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願いの杖  作者: 織野真鈴
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愛無

あたしの名前は加藤愛無かとうあいな。

14歳中学二年生。

あたしの家族はおばあちゃんとおじいちゃんだけ。お母さんもお父さんもいない。

不思議に思ったことはあった。でもおじいちゃんもおばあちゃんも何も話してくれない。


そんなときあたしは中学校の校外学習でスカイツリーを訪れた。そしてその時誰かにぶつかったあたしは、衝撃を受けることになる。


それは着ているものは違かったが、間違いなくあたしだった。


あたしと同じ姿をした彼女は目を丸くして絶句していた。あたしも同じように絶句してると、あたしの友達が「愛無あいな?どうしたの?」と声をかけた。彼女の友達も「まなむ?行くよー」と声をかけた。


「まなむ?」あたしはとっさに彼女の名前をつぶやいた。するとあたしの友達が「え?

愛無あいなが二人?」と驚いてやってきた。彼女の友達も「まなむ?双子だったの?」とびっくりしている。


あたしはとにかく何か喋らないといけないと感じ、「あたしは加藤愛無あいな。14歳中学二年生。あなたは?」とかすれた声で聞いた。彼女は身を起こし「私は黒崎まなむ。同じく中学二年生。都内の私立檜山中学の学生よ。」と答えてくれた。二人ともどうにかしてこの場を丸くおさめたくて、見つめあった。するとまなむは一枚の紙をカバンから取り出してさらさらとボールペンで何かを書いた。そしてあたしにその紙を渡して「あなたが偶然私に似てるとは思えないわ。よかったらあとで連絡して。」と言って友達とともにその場を去った。


あたしはまなむの後ろ姿を見つめ、紙をみた。そのとたん、再び驚いた。紙には黒崎愛無と彼女の名前とメールアドレスと電話番号が書かれていた。『嘘。あたしとまなむって読み方は違うけど、同じ名前なんだ』


あたしは疲れてベットに横になりながらまなむのくれた紙を眺めていた。あたし達双子なのかな。あたしにきょうだいがいたなんて。あたしは嬉しいような悲しいような気持ちになった。


「愛無あいな?具合でも悪いの?」

おばあちゃんが食の進まないあたしの方をみて怪訝な顔をした。あたしは急いでごはんを食べ始めた。

「ね、ねぇおばあちゃん。あたしのお母さんの話もう一回して?」

あたしはおばあちゃんを見つめた。

「あなたのお母さん?だから私もよくわからないけど、最後に会ったのは14歳の夏だったわ。前も言ったけど名前は輝沙っていったわ。事件の3日後病院を抜け出してそれから行方不明になったの。あなたはその四年後玄関のところに手紙と一緒に置かれていたのよ」おばあちゃんは面倒臭そうな顔をすると、流しに自分のお茶碗を持って行って洗い始めた。

「ね、おばあちゃんはあたしのお父さんのこと知らないんだよね?」あたしはしゃけの切り身を食べながら聞いた。

「見たこともないわ。だいたい輝沙には友達があまりいなかったもの。暗い子だったからね。その輝沙が子どもを産んだなんて信じられなくて、あたしたちはあなたを連れて病院に行ったの。そしたら間違いなくあなた達の孫ですって言われたから、あなたを育てることにしたの」おばあちゃんはため息まじりに答えた。


その時あたしはふと『まなむにもお母さんとお父さんいないんじゃないかしら』と思った。あたしは「ごちそうさま」と言って箸を置くと、一目散に自分の部屋へ向かった。「えーと黒崎まなむ様っと」あたしは携帯を片手にメールを打ち始めた。「こんばんは。加藤愛無あいなです。あたし達の名前って読み方が違うけど同じなんだね。びっくりしました。まなむはあたしのこと知りたくないかもしれないけど、あたしはまなむのことが知りたい。あたしにはお母さんとお父さんがおらず、おじいちゃんとおばあちゃんと暮らしています。まなむにはお母さんやお父さんはいますか? あいな」と打つと、早速送信した。まなむの返事は10分後に帰ってきた。「嘘!同じ名前!?今気づいたわ。すごい!あたしもおじいちゃんとおばあちゃんに育ててもらっているわ。私たちきっと双子なんだわ。だって、こんなにも同じなんですもの。早くもう一度あなたに会いたい。 まなむ」


