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第5話 前半

この作品は、実在の国家・民族・組織・民族・思想・人物とは何の関係もありません

 町のあちこちから立ち上る黒い炎。

 戦車に粉砕されて瓦礫になった家屋。 銃撃を受けて穴だらけになった自動車。

 運ばれ、積み上げられる死体や、穴の中に放り込まれる死体。

 木に吊るされる死体。 女の人や子供達の死体。

 首を切られたもの、胸から血を流して倒れているもの、腹部が裂けて臓物を露出させているもの、足を撃たれ、這って何かに手を伸ばした状態で事切れているもの。

 通りという通りに、辻という辻に、無残に殺された人々の死体が溢れ返っている。

 そしてその凄惨な光景を作り出した者たちは、武装し、車両を乗り回し、今も生きている哀れな人々を追い、そして犠牲者の列に加えていく。

 戦闘でも戦争でもない、原始的で野蛮な虐殺行為だけがそこにあった。


「嘘でしょ……なんで、なんでこんな事するのよ。 武器も持っていない民間人じゃない!」


 ウーシーが叫ぶ。 メインスクリーンに映し出される光景に、殺戮者の行為の意味の理解できなさに困惑と憤りを彼女は覚えていた。

 誰かの声を殺したすすり泣きも聞こえる。 多分ウルズラでしょう。

 シュフティは絶句して声も出せないが、その肩は震えている。

 その中でウルリーケだけが、勤めて冷静な声でボクに報告した。


「当該地域に関する情報抽出が完了したよ。

 W-4区域、現地名ルナードウンは合計18の民族が混在して居住している地域で、主要な信仰はアーカダイア教ヒメリア派。

 融和と衝突を繰り返しつつも、各民族は一応共存してきた歴史を持つようだ。

 だが、ここ10年ほど前からヒメリア派の最大勢力民族であるアーテラル族が、非ヒメリア派に属する少数民族や自分たちに賛同しない民族に対する弾圧を開始した。

 アーテラル族の主張では自分たちの教義解釈こそがヒメリア派の正統であり、他の宗派や異なる解釈を持つものは非主流派の異端である、これらを地上から一掃しなければ自分たちの民族と宗派は失われ、正しい教えは永遠に失われる……などとして、近隣の諸部族や国家にも攻撃を開始している。

 これに対し、惑星文明の有力国家連合である大陸国家連合(U C N)エウラ共同体機構(E C O)はアーテラル族に対する制裁決議と弾圧されている少数民族の救助を開始したが、三番目の有力国家連合でルナードウンに国境を接する大オーセア連合(A G O)とUCN・ECOとの外交関係が良好ではなく、その警戒と必要以上の刺激を避けるために最低限の介入しかできていない。

 大国が手をこまねいているうちに本来の政府と政府軍の壊滅したルナードウンは実質的にアーテラル族が占拠し、彼らは正統ヒメリア神聖国を名乗っているよ。

 ……ふざけた話だね」


 冷静であろうとするウルリーケも、読み上げるうちにアーテラル族への不快さと苛立ちが募り、最後の方の言葉は忌々しげに吐き捨てた。

 わかるよ、ボクも同じ気分だから。

 民族主義だとか、宗教対立だとか、そんなものはボクの生まれてくる前に全て無くなった。

 そうなるまでの間に一体どれだけ無意味な血が流れてきたことか。

 民族の血統なんてものは、ルーツを同じくする仲間同士の一体感や絆、相互の親愛の感情を補強するためのものでしかない。

 宗教だって、神様というボクらを見守ってくれてる親のような存在が居るとして、それを信じたほうが何となく気分がいいってだけ、寂しくないよって幸せな気持ちになるためのものでしかない。

 それを、自分以外の何かを排除するための便利な錦の御旗にしていいものではない。

 にも拘らず、歴史上多くの人々が民族や宗教を掲げて互いに殺し合ってきた。

 何千年ものくだらない愚行の積み重ねの果てに、ようやく他の思想や価値観の違いで戦争し合わなくていい時代を迎えたのが地球の歴史だ。

 だというのに、この惑星には未だ大昔の野蛮な原始人の価値観で戦争している連中が居るのか?

 全部教育プログラムの受け売りでしかないけれど、でもその実際の光景を見てみるとこの光景と、それを行う人間の愚かさがはっきりわかる。

 ボクは、どうしようもなく腹が立った。

 どうして、今更こんなものを見なきゃならないんだよ?

