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姫王伝  作者: 鈴神楽
9/17

勝手にレースを開催する姫

 ボンの酒場で安酒を飲みながら会議が行われていた。

「お金が無い」

 ヤーリテが机に突っ伏しながら呟く。

 ブレーダが肩をすくめる。

「前回の事で、余分な金を全部吐き出したんだから仕方ないだろう」

「私達の力不足です」

 恐縮するリン。

「何か、お金儲けのネタ転がっていないかな?」

 ヤーリテが溜息を吐くと、ボンが言う。

「小金ならともかく、国の運営資金になる様な金額は、無理でしょうね」

 ジェネが摘みのビーフジャーキーを齧りながら言う。

「ここは、関税の増額が一般的だろう」

 リンも頷く。

「確かに。近頃は、オバ王国もそれなりに存在価値が出てきましたから、関税が増えても通行者数が減らないのでは?」

 ヤーリテが机に突っ伏したまま言う。

「却下。減らないかもしれないけど、増加が止まる。あちきは、こんな物で満足する気は、無いよ」

 ブレーダ何気ない様子で言う。

「いっその事、お祭りでもやるか?」

 それを聞いて、シーネが言う。

「何の祭りをだ?」

 ブレーダが少し考えていう。

「ほら、建国何ヶ月記念とかじゃ駄目か?」

 溜息を吐く周りの男達の中、ヤーリテが言う。

「難しいよ。祭りをするには、住民の勢いが必要なの。それに足る物が無いと」

 その時、ユアが言う。

「そういえば、もうすぐ温泉も本格的に営業を開始しますが、イベントは、どうしますか?」

 リンが頬を掻きながら。

「キャンペーンを打ち出したいですが、それ程の予算の余裕がないですね」

 その時、ヤーリテが立ち上がる。

「それだ! 温泉を売り出して、お金も儲ける! 良い手があるよ!」

 ボンが驚く。

「そんな手が有るんですか?」

 ヤーリテは、足元で毎度の闘志狼との肉の取り合いを演じていたBBBを持ち上げ。

「秘策は、こいつだよ」

『物凄く嫌な予感がするぞ』

 BBBの予想は、当っていた。



『第一回ブブブ温泉大レース開催。優勝者には、温泉の源泉を一つ授与。完走者には、年間パスポートをプレゼント。温泉に入っても問題ない格好で参加費を持ってきてくだされば、誰でも参加自由です』

 その広告を見て、ボンに来ていた商人や冒険者達が驚いた。

「姫王様も随分と思い切った事をしましたね」

「幾ら参加費を取ったとしても、これでは、儲けがでないのでは?」

「きっと、ブブブ温泉の宣伝の為の赤字覚悟なんでしょう」

 そんな会話がされ、冒険者、一部の体力自慢の商人、町人が参加に名乗りを上げるのであった。



 そしてレース開催当日。

 宣伝の成果もあり、参加者も多く、見物人も来て、ブブブ温泉は、大盛況であった。

「取り敢えず、ブブブ温泉の方は、上手く行ってるね」

 満足げに頷くヤーリテにリンが言う。

「確かにそうですが、優勝商品や完走者への年間パスポートなどに掛かる金額を考えるとあまり儲けは、出ないかと」

 それに対してヤーリテが言う。

「任せて、あちきに秘策あり!」

 物凄く嫌な予感を覚えるリンであった。



 レース開始直前、変装したブレーダがヤーリテに詰め寄る。

「それで、どうして俺がこんなレースに参加しないといけないんだ?」

 ヤーリテが笑顔で答える。

「優勝商品を流出されない為。だから頑張って完走すること」

「やらせじゃないか!」

 怒るブレーダに対してヤーリテが指を振って言う。

「大丈夫、本気でやって、貴方が優勝すれば、やらせじゃないから」

「無茶言いやがって! どうなっても知らないからな!」

 スタート位置に向うブレーダ。

 それを見送りながらリンが言う。

「実際問題、ブレーダが優勝出来ますか?」

 ヤーリテが言う。

「完走者が一人くらい居ないと、盛り上がらないからね」

 そこに含まれている意味にリンが気付く。

「それって、完走は、殆ど不可能って事ですか?」

 ヤーリテがあっさり頷く。

「ブレーダ以外は、無理じゃない」

 大きく溜息を吐くリンであった。

「第二回は、無理ですね」

「大丈夫、そこも考えてあるから」

 ヤーリテが笑みを浮かべるのであった。



 スタート位置の前に幻影魔法で大きく投影されたヤーリテが現れてレースの説明をする。

『このレースは、このブブブ温泉にちなんだ四つの難関を突破するものです。最初に最後の難関を突破した人が優勝で、このブブブ温泉の源泉の一つをプレゼント。そして、最後の難関を突破した全員にブブブ温泉を一年間入り放題になるパスポートをプレゼントします』

