表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/17

第4話 後半

この作品は、実在の国家・民族・組織・民族・思想・人物とは何の関係もありません

 シャルロッテに連れられて言った兵員食堂で、ボクの目の前のテーブルの上に置かれたトレーに盛り付けられたのは、ピンク色のペースト状のこんもりとした何かだった。

 脇にはスプーンとフォークが並べられ、ナプキンも用意されている。


「え……? これ……何?」


「何って、ご飯でございますですよ? 統制官(ごしゅじん)はお肉嫌いでやがりますか?

 たくさん食べないと大っきくなれないから残さず食べましょう。

 てゆーか統制官(ごしゅじん)は体に肉少なすぎし発育不良気味ですから朝昼晩三食きっちり摂ってください」


 ……うるさいな、これは生まれつきの自前だ。

 それはともかく、お肉? このピンク色の謎の物体のどこが?

 お肉って普通、平べったくてもうちょっと固形状で、楕円形か長方形でこんがり加熱されてて茶色っぽいものだよね?

 つっついたらスプーンがぶにゅぶにゅ沈んでいく半固形の流動性の高い何かではなかったはず。

 あとこれ、何の肉なの……?

 二回もゲロった後だから胃の中には何も入っていないし、空腹ではあるんだけど目の前のお肉と称するアンノウンオブジェクトにはとてもじゃないけど食欲が湧かない。

 山盛りのピンクを見つめたまま固まっていると、シャルロッテはさらに追撃をかけてきた。


「あれ? どうしました? ああ、お肉だけじゃちょっと彩りが寂しいでした。

 お野菜もありますのでたーんと召し上がれ」


 そう言って彼女がお肉のトレーの隣に置いたのは、緑色をしたペースト状の何か大盛りで盛り付けられたトレーだった。

 ……野菜? 野菜って確か、植物の一部分を適度にカットしたブロック状の食品だったよね?

 お肉同様に大体加熱処理されて出てくるはずである。

 あと、テイターも野菜の一種だ。

 テイター・チップスに加工される前の所は見たこと無いけれど、少なくともテイターの原材料状態はこんな緑色の得体の知れない何かでは無いはずだが……。

 だって色とか違うし。 確実に。


「ちょっと何やってんの……統制官にそんなもの食べさせるつもり? 失礼だし統制官困っちゃってるじゃないの!」


 そう言って横から割り込んできた声の方向に顔を向けると、シャルロッテ同様に艦内保安要員に配置しているジークリンデが数個の円筒形容器をワゴンに載せて運んできたところだった。

 なぜか彼女は青と黒のツートンカラーの艦内スーツの上にエプロンを着用している。


「おやージークリンデさん何時から食堂配置になったんですか? 

 エプロン姿がお母さんみたいで凄く似合ってやがりますよ」


「うっさいわね、保安要員って言っても普段殆ど仕事なんか無いんだから、給食配膳でもしてなさいってあのクソ補佐官に言われたのよ!

 あんたこそ普段艦内をフラフラして遊んでるくらいならこれ手伝いなさいよ」


 シャルロッテの軽口にちょっと腹立たしそうに返すジークリンデ。

 彼女の左側頭部で揺れるサイドポニーが可愛らしい。

 

「肉や野菜だけじゃなくちゃんと炭水化物(おこめ)も食べないと偏っちゃうでしょ!

 ほら、統制官、炭水化物は重要なエネルギー源なんだから」


 そう言ってジークリンデは容器からトレーに白いペースト状の何かを盛り付けて僕の前に置く。

 ……お米?


「それから、魚! アミノ酸にDHAにカルシウム! しっかり摂らないとダメなんだから!」


 赤いペースト状のネギトロめいた何かが盛り付けられる。


「あと、果物! ビタミン豊富なんだからね!」


 オレンジ色でペースト状の……。

 

「うわーすごい豪華になりやがりまして。 今日は統制官(ごしゅじん)の誕生パーティーですか? 蝋燭を立ててあげましょう」


「ほら、早く食べないと冷たくなっちゃうから、さっさと食べて元気出しなさい」


 二人はそう促すけど、この得体の知れない何かの山盛りを食べる勇気はボクには無い。

 これほんとに食べて大丈夫なやつなの……? その前に人間の食べ物なの?

