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姫王伝  作者: 鈴神楽
7/17

勝手に温泉を掘る姫

 立派な衣装を着て、馬に乗った数人の旅人がオバ王国の街道を進んでいた。

 その中でも、先頭の騎士らしき男が、不機嫌そうな顔をしていた。

 それを見て、中央に居た、若い男が言う。

「まさか、不満があるのか?」

 その男の言葉に、騎士の男が答える。

「当然です。いくらマジックスの王女といえ、自国の領土に勝手に自分の国を作り、我侭放題をする者が、王子が出向くに値する人物とは、思えません!」

 それに対してベニス連邦の一国、ルークス王国の王子、ルーク=P=ルックが鋭い目で問う。

「お前が判断することなのか?」

 いきなりの問い掛けに戸惑う騎士。

「それは……」

 口篭る騎士に周りの騎士が同情の視線を送るが、ルークは、続ける。

「質問を変えよう、お前にそれを判断するだけの能力があるのか?」

 騎士がそれには、自信があったのか、即答する。

「私で無くでも、子供でも解る理屈です!」

「お前は、この旅の途中、何も見ていなかったのだな」

 沈痛な表情を見せるルークに戸惑う騎士。

「それは、どういう意味でしょうか?」

 ルークは、淡々と語る。

「このオバ王国の街道でどれだけのキャラバンとすれ違った?」

「それは、かなりの数に及ぶと思いますが、この街道がベニス連邦とマジックス王国を結ぶ街道である以上、当然の事では、無いのでしょうか?」

 騎士の答えにルークが頷く。

「街道なら当然の事だ」

 安堵の息を吐く騎士を睨むルーク。

「少なくとも、キャラバンが普通に通る、街道を作った人物がただの我侭姫だと思うのか?」

 急転換する話に騎士達が驚く中、ルークが告げる。

「余計な関税を払っても、この街道を通った方が、利益が出ると商人達を動かした。街道に対する設備も十分になされている。見ろ、あそこに居る農民達を」

 ルークが指差した先には、農民達が、痩せた土地を耕していた。

「農民の数が多い。それも、お世辞にも豊かな土地とは、言えない。それが何を意味しているか解るか?」

 騎士の一人が手をあげる。

「国が農民達を誘致しているという事ですか?」

 ルークが頷く。

「そうだ、国の根幹が、こういった農民の働きだと理解し、動いている証拠だ。少なくとも、一角の人物だろう」

 そんな中、農民がルーク達の横を通る。

 その中に居た、少女の一人が、ルークに話しかける。

「お兄さん、この果実の味見をしてみない?」

 いきなり声を掛けられて驚くルーク。

 騎士が慌てて間に入る。

「小娘、このお方がどなたか知っての狼藉か!」

 少女は、肩を竦ませて言う。

「偉い人、それもそれなりに、知識と判断力を持っている。だから、食べてみて欲しいの。毒見だったら、あちきがするよ」

 そういって、少女は、その果実を齧ってから騎士に手渡す。

「お前みたいな少女が口にした物を王子に食べさせる訳にいくか!」

 騎士が投げ捨てようとした時、ルークが怒鳴る。

「止めろ。その果実を渡せ」

「しかし……」

 反抗する騎士をルークが睨む。

「確実に果実の安全性を立証する方法だった。それにその果実も興味がある」

 受け取り口にして、少し顔を歪めるルーク。

「苦味が強いな」

 少女は、頷く。

「まあね、元々は、もっと北の作物で、成長が早いのが特徴。痩せた土地でも栄養価が高いから」

 ルークは、興味をそそられて尋ねる。

「具体的にどのくらいなのだ?」

 少女は、近くの農地の大半を埋める麦畑を指差して言う。

「どうやっても麦を作れない土地を使って、あの麦と同じ時期に初めて、もう収穫が始められるくらい」

