第6話 前半
この作品は、実在の国家・民族・組織・民族・思想・人物とは何の関係もありません
ヴィクトリアはコクピット内のモニターの端に表示される友軍のマーカーが指定された前進観測ドローンを目ざとく見つけると、操縦席正面のコントロールパネルを操作して広域通信回線を開いた。
「アーデルハイトデスね? 横から私達の手柄を掻っ攫いに来たのは」
数秒の沈黙の後、名指しされた砲撃支援班の担当班長アーデルハイトの声が返ってきた。
『こちらローレライ・ベータ01。 手柄を掻っ攫うなんてどうしてそんな悪意的解釈をするの?
私たちはいつものように諸兵科連合のセオリーどおりに支援を行っただけっていうのに。
お姉さん悲しくなっちゃうわ、くすんくすん』
事前に誤爆防止のための通信連絡も入れなかったくせに、しれっとしてアーデルハイトは言う。
あからさまな泣き真似の演技までしてしてみせるその態度に、ヴィクトリアは思わずちょっとイラっとした感情が口調に乗った。
「目標は半壊状態で、全然支援の必要なかったタイミングデスね!
だいたいにしてそういう遠距離からの砲撃ならまずこっちの接敵前に事前に行って敵戦力を漸減させておくのがセオリーのはずデス。
逃げようとしてる相手を追い討ちでボコボコにして、一番楽なところだけ横取りしていったのは許せませんデスよ?
そんなにMVPが欲しいデスか」
『あら、敵が撤退中ってことは、もしかしたら万が一にでも取り逃がすかもしれないでしょ?
せっかくの撃破ptを逃したら、そんなの勿体無いし統制官ががっかりしちゃう』
全く悪びれるところの無いアーデルハイトの言い草に、ヴィクトリアはさらに苛々を募らせるが、まだ抑える。
軽く深呼吸してから、再び口を開いた。
「強襲機の速度舐めてんデスか?
確かに重量ありすぎて突撃機みたいに機敏に飛べないデスけど、その気になりゃ時速100kmで荒地を走破できマス。
戦車ごときに逃げられるような鈍足じゃないデスよ、砲撃機と違って」
最後の一言がアーデルハイトのどこかに命中してグサっと刺さった音がしたのをヴィクトリアは確かに聞いた。
強襲機は車体部のその重量が仇となって、ブースターを全開に吹かしても飛行するのには燃費があまりにも悪すぎる。
故に、空挺投下の際の逆噴射や高低差がありすぎる地形を登る際にしかブースターを使用することは無い。
戦車を大型化し、両腕という可動式砲座を備え、複数の目標を同時に攻撃するという機能を備えた上で陸戦に特化した戦闘車両の正統進化系がタンク型強襲機だ。
故に車両としてみた場合の陸上機動は高い性能を持つ。
一方で、四本の足を備え、安定性とどのような地形でも最適な姿勢を取ることが出来、精密砲撃を可能にする砲撃機は、その足の数の多さが無駄な空気抵抗を生むためにやはり突撃機に比べると空中機動性は劣る。
そして、歩行による移動速度と地形走破性でも戦車の無限軌道や装輪車両に劣る。
ただしヴィクトリアが揶揄するほどにはけして鈍足というほどではない。
気持ち悪いくらいに機敏に四本の足を動かして迅速に移動するし、不整地での速度は無限軌道とタイヤの中間に位置する性能の高さを持つ。
ただ、泥濘など特定の地形ではタイヤよりもぬかるみに嵌って動けなくなる確率は高いし、舗装された道路も自力で走るよりはトランスポーターに乗せて移動させたほうが早い。
機動力に関しては中途半端さが残るのである。
『そんなこと言い出したら極論空輸したほうが早いのはお互い様でしょ……?