 歓声があがる。

『それでは、スタートです!』

 ヤーリテの幻影が花火のように散って合図となる。

 それと同時に第一の難関に駆け出す参加者達であった。



 第一の難関。

「ここかよ」

 ブレーダが大きな溜息を吐く中、幻影のヤーリテが説明をする。

『第一の難関は、ブブブ温泉名物、温泉プールです。ここを泳ぎきって下さい』

 次々と温泉プールに飛び込む参加者達。

 ブレーダも遅れないように飛び込み、冒険者として鍛えた泳ぎで先頭集団を進むのであった。



 観客の為のレースを投影した広場、解説席に座る実況のシーネが言う。

「ここは、全員突破ですかね。第一の難関の為、かなり簡単な物ですね」

 それに対して解説のジェネが言う。

「そうでもないだろう。よく見ろ、何人かの選手がリタイヤしているだろう」

 シーネがそれを確認して驚く。

「どういうことでしょうか?」

 ジェネが解説する。

「冒険者や我々みたいな軍人以外は、泳ぐ訓練をしていない。特に近場に川や海が無い一般市民の中には、泳げないものが多いのだ」

 納得する観客達。



 第二の難関。

『第二の難関は、ブブブ温泉でも効能が高いのが売りの白湯の底に沈むガラス玉拾い。当りと書かれたガラス玉を拾って係員に渡したらクリアです』

 お湯の白さで底が見えない温泉を見てブレーダが呟く。

「手探りで探せって事だな」

 そういって、温泉に入って底を探り出す参加者達。



 解説席のシーネが言う。

「確かに面倒そうですが、個数制限がある訳じゃないので、全員クリアですかね」

 ジェネが指を振る。

「甘いぞ。ここは、第一の難関の温水プールと違い、普通の温泉だ。それが何を意味するか解るか?」

 シーネが首を横に振る。

「すいませんが、解りません」

 ジェネは、幻影を指差して言う。

「見ていれば答えは、直ぐに解る」

「そうですか?」

 首を傾げるシーネだが、ジェネの予測通り、次々と脱落者が出てくる。

「どういうことですか?」

 シーネの質問にジェネが言う。

「単なる湯当りだ。温水プールは、長い時間入る事を前提にして温度を調整してある。それと同じつもりで、効能が重視したあの温泉に浸かっていれば湯当りしても当然だろう」

 感心する観客達。



 第三の難関。

『第三の難関は、ブブブ温泉名物の温泉卵当てクイズ。温泉卵を五つ食べて、それを作るのに使った温水を並べられた三つの温泉水の中から選んでください。間違ってももう一度温泉卵を五つ食べれば再度クイズに挑戦できます。因みに温泉卵は、それぞれ違う温泉水から作られています』

 ホカホカと湯気を立てる温泉卵を見てブレーダが頭を押さえる。

「ここに来て大食い勝負かよ」

 舌打ちをしながらも温泉卵を食べ始めるブレーダと参加者達。



 解説席のシーネが言う。

「これは、再トライも出来ますから簡単でしょね」

 ジェネは、また首を横に振る。

「ブブブ温泉の温泉卵は、確かに美味しいが、それだけを五つ食べるとなるとかなりきつい。それを再トライする根性ある人間がどれだけいるかな」

 そう言っている間に、不正解になった所でリタイヤする参加者が続出する。

 その中、映像の中のブレーダが連続不正解で十五個目温泉卵を死にそうな顔で口にしていた。

「根性だけは、ある選手も居ますね」

 苦笑しながら実況するシーネであった。

 因みにブレーダが正解するまで二十五個の温泉卵を食べる事になり、観客達からその根性に拍手が送られた。



 第四の難関。

『いよいよ最後の難関でーす』

 そして、参加者の前に本来の姿に戻ったBBBが当然現れる。

『このブブブ温泉の名前の由来、温泉を掘り起こしたドラゴン、BBBの頭の角に触れた時点でゴール。最初に触れた人が優勝です!』

「ちょっと待て! わがまま姫王! 俺達を殺す気か!」

 ブレーダが思いっきり文句を言う。

『安心して、BBBが居るのは、最初の温泉プールの中だから、落ちても大丈夫』

 しかし、それで安心できるほど、初めて目の前で見るドラゴンのプレッシャーは、甘くない。

 次々と参加者がリタイヤしていく中、ブレーダがBBBを見る。

『止めたければ、止めろ。俺は、本気で落としても構わないといわれている』

 BBBの言葉に参加者達が引くなか、ブレーダが頬を叩く。

「ここで止めたら、男が廃る!」

 そういって、BBBの体にしがみ付くと、全身を使って登り始める。

 BBBは、宣言通り、体を揺さぶり落としにかかるが、ブレーダは、必死にしがみ付き、そのまま遂には、登りきって角に触れた。

『いま、ゴールです! 第一回ブブブ温泉大レースの優勝者がここに決まりました!』

 大盛り上がりの会場。

 ブレーダもガッツポーズをとる。

「やったぞ!」

 その瞬間、BBBが頭を下に向ける。

 当然、温泉プールに落下するブレーダ。

「こんなのありかー!」

 大きな音と共に湯柱を立てるブレーダであった。



 ボンの酒場では、祝杯が上げられていた。

「レースの成功、参加費の殆どは、そのまま国家予算に回せて、ブブブ温泉のPRも上手く行った。ミッションコンプリートだ!」

 嬉しそうなヤーリテにリンが頷く。

「はい。これで、足りない予算がかなり補えます」

「来年からは、最後の事を理由にBBBは、無しって事で来年もするから、来年は、ちゃんと商品を用意しないとね」

 ヤーリテの言葉にリンが頷く。

「それまでには、ブブブ温泉の営業も軌道に乗せないといけませんね」

 そんな和やか雰囲気の中、近くで呻いているブレーダが言う。

「人が苦しんでる横で、談笑するな!」

 仕事でレースを見にこれなかったボンが言う。

「BBBの頭から落ちたときに怪我をしたのか?」

 それに対して、薬を煎じていたユアが言う。

「いいえ、その前の温泉卵の食べ過ぎによる腹壊しです」

 爆笑が起こる。

「うるさーい! どっちにしろレースに勝つためだろうが!」

 虚しいブレーダの叫びが夜の酒場を盛り上げるのであった。

当初、難関は、五つでしたが、どうしても四つ目が考え付かなかったので、減らしました。

それにしても、翌年は、ブレーダ以外の人間がBBBに挑むのでしょうか?

お金に多少の余裕が出たオバ王国。

温泉を使った商売の為にベニス連邦に営業する事に。

そこで遭遇するトラブルにヤーリテは、どう対応するのか?

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