「それは、すごい。しかし、この味では、売り物としては、難しいな」

 ルークの真面目な意見に少女が苦笑しながら言う。

「だから、農家の食事用にいいかと試験的に作っているの。こんな土地が痩せた場所で農業をする以上は、こういった保険がないといけないからな」

 ルークは、果実をじっと見つめてから少女に問う。

「こんな植物をどうやって手に入れたのだ?」

「ベニス連邦の大商人に協力してもらって、いろんな作物を試している」

 少女の答えにルークが真剣な顔で言う。

「詰り、ヤーリテ王女がやっているのか?」

 その一言に少女が口を尖がらせる。

「国王!」

 ルークは、慌てて言い直す。

「そうだった、ヤーリテ国王の命令なのか?」

 少女は、農民達を見て言う。

「あちきが答えるのは、変だから、答えてあげて」

 すると農民達が答える。

「姫王様は、提供してくれるだけだ。そういう試験的な作物を育てるとお金もいくらか貰えるだよ」

「んだんだ。姫王様は、色々してくれるだ。こないだもうちの娘が傭兵に襲われそうになった所を助けてくれただ」

「補助金が少ないだろうって、お医者様なんかも定期的に呼んでくれるんだ」

 少女が頬をかきながら言う。

「あちきの前だからって無理に褒めなくても良いぞ。ここの生活が苦しいくらい知ってるからな」

 農民達が笑顔で答える。

「そりゃ、元の場所でやっているよりは、収穫は、少ないだが、その分、税が少ないから平気だべ」

 頷きあう農民達。

 そこに至り、ルークがある事に気付く。

「まさか、貴殿は、国の役人なのか?」

 それに対して、ヤーリテが手を叩き言う。

「そうだ、挨拶がまだだったね」

 胸を張って少女が答える。

「あちきが、このオバ王国の国王、ヤーリテ=DD=マジックスだ」

 騎士達が声を上げて驚き、ルークも驚きを隠せない顔で問う。

「どうして、国王がこんな所に?」

 ヤーリテは、さっきから話題にしている果実を見ながら答える。

「細かい政は、文官に任せてあるから時間がけっこうあるの。あちきとしては、自分が提供した作物がどうなってるか気になるから時々、現地に行くことにしてるの。コレなんかは、成功例で、大半は、まともな収穫が出来ないから、さっさと諦めて次の作物を探すことにしてる」

 ルークは、馬から下りて膝を着く。

「挨拶が遅れ、申し訳ありません。私は、ルーク王国、第一王位継承者、ルーク=P=ルック。ヤーリテ国王に、お礼に申し上げに来ました」

 騎士達も慌てて馬を下りて膝をついている。

「例の件だな。気にしなくても良い。それよりも、ルーク王子も作物には、興味があるのだったら、この後も幾つか試験的に育ててもらっている農地に行くが、一緒に来られるか?」

 ルークは、直ぐに頷く。

「はい。お供させてもらいます」



 その夜、ルーク達は、案内されたボンにある、高級ホテルのVIPルームに泊まっていた。

「今日は、有意義な一日であった」

 ルークの言葉に騎士達は、戸惑っていた。

 そんな騎士達に苦笑しながらルークが言う。

「噂は、あてにならない証拠だ。態度こそ自由奔放だが、農民の事を労わり、同時に自立を可能にする為の手段も講じている」

 騎士の一人が言う。

「しかし、政治の大半を文官に任せるのは、国王として如何なものかと思われますが」

 ルークが肩を竦める。

「無理を言うな。私がいきなり国王になっても、父上と同様な事は、出来ない。逆に文官を信じ、任せられる器を褒めるべきであろう」

 そして、晩餐会での会話の中、ヤーリテが言った言葉を思い出す。

「国王は、全ての責任を負う覚悟が必要。確かに、私もいずれは、国を背負う者。その覚悟は、今から持たなければいけないな。昼間は、すまなかった。お前達が噂に踊らされたのも、私にも原因があった」

