ポンドロイドはお役に立てないですか!?
睦越小奈葉、アンドロイド。
型番、XW654578。
用途、家事手伝い。
備考、ポンコツ。
◇◇◇
「やぁああ~~~っ!!」
お掃除中、ゴチーン!!と強烈な音を立てて私は倒れた。
「お前……また平衡感覚を失ってるのか?」
「あ、あうう……ヨリツネさぁん……」
私の所有者、即ちマスターであるところの平泉頼経さんが呆れたように頭を掻きながら、私を抱き起こす。
「いい加減、メイドとしてのまともな仕事くらい出来るようになれよ……」
「ううっ」
私のポンコツっぷりが、今日もマスターの不興を買っているようです。無理もありません。私はこう見えても、未来……と言うと若干違うのですが……異なる世界線からやってきた、ハイテクアンドロイドなのですが……。
「しかしながらその運動性能に著しい欠陥を抱えていると言わざるを得ないと言いましょうか……」
私は半泣きになりながら、言い訳を連ねる。
「自分で言ってりゃ世話ねえな。ほれ、掃除の続きできるか?出来ねえなら、大人しくしといて欲しいんだが。掃除の仕事が増えちまう」
「面目ない、です……」
私がヨリツネさんの所にやってきて約半年。
未だ、ヨリツネさんが私を褒めてくれた事は一度もありません。
それ即ち、この私が何の役にも立てていないという証左でありますが……。
「あのなあ、コナハ」
「はっ、はい!なんでしょう!?」
「お前って、元いた所に返品できねえの?つーか、別に俺も好きこのんでお前を取り寄せた訳でもねえしよ……」
ヨリツネさんの無慈悲なお言葉に、私の涙腺(冷却水の排水処理弁です)が緩んでしまいます。
「ううう~~~、そんな殺生なこと言わないで下さいよぉ~~~。私、ヨリツネさんのために、はるばる別の時空からこの時空へ飛び越えて来たんですからぁ~~~」
「そうは言ってもなあ……」
ヨリツネさんは眼鏡を掛け直して、私をジッと見つめます。
やだ、そんなに熱い視線を送られたら、私またオーバーヒートしちゃいますよ……?
「お前、メイドロボの癖に掃除も洗濯も料理もロクにできねえじゃん。ぶっちゃけ、電気代の無駄遣いなんだが。月額何人の諭吉さんが飛んでってると思ってんだよ?」
「そんな身も蓋もない事を!!」
「ったく。なんかお前、『ミソッカス』とか『マルチ』みてえだな」
「何ですかそれ……」
聴き慣れない単語です。
「30年前とか20年前にあった漫画やゲームのキャラクターだよ。ちょうど、お前みたいなぜーんぜん役に立たねえアンドロイドなんだよ」
「ひ、ひどい!言うに事欠いて、役立たずって!しかもこの時空の二次元キャラと同列に語られた!!」
「偉大なる椎名高志先生とLeafに土下座しろボケ。お前如きがその先輩方と並んで語られる存在な訳ねえだろ」
「おまけに格下扱いだった!?」
「格下とはいえ90年代と00年代の偉大な先輩と同じ流れを持つキャラとして喩えてやったんだ、ありがたく思え」
「知りませんよ!!あと伏せなくて良いんですかその個人名と企業名!?」
私とヨリツネさんは、一事が万事この調子です。
先日もこんな喧嘩をしました。
「……お前、元の世界じゃ量産型だったんだろ?量産型ってのは技術的にしっかり確立されてるからこそ量産されるはずなのに、プロトタイプもかくやって勢いのクソポンコツじゃねーか」
「酷い事言わないで下さい!大体、量産型だからって不良品がないとは限らないでしょう」
「とうとう自分を不良品だと認めやがった」
呆れ顔のヨリツネさんに私はさらに畳みかけます。
「それに、私に似たお話を知ってるんですよ。私みたいな別時空からやってきた、元の世界では量産型の不良品だけど、こっちの世界では希少な存在が、己の承認欲求を満たすためにオーバーテクノロジーを振り回す話、あるじゃないですか。なんだと思いますか?」
「さぁ……なんだよ」
頭にハテナマークを浮かべて首をひねるヨリツネさんに、私はニヤッと笑って答えるのでした。
「ドラえもんです」
「藤子(F)先生に謝れ!なんつう悪意ある解釈をしやがるんだこの駄ロボ!!」
その後めっちゃお説教されました。理不尽です……。
◇◇◇
結局、お掃除はヨリツネさんがご本人手ずからやってしまいました。
うう、メイドロボの存在意義ぃ……
「おめーに存在意義があるのか?」
相変わらず辛辣なヨリツネさんに私は反論します。
「ありますっ!そもそも私は、未来の世界の……じゃなかった、別時空のあなたから、あなたをお助けするために送られてきたんですから!」
それを聞いたヨリツネさんは苦笑気味に言います。と同時に、困惑顔。
「それこそ、どこの猫型ロボットだよ。え、何。その話、初めて聞くけど?」
「今話しましたから」
「半年も経ってから!?会ってすぐ言えよ!!」
「訊かれなかったので……」
