月しかない。それまでしか一緒にいられない。
「私・・・何やってんだろ」
モリスが私の家に居候していることが分かったクラスメイトたちの目が忘れられない。
好きなことは好きって自信持って言うって決めたのに。
でも実際もう中学3年生だからとか、受験だからとかいう理由で私の好きなことはあまり堂々と言えなくなっていた。
コンコンっと部屋のドアがノックする音が聞こえる。
誰だろう。お母さんならノックと一緒に要件を言うはずだし、お父さんとお兄ちゃんはまだ帰って来ていない。
もしかして・・・
「千代?帰ってる?」
「モリス!もう帰ってきたの?」
「え・・・だめっだったか?」
「いや!そう言うわけじゃ・・・てっきりそのままみんなと勉強会に行くのかと」
「・・・勉強会って言っても勉強する雰囲気になりそうになかったから帰った」
「そ、そう・・・」
私はホッとして部屋のドアを開ける。
「でも、どうしたの?」
「千代・・・大丈夫か?」
「え?・・・何が?」
「いや、クラスメイトが騒いでから少し距離があるなって・・・気にしてる?」
「・・・・」
やっぱりモリスにもバレてた。
だめだな。私・・・。
「ごめん・・・モリスを避けてたわけじゃないんだけど・・・。ただ・・・」
私はその先の言葉が出ずに黙ってしまう。
自分に自信がないだけ。
顔もスタイルも勉強も・・・全部平均的な私。
何も取り柄がない。
唯一人に負けないと言ったら漫画やゲームへの愛くらいだ。
でも、それを他の人と比べても他の人が興味がなかったらそもそも張り合えない。
「俺を避けてたわけじゃないならよかった!それじゃ、一緒に勉強しよう。な?」
「え?」
何事もなかったようににっこりと微笑むモリスの顔が眩しい。
こんなにイケメンで優しいなんて、やっぱり漫画のキャラだからなのかな。
「あのさ・・・私の部屋で一緒に勉強しない?」
「え?入っていいのか?」
「う、うん・・・ただ驚かないでね」
そう伝え、私はモリスを部屋に入れた。
モリスは私の部屋に一歩入ると立ち止まる。
それもそうだ。部屋の壁一面にモリスのポスターが貼ってあり、モリスのぬいぐるみやマド学グッズがズラリと並んでいる。
モリス本人でなくても驚くほどだ。
私は恐る恐るモリスの顔を見る。
真顔で部屋を見渡している。
そりゃそうよね。部屋に入ったら自分の姿が部屋中にあるみたいなもんだもんね。
引いたかな・・・。
「・・・驚いた?」
「あ、あぁ・・・自分の顔を絵とはいえこんなに見ることないからな」
「そうだよね」
気まずい空気が流れる。
「やっぱりリビングでしよう!えーっと、どの教科にしようかな・・」
私はこの空気に耐えられそうになく、勉強道具を持ってリビングに行こうとした。
部屋を出ようとすると、腕を掴まれる。
「なんで?俺は千代の部屋でいい」
「え・・・気持ち悪くない?」
「驚いたけど気持ち悪いとか思うわけないだろ」
その言葉に私はホッと胸を撫で下ろす。
「う、うん。じゃ、ここに座って勉強しよう!」
必死に挑んだテスト期間が終わり、学校もいつも通りの授業に戻る。
一息つくひまもなく授業が進んでいく。
「次は・・・美術か」
私は美術の道具を持って1階の美術室に移動する。
そういえば一色先生・・・いや、如月先生元気かな。そろそろ実習が終わる頃だと思うけど。
そう思いながら階段を降りていると偶然朱音とバッタリ会った。
この間見た時よりもさらにやつれてる気がする。
「お、チヨ」
「え?」
そんな風に呼ばれた記憶がないけど、きっと疲れてマド学のチヨと混同しているのだろうか。
猫かぶっていた最初のキャラも崩壊している。
「先生!ここでは山田って呼んだ方が・・・」
「え?・・・あぁ、リアル千代だったかごめんねぇ〜・・・君たちに会ってから我慢できずに寝る間も惜しんでマド学を描いてるから現実と漫画の世界の区別が今つかなくて・・・・」
「さらっとやばいこと言ってません?」
「え?あー・・・大丈夫大丈夫!明日で実習も終わるし。思ったより早く連載再開できそうだしね」
「えっ・・・」
その言葉に私は言葉を失う。
それってモリスとの別れが早くなるってこと・・・?
「い、いつくらいになりそうなんですか?」
「そうだなぁ・・・再来週の月曜にはもうスクワットに載ると思うよ」
あと2週間・・・。
まだ聞きたいこともあったが、無情にも予鈴が鳴り響き後ろ髪引かれる思いで朱音と別れ美術室へ向かった。




