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姫王伝  作者: 鈴神楽
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勝手に国債を発行する姫

「おひさ、元気してた!」

 そう暢気な挨拶をする、ヤーリテに、マジックスとの古くからのつながりがある、グレータ王国の姫、バレッタ=F=グレータが笑顔になる。

「ヤーリテ姫、お祝いに来てくださったのですね!」

 ヤーリテが不機嫌そうな顔をして言う。

「あのね、あちきは、今は、オバ王国の王様だ!」

 苦笑するバレッタ。

「そうでした。オバ王国の国王様。本日は、お祝いに来てくださったのでしょうか?」

 ヤーリテが鷹揚に応える。

「そうだ。ようやく、念願が叶ったみたいだね?」

 バレッタは、本当に嬉しそうに言う。

「この間の戦いで、武勲を挙げて、ようやく父上が認めて下さったのです」

「長かったな」

 しみじみと長い思い出話をする二人を見ながら、付き添いのブレーダが、同行していたシースを肘で突く。

「俺には、事情がさっぱり解らないんだが、どういうことなんだ?」

 呆れたって顔をしてシースが言う。

「バレッタ姫様は、騎士団の若者と恋仲になっていたのだが、当然、身分差がネックだった。貴族である騎士でも若手が、そうそう姫様と結ばれる事は、難しい。俺達が主で戦った帝国との戦争で、武勲をあげた事でなんとか認められたらしい」