 こんな価値観と文明の遅れた相手なんかに「話し合いで」交渉を求める?

 いったいそれになんの意味や必要性が?


「……こんなやつらとは、少なくともこのアーテラル族とかいう原住民とは、ボクは仲良く話し合いをしたいとは思わない」


 そう言いながら、ボクは自分の席のコンソールを操作し始めた。

 艦載機一覧のメニューが表示され、格納庫に現在収納されている突入戦闘機(エアーダイバー)気圏戦闘機(スカイダンサー)降下揚陸船(ドロップシップ)などの一覧がずらっと並ぶ。

 指を動かして一覧を下の方に動かしていくと、隣に立っているロザリンドが尋ねてくる。


「では、この地域も候補地の選択肢から外すということですの?」


「いいや」


 操作を続けながらボクは答える。

 一覧から降下揚陸船(ドロップシップ)を選択するとステータスが表示された。

 現在、4隻が「待機」状態にある。 ボクはその中から1号船を選択した。

 表示が「発進準備」に切り替わり、メインエンジンに火がともる。

 同時に、揚陸戦闘準備を意味するブザーと共にブリッジ内の照明の色が切り替わった。


「こいつらは、滅ぼす。 ムカつくからだ。 こんな奴らと平和に交渉しようだなんて考えてたボクが浅はかだった」


 そう、こいつらは「話し合い」以前の問題だ。 文明的な行為を行う水準に到達してない。

 Dialogus est quod ducit ad pacem……対話こそが平和に繋がる。 でもそれは「対話に応じる奴だったら」って話だ。

 応じない奴が居たから、それを滅ぼして成立したのが汎人類協和思想圏なんだ。

 こっちに話をする気があったって、まず話しが通じない奴は対話のテーブルにつくことができない。 無意味なことだ。

 対等の水準に到達してない原始文明人なんかにまで配慮してやる必要はどこにも無い。

 すると、ボクの言った事が何か意外だったのか、ロザリンドは目を丸くしてボクの顔を見つめた。

 でもすぐに、ニッコリ笑って普段……というか、通常通りの表情設定された彼女に戻る。


「拝命したしましたわ、統制官。 全艦に通達、これより惑星降下揚陸作戦を開始します。

 パイロットは格納庫(ハンガー)へ召集、5分以内に降下揚陸船(ドロップシップ)を発進可能にしてください」


 ロザリンドの指示でブリッジクルーが艦内への伝達と突入角度の計算を開始する。

 ツィルベルタが、より詳細な指示を求めてボクに尋ねて来た。


「戦闘班員は全て出撃、ということでよろしいでしょうか?」


「うん……ラーズグリーズは重機動兵器の輸送と組み立てが間に合わないから、今回は除外で。

 機動打撃班、砲撃支援班、主力打撃班は個別に小隊を構成させ、ヴァルトラウトとアイルトルートは今回はボクの小隊に付ける。

 ランドウォリアーの武装は、今回は近接戦装備は要らない。 ボクの「ブリュンヒルト」も掃討用装備に換装。

 アイルトルート、現在操作中の偵察(リコン)ドローンは自動モードで偵察を継続させ、ボクらの気圏突入後は航空支援班に移管。

 航空機は通常編成A、戦闘車両および支援車両は連隊戦闘団編成Cで揚陸する。

 降下開始より24時間以内に全地域を制圧する。

 殲滅戦だ」




 秒速8kmの速度で気圏突入を果たした全長600m、翼幅800mの三角形のシルエットを持つ降下揚陸船(ドロップシップ)の周囲には一個飛行隊16機の突入戦闘機(エアーダイバー)を護衛として周囲に引き連れており、上層大気との摩擦で生じた光を目撃した人が居れば、大きな親流星が他の複数の子流星を伴った流星群のように見えただろう。

 突入戦闘機(エアーダイバー)は軌道上から投入され、惑星地表を空爆したりこのような降下揚陸船(ドロップシップ)の突入時に制空支援を行うことを目的とした航空機で、その多くはドローン化されている。

