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第1話 前半

この作品は、実在の国家・民族・組織・民族・思想・人物とは何の関係もありません

『次々降りてくるぞ! こっちの防空隊はなにをやっていた!』


『被弾! ユーク03、被弾!!』


『北側の高射砲陣地が沈黙! 爆撃を食らい続けてます!』


降下船(ドロップシップ)で直接降下してる馬鹿はどこのどいつだ。 派手に燃えてんぞ』


 敵味方の混線した通信をBGMに、ボクは無数の砲火があがる眼下の暗闇の中へと降下していった。



 西暦2198年 4月21日

 Dead Front 7 極東サーバー コンクエスト「アラスカ施設奪還強襲作戦」



 着地直前の逆噴射によるプラズマジェットの炎の照り返しが闇夜に一瞬機体のグレー迷彩を浮かび上がらせ、制動でボクの体は軽くシートに押し付けられる。

 直後に、小さな揺れとわずかな浮遊感。

 何重もの積層装甲により膨らんだ重厚な太い脚部に似合わぬ高性能なアクティブサスが着地の衝撃を完璧なまでに吸収し、有脚機動兵器(ランドウォリアー)「ブリュンヒルト」は無事に降下を完了した。

 角ばったラインの下半身とは逆に曲面で構成された上半身が腰を沈ませ屈んでいた姿勢からゆっくりと起き上がり、ボディ全体に比して異様に小さな頭部の「目」……横列に並んだ複眼状のフェイズドアレイ・センサーの素子が発光する。

 周囲では未だ各所から激しい対空砲火が上がり、無数の曳光弾が暗い夜空に吸い込まれていく。

 逆にその発砲炎を辿るように、幾つもの対地誘導ミサイル(A G M)が流星のような光の尾を曳いて着弾。

 轟音を鳴り響かせて、爆炎が施設を赤とオレンジに浮かび上がらせる。

 空と地上とは激しい応酬を繰り返し続けていた。


ローレライ02(アデルグント)、降下完了したぜ』


『こちらローレライ03(ゲルリンデ)、無事に降下完了したわ』


ローレライ04(ヴァルトラウト)、降下を完了。 被弾および機体異常なし』


 同盟(アライアンス)<ローレライ>に所属する僚機からの合成音声による通信報告が入る。 現時点での損耗は無し。

 コクピット内のメインモニターの隅っこの方にはそれぞれのパイロットの顔とバイタルデータが表示されている。

 ボクの部隊は全機が無事に降下を成功させていた。 今日の作戦(イベントクエスト)は悪くないスタートだ。

 続いて、作戦目的を達成すべく彼女達に指示を出す。


「ローレライ01了解。 予定通り、目標施設の制圧を開始します。 02、03は作戦通りに。 04は続け」


『了解! 俺の戦いを見せてやるぜ!』


『了解したわ。 油断せず慎重に行きましょうね~?』


『ローレライ04了解、支援(フォロー)に入ります』


 指示を受け取った各機が動き始める。 

 報告する時と返事を返すときは感情豊かな表情を見せる彼女達だけど、それ以外では眉一つ動かさない。

 機械的に、任務に没頭する。 それ以外のことは考えないし、許可されても居ない。

 互いに私語も挟まないし、どこまでも忠実なボクの部下達。

 ボクはさらに、上空から戦場を見下ろすもう一人の部下に通信回線を開いた。


「01より戦域情報管制機(アイルトルート)、目標施設周辺の敵戦力動向と最適侵攻ルートを送信せよ」


『アイルトルート了解。 目標周辺のレーダー反応はランドウォリアー7、戦闘車両18、歩兵が少数。

 エリア北側から<ねこにゃん旅団>の部隊が目標に接近中。 急いで、先に取られるわよ』


 穏やかな、それでいてちょっとツンデレっぽい声音で彼女は答える。

 同時にコントロールパネルの中央戦術情報表示ディスプレイに周辺の地形や建物情報と、敵味方のマーカーが表示。

 それを読み取り、僕は一瞬の思考を巡らせる。

 ふうん、じゃあ先に<ねこにゃん旅団>に敵を釣らせれば戦力がそっち行って、ボクの進む側は手薄になりそうだね、これだと。

 そう考えて、パネルを操作してアデルグント(02)ゲルリンデ(03)へに迂回した侵攻ルートを取らせるよう操作する。

 これで既に半減している敵が二人に対して応戦するのを待ってから、完全に無防備となったルートを進むことでボクとヴァルトラウト(03)が楽々目標に到達することができるはず。