 ジョークとかエイプリルフールとかドッキリとかじゃなくてマジでこれ食べるの?


「もうちょっと他のものは……ないのかな……?」


 おそるおそるそう尋ねると、二人は顔を見合わせる。

 そしてシャルロッテが「しょうがないですなー」と言いながら立ち上がって配膳室の方へ歩いていき、すぐに両手にトレーとグラスを持って戻ってきた。


「スイーツとドリンクですよ。

 あとはこんなのぐらいしか食堂のレプリケーターはつくれません。

 確かにご飯のレパートリーがちょっと少ないかなーとか皆思ってやがります」


 目の前に置かれたのは、黄色のやはりペースト状の物体と、青く発光する炭酸水っぽい液体が注がれたグラスだった。

 スイーツもペースト状……何味なのこれ。

 そしてなぜ飲み物の方は発光しているだろう。 見た目は綺麗なのだけど。

 いや、着色されてるのはわかるよ? 発光している意味がわかりません。

 なんかあからさまにヤバげな感じではないだろうか、光るドリンクって。

 合成複製機(レプリケーター)……そういうことか。

 医務室同様に人間の兵員用になってる殆どの施設をグレードアップしてないってことは、つまり最低限の設備しか持ってないってことだから、食事もこんなのしか提供されないんだね。

 ……とはいえ、最低水準すぎるでしょう。 ゼロどころかマイナスだよこれ。

 こんなん食べてたら士気が上がるわけがない。 というか嫌だ。

 歴史的にも食事事情の悪い軍隊は勝てない事になっている……まあだからって他をおろそかにしてまで食事を豪勢にしてても勝てないというかやり過ぎだろうけど。

 大昔の戦争だと前線での食事は保存性の良さが最優先で、新鮮な材料で作りたてのものを提供するとかまず無理だった。

 そこから時代が発展すると、「食事にすら輸送・補給の手間をかけられるくらい余裕のある軍隊は強い」ってことになったし、美味しいものが食べられれば元気が出る。

 苦しい戦いを強いられて、補給も届かないし、食事よりまず武器弾薬を用意しないとならない軍隊が強いわけが無い。

 まあ、そういうわけで、こんなペースト食品しか提供できないようじゃ嫌過ぎる。 由々しき事態だ。

 つまり燃料も確保しなきゃならないけど食料と献立も早くなんとかしないといけないということ……。

 新しい問題が追加され、頭の中の解決すべきことリストに書き加えると、ボクはしょうがないと諦めてから、覚悟を決めて目の前の食事を片付けることにした。

 ピンク色の「お肉」と呼ばれた物体をスプーンで掬う。

 でろり。

 ……早くも食欲をなくす質感なのですが。 マジでこれ食べるの?

 シャルロッテとジークリンデの様子をチラっと窺うと、ボクが食べる様子を観察しているかのようにじーっとこっちを注目している。

 多分、食べ終わるまで解放してもらえないんでしょう……さっさと食べてしう事にした。

 口に入れる。

 あ、お肉だこれ。 豚肉とも牛肉とも鶏肉ともつかない正体不明な味だけど、「お肉」という感じはする。

 脂は控えめでさっぱりしている……でもなんか、調味料とかソースが欲しいな。 味気ない。

 次、野菜と称する緑色の何か。

 口に入れた瞬間にわずかな青臭さ……まあ野菜っぽいだろうか。

 何の野菜なのかはわからないけれど、しいて言うならキャベツとかレタスのような葉野菜に、ブロッコリーっぽい風味ととアボガドっぽい触感を加えたような感じ。

 やっぱりしょうゆマヨネーズが欲しい。

 それでは魚と称するものに手を出してみよう。

 見た目どおりネギトロだねこれ。 マグロの味しかしない。

 しかもなんかこう……マグロって言えばマグロなんだけど、魚の身を細かくミンチにした後に絞ってマグロエキスを抽出した出がらしに「マグロ味のふりかけ」をかけたみたいな……。

 表現しづらい。

 お米であるらしい真っ白なペーストと一緒に食べたらお寿司になるのかな?

 そう思ってお米に手を出してみる。

 ……ってお米じゃないよこれ! どっちかというとパンの味がする!

