□3□
エレベーターで1階まで下りた。正面玄関の自動ドアを出ると冷たい風がふいていた。
「うぉっ、寒い」
思わず声が出てしまった。そして、反射的に手をブレザーのポケットに素早くいれた。
昨日は、もっとポカポカしていてマフラーなんかいらなくても大丈夫だったのに、今日はとてつもなく寒い。
マフラー、取りに行こうかな
一瞬そう思ったが、面倒くさいと思いやめた。
仕方なくトボトボと学校に向かって歩き始めた。
俺の通っている学校は「城栄学園」という私立で中・高・大とエスカレーター式の学校の高等部。
ここから、10分ぐらい歩いたところにある。
この学校は、俺みたいな会社社長の息子とか、有名人、著名人とかの子供が半分である。
しかも、自分では実感してないけどとても頭がいい学校らしく県内でもトップクラスの進学率で少々学費も高いらしい。
横断歩道の信号が点滅し始めたのに気づき渡ろうと思い軽く走ったが間に合わなかった。
学年に、2、3人特体生がいるらしい。12月の今になってもクラスが多いせいか殆ど顔と名前が一致しない人が多い。特に女子とか。
多分俺は、卒業するまで全員一致しないと思う。
信号が青になった。
「お、おはよう。藤堂君」
黒と白の太いボーダーの暖かそうなマフラーを巻き、少し色素の薄いきれいな髪をサイドでくくった女子が急ぎ足で通りすぎて行った。
少し遅れて
「おはよう」
と俺も返した。チラッと顔は見えたが名前が分からなかった。
さっき「思う」と思っていたことが今、俺の中で変な「自信」に変わってしまった。
あー、名前覚えないとなー。
とても、実感してしまった。
なんだかんだ思っていると、向こうから野球部特有の低い声が聞こえてきた。
正面を見てみると、いつも通り正門に高級車が入っていくのが見えた。同じ制服を着た人たちも。
正面に正門があるというのに、左の細い路地に入った。ここは、裏門に行く路地なんだ。
なぜこっちを通るかって?
ま、俺にも事情があるんだよ。
「キャー!藤堂君!!」
背後から甲高い声が聞こえてきた。
ビクッっとして振り返ってみると、胸の前で手を合わせ目が異様に光っている女子がいた。
そのとたん、『えー!?うそ、うそー!!』『どこどこ?』と他の女子たちも集まってきた。
どいつもこいつも目を獲物を見つけたライオンのように光らせていた。
それを見た瞬間、ゾクっと全身に鳥肌が立ったのがわかった。
やばい。走らないと。
俺が走り出すよりもさきに後ろにいたメスライオン達が走ってきた。すぐそこまで迫ってきている。
身の危険を案じ、某陸上選手のように走り始めた。
角を右に曲がると、白い上品な校舎の外壁が見えてきた。裏門は今日は珍しく開いてなかった。
やべっ、どうしよ。
このまま、立ち止まったらモミクチャにされることが頭に浮かんだ。それだけは絶対にイヤである。
えーい、こうなったら手段はこうしかない!
俺は、某陸上選手のような(?)スピードを生かし、門にそのまま向かっていった。
門のまん前で右足を踏み切る。がしっと門を持ち体を斜めにして門のうえを越え。無事着地した。
門の向こうを見てみると、メスライオンたちはぽか〜んと口を開けて立っていた。
そして、口々に『きゃー!かっこいい!!』『もう一回見たい!!』とか騒ぎ始めた。
誰のせいでこうなったと思ってんだろ・・・・・・。
どっと疲れた気がした。
「はぁー」と深いため息をついて、俺は、その場をそそくさと立ち去った。