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姫王伝  作者: 鈴神楽
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勝手に貧町に技術提供をする姫

 マジックスの王宮、ユーシャの執務室。

「オバ王国について君の意見を聞きたい」

 目の前の人物に語るユーシャ。

 シャイが淹れたお茶を一口飲んでからその人物、ユーシャに使える優秀な文官、クリ=R=マジが答える。

「国としては、小さいですが、建国したばかりの小国がやりがちな利益を生む産業だけに力を入れるという愚作を行っていません。特に評価すべきは、開拓農民の誘致。食料自給率は、国の要。それを貿易に頼るだけになって居たら、小国など、供給を行う大国に食い物にされるだけです」

 微笑むユーシャ。

「私も同意見だ。ヤーリテは、農民に対する政策について、国に居る時から冷遇されていると愚痴にしていたからな。それより、この前の事件、あれの影響は、どうなっている?」

 クリは、資料を提示しながら説明を開始する。

「我が国の貴族の中にも何人か、問題の人物に借財をしていた者が居ました。その者達にオバ王国から友好関係を結びたいと使者が来た様です。彼等としても、借財を帳消しにしたオバ王国を無視するわけには、いきません。元々、ヤーリテ様は、マジックスの姫ですので、友好と言う名の忠誠を捧げるのに躊躇が無かったでしょう」