 これは、降下後の作戦地域に友軍の航空基地が近隣に存在しない場合、燃料切れになったときに自爆し廃棄するための仕様だ。

 そのために、突入戦闘機(エアーダイバー)にはランドウォリアーに使用している電磁防御装甲(EMFシールド)等のコスト高な技術は使用されていない。

 一方で軌道上から投入することのない一般的な運用をする航空機が気圏戦闘機(スカイダンサー)やヘリなどその他の航空機だ。

 こちらは地上の基地か、あるいは降下揚陸船(ドロップシップ)による揚陸後に野戦滑走路を設営してから運用する。

 とはいえ、結局ドローン化による利便性は高いのでこれも無人の遠隔かAIによる自動操縦が主で、必要になったら自爆して廃棄できるようにやはりコストの嵩む技術は使用されていない。

 いくら資源には困ることのない時代の戦争でも、相手よりも消費するリソースが少なくて単位時間当たりで1機でも多くの量をぶっ込める方が有利なことに変わりは無いから、「面」を担当する兵器は量産性を優先されるもなのだ。

 「点」を突破するために必要な性能を持つのは一部のそれ専用の兵器だけでいい。

 さて、……薀蓄はともかくとして降下揚陸船(ドロップシップ)は気圏突入を成功させ、現在は成層圏からゆっくりとW-4区域へ降下しつつ、対流圏に入ったらゆっくりと大きな弧を描いて旋回しながらさらに減速、着陸へのアプローチをかける。

 突入戦闘機(エアーダイバー)はともかく降下揚陸船(ドロップシップ)くらい大きいと確実に現地の空軍のレーダーに捉まっているだろうね。

 なんとか隕石、それも地表に落ちるまでに燃え尽きたってことで誤魔化せ……ないな。

 迎撃機(FI)が上がってきたら突入戦闘機(エアーダイバー)に任せよう。

 ボクはブリュンヒルトのメインモニターに表示される、降下揚陸船(ドロップシップ)の気圏突入状況のイメージモデルを見ながら通信装置をオンにすべく、ブカブカの耐Gパイロットスーツを着込んだ指先をコントロールパネルに伸ばした。


「ファティーマ、機動打撃班とボクの隊を降下揚陸船(ドロップシップ)着陸前に降下させる。

 高度10000mに到達したらハッチから投下。 突撃機(アタッカー)はそのまま敵施設への強襲を開始する」


『よろしいのですか? 航空支援班の援護なしで突撃機(アタッカー)を単独降下させるのはリスクが大きいですが……』


 降下揚陸船(ドロップシップ)の操縦制御を担当しているファティーマが、すこし戸惑ったような語調で聞き返してくる。

 航空支援班に所属する彼女の淑やかで柔和な声は耳に心地いい。


「構わない。 着陸と気圏戦闘機(スカイダンサー)の展開準備を待っていたら所属不明機(ボクたち)の領空侵入に気付いた現地勢力に対応させる余裕を与える。

 まず空軍戦力と防空システムを奇襲で叩く。

 その後に砲撃機(サポート)強襲機(アサルト)、航空機や支援車両の展開を急げ』


『了解しました。 突撃機(アタッカー)全機、下部ハッチに移動し降下準備に入ります』


 ファティーマの返答後、ブリュンヒルトの機体がガクンと揺れて移動し始めた。

 貨物室内で機体を固定している台座ごとレールで移送されているのだ。


『おい、統制官。 つまり俺たちは大暴れしていいってことだよな?』


 通信回線を開いて会話を聞いていたアデルグントが尋ねてくる。

 彼女の目が期待で輝いているのがわかった。

 ……やっぱり、表情とか感情とかゲームの時は「台詞テキストを読み上げるとき」しか変化しなかったけど、今は常に感情と人格がある存在だって感じがする。


「うん、迅速さが重要だから。 遠慮は要らないからまず最初の一撃で可能な限りここら一帯の航空基地および重要施設を掃討して」


『掃討? 制圧じゃなくてか』


 アデルグントがたずね返してきたので、ボクはそれにも構わないから破壊しちゃっていいと答えた。


「施設を制圧・占領している時間が惜しい。

 どうせ生産拠点とかが併設されたりはしてないだろうし、この惑星の技術水準じゃボクたちの兵器を生産することはできないし、何より工場がオートメーション化されてないから。