 でも、案外<ねこにゃん旅団>がこっちの予想よりも早く敵を撃破して目標に向かう可能性もあるかもしれないからそう上手くは……行った。

 左手レバーのブーストトリガーを押しつつ右足のフットペダルを強く踏み込み、腰部の偏向電磁噴射推進器プラズマジェットスラスターを起動、6.5mの鋼鉄の巨人が突入を開始する。

 脚部のサブスラスターを併用し、わずかに空中に浮き上がった機体は高推力で地上スレスレを滑空。

 急激な加速Gがボクの体を叩き、その押しつぶされそうな圧力に少し呻く。 ……ちょっとアクセルを踏み込みすぎた。


ガンシップ(アーンフラウ)の到着までは5分、ローレライ05・06(砲兵隊)の降下完了までは8分必要よ』


 戦域情報管制機(アイルトルート)の追加情報にも返事をする余裕が無い。

 流石に耐えかねてフットペダルをほんの少し緩めるけれど、既に敵は目の前だ。

 なんだ、ちゃんと全部釣れてないじゃないか。

 それともボクの方が加速を早くしすぎてタイミングがズレちゃったのか?

 ともかく、交戦開始(エンゲージ)だ。 敵機との距離、既に2000!

 兵装安全装置解除(マスターアーム・オン)しHUDの照準を敵機……四脚型の砲撃機(サポート)に合わせ、ロックオン。

 右手レバーのトリガーを押す。

 「ブリュンヒルト」の右腕(ハードポイント)に装備された120mmオートキャノンからAPFSDS弾が点射(バースト)で青白いマズルファイアと共に放たれる。

 同時に、左のフットペダルを踏み込み、ノズルを前方に偏向した腰部スラスターが噴射。 急制動をかける。

 そして、減速しきらないうちから横方向へ、胴部サブスラスターを併用しつつ再噴射!

 間一髪のところで「ブリュンヒルト」の脇を掠め、敵四脚型から放たれた210mm砲弾が通過していく。


「あっぶな……! 直撃したらこっちの電磁防御装甲(EMFシールド)一発で剥がされてたよ!? 直射で榴弾砲撃つか普通ー!」


 横方向からの急激なGに歯を食いしばって耐えながら、ボクは120mmオートキャノンを撃ち続ける。

 しかし、その砲弾は敵機の装甲表面で重厚な金属音を立てながら弾かれていた。

 ランドウォリアーの装甲に施されている電磁防御装甲(EMFシールド)、一種のバリアーだ。

 装甲の表面で強力な電磁場を発生させ、ローレンツ力で砲弾を弾き返すか減殺させる……難しい原理を説明している暇は無いから講釈は後にする。

 ともかくそいつを何とかしないかぎり、現代の陸戦の王者ランドウォリアーを撃破するのは難しい。

 もちろん、電磁防御装甲(EMFシールド)は「ブリュンヒルト」にも装備されているけど、こっちの大型機関砲(オートキャノン)と向こうの重野戦砲(ヘビーアーティラリー)じゃ威力が桁違い。

 向こうは一発当てれば(野戦砲は直接撃ちあいをする兵器じゃないのだが)仕留められるのに対し、こっちはまず撃ちまくって相手のジェネレータに過負荷をかけ、電力消耗で電磁防御装甲(EMFシールド)をダウンさせないと勝ち目が無い。

 じゃあこちらも最初からデカい大砲積めばいいって思うでしょ?

 ところが、ボクの使ってる「ブリュンヒルト」……ベースは日本区陸上防衛軍の二脚型突撃機(アタッカー)「M-8/陣風」にさらに装甲追加と機動力強化のチューンを施した機体は、というか二脚型全般はあまり大きな砲を積むと機体の重心がズレて歩行時や高機動時の姿勢が安定しない上に、安定した射撃をするには着地して射撃姿勢を取らないといけない。

 どっしり構えて狙って撃つ四脚型とはお互い長所と短所が逆の、対照的な関係なんだ。

 向こうは狙撃や砲撃支援に特化しているから機動性は二の次で、「ブリュンヒルト」みたいに大推力スラスターでホバーしながら撃ちまくるなんて事はできない。

 その代わりに強力な一撃を高い命中率で標的にお見舞いできる。

 そして、こちらは機動力でかわしながら接近しつつ、電磁防御装甲(EMFシールド)への負荷を蓄積させないといけない。

 