 流動している状態のパンとか初めて食べたよ。

 むしろこれお肉と野菜と合わせて食べればバーガーかサンドイッチになるんじゃないか? 試す勇気は無いけれど。

 なんか果物に進むのが怖い。

 今までのが一応食べられなくも無い味と触感だから、変なものではないんだろうけど……そろそろ「当り」を引き当てそうで。

 おそるおそる食べてみる。

 ……たしかにフルーティなんだけど、果物とは言い難い……なんていうか、ベースになるペースト状のものに砂糖と甘酸っぱい香りのフレーバーを添加しただけっていうか。

 見た目がオレンジだからせめて柑橘系かなと思ったんだけど、メロンフレーバー・ソーダに近い、全然その味じゃないのにそう言い張ってる系のような感じがする。

 ペーストばっかり食べてきたのでここらで口の中を飲み物で漱いですっきりさせたいんだけど、飲み物が青く光る炭酸水しかない。

 ……今までも大丈夫だったんだから、多分大丈夫。

 そう自分に言い聞かせてから、グラスを手にとって、様子を見ながらそっと口を付けた。

 意外にも爽やかで、なんか今までに飲んだことの無い味。

 単純に何かの味をフレーバーとして添加したんじゃなく、複数のフレーバーを調合して独特の味を引き出したみたいな印象を受ける。

 甘いんだけど甘ったるくなく、喉越しもいい。 炭酸も強すぎず適度。

 見た目のヤバさと違って案外悪くないかな。

 一体なんという飲み物なんだろう。

 こんな商品が発売されたとかは記憶に無いし、ゲーム内だけの架空の飲料なのかな?

 思い切ってジークリンデに訊いてみる。


「コーラでしょ? それ。 統制官は今まで飲んだこと無かったの?」


 へえ! これが! へえ……大昔に失われたって聞いていたけど、こんなものだったんだ……。

 なるほど、実物は原液の製造施設や技術を喪失して幻の飲料になっちゃったけど、ゲームの中でなら味を覚えてる人が居れば再現できたんだね。

 それにしても、発光する飲料とか昔の人も面白いものを発明するんだなあ……。

 ちょっと感動して気分が良くなったところで、最後になった黄色の……スイーツに手を出してみよう。

 スイーツ……ペースト状のスイーツってどうなんだ。

 まあいいや。 そっと掬って口に運ぶ。

 口の中に広がる独特の香りと酸味に、砂糖の甘さ……チーズケーキ?

 チーズケーキですこれ。 しかもベイクド・チーズケーキの方でレアチーズケーキではない。

 ここに来て乳製品がエントリーするとは思わなかった。

 クリーミーで濃厚なチーズの風味に思わず顔がほころぶ。

 ……ペースト状という触感がちょっと残念だけどね。

 コーラ飲みながらこれ食べてればもう十分なんじゃないかな。 味に関してはこの二つが頂点と言える。

 なんでも好き嫌いせず食べてみるものだね。

 他がちょっと微妙なだけで……炭水化物(パン)はそこまで悪いもんじゃないけど……。


「お腹一杯になったらちょっとは元気でてきたみたいね」


 ジークリンデが声をかけてきた。 ちょっと得意げな表情をしている。

 確かにさっきまでよりは……化粧室(トイレ)で挫けそうになってたのをシャルロッテに引っ張ってこられた時よりは、気分は良くなった。

 彼女たちとも普通に会話できてるし、誰かが側に居て自分を見ているだけで不安とか怖いとかゲロ吐きそうになったりはしてない。


「ちゃんと朝昼晩きちんと食べてない不摂生な生活してるから、大事な時に倒れたり気分悪くなったりするのよ?

