プロローグ
『私達は絶対に屈しません。』
ふいに、いつか聞いた言葉を思い出す。目の前にいる彼女とそっくりな少女に言われた言葉だったか。それとも、あの男だっただろうか。
「…本当に実行するとはね。」
畏怖を通り越して感動すら覚えてしまう。それを聞いても僕の前にいる彼女は表情を変えない。ただ、そのビー玉のような目をこちらに向けるだけだった。
私は目の前の彼を見る。
深い藍色の瞳の奥底には少し前までは見えなかった感情が見え隠れしていた。一体、彼は誰なのだろう。そこにいる彼は私の知っている彼ではなかった。
「貴方は、誰、なの?」
少し震える声で尋ねると、彼はいつもと一寸も違わない笑みを浮かべて口を開いた。
「誰であってほしいですか?」
「お前が殺ったのか。」
地を這ったような俺の声に部下たちがすくみ上るのを感じながら、目の前の彼女を睨み付ける。返り血を浴びた彼女は俺の目を見返すだけだった。肩まで切られた漆黒の髪が、窓から吹き込んでくる風で揺れ、彼女の顔に影を落とす。
「…こうなる前に殺すべきだったな。」
近くにあった銃を持って近づいていっても、彼女はそのまま動かなかった。
一体自分の前にいるのは誰だ。