不毛な言い合いがしたいだけなら通信切っちゃいたいのだけど』
「もともとそっちが売って来た喧嘩デスね。
次に横殴りしてきたらリニアガンの砲身でどついてやるデスから憶えておきやがれデス」
文句を言うだけ言うとヴィクトリアは通信回線をオフにした。
ふん、と鼻を鳴らしてシートに体重を預け、腕組みする。
「ほんとにもうあのゆるふわ気取りの腹黒雌狐は……。
バルティルデ、補給の要請はちゃんとしておいたデスね?」
ヴィクトリアが隊内無線に呼びかけると、バルティルデが返答する。
『はいヴィッキ姉さん。
姉さんが舌戦で時間を稼いでいる間に航空支援班にこちらで通信を入れておきました。
1分後には到着し補給作業を開始します』
その報告に、ヴィクトリアは満足そうに頷く。
彼女の妹は特に指示をしなくてもやるべき事を判っている。
そう、単にアーデルハイトに文句と嫌味を言ってやるためだけに時間を取ったわけではないのだ。
「よしよしデス。 アーデルハイトが私との口喧嘩に気を取られれば、その分次の行動指示が遅くなりマス。
その間にこっちは補給を終えて、別の目標へと移動を開始します。
疾きこと風の如く、徐かなること林の如し、デス。
戦場は常に早いもの勝ち、あっちがモタついてる隙にどんどん私達の手で制圧と占領を進めて、最終的に今回もMVP取るのは私たちデス」
満足そうに頷くヴィクトリア。
彼女がやったのは味方への妨害行動の一種に当り、足を引っ張るに等しい。
そうしておきながら、自分達は次の迅速な行動に移るための作業を進行させている。
軍隊組織としてはあまり褒められた行為ではないのだが、それに対して何の疑問も彼女は抱いても居なかった。
そしてそれはバルティルデも同様である。
『さすが姉さんです。
砲撃支援班はこちらが単に横殴りの抗議をしに無駄な時間を割いたとしか思っていないでしょう。
向こうは私たちと違って完全にアーデルハイトが指揮と部隊管理を行うトップダウン型で、担当班長が他の事に手を取られると全ての業務がストップします。
一方私たちは言われなくてもそれぞれがその場の最善な行動を判断し、結果としてチームプレイが機能するスタンドアローン型。
同時に処理できるタスク数が違います』
「そういう事デスね。 統制官は私たちをそういう風に創ったデス。
私たちこそがもっとも理想的な完成品。 しょせん実験的試作品や習作に過ぎないあいつらとは違いマス」
姉妹とそう言葉を交わすヴィクトリアの口の端がニヤけた笑みの形になる。
撃破スコアを奪い合うだけならともかく、味方の足を引っ張るなど、ともすれば彼女らの最高指揮官である統制官への背信行為と受け取られかねないはずだ。
しかし、ヴィクトリアたちにはそんなつもりは一切無い。
むしろ自分達が他の仲間たちを差し置いても活躍することが、<YUKARI>への最大の忠誠を示す行為であると心の底から信じ込んでいる。
なぜならば、自分達はそういう風に<YUKARI>によって思考パターンを調整されたからだ。
彼女達の存在意義は撃破ptを少しでも稼ぐこと。 それは何よりも優先される。
故に、彼女の微笑には自分たちへの強い自信と誇り、そしてそれ以外を格下に見る多少の増長がそこに含まれていた。
「……って感じのことを考えてるんでしょうねえ」
円筒形の上部に二重反転ローターがくっ付いた形の前進観測ドローンから送られてくる映像を眺めながら、エレンブルクは呟いた。
メインモニターには支援部隊の到着した主力打撃班が多数のワーカードローンんに囲まれ、忙しなく補給作業を開始している様子が表示されている。
彼女の操る四脚型砲撃機はドイツ製の「イェーガー」タイプの派生機、情報観測に特化したイェーガーM4A3である。
その頭部は完全なレーダーに置き換えられ、両腕の武装も長距離捜索レーダーと多目的広域レーダーが選択され、胸部の連装機銃以外に自衛用の武器は持っていない仕様だ。
両肩のマルチランチャーに装填されているのも、折り畳まれた状態の前進観測ドローンである。
エレンブルクの主な仕事はいわゆる砲兵観測支援……すなわち前進観測ドローンを用いて砲撃機の弾着確認と誤差修正の指示、目標の選択や照準誘導レーザーの照射などを行うことだ。