「不親切なカスタマーサポートみてーな事言ってんじゃねーよ!自らの目的を『訊かれなかったから』って、言い忘れんな!このポンドロイド!」
「ポン……なんですか?」
ヨリツネさんは突然また、耳慣れない言葉を口にします。
「ポンコツ+アンドロイドでポンドロイドだ。おめーにピッタリだろ」
「酷いです!最大級の罵倒です!!」
なんだかミスタードーナッツの商品みたいな名前で呼ばわれて、私おかんむりです。
ぷんぷんですよ。
「で、ポンド。別時空の俺がお前を送ってきたってのはどういうこった」
「昔の英国通貨と同じ呼び方になってますよ!?せめて略すなら4文字まで入れてください!!」
「ポンドロでいいのかよ……なんかそれこそイメージ悪いけど、ナントカ泥棒の略みたいで」
「うっ、言われてみると……いえ、それはもう良いです」
「良いのかよ」
この調子だと話が進みません。いつもの事ですが。
「別時空のヨリツネさん……別ツネさんは、あなたの未来を案じているのです。有り体に言えば、あなたの将来が不安なのです。主に生活面のだらしなさにおいて!」
「別ツネさんってなんだよ。対抗して別時空の俺に変なあだ名をつけようとするな。……って、別時空の俺に生活面で心配されるとは思わなかったな……しかも、心配するならもっとマシな奴を送れば良いものを」
会話の中で一度でも私を罵倒しなければ死ぬのでしょうか。
最近では私も、どっこいのレベルで言い争っておりますが。
「私の性能についてはさておいて、ヨリツネさんは生活力がなさすぎます。なんですか、食生活といい、部屋の片づけの頻度といい。洗濯はまぁ、毎日やっておられるようですが」
「食生活についてはお前が来てから一切改善しとらんし、部屋に関してはお前が来てから余計に散らかるようになったという事実を踏まえておきたいが、俺の生活力が低いことについては認めておこう」
「なんでそんな偉そうなんですか……」
「マスターだからな」
「ずるいです!いつもそんな風に振る舞わないくせにー!!」
ぎゃあぎゃあとしょーもないことで言い合う私たち。
「つーかよ、話を元に戻すけど、マジでお前俺の生活力向上に1mmたりとも役に立ってねーからな」
「がーん」
事実なだけに反論できません。
「せめて俺の不得意分野をどうにかしてくれ」
「お料理……自炊ですね」
「そうだよ。お前の自炊スキル、一人暮らしのロクに自炊しねえ男以下ってどういうこったよ。未来のメイドロボの学習力もたかが知れるな」
ぐさりぐさり。
「だから厳密には未来じゃないんですけれど……、うう、こちらへの時空移動のショックでメモリがいくつか破損してしまって、重要なデータが吹っ飛んじゃったんですよぅ……」
「その言い訳は割と聞き飽きたよ。新たにここで身に付けたスキルが増えないのはどういうこった」
「それはそのぅ……え、鋭意学習中……と言いましょうか……」
ヨリツネさんいわく、私の料理は、壊滅的な味わいになるとの事である。
私は勿論ロボなので味覚はありませんが、栄養成分的には問題がないはず……!
「出たよ、アンドロイドの語る栄養学という名の言い訳」
「い、言い訳じゃないですぅー!」
言い訳なんですけれど。
「あと掃除するたびに平衡感覚を失ってそこらじゅうのモノ散らかすのな。あれガチで邪魔」
「ううううう」
ぐうの音も出ません。
「せめてセクサロイド的な機能があればなぁ」
と、ヨリツネさんの言葉に私が反応します。
「あ、う……そ、その事に関しても実は言い含められておりまして」
「別時空の俺にか?」
「は、はい。一応、その……はい、その機能は備わっております」
「マジか!じゃあ今度頼もう」
と、それを聞いた途端に歓喜するヨリツネさん。
「うわドン引きです!0.1秒の躊躇いもありませんでしたね!?そこはもうちょっと、情緒っていうか!」
「ロボが何言ってんだオメー。何の役にも立たねえんだから性欲処理ぐらい頑張れ」
「これだけ情緒を見せてるじゃないですか!何言ってんだは私の台詞です!」
ロボの台詞ではないですが。
「あ、でも行為中に暴走されたら俺死ぬんじゃね?」
「そ、そこ心配しますか」
「掃除もロクにできねえ不良品が自分の安全性を堂々と保証できているとでも思ってんのか。今度身体検査すんぞ。局部の作り、熱暴走の可能性、その他諸々だ!」
「ひぃー!ただのスケベ心の塊だけど、言ってることが割とマトモなのが悔しいです!!」
そんな感じで今日も私とヨリツネさんのアホな会話は続くのでした。
なろう投稿3作目です。
はい。観ての通り、めちゃくちゃアホな内容になりました。
バカとバカがしょーもないことで延々罵倒し合うみたいな内容は非常に好きです。書いてて楽しい。
キリがなくなるので今回はここで終了です。
続編希望とか、万一そーゆーのがあったら、続けてみたいと思います。
軸となるべき設定をあんまり考えていないので、そこからになりますが。