 だから施設をハッキングして掌握してから友軍ドローンを増産するいつもの手は使えない。

 そして降下揚陸船(ドロップシップ)から貨物を降ろしたり、滑走路を構築している時間さえ稼げれば……その間だけ敵の航空戦力に邪魔されなければ後は何とでもなるよ。

 機動打撃班はこれよりローレライ・アルファのコードを使用し、アデルグントが指揮をとれ」


 ボクはあえて、ボクの指揮で機動打撃班を率いるのではなく担当班長(アデルグント)に部隊指揮官として権限を与えて一任してみることにした。

 アデルグントはそれを受諾すると、嬉しそうに笑みを見せる。


『よっしゃあ! 俺の戦いを見せてやるぜ!』


 眩しい笑顔で叫ぶアデルグント。

 ……さて、果たしてどうなることか。

 |Dead Front 7《ゲームの中》では彼女達プレイヤー支援ドローンは一定の指示を与えればそれに沿うような行動は行うものの、その指示(タスク)を完了すると次の指示(タスク)を与えないと自発的に動いてはくれなかった。

 例えば目標Aを撃破したら、目標Bを攻撃するように次の指示を出すまでその場で待機するという風に。

 ただし、目標Aを威力偵察後に目標Bを攻撃し本隊の囮になれ、という指示を事前に与えていたり、待機中に目標Bから攻撃を受ければ自動的に応戦する、などの機能は備わっていた。

 そしてボクが弄るのは実際の交戦中の挙動、どのような戦術を取り、また敵の戦術に対応するのかという思考のロジックパターン部分だ。

 今まで見た感じでは、彼女たちは自分で自発的に考え、判断を下し、行動する能力があるように見える。

 ただそれがどこまでの水準で備わっているのか、それは見極めておきたい。

 ゲームでのように完全にボクが一つ一つ指示を出さなければならないのか、それとも指示無しでも完璧な自律思考が可能なのか。

 能力的な限界によるものなのか、マニュアルに従うという軍隊的な規律によるものなのか。

 指揮官として部隊を率いることができるのか、またそれはどのレベルまでの指揮官の……小隊単位が限界なのか、軍全体の行動を統制できるものなのか。

 もし、全てが上手く行くんだったら、彼女たちが人間と本当に同レベルかつ、本物の軍人として過不足ない能力を有しているなら、任せてもいいって安心できるなら。

 そしたらボクは、全部彼女達に任せて統制官席に座ってるだけでいい、かもしれない。 そう期待する。

 ……そうなってくれないかな……割とマジで……何か判断失敗して責められるの嫌だし。


『予定投下高度に到達しました。 ランドウォリアー、投下を開始いたします』


 貨物室内にブザーが鳴り響き、軽い振動が伝わった。

 下部ハッチが開かれ、機体が移動する。

 ボクは最後の確認を含めた指示を各機に伝達した。


「事前通達の通り、突撃機(アタッカー)各機はボクとアイルトルート、ヴァルトラウトの隊と機動打撃班(アルファ)の二個隊に分けて行動する。

 降下後、機動打撃班(アルファ)は敵軍事施設を優先して攻撃。

 砲撃支援班(ベータ)主力打撃班ガンマは揚陸完了後に支援部隊を伴って展開。 それぞれ担当班長の指揮で行動にあたれ。

 以上、では降下!」


 ボクが指示を終えると台座のロックが解除され、滑り落ちるようにブリュンヒルトの機体がハッチから自由落下した。




 数個のトレーラーと、牽引式のミサイルランチャーが電源や情報ケーブルで接続された移動型防空ミサイル装置が設置されているのは、旧ルナードウン政府軍軍唯一の空軍基地より40km離れた砂漠のド真ん中である。

 ミサイル本体とそのランチャー、電源装置、防空レーダー、指揮装置などがセットになった短距離防空システムとしてはそれほど珍しくもない性能とタイプのシステムをそれを管理する小隊は、主に最寄の基地の防備を担うために配備されている。

 しかしながら、通常この防空ミサイルが仕事を果たすことは殆どない。

 空軍基地はルナードウンという国……現在は正統ヒメリア神聖国と名を変えた地域の地理的事情から国内の中心付近に位置しており、国境から領空を侵犯して領土深くまで外国軍の航空機が侵入してくることなどまずありえないからだ。