あたしは涙が出てきた。まなむにもやっぱりお父さんとお母さんはいなかった。同じ思いをしているあたしのきょうだい。急にまなむに会いたくなってきた。「あたしも、あたしもあなたに会いたいわ。まなむ。あなたはもしかしてお父さん側のおじいちゃんとおばあちゃんの家で暮らしているんじゃない?私達のお母さんは輝沙と言うのよ。知っていた? あいな」あたしは早くお父さんのことが知りたくなってきた。五分もたたずにまなむから返信がきた。「それじゃ私達は母側の両親と父側の両親に育てられているってことね。お父さんの名前は黒崎省吾よ。夏川高校の一年生だったわ。16歳の時に謎のメモとともに家を出たらしいわ。お母さんも家を出たの?ねぇあいな。 まなむ」まなむはとにかく自分のことを知りたくてしょうがない感じだ。あいなは携帯を持ち直して続きを打ち始めた。


「お母さんはね、事件にあったのよ。まなむ。クラスで授業を受けてたら、謎の光に包まれてお母さん以外はみんな再起不能か、死んでしまったの。お母さんは助かって病院に運ばれたのだけど、その後病院から消えて、2度と戻ってこなかったって話をおばあちゃんから聞いたわ。警察にも協力してもらったけど、見つからなかったらしいわ。きっとお母さんは何か事件に巻き込まれたんだわ。お父さんは事件とは関係ないのかしら。あいな」あいなはずっと思っていたことがあった。自分は望まれて生まれてきたのではないのではないか。名前も愛が無いと書くし、親もいない。お母さんは誰かに襲われて自分を仕方なく産んだんじゃないか。まなむに悟られたくないという気持ちとこの気持ちをまなむと共有したいという思いがせめぎ合い、悟られたくないという気持ちが勝った。


まなむから「私は何も知らないけれど、その可能性は高いわね。お父さんは考古学が大好きでよく偶然知り合った大学の教授と発掘してたらしいわ。これもなんか関係あるのかしら。 まなむ」あいなは考古学がなんだかよくわからなかった。とにかく遺跡とか古墳のイメージがわきあがった。あいなは考古学についてはよく知らないものの、遺跡や古墳など重要文化財が大好きだった。その話を聞いて、自分はお母さんよりもお父さんに似てる気がした。あいなは小さい頃からずっと「あなたはお母さんとは全然違うわ。お母さんは暗くて真面目だったけど、あなたは明るくて適当だわ」とおばあちゃんにいわれていた。そんなことが頭をよぎり、携帯を手に取った。「ねぇまなむ。話が変わるけど、あなた暗くて真面目か、明るくて適当って言われたことない? あいな」あいなはまなむの様子を思い返していた。『まなむはどっちかと言うと真面目な感じだよな』あいなは寝そうになりながらまなむの返事を待った。


5分ほどして携帯が震えた。あいなは消えそうな意識のなかで携帯をつかんだ。「そうねぇ。おばあちゃんにはお父さんと違ってネガティブで真面目すぎるとはよく言われるわね。どうして? まなむ」あいなは「やっぱり」と言うと、携帯を打ち始めた。「まなむはきっとお母さん似なんだわ。だって私とは全然ちがうもの。私はたぶんお父さん似なのよ。 あいな」打ち終わった瞬間にあいなは眠ってしまった。起きるとまなむから返信が来ていた。「お母さんは暗かったのね。私もよく言われるわ。こんな自分がずっと大嫌いだった。お母さんもきっとそう思っていたんだわ。あぁあいな!私お母さんに会いたいわ。まなむ」あいなはまなむのメールを見てお母さんを想像した。『お母さん…。現実的で真面目で、常に自分が大嫌いだったって言ってたわね、おばあちゃん。もしそれが原因でお母さんがいなくなってしまったなら、私はまなむだけでも救ってあげたい』あいなはまなむを愛おしく思った。