 小さく溜息を吐くユーシャ。

「借財を作る者達は、その程度の者と切り捨てて居たのは、失敗した。実質上、彼等の領土は、ヤーが握った様なものだ」

 クリは、淡々と答える。

「仕方ありません、彼等には、ユーシャ殿下の英雄的即位の捨石になる筈だったのですから」

 ユーシャは、肩を竦めて言う。

「その件は、諦めるしかない。代案の方は、任せた」

「お任せ下さい。ユーシャ殿下が即位に足る、立派なシナリオを作り上げてみせます」

 クリが自信ありげに答える。

「頼もしく思っている。しかし、ここまでの手腕、流石は、お前の弟、リンと言う所だな?」

 クリは、首を横に振る。

「あれは、駄目です。理想を追い過ぎます。我々文官が常に、リアリストでなければいけません、理想などは、王のみが語れる事なのです」

 苦笑するユーシャ。

「ところで、例の話は、どうなっている?」

 クリは、新たな資料を取り出す。

「物資の方は、遠征の補給物資としてもう運び込む手筈は、整っております」

 この後も幾つかの密談がかわされるのであった。



 オバの簡易王宮でリンがくしゃみをする。

「風邪?」

 書類にサインをしていたヤーリテが言うとリンが嫌そうな顔をして言う。

「いえ、誰かが悪口を言っているのでしょう。それより、前回の件で友好を結んだマジックスの貴族達には、何等かアクションをとって頂かなくて宜しいのですか?」

 ヤーリテが頷く。

「今は、良いよ。それに兄貴だって、もうそこがあちきの領地だって解ってる。下手に動かして、相手に取り戻させる事は、無い」

「姫様、お茶の用意が出来ました」

 ユアがお茶を差し出す。

「ありがとう」

 ヤーリテが書類に目を通しながらお茶を口に含み驚く。

「これって、シルバース産の高級茶葉じゃん。こんなもん買ったのか?」

 リンが肩を竦める。

「まさか、それは、前回の件の副産物、借財が無くなったシルバースの町がお礼として送って来た物です」

「どこ?」

 ヤーリテに言われ、リンが資料を見せる。

 それを熟読し、笑みを浮かべるヤーリテ。

「今回は、金になるかもしれないぞ」

「今度は、どんな悪巧みを考えたのですか?」

 リンが疲れた顔をして言うとヤーリテが笑顔で言う。

「皆で幸せになる方法」



 シルバースの端にある、小さな鉱山の町、ホレック。

 そこにヤーリテ達が来て居た。

「何で、こんな寒い所にこないといけないんだ」

 毎度の事で護衛役のブレーダが愚痴を言うとリンが呆れる。

「何度も説明しているでしょう。今回、この町にダイヤの加工技術提供する事になり、その最初の打ち合わせで誠意を見せるという事でヤーリテ陛下が参加する事になったと」

「何度も聞いたが、どうしてそうなるんだよ。実際の技術提供は、グレータ王国だろう?」

 ブレーダの文句にヤーリテが頷く。

「そう、グレータからも使者が来るけど、オバ王国は、その仲介役と、その結果作られる商品の販売を手伝う事になってる。かなり儲かるぞ」

 嬉しそうなヤーリテ。

「そうなのか?」

 ブレーダが信じられない顔をするがリンは、力強く頷く。

「はい、この手の贅沢品は、かなりの利益が見込めます。それに伴い、食料の買出しに我が国を経由して頂くことで、我が国は、二重に利益が出るのです」

「そこが疑問なんだが、どうして、食料を他国に頼るんだ?」

 ブレーダの質問にヤーリテが答える。

「自分達で作るより他人で作った物を買った方が効率的だと思った人が居て、その人が産業、この場合、鉱山に力を入れすぎた所為で、食料自給率が皆無の状態になった。そうなると、食料供給をストップさせる事が出来ない。多少高くても買わないと生きていけなくなり、一度あがった値段は、中々元に戻らない。そして食料が少なくなると、少ない食料を買おう高いお金を出す、そうするとまた値段が高くなるって寸法で、国内では、足元見られてまともな値段で買えないって言うのが現実で、その所為で借金をする羽目になってた」

「それを前回の件で帳消しになったって訳か?」

 ブレードの言葉に頷くリン。

「そして、ただ原石を発掘して売っているだけのこの国に加工技術を提供し、外貨を得られ、それを使って食料を買える状況を作るのが今回の計画です。当然協力してくださるグレータ王国にも、ここで発掘されるダイヤを格安の値段で供給するって契約も結んであります」

