真実を聞かせてほしいと願うのは皆同じ気持ち・・・。
月の国の真実のお話の前編に当たります・・・。
結兎はまだ夢から醒めないでいた・・・。
だが、気が付いたらもう悪夢は終わっていて、
次の夢を・・・見ていた・・・。
夢・・・というよりもそれは、「記憶」の様な映像。
本人の意思とは関係なく無意識に流れる誰かの記憶・・・。
擦り切れたテープの様に・・・半分砂嵐が混じっているかの様な、
そんな「映像」であった・・・。
それは・・・美しい金と銀の混じった長い髪の女性が
赤ちゃんをあやしているというもの・・・。
「あれは・・・誰・・・・・・?どこかで・・・見た事がある気がする・・・。」
母親に抱かれて嬉しそうに微笑む赤ん坊・・・。
その姿をはっきりと捉えた時に、結兎は「あれは自分だ」と確信した。
「・・・・・俺だ・・・・・・。あれは・・・。」
曖昧な記憶の中でもそこだけははっきりと分かる・・・。
「でも・・・なんで・・・?俺は・・・「俺」なのに・・・。
「今の俺」には・・・ちゃんと・・・「母さん」が・・・
いる筈なのに・・・。なんで・・・俺は・・・「あの人」を
「お母さんだと思ってしまう」んだ・・・?」
その美しい容姿の母親の姿は、笑顔ではなく悲しい顔だった・・・。
悲しい母親の横顔を見ている結兎は・・・涙が出てくる・・・。
「・・・・・・おかあさん・・・・・・・・。」
そこでハッと目が覚めた・・・。
気が付くと、周りには「英太」、「猫宮さん」、「まゆらさん」、
そして・・・「夢の中に出てきた女性によく似た」金髪に縦ロールが
美しい、可愛らしい女性が立っていた・・・。
「目が覚めたか?!!」英太の姿を見て仰天した・・・。
「おまっ?!英太???!!え?もしかして、英太のお兄さんとか?!
その姿・・・。なんで・・・???」
不思議に思うのも無理はない。
英太は秘薬の力で今は「20歳の大人の男性の姿」になっているからだ。
「老けたとか言うなよ?ちゃんと「俺です」。「英太」です。(笑)」
にこにこ笑うのは大人の姿になっていても変わらない様だ・・・。
「私も・・・最初は夢かと思ってびっくりしたわよ・・・。だって。
いきなり・・・老けてるんだもん・・・!!英太くんが!!!」
猫宮さんも追い打ちの様な言葉を吐く。
「す・・・すずちゃん・・・。さっきから「老けた老けた」って・・・。
俺もう泣きたいよ・・・。あんなにさっきまでは「大好き」とか
言ってくれたのに・・・・・・。」
かあっと赤くなる猫宮さんは照れ隠しの様に大声で
「言ってないっ!!そんな台詞っ!!記憶にないっ!!」
「・・・酷い・・・。俺、傷つくよ・・・。まあ、ここは
「大人の余裕」を見せたいのでぐっと堪えるけどな・・・。」
いつもよりも「かっこよく見える」ので猫宮さんはドギマギする・・・。
口をぱくぱくさせて何も言えないまま押し黙る猫宮さん・・・。
その様子を冷やかす様に見ているまゆらは・・・。
「彼氏、かっこいいねっ!!」と猫宮さんに耳打ちした。
「・・・う・・・。ま・・・まあ・・・。うん・・・。」
本人には聞こえない様に頷きながらそう言う。
結兎はふと目をやると・・・。
その金髪の女性・・・。つまりはキリの妹のリクの「真の姿」を
一目見て(誰かに似てる・・・。この人は・・・誰だ・・・?)と
心の中で疑問に思った・・・。
「貴方がユイトですわね・・・。まあ、さっきも会いましたが。
私は月の国の一族の最後の生き残り・・・。正統なる血筋の・・・
「キリ」の実の妹に当たる「リク」と申しますわ・・・。」
「キリ・・・?の・・・妹・・・???」
どういうことなのかが分からないでいる結兎は少し混乱している。
そこでふと思い出した・・・。
「あ!!まさか!!さっきの変な頭したウサギ???
え?それで・・・え?キリの妹ってことは・・・。えー?
