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*第8話*

 さて、何をすべきか。顎に手をあて、首をひねる。ローナは用事があるらしく、私がノノのお説教を受けている間に帰ってしまったので、ローナに相談することはできない。お説教の後にそれとなく、ノノに聞いてみたが「シェリル様が動くとろくなことにはなりませんから、大人しくしていて下さいませ」と言われた。相変わらず失礼な使用人ではあるが、ティーカップを割ってしまったこともあって何も言い返せなかった。ただ、もっと私に優しくなってくれてもいいと思う。


「うーーーん」


 近くのソファに腰掛け、さらに首をひねる。


 あーーー。もう疲れた。ソファにだらしなく寝そべる。ひんやりとしていて気持ちいい。こんなだらしない姿はノノにもみせられない。思わず笑いがこぼれた。


「やっぱり、シェイナスと話をするべきですかねぇ?」


 独り言のはずだった。


「僕に何の話があるの?」


 なんとドアの向こうから返事が返ってきたのだ。慌ててソファから身を起こす。


 シェ、シェイナスがなんでここに!?


 少し乱れてしまった髪を手櫛で急いで整える。シェイナスが来るなんて聞いてない! 3時間続くと思っていたノノのお説教が1時間で終わったのはこのせいか、と今更ながら気づく。


「シェリー、部屋に入れてくれる?」


「え、えぇ。もちろんですわ」


 私がソファから立ち上がってドアノブに手をかける前に、シェイナスが自らドアを開けた。


 え、ちょ、シェイナス?


 部屋に入ってきたシェイナスに突然抱きしめられる。声をあげなかった私を褒めてやりたい。なんだかシェイナスの様子がおかしいのだ。シェイナスが震えている?


「あぁ、シェリー」


「えっと、シェイナス? どうしたのです?」


「シェリー。シェリー」


 何度も何度も私の名前を呼ぶ。私を抱きしめる腕もどんどん強くなっていく。やはり様子がおかしい。


「シェイナス?」


「どうして? どうして君は僕を置いて帰ってしまったの?」


 うっ。


 シェイナスは私が最も苦手な顔をした。まるで世界でひとりぼっちになってしまったかのような悲し気な顔である。この顔をしたシェイナスに勝てたためしはない。


「……」


 無言で顔をそらす。ヒロインに嫉妬して帰ったなどとどうして言えようか。いや、言えない。


「シェリー」


 有無を言わさない口調で据わった目でシェイナスが私をじっと見ている。先ほどのしおらしいシェイナスはどこに行ったんだ。帰って来なさい。


「シェリー」


「……」


 負けない。今日は負けないんだから。決してシェイナスと目を合わせないように顔を横に背ける。


「約束したくせに」


 今度は拗ねた口調でシェイナスがこんな言葉を零した。このシェイナスにも私は弱い。知っててやっているのならシェイナスは相当の策士である。


 ん?


「約束?」

 

 私がそう言いながら、シェイナスの方へ顔を向けるとシェイナスは愕然としたような顔でこっちを見ていた。


「シェリーは忘れてしまったの? 僕が君を幸せにするって言った時に、君は僕を幸せにしてくれるって言ってくれたじゃないか」


 シェイナスは恨めしそうな目でこちらを見ているが、何故私は責められているのだろうか。だんだん腹が立ってきた。


「シェイナスは本当に私を幸せにしてくれるの?」


 思わず、声に出た。そして、シェイナスの腕から抜け出し、距離をとった。すると、どんどん言葉が溢れてくる。


「シェイナスは、ヒロイ……、カルラさんのことが好きなんでしょう? だからいつか私を捨てるくせに。私がこの数週間どんな気持ちで過ごして来たのかも知らないくせに、好き勝手に言って」


 言葉と共に涙が溢れてくる。この辺で思いとどまらなければ。シェイナスを振り向かせてみせるなどと決めた癖に、逆効果なことをしている。分かっているのに話すことがやめられない。


「私はっ! 私はこの世の誰よりもシェイナスを幸せにしたいと思っていますわ! 昔から! 約束をするよりもずっと前からシェイナスが好きでしたわ!」


「私は本気でシェイナスを幸せにするつもりでいた! シェイナスは約束を覚えているのか分からなかったけれど、私は約束を守ろうと頑張ったわ! 苦しかった! 辛かった!」


 こんなことを言っても仕方がないのは分かっている。

 

「なのに、シェイナスは約束を利用して……。ねぇ、シェイナス。私をどうしたいの?」


 あ、やばい。終わった。


 表情だけはなんとか取り繕ってはいるが、心の中は後悔の嵐である。


「……」


 沈黙が痛い。もう、これで見納めかもしれない。逆に開き直った私は心の中にシェイナスの姿を刻み込もうと、顔をあげる。そして、固まった。


 シェイナスが頬を赤くして、私をがっつり見ていた。色気の溢れるうっとりとした表情で。


 え? シェイナスってまさか、あの、いわゆるMとか呼ばれる特殊な嗜こ……ゲフンゲフン


「ねぇ、シェリー。もう一回言って?」


 頬を赤く染めたシェイナスはゆっくりと私に近づいてきた。シェイナスが呆然として動けない私の頬に手を添えたところで我に帰る。ん? シェイナスに罵れって言われてる?


「え?」


「ねぇ、シェリー。ずっと僕のことが好きだった? もう一回言って?」


「え?」


 そんな雰囲気だったっけ?


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