 慌てて騎士達が言う。

「とんでもございません! 全ては、我等の未熟さです! 王子が謝られることは、一切ございません!」

「これからも私も精進する。共に更なる高みを目指そう」

 ルークの言葉に騎士達が感動し、強い忠誠心を産むのであった。



 数日後、オバ王国の実質的な政治の担い手、リンの執務室に元ベニス連邦の大商人、ボンが呼ばれていた。

「ヤーリテ様に極秘に逢いたいとの事だったが、どういうことです」

 怪訝そうな顔をするボンにリンが答える。

「王宮を建てる為の借財の仲介をお願いしたいのです。担保として、貸し出し先にそれ相応のこの国での利権を提供する予定です」

 驚いた顔をするボン。

「何を考えている! ヤーリテ様は、王宮建築は、財政が安定してからと明確な方針を提示している。幾らお前が政治に対する権限を与えられていると言っても、ヤーリテ様の方針を無視するのは、許されない!」

 頷くリン。

「その通り、間違いなく越権行為です。しかし、耐えられないのです」

「何がです?」

 ボンの言葉に、リンが辛そうに言う。

「ルークス王国の王子に、姫が立派なお方だと褒められ、その下で働ける我々が幸運だと言われた。そんなルーク王子が、苦笑しながら仰ったのだ、出来れば、謁見の間で正式な対面をしたかったと」

「しかし、それは、ヤーリテ様が自由に国内を視察している為で、王宮の有無は、関係ないだろう」

 ボンの言葉にリンが首を横に振る。

「そういう問題では、無い。正式な謁見を求められていた時、今の様な形式では、姫の格を落とす事になる」

 現状、オバ王国の王宮は、罪人を酷使して作った簡単な石造りの建物であり、海外からの賓客等は、ルーク王子も泊まった、国が資本を出して作った高級ホテル、リテを使用している。

 パーティーなどもここを使用している。

「ヤーリテ様も言っていたが、もし王宮を造っても、それを国外の公人に見せ続けるための維持費が捻出できないと。その為に、普段は、一般客も使用できるホテルに資金を使った筈だ。その意見には、私も賛成だ」