 「くっ……いつもながら結構キツイ!」


 ブースターを吹かし、建物の影から出る数秒間の間に、120mmオートキャノンのトリガーを引く。

 向こうが「ブリュンヒルト」に狙いをつける前に、次の建物の影に飛び込んで、急制動&その場で180度旋回(ターン)

 激しい挙動はそのままGに反映されてパイロットに返って来るけど、それを我慢してもう一度建物から飛び出すと同時に射撃。

 こんな風に遮蔽物を上手く利用し、楯にして射線を遮りつつ左右に機体を振って、その合間に撃ち返すわけだ。

 でもこんなリスクの高い戦い、何時までもやってられません。 一回でも被弾したらほぼ終わりだし。

 だから、戦い方を考える。 不利な状態で戦いを挑むのは賢くない。

 ボクは「ブリュンヒルト」を近場の4階建ての建物の影に着地させながら指示を下す。 建物に210mm榴弾が命中し、爆炎と破片を撒き散らし、鉄骨入りの建材をズタボロに破砕した。


「やれ、ヴァルトラウト(04)


 ボクの言葉と同時にローレライ04(ヴァルトラウト)の左右肩部マルチランチャー及び両脚部増加ランチャーから発射された多連装ロケット砲弾とマイクロミサイルが次々と敵四脚型に着弾、電磁防御装甲(シールド)を一時的にダウンさせて引き剥がす。

 正面のボクにばかり気を取られて、横合いに回り込んだもう1機(ヴァルトラウト)を警戒しなかったでしょ?

 そこへ、建物の影から飛び出したボクの「ブリュンヒルト」が120mmオートキャノンを連射し、敵の胸部装甲に幾つもの穴を穿った。

 さらにボクはスラスターを吹かしつつ、距離を一気につめて接近、左腕に装備されていた近接射突兵装(ブラストトーチ)を突き出す。

 電磁誘導で打ち出された金属杭の先端が四脚型の胴部に突き刺さり、装甲を貫通する。 同時に、先端部の穴から超高熱のプラズマ噴流が放射され、内部で炸裂。

コクピットとジェネレータを撃ち抜かれ、炎を吹き上げて各座する四脚型。

 本日の撃墜(キル)1だ。

 「ブリュンヒルト」が左腕を引くと同時に杭が引き抜かれ、カートリッジが再装填、そして基本位置に杭が戻る。

 大昔の対戦車兵器、刺突爆雷じみたこいつは杭の長さとプラズマの拡散・減退性の関係でよほどの接近戦でないと出番がないが、一撃の威力は高い。

 取り回しもよく、障害物の多い都市戦や拠点攻略作戦では咄嗟の遭遇時つまり超近接レンジでの戦いにに役に立つ……まあ実際に使用してるのはボクと同様の愛好者ぐらいだろうけど。


「さて……残りはちゃんとアデルグント(02)ゲルリンデ(03)が相手してるかな?

 このまま目標の制圧を継続。 付いて来い、ヴァルトラウト(04)


『了解しました』


 ボクとヴァルトラウト(04)は再度スラスターを吹かし、ゆっくりと機体を浮き上がらせるとそのまま地上スレスレを滑空して目標へと向かう。

 期待通りに裸同然の目標施設には敵の姿も味方の姿もなく、ボクたちが一番乗りのようだ。

 遠くの方で交戦しているらしい爆発音と曳光弾の交差、断続的な偏向を行うスラスターのプラズマジェットが見える。

 ボクはヴァルトラウト(04)に周囲警戒を指示しつつ、施設の制御システムが置かれている管理棟の側に機体を着地させた。

 そして、「ブリュンヒルト」の右腕を建物の入り口外壁に設置されているパネルに向けると、掌から小さなチューブ状のコネクタアームが伸びて、パネルに接続。


「施設の掌握を開始。 主制御システムを制圧次第、兵器の生産を開始する。

 備蓄している全資源を消費。 生産物の指定は、T-178重戦車、スティンガー戦闘装甲車、M-15A3自走砲、自立機動歩兵(AMI)ならびに自動歩兵支援機(AIS)

 いずれもドローン化して自立制御。 ロールアウト後は逐次、IFFに反応しない敵勢力を掃討せよ」


 十数秒で制御システムがこちらの軍門にくだり、施設の各所で生産設備がフル活動を開始する。

 これで、このブロックはこっちが占領した。

 味方部隊のランドウォリアーやガンシップ、支援車両も次々と降下を成功させているし、あとは自動生産され続ける兵器が他のブロックへの制圧を始めるまで奪い返されなければいい。

