勝手に将軍を雇う姫
その噂は、瞬く間に流れた。
マジックスの三将軍の一人、ジェネ将軍がゴルゴック山に進軍しているという信憑性の高い噂が。
ポンの町から程近いところにある、仮王宮と書かれた看板があるそれ程大きくない石造りの建物(前回みたいな事をした警備団の奴等を死ぬ気で働かせて建てた)にヤーリテ達が集まっていた。
その場に居る人間は、皆深刻そうな顔をしていた。
そして、ブレーダが報告する。
「あの噂は、間違いない。それも、ベニス側からも進軍して来ているのを確認した」
大きな溜息が漏れる。
「もう駄目です!」
リンが昔の伝手で安い給料で雇っている文官が恐怖に叫ぶ。
「落ち着きなさい!」
リンが落ち着かせようとするが、全然、効果が無かった。
「もう、お終いだ! 私達は、皆殺しにされるんだ!」
周囲の人間の顔に恐怖が伝染しそうになった時、ヤーリテが言う。
「大丈夫だよ、これは、内乱扱いにされているから。過去の実例を照らしても、大人しくしていれば、あちき以外は、殺される事は、無い」
周囲が戸惑う中、リンが真剣な顔をして言う。
「私も首謀者の一人です。死は、覚悟しています」
ブレーダが驚いた顔をするとリンが答える。
「私は、自分の意思でこの国の発展の為に動きました。ならば、最後までその意志を貫くだけです」
さっきの文官が頭を下げる。
「取り乱してすいませんでした!」
他の文官達の顔にも覚悟を決めた表情になる。
文官達の意外な意思に驚くブレーダにリンが説明する。
「私を含めて、私達は、マジックスのやり方に疑問を持ち、それが故に、職を失いました。この国では、相違があるが、お互いの意見を出し合い、より良い国を作ろうと動けるのです。それが、私達がこの国に執着する理由です」
ヤーリテが手を叩いて言う。
「それじゃ、現状を確認しよう。頭無しのブレーダが居るから、基本的な事から」
「誰が、頭無しだ!」
ブレーダが怒鳴るとヤーリテが言う。
「良いのか? 各国の状況など、難しい話もあるんだぞ?」
ブレーダは、少し考えた後にリンの方を向く。
「念のため、頼む」
リンが呆れた顔をしながら説明を開始する。
「現在、この周囲には、四つの大勢力があります。最初は、マジックス王国。王族の強大な魔力を後ろ盾に、広大な領地を誇りますが、実は、地下資源に乏しい上、これといった産業も無いのです。余剰な戦力を他国に貸出、その見返りに有利な貿易を行うことで、国を維持しているのが現状です」
その言葉に、周りの文官達が強く頷く、特に先程の文官が言う。
「その状態を打破する為の意見をいくらあげても、今の国王では、まるで通らない……」
リンは、説明を続けた。
「次に、我々も多くの恩恵を受けているベニス連邦。複数の国々からなりたつここは、各国がそれぞれ独自の産業を持ち、通商条約を結ぶ事で成り立っています。しかしながら、各国が自国の防衛を優先する為、侵略に対する総合的な防衛力不足が問題化しており、それを助けているのがマジックス王国です。今回もジェネ将軍がこの任務の為に出兵していたのです」
ヤーリテが頷く。
「だからこそ、マジックスの軍がベニス側に多く残せたんだけどね」
リンが頷き、説明を続ける。
「一番新しい街道が繋がる北のシルバース。ここは、輝銀地と言う神を崇拝する宗教国家で、厳しい環境を信仰と言う強い絆で乗り切っている国です。しかしながら、更に北に住む蛮族との争いが絶えず、マジックスは、ここにもよく将軍を出兵させています。その理由は、シルバースの豊富な地下資源の恩恵を受ける為です」
ブレーダがしみじみと言う。
「こうして聞いてみると、マジックスって思ったより、余裕が無いんだな」
文官達、特にリンが溜息を吐くとヤーリテが苦笑する。
「父ちゃんがああだから、国民も気楽なんだよ」
文官の一人が言う。
「いっその事、早くユーシャ王子が国王になれば、マジックスももっと発展するのに」
リンが睨むと慌てて文官が手を振る。
「勿論、ヤーリテ姫が国王になりたいのに反対という訳では、ありません。しかし、ユーシャ王子も国王となれば今の王の何倍も良いかと」
ヤーリテが複雑な顔をして言う。
「多分、マジックスの為には、それが一番なのかもね。でもあちきは、それを認めてないの。それを理解しておいてね」
頷く一同。
そしてリンが説明を続ける。
「そして、最後は、南の帝国、レッケス。新興国でありますが、皇帝ファイアーノ=F=レッケスの強い覇気に引き摺られる様にその勢力を伸ばしています。隣接するベニス連邦やマジックスにも何度も侵略を仕掛けていますが、マジックスの戦力がそれを阻んでいます」