 面倒そうな顔をしてブレーダが言う。

「好きあってるのに、王族って大変だな。それは、ともかく、軍の再編で忙しい中、軍の良心のあんたが、我侭姫に付き合ってここに来てるんだ?」

 流石に言葉を失うシース。

 苦笑しながら一緒に来ていたユアが言う。

「王族の人間が公式行事に参加するのに護衛の騎士一人居ないというのは、世間体が悪いのですよ」

 シースが舌打ちする。

「本来なら、一つの騎士団が全員で、同行するのを、予算が無いと言うので、妥協した最低ラインなんだ」

 頭をかくブレーダ。

「だったら、我侭姫一人がお忍びで来れば良かっただろ?」

 無礼すぎる物言いにシースが柄に伸びそうになる手を我慢している間に、ユアが答える。

「オバ王国もそろそろ、外交を考えないといけない時期なのです。今回は、婚約発表は、良い機会だったのですよ」

 手を叩くブレーダ。

「なる程、だからケチなリンが、高そうな贈答品を持たした訳も解るわ」

 そういって、ポンの伝手で手に入れた貴重な絹(因みにその買取の際には、リンとポンの一晩掛りの値段交渉があった)を見る。

 比較的、平和なやり取りを壊す男が現れた。

「これは、姫様、相変わらずお綺麗で」

 その男の言葉に嫌悪感を露にするバレッタ。

「あんた、誰?」

 ヤーリテの言葉に、肥満体系の禿げオヤジが、慇懃無礼な礼をしてから言う。

「始めまして、私は、ベニス連邦でも有数の金融業を営んでおりますリング=T=ドーと申します。グレータ王国とは、大きな取引をさせてもらっております」

 リングのちらりと見る視線がいやらしく、バレッタは、悔しそうな顔をする。

 そのやり取りで大体の事情を察知したヤーリテが告げる。

「貴方の事は、解ったわ。でもね、これは、王族同士の会話、商人がいくら商売の事があったとしても口を挟む事が許されると思っているの?」

 リングが申し訳無さそうなふりをしながら答える。

「しかし、ながら姫様には、どうしても話さないといけない事が……」

 ヤーリテが指を鳴らすとシースが剣を抜いてリングに突きつける。

 慌てるリング。

「何をなさるのです!」

 シースが冷たい眼差しで答える。

「取引を行っているグレータ王国の王族に対しても無礼だが、それ以上に初めて御顔を拝見した我等の王に対しての態度として決して見逃せぬ。ここで無礼討ちにする」

 慌てて下がるリング。

「今日の所は、オバ王国の国王陛下がいらっしゃるので、帰りますが、例の約定、お忘れなく!」

 そのまま逃げるように帰っていくリングを見送ってからヤーリテが言う。

「国債の利子の支払いが滞った所に無理難題を吹っかけられたって所みたいだけど、何を言われた?」

 辛そうな顔をしながら、バレッタが答える。

「返済を待って欲しければ、一晩寝屋を共にしろと」

 周りの侍女まで悲しそうにするのを見ながら、ヤーリテが言う。

「お祝いって雰囲気じゃないわね。結婚式にまた来るわ。これは、お祝いの品よ」

 そういって、絹を渡してその場を後にする。



 オバ王国の町、ポンの酒場。

「結局の所、無理な出兵がとどめだったんだろうね」

 ヤーリテの言葉にリンが頷く。

「そうでしょうね、軍を動かすには、大金が必要です。グレータ王国は、小国ですが、アクセサリー等の加工技術が盛んで、その輸出が国を支えています。少し前に、大規模な販路開拓をした時の国債がネックですね」

「しかし、姫食いのドーに国債を掴まれるとは、失敗でしたね」

 ポンの言葉にヤーリテが言う。

「知ってるの?」

 ポンが頷き説明する。

「はい。ベニス連邦では、有名な金貸しで、主に国債を買収し、それを使って国の権力者に強引な要求を行って居て、中でも若く、穢れの知らない高貴な娘を差し出させる事を好む、外道ですよ」

 舌打ちするブレーダ。

「よく、無礼討ちにならないな?」

「同感だ、私だったら、即切り捨てるぞ」

 シースの言葉に、今やって来たジェネが言う。

「そうも行かないのが、国政だ。複数の国の国債を大量に掴んでるため、一国が無礼討ちしようとしても、他の国から圧力が掛かる仕組みになっている。そんなこんなで、姫を差し出した国は、死なば諸共って感じになるんだ」

 リンが悔しそうな顔をする。

「折角大金を払って購入した絹も無駄になりかねませんね」

 首を傾げるブレーダ。

「どうしてだ? 付け届けだったら、もう渡したんだから有効だろう」

 ヤーリテが不機嫌そうな顔で言う。

「バレッタって潔癖な所があるから、あんな男に抱かれたら、折角出来た婚約を解消する可能性もある。そうなったら、お祝いの品は、送り返されてお終いだよ」

 暗い雰囲気の中、BBBが言う。

『一つ聞きたい。国債って何だ?』

 少し、考えてからヤーリテが手を叩いて言う。

「そうか、流石にドラゴンに国債の概念は、無理か。様は、国がする借金。基本的には、国が補償する奴だから、低金利だけど確実性がある」

 それを聞いてBBBが言う。

『そうか、ならば金を無いというなら、この国もその国債を発行すればいいだろう』

 苦笑するポン。

「国債は、国の信用のバロメーターにもなるが、同時に、商人にとっては、国への発言力を高める道具にも出来る。リングの奴みたいにあからさまな奴は、そういないが、大量の国債を保有する事で、自分に有利な関税処置等を行わせるというのは、よくある話だ。だから、やたら国債を発行すると逆に自分の首を絞める事になる」

