ペット療法
さぁ、至福の時間だ。
「もこもこー」
玄関から声をかけると、待ちかねたように飛んでくる。
もこもことした毛並み。実に触り心地がいい。さすがは俺の相棒だ。
「いい子にしてたか?」
毛並みを堪能しながら撫でる。
もこもこは嬉しそうに手に擦り寄る。
うん、最高だ。ペット飼ってよかった。
「何でもこもこなの?」
リビングの方から奴は怪訝そうに聞いてくる。センスのない奴め。
「もこもこしてるからに決まってんだろ!!」
「いや、安直すぎるから」
家に持ち帰った仕事とにらめっこしながら、奴はチューハイの缶を傾ける。
……至福の時間は、まだこれからだ。
「……もう2~3体作ってもらっていい?埋もれたい」
「はぁ?あんたのために作ってんじゃないんだけど?」
「頼むって萌子ー」
「はいはい……。まあ、いいモニターだしねぇ……」
仕事人間なのはいいが、いい加減に「もえこ」と「もこもこ」の繋がりには気づいてほしい。そろそろ寂しい。
「体温感知プログラムは万全でー声のセンサーの位置も良さげ?素材も申し分なくてー?製品名は「もこもこ」……」
「いや、製品名は別にしろよ」
「まあダサいし、どのみち企画段階で下ろされるけどね」
そうじゃない。少しは仕事から離れてくれ。
「そんでさ、」
「ん?」
「「もこもこ」って、もしかして名前も由来?」
よしきた!!気づいた!!
「あんたの名前、「まこと」だもんね……ひょっとしてナルシスト?」
…………。ああ、その発想はなかったな。
***
「もこもこー」
「え、そんな名前で呼んでるの?」
「そそ、うちのでっかいペットがつけた」
「彼氏さん、ワンコ系だもんね~」
「……うん、いっつも癒されてる」
とか言ったら鬱陶しいだろうけど。……さて、いつも尻尾振って帰ってくる相棒のために、次は色違いでも制作しときますか。