 敵は物量を抑えきれなくなってゲームセット。

 まあ、多分逆転の目は無いだろう。 自分の仕事はしたし、後は観戦モードで見ていようっと。 お疲れ様でした。



『勝利条件を達成しました。 ブルー陣営側の勝利です』


 統合作戦本部(G M)からのアナウンスが流れ、味方の通信チャンネル(オープンチャット)から大量の歓喜と労わりの言葉が流れて、同時にモニターに表示される文字情報がログを埋め尽くしていく。


『おつかれー』


『おつさまー』


『お疲れ様でした』


『勝ったaaaaaaaaaaaaa!』


『おつでしあ』


『おっしゃーーーーー!! 6連勝!!』


『乙でした』


 各ランドウォリアーを操作するプレイヤーたちの声。

 所属している同盟(アライアンス)のチームメイトと互いに言葉を交わす人も居る。

 それを、ボクはうるさいな、と思いつつ黙って聞いていた。 部下たちも相変わらず表情も浮かべず、黙っている。

 ボクが興味があるのはこの先の、GMのアナウンスの続きなんだから。


『本作戦の功績ランキングは以下の通りです』


 来た。 ボクは寄りかかっていたシートから体を起こし、モニターを食い入るように見つめる。

 大きな星マーク付きで表示されたリザルト画面の一覧の一番上に、果たしてボクの名前はあった。


『MVP ローレライ01 <YUKARI> 14024pt 所属同盟(アライアンス):<ローレライ>』


 よし! やっぱり、主目標施設の占領に一番乗りしたのが効いた。

 これが一番功績pt稼げるから……あと、生産施設占領は生産した兵器が倒したり占領したptも、占領したプレイヤーに加算されるのが美味しい。

 で、二位は<ねこにゃん旅団>のブチ猫団長さん、三位は<鬼鋼猟兵>の異能生存体X号さん……やっぱり大手同盟(アライアンス)のトップ連中は撃墜数で稼いで来る。

 共同撃墜とかも使って稼ぎまくれば施設占領で一気に引き離してても追いついてこられるからね。

 でも、ボクの部下たちも負けていないよ? 四位以下はボクの部下たち、<ローレライ>所属機で占められている。

 当たり前でしょう。 彼女達の戦術ロジックを組んだのはボクだもの。

 そこらへんの並程度のプレイヤーに負けはしない。 ……古参の本物の廃人連中にはかなわないけど、まだ。

 でも、何時かはその人たちも超えてみせる。

 そんな闘志を胸に秘めながらモニターの順位表示を見ながらニヤけていたボクは、突然オープンチャットから飛び出してきた言葉に気分を台無しにされた。


『なんだよ、またあのチート野郎がMVPかよ』


……チート? 聞き捨てなら無いセリフにムカっと来たけれど、ボクがそれに反論する間もなくチャットには非難や誹謗の会話が次々と流れ始める。


『ほんと、AI操作のドローンであんな人間染みた反応ができるわけねーんだから、何か不正コード使用して無い限りありえない』


『前にコライドで対戦した時あったけどあれ絶対AIなんかじゃ無理』


『パケットを解析して数値を改竄したものを乗せれば俺だってあんなん作れるっての』


『うちが先に降下してたのに横から掻っ攫いやがった、ムカツク』


『チート使った動画を投稿なんかしてPV稼いでるんだぜ。 どういう神経してんだか』


『自分以外はAIだけで同盟(アライアンス)組んでるし、もとから変人なんだろ』


『ぼっちだよありゃ。 通信(チャット)にもろくに返事しないしコミュ障』


『実際あんま大したことねーよあのAI。 あれ自立行動してんじゃなく細かく指示出してそれらしく見せてるだけなのと、プレイヤーと違って体感Gの再現が無いから無茶な動きしても平気なだけ。 AIと完全一対一でやったらプレイヤーが勝つ』


 ……誹謗中傷が飛び交うけれど、ボクはその一つ一つに反論しない。

 もちろん、ボクの部下たちも。 ボクや自分たちが何を言われても、表情を変えないし反応することは無い。

 それは彼女たちが人間ではなく、予め与えられた戦術ロジック(パターン)に沿って自立行動するドローン(A I)だからで、当たり前のことなのだけど。

 確かにこのハードミリタリーシミュレーションゲーム「Dead Front」シリーズではそうした、プレイヤーの支援を目的としたAIサポート機がシステムとして導入されている。

