勝手に過去を後悔する姫
その襲撃は、突然だった。
容赦ない襲撃で、マジックスの田舎町の一つが壊滅的なダメージを負うことになった。
その連絡がヤーリテの耳に入ったのは、襲撃から二日も経っていない街道で視察の時であった。
「冗談じゃないの?」
ヤーリテが信じられないって顔で問いただすが、話を持ってきた元冒険者、ブレーダも苦々しい顔で首を横に振る。
「信用できる冒険者からの情報だ、間違いない」
ヤーリテは、即座に仮設王宮に戻るのであった。
「ブレーダの持ってきた話ですが、ほぼ間違いないらしいです」
オバ王国の文官、リンの発言に、急遽呼ばれた経済で助ける大商人、ボンも頷く。
「商人仲間の間でも噂になっています」
重苦しい雰囲気の中、BBBが言う。
『何をそんなに悩んでいる、オバ王国内での事件では、無いんだろう?』
リンが緊張した面持ちで説明する。
「場所が問題です。襲撃されたのは、少し前の国債騒動で助けた貴族の領地、姫王様のテリトリーと言っても良い場所です」
そしてオバ王国の将軍、ジェネが苛立ちを抑えられない様子で言う。
「一番の問題は、町を壊滅するほどの大規模な山賊集団をマジックスの軍隊が見逃していた事実だ」
それにジェネの副官でもあるシースが首を横に振る。
「我々が居たときでしたらまず考えられない事です」
その口調に後悔を感じさせたがヤーリテが辛そうに言う。
「本気で見逃したと思う?」
その言葉に場が凍りつきリンが慌てる。
「しかし、自国の町を襲わせてどんな利益があると言うのですか? 万が一にも山賊と繋がりがあり、その利益を摂取する手筈があったとしても長い目で見た時には、国内に不安が発生するためマイナスです!」
ヤーリテが小さく溜息を吐いて言う。
「さっき自分で言ったのを忘れたの。あそこは、半ばあちきのテリトリーだって。あそこは、兄貴にとっては、他国と同様だって事だよ」
ジェネが頷く。
「なるほどな、牽制の意味があるわけだな、姫王につけば、今まで通りには、いかないと」
それを聞いてヤーリテが頷く。
「その可能性が大きいと考えている」
ブレーダが憎々しげに言う。
「本気で手段を選んでいないな。それでどうするんだ?」
誰も答えられない中、ヤーリテが疲れた表情で言う。
「何も出来ない。協力要請が来ればともかく、そうでない限り、一応他所の国の内情に干渉する訳には、いかないからね」
しかし、騒動は、最悪な展開に進むことになるのであった。
「抗議文が届きました」
リンの報告にブレーダが呆れた顔をする。
「今更、何の抗議だ?」
リンが沈痛な表情で答える。
「問題の山賊は、姫王様が山中から追い出した山賊。行き場を無くした山賊達が結託して、暴挙にでたと言うのがマジックスの正式な見解です。それに伴い、自国の犯罪者を他所の国に流出させた姫王様の行いを抗議するとの事です」
開いた口が塞がらないという表情でブレーダが言う。
「冗談もそこまで行くと滑稽だぞ! 山賊が居た頃は、オバ王国は、まだマジックスの一部だったんだぞ!」
ヤーリテが苦虫を噛んだ顔をして言う。
「完全にやられたよ。山賊の暴挙を放置すれば、自分のテリトリーまでその影響が出るから、時期を見て終息するなんて甘い考えだった。全部をあちきの所為として、全責任を負わせるつもりだ」
ブレーダが慌てて言う。
「そんな理不尽な事が通るのかよ!」
ヤーリテが頷く。
「その理不尽な事を通す事で国を自分の思い通りに動かす事が可能になる」
兵の訓練をしていたジェネが戻ってきて言う。
「話は、聞いた。これからどうする?」
完全に策略に嵌った状態のオバ王国面々だったが、ヤーリテは、搾り出すように言う。
「正式に謝罪後、余剰資金を被害のあった街の援助に回して。その上で正式に協力を申し込み、ジェネ将軍には、山賊狩りをしてもらう」
「それでは、今回の件は、全て姫王様の責任になります!」
リンが反論するが、ヤーリテは辛そうな顔をして答える。
「こちらが責任を認め協力しない限り、兄貴側は、山賊への協力を止めない。今回は、完全にしてやられたって事だよ」
悔しそうなヤーリテにリン達も同意するしかなかった。
マジックスの王宮、ヤーリテの兄、ユーシャの執務室。
ユーシャに使える文官、クリが報告する。
「例の山賊の件ですが、オバ王国の国王から正式に謝罪があり、山賊狩りにジェネ将軍を送りたいと通知が来ました」
ユーシャが頷く。
「お前の予測通りだな」
クリが笑みを浮かべて答える。
「ヤーリテ姫もまだまだ甘いですね、これがユーシャ殿下なら、放置していたでしょうね?」
苦笑しながらユーシャが答える。
「私だったら逆に相手側のテリトリーを山賊に襲わせて、危機感を煽る」
「なるほど、そうなれば、こちらも対応する必要が出ると言う訳ですな」
クリの言葉にユーシャが頷きながら続ける。
「ヤーは、民の事を考える賢王の資質がある。しかし、建国王になるには、民を家畜と同じ様に扱えなければいけない」
クリが微笑む。
「常に大いなる懐で守護し、必要とあれば殺す。それこそ覇王たるユーシャ様の天賦」
ユーシャは窓からオバ王国を見て呟く。
「お前にその甘さがある限り、私を越すことは、出来ないぞ」
深夜のオバ王国の仮設王宮の屋根の上、ヤーリテは、独りで居た。
「御風邪をひきますよ」
ユアが毛布をかけるとヤーリテが俯いたまま言う。
「独りにしておいて」
ユアは、感情を感じさせない声で問う。
「後悔しているの?」
その声にヤーリテが情けない顔を上げる。
「貴女なら、全ての人を救えますか?」
ユアは、静かに語る。
「鳥籠の鳥の幸せなら与えられるかもしれない。でも、それって本当に幸せなの?」
ヤーリテが首を横に振る。
「そんなのあちきは、認めない。どんなに傷ついても自分の翼で大空を飛びたい」
「答えは、決まっているのね?」
ユアの言葉にヤーリテが頷く。
「どんなに甘いと思われても、あちきは、この道を行く」
ユアは、やさしく微笑みながら、屋根から下りると、近くをうろちょろしていたブレーダ達に言う。
「ヤーリテ姫様は、明日には、元気になりますよ」
そっぽを向くブレーダに苦笑するリンであった。
そんな若い連中を見てボンがジェネに言う。
「貴方は、どうして姫王様についたのですか?」
ジェネは、告げる。
「確かに姫王は、甘い。しかし、それに負けない雑草様な強さがある。私は、それにかけた」
まだ小さく弱いオバ王国にとって痛すぎる敗北の夜であったが、彼らは、まだ諦めていないのであった。
連勝モードのヤーリテの初黒星のお話でした。
そんなせいか短くなりました。
今回の失策で失ったお金を稼ぐお話になる予定です。