「どこもかしこも金金ばっか言ってるな」

 呆れた顔をして言うブレーダにヤーリテが苦笑する。

「お金は、助け合いの心だ。誰もが皆独りで生きていけない。自分の得意な事をやって、他人を助け、手に入れたのがお金。それで、他の人の助けを得る」

 頭を抱えるブレーダ。

「嘘だ! 我侭姫に人として説教された!」

『気持ちは、解るがな』

 BBBが苦笑する。

 そんな時、馬の蹄の音が近づいてきた。

 ヤーリテ達が振り返るとそこには、騎士の一団が居た。

 そして、その中心の騎士がヤーリテの前に止まり、馬から下りて膝を着く。

「お久しぶりでございます、ヤーリテ姫」

「ひさしぶりね、ダーガ将軍」

 ヤーリテが挨拶を返す。

 その姿を見てブレーダが舌打ちする。

「どうしたんですか?」

 リンの質問にブレーダがそっぽを向く。

「何でもないよ」

 ブレーダの声に気付き、ダーガ将軍が言う。

「ブレーダ、お前がどうしてこんな所に居る?」

「俺が何処に居ようとお前には、関係ないだろうが!」

 怒鳴り返すブレーダだったが、代わりにヤーリテが答える。

「ブレーダには、あちきの護衛をやらせている」

「この根性無しに何を期待しているのか解りませんが、止めておいた方が宜しいかと。護衛でしたらジェネ将軍の部下をお使いになされてください」

 ダーガの言葉にブレーダが激怒する。

「俺は、剣の腕は、一流だ! ジェネ騎士団にも負けやしねえよ!」

 ダーガが剣を抜いて言う。

「ならば証明してみろ」

「上等だ!」

 ブレーダも剣を抜く。

「お待ち下さい」

 そういうリンをヤーリテが止める。

「やらせてやれよ、単なる親子喧嘩だ」

 リンが驚いているとユアが小声で説明する。

「ブレーダさんは、ダーガ将軍の息子さんで、父親に反発して家を飛び出し、冒険者になったんですよ」

 そんな話をしている間にもブレーダの剣が弾かれる。

「所詮は、騎士としての修行の厳しさに耐えられず家を出た未熟者、相手にもならんな。またお会いしましょう」

 最後にもう一度ヤーリテに頭を下げて去っていくダーガ。

「くそう!」

 悔しそうに地面を叩くブレーダ。

「マジックスの三将軍、政治力と部下への指導力が高い、リリン将軍。総合的な戦闘力と戦略に優れた、ジェネ将軍。そして、剣術に長け、経験も豊富、一番の信頼度を誇るダーガ将軍。そのダーガ将軍と剣でやりあっても勝てるわけがないだろ」

 ヤーリテの言葉にブレーダが怒鳴り返す。

「そういう問題じゃ無いんだよ!」

 肩を竦めるヤーリテにリンが話しかける。

「それより、どうしてこの時期にダーガ将軍がこの町に居るのでしょうか?」

 頬をかくヤーリテ。

「ちょっと面倒な事になるかもな」

 ヤーリテの予測は、的中した。



「どういうことですか!」

 リンが大声を出す。

「そう、声を荒げないで下さい」

 ホレックの町長が冷や汗を拭きながら言う。

「わが町としては、一定した食料の供給が約束される事が最優先なのです。確かにオバ王国からの提案は、素晴らしいですが、マジックス王国から提供された物資の前では……」

 悔しそうな顔をするリン。

 ヤーリテが外を見ると、そこには、ダーガ将軍が護送してきたホレックの為の食料が鎮座していた。

「目先の食料をとると言うのですか?」

 リンの言葉にホレックの町長が答える。

「マジックスは、鉱山から取れたダイヤの独占を引き換えにこの町への安定した援助を約束してくださっているのです。成功するか解らない新事業よりもその方が、わが町としては、望ましいのです」

 その言葉を聞いてヤーリテが席を立つ。

「リン、今、これ以上話しても無駄。戻るぞ」

「しかし……」

 リンが何か言おうとしたのをヤーリテが首を振って止める。

「三日の間、この町で滞在する。もしも、気が変わったら声をかけてくれ」

 そのまま宿に返るヤーリテ達であった。



「考えることは、あっちも同じって事だよ」

 ヤーリテの言葉にリンが悔しげに言う。

「しかし、ここまで話が進んで居たのに関わらず今更……」

「何時もそうだ、あいつやあいつの周りに居る連中は、力で何でも解決出来ると思ってやがるんだよ」

 ブレーダが吐き捨てるように言う。

「でもどうして三日待つのですか?」

 ユアがヤーリテにお茶を出しながら質問するとヤーリテが真面目な顔で言う。

「今度の援助だけど、この町にとって有益な物になると思う?」

 リンが少し考えてから言う。

「私達の計画と違い、確実な援助が期待できる分、有益でしょう」

 ヤーリテは、お茶を飲みながら答える。

「ハズレ、そんなのは、単なる植民地化でしか無い。マジックスの都合がそのままこの町の運命を左右する。少しでも問題があれば切り捨てられる。そうなったら販路を失ったこの町は、大変な事になる」

