段々と明かされていく過去とこれからの行く末。
急ピッチで書き上げました。
前回の続きになります。どうぞ。
「キリ・・・。見て?ほら。空があんなに暗い・・・。」
月の国とかつて呼ばれていた月。
そこにはかつて沢山の住人が住んでいた。
「サキお母様・・・。もうこの国は終わりなのですか?」
「空が暗いのよ・・・。太陽がここからじゃ見えないわ・・・。」
サキと呼ばれるのはキリの実の母親である。
長い金色の髪は地面にべったりとついてしまうぐらいのものだ。
どうやらキリの母親のサキは体が弱く、目がよく見えていないようだったが
「月の国の空が暗い」というのは事実らしい・・・。
「貴方はウサギ族の長の任を任されている身なのでしょう?
もうそれなら・・・。だったら貴方には分かっている筈じゃないの?
この国は今まで幾度も他の星により侵略を受けている・・・。
もうお終いなのよ何もかもが・・・。」
椅子に横たわるサキは一見すると若い容姿をしているが
年齢は既に389歳。
地球人の年齢に換算すると約87歳ぐらいという計算になるらしい。
(キリですらこの時点で150歳であった。)
この国の一族は代々長命であり、地球人の平均寿命をかなり軽く
超えるほどのものなのである。
「お姉様。こちらにいらしたのですか?」
金髪縦ロールのパーマ頭の美少女が庭園の向こうから
パタパタとシルクの様なレースの衣装をはためかせて
駆け足で走ってくる。
「リク。どうした?」
リクと呼ばれる美少女はキリの実の妹にあたる。
(こちらは年齢は99歳であった。)
「セツナはどちらにいますの?」
キリは「セツナ」という名前を聞くなり一瞬体が固まる。
が、何事もない様に普通に妹に接する。
「セツナが・・・また何かやらかしたのか?」
しょうがないなと言わんばかりの微笑みで返すキリ。
「セツナったら・・・また他の女にちょっかいを・・・。」
悔しそうに涙を浮かべて震える手をギュっと握るリク。
「あぁ・・・。あいつは・・・。もうどうしようもないな・・・!」
呆れて物も言えないとばかりに怒りを露わにする。
実は「セツナ」という男はリクの許嫁だったのだ・・・。
「折角専属の「占い師」を雇って「縁を結んで貰った仲」だと
いうのに・・・。子供だってもう授からねばならん年頃だというのに
困ったものだな?妹よ・・・。」
「お姉さまは「縁を結んで」貰いませんの?他の殿方と・・・。」
不思議そうにそう尋ねる妹のキリは無邪気だった。
「ああ・・・。私はいいんだ。一応一族の長の任を任された身だからな。
子孫など残している暇などないよ。私の事は気にしなくてもいい。」
「なんだか可哀想だわ、お姉様・・・。婚約もしないまま
年老いて死んでいくおつもりですの?」
一瞬キリの目が暗く澱みそうになるがパッと切り替える様に
話を逸らそうとする。
「ああ。いいんだって。」
一瞬苛立ってしまっていた。
気まずい空気に耐えかねたリクがその場をそっと離れていく。
「キリ・・・。いつまで隠し通すつもり?」
後ろから一部始終を見ていた(聞いていた)母親のサキが
意味深にキリに問いかけた・・・。
「・・・いいんだよ。もう・・・。」
暗い顔で遠くを眺める様に目をそらすキリは哀しそうだった。
雨が降っていた・・・。
「この子の父親があいつだなんて・・・。妹に言える筈がないだろう。」
キリの目の前にはセツナとの間に出来ていた「子供」が楽しそうに
走り回っていた。
妹のリクは知らないでいたのだ何もかもを・・・。
「縁を結んで貰ってもいない男の子供を身籠って産むだなんて
この国では許されることではない。けして。だから・・・。
この子には「私」が母親だなんて口が裂けても言えないよ・・・。」
走り回る子供は性別は不明の様に見えるが「男の子」だった。
活発に走って笑顔で遊んでいる子供の姿をずっと見ているだけのキリは
「私には「母親」を名乗る資格もないんだ・・・。」と呟いた。
「ユイト・・・。」
確かに「産んだ我が子」の名前を「ユイト」と呼んだ。
それが「何」を意味するのか・・・。この時点ではまだ
誰もその後のことなど知る由もない・・・。
時代は戻ってこちらは地球・・・。
エリナちゃんに嫌われて拒絶されたと思い込んで
ずっと落ち込んでいる結兎は学校を休んでしまった。
「ゆいくん・・・?もう大丈夫よ?警察には届けておいたから。
だから、安心してお外出てもいいのよ?」
昨日に不良の高校生に刃物で脅されたという通報を
帰ってきた結兎の様子に慌てた母親がキチンと既にしてくれていた。
「無理もないよ母さん・・・。結兎はまだ小学生だよ?
いくら男の子だといっても相手は刃物を所持した危険人物の
高校生なんだから・・・。ショックでトラウマになってるんだよ。」
「ちがう・・・。あんなイカれた野郎の事なんかどうでもいい。
エリナちゃんに・・・。エリナちゃんにあんなに嫌われたのが
・・・初めてだったから・・・びっくりしただけで・・・。」
聞こえない様に独り言の様にボソッと呟く結兎・・・。
ピンポーン!