そして、アーデルハイトの乗る指揮タイプ、イェーガーM4A2が射撃指揮所の役割を果たし、この2人が砲撃支援班の要、中枢と言える存在である。
『そうね、あれであの子たち、私たちよりリードしてるつもりなのよ。
可愛いものね。 私たちはあくせく移動を繰り返さなくても、ここに腰を落ち着けたまま遠くに手を伸ばすことが出来る』
エレンブルクにそう答えるのはアーデルハイトだ。
自分の機体のコクピット内で分割され同時に複数の指揮下の機体及び目標の情報が表示されたモニターの画面を見つめながら、長い金髪を掻き揚げる。
「ランドウォリアーの唯一の弱点はその稼働時間の短さ。
戦線の重要な局面に投入され、短期にその性能を最大限に発揮して突破口を開くのが役割の局地戦兵器。
でも、大電力を必要とする電磁噴射推進ブースターや電磁防御装甲は燃費が悪すぎるから、それを補って継続的な運用を行うには絶えず補給支援を受ける必要があり、支援部隊を引き連れて行動するのはランドウォリアーの長所の一つである機動性を殺すことになるわ。
そのあたりが、突撃機や強襲機のネックになるけれど、私たちの砲撃機だけは別。
迅速な陣地転換は砲兵の必須能力だけど、でも彼女達よりは支援部隊と協同しながら戦場を移動することができるのが強みね」
そう言ってふふっと含み笑いを漏らすアーデルハイトや他の砲撃支援班の機体の周囲は多数のワーカードローンが大型の各種砲弾を運びながら行き交い、そしてそれに倍する数の輸送車両が整列し荷物を降ろしている。
急造ながらも野戦構築された砲兵陣地の外周では警備タレット型のドローンやドローン装甲車が護衛と全周警戒に当っており、さらにそれを三重に偵察や観測用のドローン、知性地雷ドローン等が取り囲んで布陣している。
それらの防備に囲まれ、イェーガータイプの砲撃機5機が空に向かって両腕に装着された巨大な砲身から大気を震わす強烈な轟音と共に砲撃を絶えず繰り返していた。
『フォックストロット12への砲撃、最終弾だんちゃーく、今ー。 陸軍基地施設っぽいものは完全に更地になったよー。 お疲れ様ー。 休憩入りまーす』
「ダメよ。 次はデルタ19を移動中のトラック車列を砲撃して」
サボりたがるディーテルマに、いつも笑顔を絶やさないアーデルハイトはすかさず次の攻撃目標を指定する。
モニター表示ごしのディーテルマの表情はうんざりといった感じで不平をたれた。
『ヤダもー、休みたーい。 もう何百発も撃ち続けてるじゃないのさー。 ずっとコクピットに居たらエコノミー症候群になっちゃうー』
「文句言わずに命令には従わなきゃダメよ? 統制官に尽くし奉仕しこれを支援するのが私たち砲撃支援班の存在意義なのだから」
そう言ってにこやかに微笑むアーデルハイトに、ディーテルマは三つ編みにした自分の髪の先を指で弄りながら「へいへいわかりましたよー」とぶつくさ言いながらも従った。
次に報告を入れたのはブリートヒルトだった。
『ドーラ5への化学工場施設、完全消滅させました。 ディーテルマさんのところに差し入れ持って行ってもいいですか!』
「ダメよ。 まだドーラ8とドーラ9の目標破壊が終わってないでしょ? それにディーテルマはお仕事中。 邪魔しないの」
アーデルハイトが即座に却下すると、ブリートヒルトは残念そうに肩を落とし頭を垂れた。
『ディーティルマさんとコクピットでコーラ飲みたかったのに……クーラーボックスに入れて沢山持ってきたんですよう』
「狭い操縦席に二人も入れないでしょ? あと遠足じゃないのだから、後にしてね? お願いだから」
基本一人乗りのランドウォリアーのコクピット内にどうやって二人で座るつもりなのだろう。
ディーティルマの膝の上にでもブリートヒルトは腰掛けるつもりなのだろうか。
とかく普段からディーティルマに絡みたがるブリートヒルトの悪癖に呆れ、アーデルハイトの笑みが苦笑に変わった。
『ところでアーデルハイトさん! 歩兵直協はしないのでしょうか!』
唐突に声を上げたのはヴォルフグントだ。
目をキラキラ輝かせてモニター越しにアーデルハイトを見つめてくる。
数秒の沈黙と見つめあいの後、アーデルハイトはニッコリ笑って突っ込んだ。
「うちに歩兵部隊は居ませんよ?」
『でも砲兵と言ったら歩兵支援ですよね! 突撃砲は砲兵の管轄ですから前線に進出して直射で敵のトーチカとか戦車とか撃破しましょう!
