幻の国 イルニ
はぁ、と僕の前にいる人物は頭を抱えた。ブロンドの髪をぐしゃぐしゃにかき混ぜながら、僕が仕えているこの国の次期皇帝、ルイス・ロペス皇子は救いを求めるように目を合わせた。
「…一体、どうしたんですか。」
最初は無視をしていたが、皇子に根負けして聞くと、無言で書類を突き出してきた。読め、ということだろう。色々と言いたいことはあるが、それは呑み込み黙って読んでいく。
「それを読んでどう思う?」
僕が読み終わった頃を見計らって皇子が疲れ切った顔で聞いてくるが、いまいちこの書類に書かれてあることが理解できない。
「一応聞いておきますが、これがガセネタという可能性は?」
そう僕が聞くと彼はお手上げだといわんばかりに首を横に振った。
「…分からない。だから聞いているんだ。」
「正直に申し上げますと、ありえないことかと思います。」
「が?」
「…何故、続くと」
「お前との付き合いは長いからな。」
何故だか偉そうに断言され、少し驚くが気を取り直して続ける。
「…ですが、可能性はあります。なにせ、かれこれ百年以上鎖国をしていたのですから、彼らが我々が持っていない技術を持っていてもおかしくはありません。」
書類に落としていた目線を目の前の皇子に向ければ彼は真顔でこちらを見ていた。
「そうか。」
ただ一言だけ彼はそういうとパソコンになにやら打ち始めた。
その様子をしばらくぼんやりとみているとふいに彼に僕に言った。
「ありえない、と思った理由を聞かせてくれ。」
「簡単なことです。この国が本当に存在しているのかわからないからですよ。」
僕の言葉を聞いて皇子は動かしていた手を止めて顔を上げた。
「…そんなことがあり得るのか。」
そんなこと思いつかなかった、と言いたげな顔をして皇子が僕に聞く。
「はい。なにせイルニ国は百年間他国と交流がありませんし、彼の国目指していった冒険家たちも帰ってきて口をそろえて『そんな国は存在しない。』と言っています。どこにも、イルニ国が存在している、という証拠がないのです。」
「だが、衛星写真には建物は写っているぞ。」
「確かに写ってはいますが、人が暮らしているかどうかまでは分かりません。」
そう言うと、皇子は顎に手を当てながら書類を見た。
「つまり、この報告書はまちがっているということか。」
「あくまでも、その可能性があるというだけです。」
皇子は伸びをして立ち上がった。
「幻の国イルニっていうのも頷けるな。」
そうですね、と答えを知らない僕は頷くことしかできなかった。