インターホンが鳴る。
英太と猫宮さんが様子を尋ねて来てくれたようだ。
部屋に入ってもらう。
「おい・・・。お前・・・どうしたんだよ・・・?!
いつものお前なら今までどんなに酷い目にあっても
明るく笑い飛ばしてた癖に・・・。」
憔悴しきった様子の結兎の姿にショックを隠せないでいる
英太はつい咎めるように追い詰めてしまう。
それを見ていた猫宮さんは肘で英太の横腹を小突く。
「いてっ!・・・あ。すずちゃ・・・。」
猫宮さんは前に座り込んで結兎の顔をじっと見る。
「こつんっ!」と結兎のおでこにデコピンをする。
「いっ!」痛がる結兎は一瞬間抜けな顔になってびっくりしていた。
「エリナちゃんね・・・。今日学校来てないのよ・・・。」
真顔で結兎にそう言う。
「えっ?!!」
心底驚いた顔になる結兎は必死でエリナちゃんの心配をする。
「エリナちゃん・・・学校来てないって・・・!!
どこかまだ具合悪いの?!!まさか何かあったんじゃ・・・」
更にデコピンする猫宮さん。
「ばあか。自分の心配しなさいよ?刃物男に脅されて
ピーピー泣いて帰ったんでしょーに。」
「・・・・・・・・・・。」
「誰だって怖いでしょ。そんなの・・・。
だから何も気にしないでいいと思うわよ?」
ふうっと溜息をつくように慰めの言葉をかける。
「ちがう・・・。それじゃなくて・・・。俺は・・・。」
悔し涙が溢れてくる。
「エリナちゃんに嫌われるのがこんなに怖いなんて
思わなかった・・・。ずっとあんなに俺に懐いてくれてたのに。
まさかあんなに嫌われてたなんてって思ったら・・・。
情けないよな?!男の癖に女の子に嫌われたからってメソメソして。」
涙ぐみながら自嘲する様に笑う結兎。
英太と猫宮さんは何も言えないで黙り込んでしまう。
その直後に気になる事を口にする猫宮さん。
「最近・・・。何かおかしいよ?この星・・・。」
ハッとした顔になり言わなかったことにしようとした。
「あっ!まあいいや。顔も見れたし。今日はこの馬鹿と
帰るわね?・・・元気・・・出しなね・・・?結兎くん。じゃ。」
パタン。とドアを閉めて帰っていった2人を見ていた結兎は
不思議そうにしていた。
「猫宮さん・・・。何が言いたかったんだろう・・・?」
外を眺めていると・・・。
「?!!」ハッとする結兎。
2人が家の外であの時の高校生に絡まれているのを目撃して
慌てて外に駆け出した。
パーカーを目深に被っているが鋭い目つきで2人を睨み付けて
薄気味悪い笑みをケラケラと浮かべる「戦慄の紅」・・・。
「・・・こいつか。例の刃物男は・・・。」
猫宮さんは冷や汗を流しながらも臆することなく構えた。
「嬢ちゃん。あと数年したらすげえ美人になりそうじゃねえか?
ヒャッハハハハハハハ!!!!勿体ねえなぁ。オイ。」
「すずちゃん。危ないから下がってなさい。」
スッと前に出て猫宮さんを庇う英太。
「ちょ!弱いくせにかなう訳ない・・・!!」
「すず!!俺は男だよ?!女の子はこんな危ないのに
関わっちゃ駄目だよ?!男の俺にまかせなさい!!」
チッと唾を地面に吐き、「いきがってんじゃねえぞぉお?ガキがぁあ。」
「戦慄の紅」はナイフをポケットから出した。
走ってきた結兎は思わず叫んだ・・・。
「英太っっっ!!!危ないっ!!!」
突進してくる高校生の「戦慄の紅」よりも速い動きで
相手の間合いに入りみぞおちを蹴った英太。
ドカッ!!
鮮やかな蹴りだった・・・。
「ぐっ!!!かはっ!!」
血反吐を吐くほど強い蹴りを急所に喰らったので
倒れ込む高校生・・・。
それもそのはず・・・。
忘れてはいけない・・・。
この男・・・。「英太」は泣く子も黙る宇宙人だったからである。
「うーん・・・。どうもこいつ・・・。只の普通の高校生だな。
まあ・・・。おかしなまじないがかけられているみたいだが・・・。」
一瞬何かピンときたような英太・・・。
「・・・まじない・・・???」
難しい顔をして黙り込んで座ったまま考えていた様だ。
その様子を見ていた結兎は安堵していたのと同時に
情けない気持ちになっていた・・・。
英太が助かって良かった・・・筈なんだけど・・・。
いとも簡単に強敵を倒すさまを見せつけられたようで
モヤモヤしていたらしい・・・。
「・・・情けないな・・・俺・・・。」
情報量が割と多いので消化していくのに苦労していますが
まだまだこんなものじゃないと頭の中では次回以降も展開される
次の敵との静かな戦いや、明かされつつある謎めいた月の国の過去・・・。
その他諸々で兎に角頭が混乱しそうなほどぐるぐるしてますが
伏線を散らばめている以上は回収せねばならないので頑張ります。




