フリーターの話2
「時間、売りに来たんですけど…………」
出迎えた男の笑みの不気味さに気後れしながらも、用件を伝えた。
初めて、人の笑みを気味が悪いと思った。
「では、この書類にご記入を。
二枚目は利用規約になってます。」
そう、バインダーを渡されて書類を見る。一枚目は、そこら辺のアンケートと大して変わらない内容だった。
二枚目は………細かい文字でびっしりと書かれていたから、読むのをやめた。
書類に書き込むべきことを書き込み、男に渡す。
売る時間は一日。二十四時間。千四百四十分。八万六千四百秒。
たった一日売る。それだけで七十二万円も稼げる。この金でなにをしようか。
心を踊らせた。
男がパソコンを操作する様をぼうと見る。
「完了です。今回、一日分の時間を買い取らせていただきました。今回の代金です。」
一万円札の束を渡された。
数えると、六十枚…………
いや、数え間違えだろう??そう願って数え直すと、やっぱり六十枚。
「あの………………七十二万円じゃないんですか??」
「時間はいつも同じ値段ではありません。今日の時間の値段は二万五千円。
あなたが言う値段になっていたのは先週の話ですよ。株価や為替と似たようなものです。」
そんなの知らない…………
男は肩をすくめて、やれやれと身振りをした。取り付く島も無いようだ。納得いかないが、帰ることにしよう。
オレを送り出した男は今日最高の胡散臭い笑みを浮かべていた。