 同様の防空ミサイルやレーダーは散発的な武力介入を試みるECO国境付近に多数配備されている。

 空軍基地を攻撃するにはこれらの防空網を突破してこなければならない。

 その防空レーダーが時速400kmでこちらに向かってくる飛翔体を唐突に捉え、指揮装置を載せたトレーラーの内部の座席で暇を持て余していたオペレーターを驚かせた。

 オペレーターは同様に休息を取っていた同僚を呼びつけるとすぐさま基地の防空司令部に報告するように命じ、すぐさま迎撃装置とミサイルランチャーを起動させる。

 飛翔体の数は、4。

 レーダーに映る影の大きさはヘリか小型航空機よりもさらに小さいが、ミサイルにしては遅い。

 かといってヘリにしては速過ぎる。

 加えて地形追随飛行(NOE)でもしてきたのか、かなりの距離に接近するまでレーダーが何の警告も発さなかった。

 これが単に鈍足なだけの巡航ミサイルならば、このまま空軍基地に向かって直進するのを許せば甚大な被害をこうむる。

 空軍基地からの返答は「近隣に友軍の航空機のフライト予定なし」。

 そして民間の軽飛行機の類などは今のこの国には一機も飛んでいない。

 オペレーターは即座に判断を下し、ミサイルの発射手順を開始した。

 もう飛翔体はミサイルが迎撃可能なかなりギリギリの距離に近づいているが、なんとか間に合うだろう。

 幾つかの安全装置の解除手順を手早くすませ、ミサイル発射のスイッチを押そうとしたその瞬間、猛烈なジェットエンジンのタービン音にも似た何かが接近してくる轟音とともにオペレーターは指揮トレーラーごと吹き飛ばされて爆死した。



「今更気付いても遅ーい! そっちはレーダーに映るように高度上げてる囮で本命は私たちなんだから!」


 指揮装置に続いてレーダー装置、ミサイルを120ミリ機関砲(オートキャノン)で掃射した金色のロングヘアーに大きな赤いリボンを結びつけた少女、ヴンシュマイトは楽しそうに叫んだ。

 耐衝撃緩和ゲルを充填したパイロットスーツに覆われていてわからないが、小柄な彼女の胸は外見年齢相応に平坦かつ、ヒップもキュッと引き締まった小尻だ。

 彼女の操る「M-9/疾風」は腰部の左右ブースターを前後に対象に偏向して吹かせることで機体をくるっとターンさせ、フィギュアスケートのようにスピンしつつ着地。

 青色の洋上迷彩が施された胴体の上に乗った小さな頭部の、青く発光する二つ並んだデュアルアイが周囲を睥睨し、破壊された防空ミサイルの残骸を捜査する。

 生命反応ならびに脅威度、ゼロ。

 上手く防空ミサイルを排除成功させたことに浮かれるヴンシュマイトだが、しかしアデルグントからは手際に厳しい評価が下った。


『撃たれるか撃たれないかギリギリだったじゃねえか、ヒヤヒヤさせんな。

 なんのために俺たちがわざと目立つように飛んで、お前たちを下から行かせてると思ってるんだ。

 遊んでないでさっさと合流して基地を制圧に向かえ』


「はーい……。 折角気分が乗ってたのにい」


 叱られ、頬をふくらませてぶすくれるヴンシュマイト。

 明らかに不満なのは、元々囮と攻撃を分ける必要があまり無いからだ。

 本気でレーダーに捉まりなくないのなら彼女がやったように地上数mという超低空をホバー飛行してくればいいのだし、あるいは接近しなくても遠距離からミサイル攻撃を加えればいい。

 そしてどのみち電磁防御装甲(シールド)があるのでミサイルの1発や2発当ったところで致命傷にはならない。

 ただし飛行中に被弾するとバランスが崩れてそのまま失速&墜落しかかることはあるし、この惑星の防空ミサイルの詳細な射程がわからないので、もしかしたらこちらの対地ミサイルの射程より長いかもしれない。

 わざとレーダーに引っかかるようにしつつ、ヴンシュマイトに気付かれないよう接近もさせいつでも攻撃できるようにしたのは敵のレーダー性能を測りたいという情報収集の側面が大きい。

 結局は今後のリスクを減らしたいために手間をかけているだけで、舐めプである。

 なので、ヴンシュマイトの任務遂行態度も「しょせん遊び」となる。


『でも、私たちの中じゃヴンシュマイトが一番早くて的確に攻撃できてましたから!』


 ヴンシュマイト機の隣に着地する機体に乗る、彼女と同じくらいの年齢だろう幼い声のエルフリーデが通信装置ごしに励ます。

 茶色っぽいショートヘアーで小動物めいた愛嬌のある顔立ちが底抜けに陽気な笑顔で笑っていた。

 彼女の機体もヴィンシュマイト機の同型で、灰色の航空迷彩が施されている。


『そうそう、それにまだ基地に配備されてる防空ミサイル(S A M)は残ってるでしょ?