 リンが拳を握り締めて言う。

「主以外は、全てを駒として切り捨てられる兄らしい政策です」

『こっちの面子は、なんかユーシャ側の奴等の劣化版が揃ってる気がするぞ』

 BBBの率直な意見にリンとブレーダが悔しそうにする。

「あちきとしては、何とかしてあっちの計画を潰したい。それでも三日が許される限界って所だよ」

 リンが頷く。

「はい、それ以上は、自国を離れる訳には、いきません。しかし三日で説得できますか?」

 ヤーリテが手を横に振る。

「無理無理。現物が目の前にある以上、あの町長を心変わりさせるのは、不可能。だが、ここは、宗教国家シルバースだ。異教徒の援助を拒む勢力は、幾らでも居る筈」

 リンが立ち上がる。

「詰り、そこを突いて、兄の計画を潰すのですね?」

 頷くヤーリテにブレーダが質問する。

「そんな事をしたら俺達も異教徒だから、こっちの計画も潰れるんじゃないのか?」

 ヤーリテは、笑顔で答えるのであった。



 三日後の昼、密約証文を待っていたダーガの元に、数人の青年が現れた。

「何の用だ?」

 青年は、窓から表を指差す。

「我々ホレックは、異教徒の援助を受けるつもりは、無い!」

「この事は、町長もしっているのか?」

 ダーガの言葉に青年達が答える。

「前町長なら、異教徒と密約を結んだ疑いで裁判中だ」

 肩を竦めるダーガ。

「了解した」

 諦めが早いダーガは、あっさりと物資を持って町を出て行った。



 ダーガがマジックスに戻り、ユーシャに報告をする。

「ヤーの横槍か?」

 ユーシャの言葉にクリが小さく溜息を吐く。

「今回は、痛み分けと言う所ですか」

 それに対してダーガからの第一報を聞いて、竜の姿に戻って飛んで、現地の状況を確認に行っていたシャイが答える。

「それが、オバ王国からの技術支援は、行われております」

 クリが鋭い視線で問う。

「どういうことだ? 異教徒という事なら同じ事の筈だ!」

 ユーシャが指を鳴らす。

「なるほど、問題は、関係者が異教徒だと言う事だ、技術指導者がSSAの教徒ならば何の問題が無いという事だな」

 シャイが頷く。

「表向きは、ホレックに教義を習うために滞在している事になっておりました」

 クリが戸惑う。

「そんな、短時間でそんな手筈を整えられる訳が無い」

 ユーシャが首を横に振る。

「ヤーは、事前からそのつもりだったのだ。宗教国家であるシルバースの状況を考えて、より軋轢がない方法と考えて居たのだろう」

 クリは、頭を下げる。

「今回の事は、全て、私の失策。この埋め合わせは、必ずしてみせます」

「期待している」

 ユーシャは、そういい残し、シャイと共に私室に戻っていく。

 クリは、暗い炎を瞳に宿らせる。

「この借りは、必ず返させてもらう」



 オバの首都、ポンの酒場。

「折角運んだ食料を持ち帰る羽目になるなんて、いい気味だ」

 嬉しそうなブレーダを見ながら溜息を吐くリン。

「貴方は、気楽で良い」

 ブレーダが不機嫌そうに言う。

「何だよ、お前だって兄貴の計画を潰せたんだから良かっただろう?」

 首を横に振るリン。

「兄の計画を潰せたのは、全部、ヤーリテ姫のお考えです。本来ならば、私が冷静に対処し、対応しなければいけなかったのに……」

 落ち込むリンにヤーリテが酒を飲みながら言う。

「何を言っているの。あんたが、事前に巡礼等の偽装や、技術者の入信の等をやっていてくれたから出来たんだ。もっと自信を持てよ」

「そうだな。元からSSAの教徒やまだ洗礼を受けていない技術者を探したり、楽な仕事じゃ無かった筈だ」

 ジェネの言葉に、リンが答える。

「ヤーリテ姫からの勅命ですから成し遂げて当然です」

 それに頷くジェネ。

「それが、我等臣下に求められる事だ。勅命を受け、それを達成する事。それ以上でもそれ以下でも無い」

 その言葉にリンが頷く。

「そうですね」

 こうして、ポンの酒場の夜は、ふけていくのであった。

今回で、マジックスの三将軍が揃いました。

因みにダーガ将軍は、シルバースに北の蛮族討伐の援軍として、この物語の最初の方からシルバースに居て、今回は、帰り道の寄り道って感じでした。

ブレーダとの関係は、仲直りした事で話題になった海原雄山と山岡士朗をイメージして下さい。

罪人の罰代わりに作らせた簡易王宮。

文官であるリンとしては、いつまでもヤーリテをここに住まわせるつもりは、無かった。

そんなリンの王宮建設への奮闘の話になる予定です。

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