互いに砲火交える熱い戦場が私を呼んでいるぅー!!』
……何を寝言ほざいてんだこの嫁ぎ遅れBBA、とは声に出さず、アーデルハイトは心の中でだけヴォルフグントに突っ込んだ。
BBAと言ってもヴォルフグントが年齢的に相当いっているというわけではなく、<YUKARI>が設定したアバターボディの外見がいかにもそういう雰囲気の、キャリアウーマンっぽい大人の女性だけどそれがかえって男運のなさそうな独身アラサーのありがちなキャラにも見えてしまうというだけのレッテル貼りなのだが、実際彼女の中身と発言内容の残念さはもしローレライ同盟に所属する同僚に男性が居たら敬遠されそうだな、とはアーデルハイトは思っている。
別に<YUKARI>がそこまで深く設定を考えてキャラ構築したわけではないのだが、しかし結果としてヴォルフグントはこのような性格の残念系になっていた。
……話を戻すと、たしかにそういう運用も砲撃機はやらないわけではない。
本来ランドウォリアーの基本タイプは四脚型であり、二脚型やタンク型等の各種形態はその派生タイプである。
タンク型の出現前は電磁防御装甲の圧倒的防御力を全面に押し出し、大口径大火力の武装で他の陸上兵器を圧倒する新時代の戦車的役割を果たしていた時期もあった。
現在もそのような運用をしないわけではないが、それはランドウォリアー同士が激突する状況に置いて突撃機が直接火力支援を必要とするときに随伴するのみである。
「いいから指示にしたがってください、ヴォルフグントさん」
モニターに顔を近づけ、有無を言わせぬ笑顔の迫力でアーデルハイトは強引にヴォルフグントを黙らせた。
なんでこの突撃したがり屋は砲撃支援班に配備されているんですか?と脳内で<YUKARI>に尋ねるが、もちろん答えは返ってこない。
『チャーリー21移動中の車両部隊、軽車両は始末したけど装甲車への多目的散弾砲撃が効果薄いぞコルァ。 何両か生き残ってるオルァ』
ボソボソとした声量の小さな喋り方でベルティルトからの報告が入る。
多目的散弾とは、対人・対ソフトスキン目標に使用される榴弾の一種であり、砲弾に内蔵された数十発の子弾それぞれが目標を認識・自己誘導するマイクロミサイルとなっている。
これに狙われた場合、例え歩兵が遮蔽物に身を隠していようとも子弾はその遮蔽物を迂回して目標に命中するという凶悪な殺戮兵器だ。
しかし、一定以上の装甲を持つ目標には向かない。
「装甲車なんだから当たり前でしょう……? はやく衝撃波榴弾や焼却重砲弾に切り替えて」
『了解だオルァ』
相変わらず小さな声で素直に指示に従うベルティルドだが、アーデルハイトはそのくらい自分で判断して欲しい、と笑顔をヒクヒク引きつらせながら思う。
命令に従順すぎるのも考え物だ。 弾種切り替えまでイチイチ指示を仰がないといけないのか。
あとその妙な語尾はどういうキャラ付けだ。
ボソボソ喋るから大人しい子なのかそれともオラオラ系なのかよくわからない。
砲撃支援班は難のある問題児だらけだ、とアーデルハイトは内心でため息を付く。
これだから自分が全て統率・管理しなきゃならない部隊になってしまうのだ。
そして、頭痛の種がもう一つ。
「シュヴァンヴァイスさん、砲撃は完了したのですか?」
先ほどから1機だけ、砲撃の手が止まっている機体があった。
シュヴァンヴァイスの乗るその砲撃機は右腕に射程200kmを誇る電磁投射砲、左腕に長距離MLRSを装備している。
だがそのどちらも、今は砲口を地面に向けて垂れ下がっている。
「……納得できないの。 これは本当に統制官の意思によるものなの?」
コクピット内で足を組んでシートに腰掛けながらそう返答するシュヴァンヴァイスのモニターには前進観測ドローンから送られてくる、民族的なデザイン衣装を持つコンクリート建造物の立ち並ぶ都市が映し出されてきた。