 ボンの反論にリンが拳を握り締めて言う。

「それをなんとかするのが私の仕事です。最悪、私達の給料を減らし、維持費の補填にあてる予定で、周りの文官には、了解を得ています」

 眉を顰めてボンが言う。

「かなり無理をしている気がする。身の丈にあっていない事は、しないほうが良い」

 リンが立ち上がり怒鳴る。

「今のままでは、姫の格に相応しくないのです! 我々は、無理でもなんでも、姫の格に相応しくならなければいけないのです!」

 小さく溜息を吐いてボンが言う。

「解った。とにかく、相手を探してみる。あの金貸しの件で、それなりに商人達にも覚えが良いから、資金提供の話に乗ってくる奴も要る筈」

「お願いします。それとくれぐれも今回の話は、姫には内密に」

 リンの言葉にボンが頷き、執務室を退室した。



「リン、後二時間で、明後日まで体が空く様にしろ」

 事務作業をしていたリンにヤーリテがいきなり告げた。

「どういう事でしょうか?」

 戸惑うリンだったが、ヤーリテは、後ろを向いて言う。

「反論は、無し。町の出口で待っているから」

 リンが何とか話をしようとするが、ヤーリテは、取り合わなかった。



「遅い。二十分も遅れるなんてどうした!」

 馬車の前に立つヤーリテの言葉に、駆けてきたリンが言う。

「すいません。仕事の引継ぎに手間取りました」

「さっさと馬車に乗れ!」

 ヤーリテに押し込まれる様に意味を不明なままに馬車に乗るリン。

 リンが堪りかねて質問をしようとした時、ヤーリテが言う。

「馬車の乗り心地は、どうだ? いい加減な事を言ったら締めるぞ」

 リンが少し考えてから言う。

「正直、整理されてない道の所為か、振動が大きいです」

 ヤーリテが不満そうな顔をして言う。

「やはり、道の整備も考えないと一般客誘致は、難しいか」

「何の事ですか?」

 リンの質問にヤーリテが一言。

「何も考えるな」

 顔を引き攣らせるリンだったが、仕えるヤーリテにこう言われては、何もいえない。

 そして到着したのは、複数あるログハウスの一つであった。

「到着、おまちしておりました」

 ユアが出迎えた。

 首を傾げながらもリンは、ユアの後を案内されるままに、進むと、そこには、温泉があった。

「ここが、オバ王国新名所予定の専有温泉宿です。この山の中腹にあるログハウス一つ一つに別の温泉が湧き出ていて、それぞれ微妙に異なる効用があります」

 ユアの説明にリンも気付く。

「何時の間にこんな計画を立ててたのですか?」

 ヤーリテが視線を逸らして言う。

「この付近には、色んな温泉が出るって夢のお告げがあったから、BBBに掘らせたら、お告げ通り、温泉が出てきた。何か有効な使い方が無いかと思って、考えた結果、ログハウスごとに効果が異なる温泉って言うのを売りに、複数回、客を呼び込む名所にしようかと思っている」

『山削りといい、お前は、俺を掘削機械と勘違いしていないか!』

 文句を言うBBBを無視してヤーリテが言う。

「とにかく、新名所のモニターなんだ、確り判断する為、間違ってもお金の事を考えるな」

「それは、どういう事ですか?」

 リンの質問にヤーリテが言う。

「モニターが、この施設に幾ら掛かったなんて考えて判断したら意味無いだろうが。だから、施設を作るのに関わった人間を外して、仕事詰めで温泉を利用しそうなリンに白羽の矢を立てたんだ」

 ようやく納得したリン。

「解りました。新産業の為にもモニターを頑張らせてもらいます」

「当温泉名物の温泉卵です」

 ユアが温泉卵を持ってきたので、リンが一口食べる。

「なかなか面白い味です」

 こうして、リンの温泉での二日間が過ぎた。



 帰り道、リンがモニターとしての報告を終えた後、ヤーリテが言う。

「疲れは、とれたか?」

 リンが少しの間沈黙した後、驚く。

「まさか、これは、私に休暇をとらせて為に態々……」

「半分だけだ。もう半分は、本当にモニターとして頼んだ」

 ヤーリテの答えに、複雑そうな顔をするリンにヤーリテが言う。

「王宮の建設の件は、あちきが断っておいた」

「まさか、ボンが、姫に言ったのですか?」

 疑心を告げるリンにヤーリテが肩を竦める。

「馬鹿が、こんな狭い国で王宮建てようなんてことをすれば、どうやったってあちきの耳に入る」

 リンは、覚悟を決めて言う。

「しかしながら、やはり王宮は、必要です。今のままでは、姫の品格を穢すことになります!」

 ヤーリテが苦笑する。

「あちきの品格か。リン、前から何度か忠告したが、あちきは、姫じゃなくて国王、それも建国王だ。基準は、あちきが全てだ。そしてあちきは、今の自分が十分だとは、思わない。王宮を建てるのは、自分が立派な国王になった時にする。この方針は、お前にも変えさせない」

 リンは、自分の未熟を自信たっぷり言えるヤーリテを見て納得した。

「愚かでした。所詮は、姫王とは、器が違うのを忘れていました。全ては、貴方の方針通りに」

 ヤーリテが指を突きつけて言う。

「だがな、作る時は、お前達が血の涙を流すほど豪華な王宮を建ててやる。覚悟して置けよ」

「はい」

 そう答えたリンだったが、どんな豪華の王宮でも、ヤーリテが格負けする事は、無いと確信していた。

BBBが掘削機械扱いなのは、彼が表に出るとSSBも出てくる事になり、ユアの仲裁が入る為です。

因みにルークは、実は、ヤーリテのお婿さん候補だったりします。

これからベニス連邦側の語り手として度々出てきます。

順調なヤーリテ達。

しかし、それを黙って見ているほど、覇王を狙うユーシャは、甘くない。

次は、ヤーリテが激しく後悔する話になると思います。

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