始まり
この物語には、残虐な表現が含まれております。苦手な方は、ご遠慮ください。
また、この物語はフィクションであり、作中に登場する人物・団体名、企業名などは一切関係ありません。
男は、息を切らし地べたに這いつくばりながら逃げていた。男の左足からは、赤黒い血が流れ出し、アスファルトの地面へ道しるべの様に残され、その様子から逃げ切ることができないことは、一目瞭然だった。
「死にたくない、死にたくない、死にたくない....。」
涙と鼻水を垂れ流したまま、同じ言葉を繰り返す。時折、嗚咽の混じった咳をしながら後ろを振り返ると、月明かりで照らされた風景の中に人影がちらりと見える。それを確認すると、一瞬息を詰まらせ再び同じ言葉を繰り返し呟やいた。ところが男は急に前へ進むことをやめ、繰り返し呟やく事もやめると短く嗚咽を漏らすだけになった。男の目の前には、コンクリートブロックを積んで作られた壁が直下立っていた。その壁に張り付く様に近づいて必死に上へ登ろうとガリガリと引っ掻きながら手を上へ伸ばす。だがその場から動くことはできず、ただ無駄に傷を増やすだけだった。
「うぅあぁ、嫌だ....嫌だ...」
両の手の指から血が滴り落ちているのも構わず、男は尚も壁をかきむしり続ける。そこへ、徐々に近づいて来ていた足音がピタリと止まった。それに気づき、男が震えながらゆっくりと振り返ると、手を伸ばせば届きそうなほどの距離に1人の人間が立っていた。黒のパーカーにジーンズ、クリーム色がかった白のスニーカーを履いたその人物は、様子を伺う様にジッと男を見下ろしていた。男は引き笑いに似た声を短く漏らし、壁にもたれかかる様にして力なく座り込むと、歯をカチカチと鳴らし見てわかるほどに体全体を震わせ始めた。
「怖いのですか?」
若い成人男性の声色で震えながら座り込む男に話しかけたその人物は、フードを深くかぶっているせいで表情はわからないものの、声色には静かな怒りが混じっている様だった。
「あなたの様な人間でも、死に対する恐怖は感じるのですね。」
そう言いながらパーカーの男は、座り込んだままの男に目線を合わせる様にしゃがみこむとぐいっと顔を近づけ耳元で小さく囁いた。
「良かった。そうでなければ、あなたを殺す意味がないですから。」
口元を少し歪ませたと同時にパーカーの男が、右手を目の前の男の左肩を殴る様に勢いよく振り下ろした。男の震えはその瞬間止まり、自分の肩に加わった衝撃に痛みを感じ始めると喉の奥から絞り出す様に叫び声をあげる。
パーカーの男が右手を左肩から離していくと銀色の刃を血で染めた果物ナイフが同時に姿を現した。そのナイフが男の肩から抜け出ると、ドクドクと血が溢れ出し腕全体を赤く染めていく。
「うぅあぁああああぁ!!」
必死に出血を止めようと左肩を力強く抑えたが、溢れ出す血は止まることなく流れ続けた。
「いや、嫌だ....嫌だ....。し、死に、死にたく、ない!」
その言葉を聞きながらパーカーの男は、再び右手を振り上げると今度は右肩へ勢いよく振り下ろした。男は再び雄叫びをあげると、力なく垂れ落ちる右手を見ながら「嫌だ、嫌だ」と言葉を繰り返す。
パーカーの男は、止まることなく続けざまに男の右太股、左太股、右足首、左足首、右掌、左掌と次々にナイフを突き立てていった。
男の息は、辛うじて肺から吐き出されヒューヒューとか細い音が漏れでる。目は虚ろとなり、言葉を発することは無くなった。
「まだ聞こえていますよね?人は、首を切り取られても少しの間は生きていると聞いたことがありますし、まだ息をしているあなたの脳は、僕の言葉を認識しているでしょう?」
その言葉に反応する様に、肌が血で赤く染まりきった男の目が少しパーカーの男の方へと向けられた。
「彼女も今のあなたと同じ痛みを感じていたのでしょか?あなたはどう思いますか?」
その質問に対する答えは、返ってこない。
「あなたは、最後に彼女の大切な場所にナイフを突き立てました。残念ながら、男のあなたにはない部分です。なので代わりに、男性にとって1番大切な部分を最後にします。」
もうすでに感情を表すことのできなくなった男は、ビクビクと指先を動かすだけだった。
「あなたが、恐怖を感じてくれる人間で良かった。でなければ、僕がやっていることは無意味になってしまいますから。」
そう言ってパーカーの男は、血まみれの男の陰部へナイフを突き立てた。その瞬間ビクンッと身体を震わせると全身から力が抜け落ちる様にだらしなく首や手足が垂れ下がった。口から漏れていた微かな空気音も聞こえなくなり、辺りは静けさに包まれた。
パーカーの男は、ゆっくりと立ち上がり深く息を吸い込んでそれを吐き出すと踵を返しその場を立ち去る。
その場に残された血まみれの男の遺体が発見されたのは、翌朝のことだった。
読んでくださりありがとうございます。
物語を作るというのは、本当に難しく表現が下手で読みにくとこもあったとは思いますが、少しでも面白いと感じてくだされば幸いです。