 これからは気をつけてちょうだい。 統制官が居ないだけでみんな大変な事になるんだから」


「皆いつも統制官(ごしゅじん)のこと考えてやがるですよ。

 統制官(ごしゅじん)がブリッジで倒れたって艦内に広まって、てんやわんやだったです。

 私達は統制官(ごしゅじん)のためにここに居るですから、統制官(ごしゅじん)が苦しいときは皆で助けますし、皆が統制官(ごしゅじん)の味方です。

 オールフォアワン、ワンフォアオール。

 何かあったらこの兵員食堂来てください。 私達だいたいここいやがりますんで」


 ジークリンデとシャルロッテにそれぞれ励まされた。

 そうだね。 ここにはボクの味方しか居ない。 ボクを傷つけたり裏切ったりしない、ボクの部下達。

 皆がボクを統制官だと認識し、信頼し、従っている。

 ボロを出すのは怖い。 批判されるのも怖い。

 評価されないこと、肯定して貰えないこと、理解してもらえないこと、失敗を追及されることが怖い。

 でも、それでもボクの投稿するプレイ動画や作ったAIの戦術ロジックはそれなりに評価を得てもいたし、ソーシャルネットワークに接続することは出来たんだ。


「ごちそうさま。 ありがとう、美味しかったよ」


 そう言ってボクは立ち上がる。

 二人にニッコリと笑みを向けると、彼女たちもそれぞれ笑った。

 大丈夫、ゲームと同じようにやればいいんです。 何も難しいことは無い。

 ボクが作り上げた彼女たちが負けることは無いし、ボクが立てた作戦はいつだってそこそこ上手くやってきた。

 今度だってきっと、多分上手くやれる。

 ちょっと大きなイベントで、長期キャンペーンなのに戸惑っただけだから。

 二人に別れを告げて食堂を出た。 通路を歩くボクの歩く速度は心なしか、速かった。



「あとはう○こしてぐっすり眠れば明日にはいつも通りの統制官(ごしゅじん)になってやがります」


「あんたその時々下品な発言なんとかしなさいよ!」





 翌朝。

 「ラインの黄金」号の統制官専用個室……妙に凝った上品な内装と設備の整った、高級ホテルみたいな部屋で十分な睡眠と休養をとったボクは起きて身支度を整えるとまっすぐブリッジに向かった。

 ブリッジにはいつものブリッジクルー(ウーシーたち)、二人の補佐官ロザリンドとツィルベルタ、そしてヴァルトラウトとアイルトルートが揃っている。

 敬礼を受け、それを返してから統制官席につく。

 コンソールを操作して、今日からの業務を開始することにした。


「まずは……現時点で何か新しい情報は?」


 尋ねると、ウルリーケが返答する。


「電波情報の解析は90%完了。

 民間用のチャンネルは総計で8,128個あったけど、だいたいの内容は把握できるようになってるよ。

 この惑星文明に関する社会や文化、原住民の生物的特徴なんかはほぼ判明している。

 軍事用のチャンネルに関しては暗号化が複雑だからもう少しかかるだろう」


 ……随分解析が早いな。

 電波で通信している内容を見れるようになっても、何の通信のやり取りをしているのかは言語解析が進まないとさっぱりわからないと思っていた。

 その疑問には、ウルリーケが肩をすくめつつ答えてくれた。


「通信内容の多くが、英語と日本語に酷似した言語で構成されたものだったからね。

 通信データそのものの暗号化が解ければ、この艦の設備で普通にこの惑星のテレビ番組を視聴できるようになったよ。

 見てみるかい、統制官?」


 ……興味はあるけど後にしておこう。

 どういうことだそれ? ここは地球じゃない全くの異星じゃなかったの?

 いったいどうしてこの惑星の原住民は英語と日本語を使える?

 やっぱりここはまだゲームの中なのか?

 それとも、公式になってない外惑星移民計画によって開拓された、殖民惑星?

 もしそうだとしても、その割りには報告では文明レベルが現代地球より数段劣っている。

 そもそも10~20光年以内にはこんな地球と酷似した大きさや諸条件の地球型惑星は発見されてないはずだ。

 グリーゼ581cだって地球の5倍はある。

 そこから先の星系となると、地球型惑星を観測で見つける事自体がかなり難しい。

 行き当たりばったりで遠くの恒星系に惑星間航行艦(ジャンプシップ)を送り込んで、そこにたまたま地球と酷似した惑星が存在するなんて偶然……あるはずがない。

 だとしたら、一体どういう……。 だめだ、さっぱりわけがわからない。

 問題の先送りになるけど、考えてもしょうがないことは今は置いておこう。


「とりあえず、現地住人と接触を取るにしてもその土地にボクらの必要な資源が無いと交渉も何も無いから、わかってる限り資源のありそうな所をリストアップして」


 そう指示を出すと、メインスクリーン上の惑星のイメージモデルに色分布とグラフで資源の埋蔵量データが表示されていく。

 観測で得た惑星の地形から、予測される資源の種類と埋蔵量のシミュレーションデータに、解析した電波通信データから得られた「この惑星の原住民が知っている」資源情報を加えて修正したものだ。