旧ルナーダウン、現正統ヒメリア神聖国の首都となっている人口20万人の都市St.ヒメリアである。
都市の中央にそびえる巨大な聖堂は彼らの崇める守護天使、聖ヒメリアのために建築された歴史あるランドマークでもある。
そしてここには正統ヒメリア神聖国の政庁も置かれている。
「統制官は彼らを私たちの、友好関係を結ぶことが出来ない敵と判断し、これの殲滅をシュヴァンたちは命じられたの。
でも、それは宗教・思想的な理由から他者を弾圧する対話拒否主義者であり、彼らの虐殺行為を看過できなかったからなの。
統制官は協和思想的義憤から虐殺阻止を命じたのであって、私たちが彼らを、虐殺行為と直接関係のない一般人を虐殺によって報復せよと命じたのではないとシュヴァンは解釈するの。
都市攻撃は統制官の意図には含まれてない可能性を担当班長に上申するの」
シュヴァンヴァイスは操縦レバーを右手の人差し指でコツコツと叩きながら命令への異議を表明した。
同時に、薄紫に薄桃色のメッシュが入ったショートヘアーの前髪を左手で神経質そうに弄る。
モニター上に表示されるアーデルハイトの笑みが一層にこやかなものになった。
『シュヴァンヴァイスさんは統制官のことをよくご理解し、そのお気持ちを常に考えているのですね。
……それで、貴女の命令解釈が抗命の正当な理由になるとでもおっしゃるのですか?
統制官は敵の殲滅を私たちに命じになりました。
敵とは対話拒否主義者であり、反協和思想主義者であり、共存することの出来ない思想を持つ全てのもののことです。
そこに、戦闘実行者と一般構成員の区別はありはしません。
これまでの私たちの戦いも、何度もそうした反協和思想主義者を拠点や都市ごと殲滅させてきたではありませんか?
撃ちなさい、シュヴァンヴァイスさん。 これ以上のサボタージュを反乱行為と判断されないうちに』
アーデルハイトは強い口調で再度の命令通告を行った。
砲撃支援班の存在意義は、<YUKARI>がいつでも望むときに即座に目標へと重砲撃を雨あられと叩き込み、支援することである。
それは何よりも優先されるし、統制官である<YUKARI>が設定した攻撃目標は絶対である。
彼女達が目標を違える事などあってはならないし、撃ち漏らすことや目標を外すことなどさらにあってはならない。
彼女達はそういう風に思考するように創られたのだから。
モニター越しにアーデルハイトとシュヴァンヴァイスの視線が激突する。
しかし、ものの数秒と立たずシュヴァンヴァイスは視線を逸らし、組んでいた足を戻してシートに座りなおした。
「わかったの。 シュヴァンはこれより命令に従い、都市への重砲による殲滅を遂行するの」
シュヴァンヴァイスがそう言って操縦レバーを握り、コンソールパネルを操作して各種の安全装置を解除、長遠距離攻撃の目標座標データをロードし始めると、アーデルハイトはこれ以上は無いというくらいの穏やかで満足そうな笑みを浮かべた。
『そう、素直でいい子ですねシュヴァンヴァイスさん。 統制官に後で褒めてもらいましょうね』
そう言うと、アーデルハイトからの通信は一旦切れた。
シュヴァンヴァイスは小さく一つため息を付くと、操縦レバーを握りなおし、そして自機に装備された武装のトリガーのセーフティを外す。
あとは、これを引くだけ。
重砲と多弾頭都市破壊ロケットの雨があの都市に住んでいる20万人の命を奪い、建造物を破壊し、何もかも焼き尽くして瓦礫と砂と灰に変えてしまうだろう。
「後で統制官に怒られてもシュヴァンは知ーらないの。 全部アーデルハイトが悪いの」
責任転嫁とも諦観とも取れる呟きを口にし、シュヴァンヴァイスはトリガーを引いた。
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