どういう事だ・・・???」
パチンっと軽く手で結兎の頭を叩く。
「変な頭とは何ですの?自慢の髪型ですのよ?私の・・・。」
目を見開いて驚く結兎は段々事態が飲み込めてきた・・・。
「月の・・・一族の・・・?!!」
「・・・どうやら、貴方には「前世」の記憶が残っているみたい
ですわね・・・。すぐに「理解した」ということは・・・。
そう・・・。貴方の「おば」に当たります・・・。
私の姉・・・キリの息子・・・。それが・・・貴方よ・・・?」
周りにいたみんながしんとして息を呑むほど驚いていた・・・。
「俺が・・・あいつの・・・いや・・・、「あの人」の息子なのか?」
不思議と違和感も何もなく事態を簡単な程に飲み込める・・・。
もう結兎には分かっていた・・・。
これが「真実」だったのだと・・・。
「やっと・・・会えましたわね・・・?」
リクは穏やかに優しく・・・微笑んでいた・・・。
その頃・・・。キリは牢屋から出されて、別室に運ばれて眠っていた。
綺麗な白い一室・・・。まるで病院の様に白い部屋だった・・・。
綺麗なシーツが敷かれたベッドに丁寧に寝かされていた・・・。
目が覚めたのか、キリの瞳がゆっくりと開いていく。
「ここ・・・は・・・。」
首を真横に向けると・・・。
そこには「アキト」が近くに立っていた・・・。
「目が覚めたか・・・?」
キリは驚いて嫌な顔をした。
「・・・何だ・・・。俺がそんなに嫌いなのか・・・君は・・・。」
不貞腐れる様に不機嫌な顔になるアキト。
「何のつもりだ・・・。何故・・・。」
「何故ここに君を運んだと思う?」
「・・・・・・・・・。」
「俺はしつこいからな・・・。君の口から真実を聞く為ならば
・・・あんな・・・汚い牢屋になど・・・君を置いておけなかった・・・。」
最後の方になると段々皮肉から本音に移り変わっていく・・・。
キリは複雑な顔になる・・・。
「本当に・・・しつこい男だ・・・。一体・・・何だと言うんだ。
私からお前に言うことなど何もない・・・。」
ぷいっと顔を背けるキリ・・・。
「君は・・・強情だな・・・。いつも嘘や強がりばかりなのか?
俺には聞く権利があると思うが・・・?どうだろう?」
「・・・何なんだ・・・お前は・・・。何が言いたい・・・?!」
また顔をアキトの方に急いで向けて睨み付ける。
「そろそろ、君の笑顔が見たいな・・・。まあ。別に・・・。
君の怒った顔もなかなか・・・だが・・・。」
照れる様にそんな言葉を吐くアキトの顔は以前よりも柔らかかった。
「俺は君に「他の男との間に子供がいようと」気にはしないつもりだ。」
一瞬、キリの顔は強張った・・・。
「何の話だ・・・。私にはサッパリ理解できんな・・・。」
「誤魔化そうとしても無駄だよ?この間散々俺に・・・、
すがりつく様に「本音」を曝け出した癖に・・・。今更・・・。」
キリの顔は凍てつく様に青ざめていく・・・。
「で?本当のところ・・・どうなんだ?「あの時国が滅んだ」という
君の話は・・・。結局どういう事だったんだ?今なら・・・。
冷静に聞いてやるが・・・。」
「・・・・・・・。何も覚えていない・・・。知らない・・・。」
また、アキトの顔は冷たい顔つきになる・・・。
「本当に強情だな!!俺は身勝手な男だから、君の話を
ちゃんと聞く事によって・・・!!俺たちの一族のしでかした
仕打ちを・・・許してほしいだけなんだよ・・・!!」
いきなり情けない声になる・・・。
キリは・・・。その声に少し同情の気持ちが芽生える・・・。
「・・・本当のことなど・・・。お前が知っても・・・。
嫌な気持ちになる話しか・・・できないぞ・・・。それでも。
いいと・・・言うのか・・・?」
許してほしいのはこちらもだと言わんばかりにとうとう、
事の真相を・・・彼に打ち明けようとする・・・。
真実・・・。誰にとっても残酷な真実を・・・
明かす時が来ていた・・・。
キリには・・・もう覚悟が出来ていた・・・。
今回は、特に後半のキリとアキトの会話が主軸になっておりますが
次回に「本当の真実」がキリ本人の口から明かされるでしょう。
ユイトのこと・・・。過去のこと・・・。