 中央の一番大きな大陸の北部と、中央やや西よりの地域に化石燃料の埋蔵量が多い。

 石炭、石油、天然ガス……ふうん、結構あるんだね。 あとは海底にも。


「大陸北部は環境が厳しいからか、住人はあまり多くありませんわね。

 無人地域ならば、我々が勝手に採掘しても誰にも文句を言われないかもしれません」


「ただし、環境が厳しいという事はワーカードローンの作業効率も悪く、また占領地域の維持管理のコストや採掘施設の建設に時間がかかるということです。

 できれば既に資源を発見して採掘している原住民から提供してもらうのが総合的なコストパフォーマンスは良いかもしれません」


 ロザリンドとツィルベルタが参考意見を述べる。

 ……寒すぎると機械や設備が凍ったりするし、なによりそんな所降下したくないしね。

 まだ比較的温かいところにしよう。

 ボクはもう一つの、埋蔵量の特に多い地域である大陸中央西部を指定した。


「W-4の原油埋蔵量の多い、この地域をひとまず候補にする。

 偵察(リコン)ドローンで現地の様子を見たいです、アイルトルート、操作を任せる。

 ウルリーケは当該地域の詳細情報を、傍受した電波通信から抽出せよ。

 なるべく現地の社会情勢や国家体制なんかを重点的に」


「了解したわ。 アイハブコントロール」


「了解、統制官」


 アイルトルートがドローン操作席に座り、ウルリーケが作業を開始する。

 さて、どうなるでしょうか。 『宇宙人』にも友好的な現地人だといいんだけどね。

 数分後、発進準備の整った偵察(リコン)ドローンが射出され、大気圏に突入した。

 さらに数分後には指定されたW-4の上空へと侵入。

 現地防空体制には察知されておらず、軍用電波チャンネルの情報量に増大は無し。

 迎撃機が上がってくる心配はひとまず回避された。


「アイルトルート、昨日みたいに失敗はしないでください。

 今日は統制官が見ておられますので」


「わかってるわよ! そんな事言いに来なくていいでしょ!」


 アイルトルートを心配してなのか、ヴァルトラウトがドローン操作席の隣に来て一緒に画面を覗き込む。

 それに対してアイルトルートが苛立ち気味に返したのを、ボクは仲がいいなあ……と微笑ましく見守った。

 このゲーム始めた時から最初に配置してずっと居る二人なので、付き合いも長いんだろうね。

 二人の掛け合いを見るブリッジクルーたちも少し、笑っている。

 でも、どこか和やかなその雰囲気は偵察(リコン)ドローンから送られてきた映像の衝撃で吹き飛んでしまうことになった。


「なんだ……これ……? 何をやって……?」


「戦闘……いえ、これは一方的な……」


 ボクは困惑してメインスクリーンを見ながら呆然と呟き、ツィルベルタは眉間に皺を寄せながら不愉快そうな声を上げた。

 何台もの戦闘車両が主砲で建物を破壊し、小銃を持った歩兵が逃げ惑う人々を襲って背後から撃ち、追い掛け回す。

 燃え盛る建物から飛び出してきた人が、撃たれて倒れる。

 また別の建物からは、女性や子供たちが武装した男達に引きずり出されてきて、壁に手をつけて立たされ……。

 ヴァルトラウトが眉をひそめて口元を手で覆った。


「酷い、なんなのよこれ! どんな意義や目的があってこんなことしてるの!」


「……見ての通り、殺戮ですわ」


 アイルトルートが偵察(リコン)ドローンの望遠カメラに捉えられた映像に理解できない、と叫び声を上げ、ロザリンドが不快さを隠そうともしない苛立たしそうな声で吐き捨てた。

 そう、それは殺戮、虐殺としかいいようのない……人間に、地球人に酷似した生物である惑星原住民が同じ原住民を、武装もしてない対象をただ殺して回っている光景だった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