まなむもあいなが眠った少しあとに眠りについた。まなむはおばあちゃんとおじいちゃんがあいなの存在を知ったら喜ぶだろうなぁと思った。しかし同時にお父さんに似たあいなが現れたことで、自分の居場所がなくなってしまう不安にかられた。まなむは携帯をぎゅっとにぎりしめた。そしておばあちゃんからもらった父の写真を見つめた。「お父さん、私達これからどうなるの」その写真には軽く微笑んだ省吾がいた。


まなむは次の日、あいなのことをおばあちゃんに話すためにおばあちゃんを居間へ呼び寄せた。おばあちゃんは怪訝な表情をして座っていた。「まなむ、何の話なの?」おばあちゃんはまなむを真っ直ぐ見据えた。まなむは勢いで、「私双子だったの。お母さんがわかったの」と言い放った。おばあちゃんは「どういうこと?」とつぶやいた。「この間行った校外学習で私と同じ姿をした女の子にであったの。あいなという名前よ」まなむはおばあちゃんが持っていたマグカップを落としたので、それを拾った。「まなむは双子だったの?そんなこと考えたこともなかったわ。そのあいなさんという子は今どうしてるの?まなむはどう思ってるの。その子のこと」おばあちゃんはまなむがマグカップを渡すとそれを机に置き直した。「一緒に暮らしたいと思ってるわ。私のたった一人のきょうだいなのよ。あいなは母側のおばあちゃんとおじいちゃんのところにいるの」まなむはおばあちゃんがショックでおかしくならないか、心配しながら伝えた。「それなら、あなたのお母さんがわかったってことね。お母さんはなんという名前なの」おばあちゃんは身震いしながら聞いた。「加藤輝沙よ。お父さんより二つ年下よ」まなむはおばあちゃんが震えてるので、おばあちゃんに「大丈夫?」と言いながら伝えた。おばあちゃんは震えが止まると、「明日あいなさんのお家に行きましょう」と言った。まなむはびっくりした。「あ、明日?一週間後とかじゃだめ?」「省吾のことが何かわかるかもしれないわ」おばあちゃんは立ち上がってまなむに「明日までに住所と最寄り駅を聞いておいて。疲れたからもう寝るわ」といって部屋に入ってしまった。まなむは「おば、おばあちゃん!」と言っておばあちゃんの部屋のドアを見つめた。


まなむは急いであいなにメールした。「あいなごめん。明日あいなのうちに行くことはできる?おばあちゃんがどうしても行くっていってるんだけど。 まなむ」あいなはベッドから飛び起きてリビングに走った。「おばあちゃん!お母さんのことで話があるんだけど!」あいなはおばあちゃんの前に一目散に座るとおばあちゃんに自分の携帯を渡した。おばあちゃんは「あいな?携帯と輝沙に何の関係が?」と言うと携帯のメールに目を通した。読み終わると絶句したあと、おばあちゃんはあいなを見つめた。「このまなむさんって人本当なの?うそでしょ?」おばあちゃんはあいなの返事を待った。「本当よ。お父さんもいないけど、お父さんの実家とあたしのきょうだいがわかったの」まなむは真剣な眼差しでおばあちゃんを見た。おばあちゃんは「わかったわ。明日の18時にお出迎えしましょう。あいな、まなむさんと話をつけておいて」と言うと、少しふらつきながらリビングをでた。あいなはおばあちゃんが心配になった。


「まなむ。おばあちゃんが明日の18時にうちに来てくださいだって。あたしのうちは神奈川県相模原市岬台31-42よ。岬台駅に17時45分に迎えに行くわ。あいな」あいなはメールを打ち終わるとベッドに横になりため息をついた。「お母さん、お父さん。あたし達どうして離れて暮らしていたのかしら。二人とも今生きているの?」そうつぶやくと眠りについた。