 リンが頷く。

「それに、弱小国でこれといった産業も無い我が国の国債を買う奇特な人間は、そうそういません。そうだ、ポン殿、我が国の国債を買いませんか?」

 苦笑するポン。

「残念ながら、私もこの町の建設などで、とうてい国債を買うような余裕は、ありません」

 そんな中、ヤーリテが笑顔になる。

「そうだよ、うちも国債を発行すれば良いんだよ」

 ブレーダが呆れた顔をして言う。

「今の話を聞いていなかったのか? 誰がこんな何にも無い国の国債を買うって言うんだ?」

 ヤーリテが自信満々に言う。

「大丈夫、この国には、あちきが、これ以上ないくらいに若く、穢れの知らない高貴な人間がいるじゃない!」

 その言葉に、ブレーダが怒鳴る。

「お前の何処が穢れの知らないんだ! これ以上無い位、黒いだろうが!」

 シースも慌てる。

「幾ら国の為といっても体を売るのは、認められません!」

 他のメンバーも納得いかない顔をして居たが、ヤーリテが作戦を説明すると納得する。

「そういう事で、各自、頑張って動く事!」

 ヤーリテの一言で、解散になる。

 そんな中、ブレーダが酒を飲みながら言う。

「黒いって言うのは、勘違いだ。こいつの腹の中は、暗黒だ」



 数日後、リングの屋敷にヤーリテがやって来た。

「オバの国王陛下が何の御用でしょうか?」

 面倒そうな表情を隠そうともせず言うリングにヤーリテは、神妙な顔をして言う。

「前、お会いした時、少し言い過ぎたと思い、謝罪をしに来ました。貴方に剣を向けたこの者も、降格させて今は、単なる従者です」

 前回と異なる安物の鎧を着けたシースが悔しそうな顔をする。

 それを見てリングは、相手が何を期待しているのか察知する。

「詰り、私と商談がしたいという事ですね?」

 ヤーリテが恥ずかしそうにしながら言う。

「恥ずかしい事ながら、建国して日が浅い我が国は、税収も追いつかず、発行した国債の利子の支払いも出来ない始末。そこで、ドー殿の所に来ました」

 素早く頭の中でソロバンを弾くリング。

「しかし、ながら、オバ王国は、これといった産業も無い国。私としましても国債を買うだけの保障がないと」

 ヤーリテが悩みながらも言う。

「他の商人に払う、国債の利子分だけで構わないのです」

 悩む素振りをしながら、リングは、優越感に浸っていた。

 前回、肝を冷やさせられたガキと騎士を思うとおりに出来る状況に喜びを感じて居た。

 そして、お約束の言葉を告げる。

「解りました。利子分と言わず、他の商人が買った国債を全て私が買い取りましょう」

 ヤーリテが嬉しそうな顔をする。

「本当ですか!」

 それに対して、リングがいやらしい顔をして言う。

「ただし、今夜一晩、私と寝屋を共にしてもらいます」

 ヤーリテは、俯き、シースが怒鳴る。

「いけません、姫王様!」

「黙れ、従者が口を挟む問題じゃ無いぞ!」

 前回やり込められた恨みを籠めて思いっきり見下すリング。

 ヤーリテは、戸惑いながら言う。

「……解りました。今晩、貴方と寝屋を共にします」

 満足そうな顔をするリング。

「それでしたら、契約は、明日の朝日の中で」

 その夜、リングは、欲望をベッドの上で撒き散らし続けた。



 朝日の中、やり過ぎで目の下にくまがあるリングにヤーリテが持ってきていた契約書を見せる。

「お願いします」

 リングは、疲れているが、満足気にペンを持ち、サインしようとした時に、不思議な一文を見つける。

「この、利子の支払いの代行は、期日までに最優先で行うものとするという一文は?」

 ヤーリテが真剣な顔で言う。

「そちらの都合で支払が遅れた場合、我が国の汚点になります。それだけは、避けたいのです」

 苦笑するリング。

「解りました」

 こうして、契約書は、サインされ、ベニス連邦全域に力を持つ、商人ギルドの立会いの下、正式な書面が取り交わされた。

「それでは、すいませんがよろしくお願いします」

 そのまま、自国に帰っていくヤーリテを見送る満足そうなリング。

 それに対して、リングの部下が言う。

「しかし良かったのですか? とうてい支払い能力があるとは、思えませんが?」

 それに対してリングが馬鹿笑いをする。

「だれが、馬鹿正直にオバ王国に支払いを求めるか。この契約書と私を散々楽しませてもらった昨夜の痴態を餌にマジックス王国からそれ相応の対応をしてもらう。しょせん、オバ王国など、あのガキのお遊びに過ぎないんだかな。ガキのお遊びのつけは、親に払ってもらうだけだ」