 あとは対空砲とか。 どうせだからそれを誰が一番多く潰すか競争しちゃおうよ!』


『賛成ー! それじゃあ早いもの勝ちってことで』


 二人の機体のすぐ脇を、銀髪のシュテルンヒェンと黒髪のブリュームヒェンの乗る濃緑の機体が低空でフライパスして飛び去っていく。

 この二人もヴンシュマイトとそう変わらない年齢・体格の少女たちだ。


「あっずるーい! スピード競争だったら絶対負けないんだから!」


 ヴンシュマイトとエルフリーデもそれぞれブースターを噴射して空中に機体を浮かせ、メインブースターを全開にして敵空軍基地の方向へと加速する。

 先を行く二機からはイタズラっぽいはしゃぎ声と笑い声が通信装置越しに聞こえてきた。


『誘導レーザー警報検出ー。 歩兵の携帯用SAMかな? 光学撹乱膜(オプティカルチャフ)散布っ!』


 シュテルンヒェンの機体の肩部装甲の一部が開き、格納されているマルチランチャーから小型のロケット弾のようなものが射出、機体前方で爆発してキラキラと輝く粒子のようなものを撒き散らす。

 光の波長を乱してレーザー誘導や光学観測を妨害する欺瞞装置の一種である。

 しかし、地上から白煙を長い蛇の尾のように伸ばしながら上昇してきた対空ミサイルは目標を見失うことなくシュテルンヒェン機を追う。

 それを、後方から追従するブリュームヒェン機のマルチランチャーから発射された防御用迎撃レーザーが補足して破壊した。


『あれー? チャフ効いてないよー? 不良品?』


『たぶんだけど、ミサイルが画像識別誘導式じゃなくて単純な赤外線追尾で、機体の排熱やプラズマジェット検知して追尾してきたんじゃないかな?』


『ふーん、アナクロなんだ……じゃないか。 この惑星の文明レベルが微妙に遅れてるからってことね。

 チャフが効かないならアクティブ防御装置はオンにしとかなきゃ』


 そう言葉を交わしながら、二機は目前に迫った空軍基地へと高度を下げて接近する。

 白い尾を引くミサイルや対空砲火を掻い潜り、垂直に近い角度で降下、地面スレスレで逆噴射して地上を滑走、基地へと侵入を果たす。

 そして滑走路上で離陸を開始しようとしていた戦闘機を目ざとく見つけた。

 ちょうど、防空ミサイルからの通信が途絶したので基地防空のため緊急発進しようとした所だったのだ。

 肩部マルチランチャーから対地ミサイルが発射され、空に上がることもなく戦闘機は炎に包まれる。

 そして、基地の外周を旋回しながらオートキャノンで対空砲やSAMを一つ一つ潰して行った。


『あははは! ヴンシュマイトはどうしたの!? 遅いよー! 標的全部なくなっちゃうよ!』


 シュテルンヒェンが楽しそうに挑発を入れる。

 その数秒後、基地の管制塔と航空機格納庫が連続して吹き飛んで炎に包まれ、上空をヴンシュマイト機とエルフリーデ機がフライパスしていった。


「高得点目標は私たちが貰ったから、こっちの勝ちね!」


 ヴンシュマイトは真下に居るシュテルンヒェンに対して勝ち誇る。

 防空兵器が片付けられた後なので、悠々と高度を取って飛行できるし、安全に対地攻撃が可能であるという余裕を見せ付けていた。


『ちょっとぉ! そんなの最初のルールになかったでしょ!? ずるっこいの!』


 抗議するシュテルンヒェンに対しヴンシュマイトはモニター上のシュテルンヒェンにあかんべーをして見せる。

 そこに、アデルグントからの通信が入った。


『基地の制圧は全部終わったのか、お前ら。 20km北にロケット砲を積んだトラック車列を発見した、こっちはそれの排除に向かう。

 ちゃんと残さず掃除しておけよ』


「はーい。 言われなくても私はちゃんとやれるんだから」


『了解しました。 徹底的に破壊しておきます!』


『ヴンシュマイトがずるさえしなきゃ私一人ですぐ片付けちゃうから!』


『残ってるのは建物が幾つかと、燃料タンクとかですね。 終わったら合流します』


4人はそれぞれに返答をし、散開して残りの基地設備を破壊に向かった。

 


3月16日 後半部分を改訂

気圏突入からの地上攻撃の描写を追加し、元の部分は後の話に構成を移動させました

3月17日 再度改訂と追加をしました

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