朝日が差し込んできて、目を開けると部屋にはおばあちゃんがいた。「あいな、まなむさんと話はついたの?早く起きなさい」おばあちゃんの瞼が腫れてるのに気づき、あいなはびっくりした。「あ、メール」携帯をとるとまなむから返信が来ていた。「了解。一応あいなの電話番号を教えて。 まなむ」あいなは携帯を手に取ると自分の携帯の電話番号を送って制服に手を伸ばした。おばあちゃんに「大丈夫だそうよ」と言うと、「よかったわ」と言って、おばあちゃんが部屋から出て行くのを見届けると、着替え始めた。


あいなは学校にいる間中まなむが来ることを考えてしまったため、授業に集中できなかった。先生に「加藤さん?今日は上の空だけど、どうしたの?」と聞かれてはっと我に帰ると「ちょっと考え事していました。すみません」と言った。先生は「加藤さんには期待してるんだから、頑張ってね」と笑って授業に戻った。


まなむは授業の間中、眠くてしょうがなかった。昨晩緊張しすぎて眠れなかったのだ。「黒崎さん疲れてるわね。大丈夫?」先生がこ声をかけると、「大丈夫です。昨日よく眠れなかったもので」まなむは目に涙をためながらノートを書いた。まなむは授業が終わると水道で顔を洗い、伸びをして、帰路に着いた。




あいなは授業が終わると一目散に自転車に乗り、家へ向かった。そしてまなむから連絡が来ると急いで岬台駅に向かった。岬台駅に着くと、改札にまなむを見つけた。「まなむ?」あいなが声をかけるとまなむと一緒のおばあちゃんはびっくりしてあいなを見つめた。「歩き方が省吾にそっくり」おばあちゃんが涙を流すとあいなはびっくりしてまなむを見つめた。三人で他愛ない話をしながら家まで歩くと、三人を家で待っていた母方のおばあちゃんはびっくりして二人の方へ駆けていった。「あなたがまなむさん?こんにちは輝沙の母の「加藤真智」です」と言った。それから父方のおばあちゃんと対面して「こんにちは。二人の母の輝沙の母の加藤です」と言うと、二人で涙をためて部屋へ入った。


四人で加藤家でご飯を食べていると、まなむの箸の変わったも持ち方を見て、輝沙の母は「まあ、輝沙と同じ持ち方だわ」と言って、まなむを見つめた。また省吾の母は「ごはんから食べるとところ、省吾と一緒ね」と言って嬉しそうにあいなを見た。


あいなとまなむは向かい合ってクスリと笑った。「私ずっとおばあちゃんに『お父さん似てない』って言われてそれが嫌だったの。お父さんに似てなくて誰にも似てないなら私はなんなんだろうって思っていたの。お母さんに似ているなんて夢にも思っていなかったわ」まなむは嬉しそうにあいなの隣に座るおばあちゃん(母方)を見た。「お父さんは考古学が好きだったのよね」まなむはおばあちゃん(父方)を見ると、写真を見せた。「これがお父さんよ」あいなは写真を覗き込んだ。自分と同じように白いきれいな歯並びの歯を見せて笑うお父さんを見て胸が痛んだ。「お父さん。今はもう20代なのよね。生きていたら会いたいわ」あいなはまなむの隣に座るおばあちゃん(父方)を見た。


輝沙は暗くていつも「死にたい」「もう生きていたくない」と言っていたわ。特に何が不幸なわけでもないのに、いつもそういうことばかりで、周りも輝沙にあきれて友達も少なかったわ。中学校の友達は輝沙にあまり好意的じゃなかったわ。たまにすごく意地悪なこともされていたわ。輝沙はあの事件が起きた時、どんな感情になっていいかよくわからなかったみたい。嫌いな同級生が亡くなって嬉しいような、優しくしてくれた子まで亡くなって悲しいような気分だと言っていたわ。


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