 あくまでプレイヤーを援護するための無人機で、そこまで強いものではないけれど、それを利用するプレイヤーは少なくない。

 ただ、ボクは何一つ不正行為(チート)などと謗られるような事はしていない。

 純粋に、ゲームシステムにあるリソースをフルに活用して、試行し、研鑽し、洗練させ、その結果としてプレイヤーの操作とも単独で互角に戦えるレベルのAIを構築することができただけ。

 そして、そうしたプレイヤー独自の改良された戦術ロジックを搭載することでAIの性能が向上するのは標準的な仕様だ。

 ボク以外にだって高度な戦術ロジックを構築して強いAIを作ってるプレイヤーは何人も居る。

 そもそもなにか不正なことをできないようゲームシステムにはプロテクトが施されており、チート監視の検出システムも常時走ってるのだからどこにも不正の介在する余地はない。

 そう、彼らの言ってるのは完全な冤罪で、ボクへの嫉妬に過ぎない。

 自分たちが出来ないことをやっているから、不正に違いないと決め付けて批判し鬱憤を晴らしているだけで、運営スタッフに本気で抗議をしているのじゃない。

 ただの負け犬の愚痴です。

 やがてイベントを終了するアナウンスが流れ、この戦域(フィールド)は後10秒で閉鎖される。

 その間際になっても彼ら(プレイヤー)はボクに対するチート容疑の非難や陰口……オープンチャットで聞こえよがしにするのは陰口ではないでしょこれ。 あからさまな批判を辞めようとはしない。

 最後まで聞いてても気分が悪いし不毛でしかなかったから、戦域閉鎖前にボクはコンソールを操作して自分から戦域離脱(ログアウト)した。



 ブラックアウトした視界は徐々に正常な状態を取りもどし、ぼやけた景色が普通に見える様になって来るとボクはさっきまで居たランドウォリアーのコクピットシートではなく、自室の流体型ベッドに全身を包まれて天井を見上げていた。

 西暦2198年。 ゲームサーバー内の年月日は現実と同じ通り。 ここは、旧首都・東京府。

 立ち上がって部屋の窓に向かい、遮光カーテンを開けると、眩しい太陽の光が目に入ってきた。

 視界の端に映る網膜投影情報表示の時刻は午前9時48分。 月曜日。


「……そろそろ遅めの朝食にしてもいい時間かな」


 目を凝らして外の景色を見ると、林立する巨大な市街地構造体シティ・ストラクチャーに囲まれるようにしてそれよりやや背の低い、186年前に建設されたと言う大昔の旧式電波塔が肩身を狭そうにして立っているいつも通りの風景がそこにあった。

 ずっと昔から観光資源として残され今も維持されているそれは、現代に残っている東京府の数少ない伝統文化財である。

 ……とか、教養プログラムが何か偉そうに解説していましたっけ。

 そう言えば、ここ最近ずっとゲームの方にかまけて「歴史と文化」のプログラムは積みっぱなしになっていた。

 その量たるや、物理媒体に出力したら結構な地層が出来上がるんじゃないだろうか。

 朝食ついでに外出して、さらについでに積み上げた分を消化しておこう。

 別に、絶対目を通しておかなきゃならないものでも無いんだけど。

 教育が義務だったのは、それも全教科が必修だったのはもう100年以上も前の昔の話。

 でも、大昔と同じような事をするのは一種のノスタルジィ趣味だし、趣味嗜好は人それぞれ。

 誰に咎められるわけでもないし、人間は好きなことを好きなようにすればいい。

 生活の糧を得るための労働とか、インフラの維持だとか、そういうものは自動機械(ドローン)が全てやってくれるのが現代なんだから。


「かくして人類が手に入れたのは趣味と娯楽とソーシャルコミュニケーションを享受する理想社会、か……」


 55年前の汎人類協和思想圏の樹立式で初代協和大統領の演説で述べられた一節を呟くと、市街地より低い近現代の象徴たる634メートルの塔から視線を外してボクは壁掛けに手を伸ばし、そこに引っ掛けられていたお気に入りのパーカーを羽織って玄関へと向かった。




ロボットは日本で生まれました アメリカの発明品じゃありません、わが国のオリジナルです

しばし遅れをとりましたが、今や巻き返しの時です

ロボットを操縦するVRゲームはお好き?

結構、ますますお好きになりますよ

シートはリクライニング でもHMDなんて重いだけで、夏は暑いし、かゆくなってくるし、ろくなことはない

モニターの視界も広いですよ、どんな長身の方も大丈夫 どうぞ、回してみてください

……いい音でしょう? 余裕の音だ、立体音響が違いますよ

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