「なるほど、マジックス王国が担保なら十分ですね」

 部下の言葉に頷きながらリングが言う。

「だが、あの体は、良かった。後、二三度抱いてやっても、いいかもしれんな」

「ですが、実際にいくらぐらい、国債を発行して居たのでしょうか? 支払い期間が近い以上、こちらの運用可能資金を越した場合、大変な事になりますが?」

 他の部下の言葉にリングが気にした様子も見せない。

「いくら担保があるといっても、たかが姫のお遊びの国の国債にそんな大金を払うわけが無かろう」

 余裕のたっぷりの態度で自分の屋敷に戻るリングであった。



 そして、返済期日のリングの屋敷。

「ドー殿、支払えないというのは、どういうことだ!」

 オバ王国の国債を持つ商人の一人の言葉に顔を真青にしたリングが言う。

「いくらなんでもそんな金額が支払える訳がなかろう。あんな小国の国債をベニス連邦の総年間予算と同額の分も買うなど、正気の沙汰とは、思えんぞ!」

 失笑する商人達。

 笑われている事に悔しさを隠せないリング。

 商人の一人が同情を籠めて、自分達の契約書の一文を指差して読む。

「なお、この国債の買取の支払いは、一回目の国債の利子の支払いが無事行われなかった場合、不要とすると書かれているのが解るか?」

 国債の買取の契約書としては、不自然の一文に戸惑うリングは、何度も読み返すうちにこの契約書のトリックに気付いてしまう。

「一回目の利子の支払いより後に買取の支払いの期限がきられている……」

 先頭に居た商人が言う。

「そういう事だ。最初からお前に支払いをさせる前提でこんな契約書が作られたんだ。そして、お前の国債の買取の契約書にあるとおり、お前は、この支払いを最優先しなければいけないが支払い不能だから、俺達には、支払いは、不要だ。詰り、お前一人が破産するんだ」

「そんな馬鹿な……」

 崩れるリングであった。



 ポンの酒場。

「これって詐欺じゃ無いのか?」

 ブレーダの言葉にヤーリテが言う。

「詐欺の定義は、相手からお金を騙し取り、利益を得ること。あちき、オバ王国は、この一件では、お金なんて少しも手に入れていないよ」

 リンが頷く。

「それどころか、複数の契約書を製作に伴う商人ギルドへの立会い料の支払いで赤字です」

 首を傾げるブレーダ。

「それなのに、どうして今回の計画に賛成したんだ?」

 ポンがリング以外の商人と交わした契約書を見せる。

「ここに書かれているだろう。リング=T=ドーからの支払いで取得した国債を始めとする債権に関しては、権利を放棄すると。詰り、今回の件で姫食いドーに首根っこ掴まれていた国や組織に恩を売る事が出来る。まあ、これも奴の私財が莫大だから商人達も納得したんだすがね」

 そんな戦勝ムードの中、不機嫌そうにシースが言う。

「だからと言って、どうして姫王があの男と寝屋を共に必然性があったのですか!」

 ジェネが苦笑する。

「お前、まさか姫王が本当にあの男と寝たと思っていたのか?」

 シースが戸惑いながら言う。

「一緒の寝室に入った下衆が悦ぶ声を廊下で聞きましたが?」

 ヤーリテが満足そうに言う。

「あちきは、ちゃんと同じベッドで寝たよ」

 ブレーダが同情を籠めて言う。

「この我侭姫の魔法を忘れたか?」

 ソースが驚く中、ユアが少し不機嫌そうに言う。

「正直、私は、ヤーリテ様の教育上、不満でした。あんな下衆が自慰行為を繰り返す横に居させたなんて。帰ってきてからは、念入りにお風呂に入って貰いました」

「全身、真赤になったよ」

 ヤーリテが肩を竦めるのであった。



 その後、グレータ王国での結婚式では、小国でありながら、高い地位の席を確保されるヤーリテであった。

国債の話は、素人考えなので、この世界特有の価値観と思ってください。

因みに予知夢の所為でヤーリテは、耳年増です。

技術支援を巡って、ユーシャの部下と競うことになります。


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