ヤーリテが頷く。
「ベニスでは、ジェネが活躍し、マジックスに対する場合は、王族、この頃は、兄貴がね」
マジックスとレッケスの国境付近。
そこに、レッケスの大部隊が侵攻して来ていた。
その様子を見ていたリリンが舌打ちする。
「ジェネ将軍が内乱の鎮圧に動いているのを知っての進軍です」
隣に居たユーシャが頷く。
「そうですね。しかし、甘く見られた物です。マジックスへの直接侵攻を王族が許すと思っているのですから。兵を下がらせて下さい」
リリンが頭を下げ、伝令兵に伝える。
「ユーシャ王子が、放れる」
その言葉に、伝令が疾走し、マジックスの兵士達が一気に後退し、レッケスの兵士達は、動揺する。
次の瞬間、レッケス側から物凄い炎が立ち上る。
その炎は、次々に立ち上がっていき、レッケス軍勢を崩壊させて行く。
そこに、一度後退していたマジックスの兵士達が侵攻する。
「勝敗は、決しましたね」
ユーシャの言葉にリリンが頷く。
「はい。全ては、ユーシャ王子の炎の魔法のたまものです」
何故か苦笑するユーシャであった。
リンが苛立ちを隠せない様子で説明を続けて居た。
「正直、ユーシャ王子の強力な炎の魔法で一気に侵攻すれば、レッケスも打ち破れ、無駄な血を流さずに済むと思いますが、ヨークス国王が、侵略を嫌い、実現されないのです」
ヤーリテがしみじみ言う。
「詰り、いまの均衡は、父ちゃんのめんどくさがりな性格ゆえに成り立っているんだよ」
ブレーダが顔を引き攣らせて言う。
「お前もばっさり言うな……」
ヤーリテが言う。
「でも、これは、父ちゃんだけの性格じゃ無い。マジックスの王族は、代々、こんな性格をしている。多分、強大な魔力を持つ故の余裕がそうさせている。あちき達が特別なんだ」
「そうだろうな、妹姫なのに王様になりたいなんて無茶言う奴が、いっぱい居たら、マジックスは、とっくの昔に潰れているな」
ブレーダの言葉に苦笑する一同。
そして、ヤーリテが言う。
「あちきとしては、この状況を壊したくない。その為には、どうしたら良いと思う?」
戸惑う文官達。
ヤーリテが言う。
「答えは、決まってるって顔だね。あちきが大人しく降伏するそれが、一番だと思ってるだろ?」
リンがあっさり頷く。
「ジェネ将軍が率いる軍隊と戦った場合、勝っても負けても、以前の均衡は、維持されないでしょう」
ブレーダが驚く。
「勝てるつもりなのか!」
リンが本当に呆れた顔をする。
「さっきまで話を聞いていなかったのですか? こちらには、マジックスの王族、ヤーリテ姫がいるのですよ?」
ブレーダが戸惑いながら言う。
「しかし、幻術で実際の軍隊が止まるのか?」
ヤーリテが頷く。
「永遠に足止めする事は、可能だよ。でも、ジェネだったら、あちきがそうする事も考慮してくる」
その時、警備団の一人が駆け込んできた。
「大変です! 国境付近にマジックスの兵隊が集まり、この国を通った物は、密入国者として処罰すると言っています!」
「何だって!」
そう驚いたのは、ブレーダだけだった。
リンは、淡々と言う。
「やはり、そうきましたか。この国にとって、関税こそ生命線。無理に侵攻せずとも、国境を封鎖すれば、こちらが自然と消滅するという算段です」
慌てる文官達。
ブレーダが言う。
「お前の魔法でどうにかならないか?」
ヤーリテが首を横に振る。
「無理。あっちも色々魔法防御してくるし、何より、封鎖されている噂だけで、通行が減って、致命的だよ」
リンが苦しそうに言う。
「流石は、ヤーリテ姫を国王にしようと動いていたジェネ将軍だけあって、ヤーリテ姫の魔法を知り尽くしています」
「なんだ、それ?」
ブレーダは、新事実に驚いているとヤーリテが説明する。
「あちきと一対一の対決で破れてから、あちきの後ろ盾になってくれてたんだよ」
ブレーダが顔を押さえる。
「そんな所まで、お前の犠牲者が居たのか」
そして、ヤーリテが言う。
「本当は、やりたくなかったけど仕方ない」
リンが驚く。
「何か方法があるのですか?」
「やっぱ魔法でどうにかするのか?」
ブレーダの言葉に笑みで答えるヤーリテ。
「半分、正解。だけど、本質的には、違うよ」
そして、ヤーリテが呪文を唱える。
『我が魔法名、DDの元に、巨大な影を産まん。巨影』
国境を封鎖しながらシースが言う。
「この方法ならば、姫様も無傷でお帰りなるな」
その言葉にジェネが淡々と言う。
「お前も姫を理解していないな」
「どういうことだ?」
シースが首をかしげた時、天を覆うような巨大なヤーリテが現れる。
「……なんだ、あれ?」
兵士達が動揺するとジェネが一喝する。
「姫の魔法は、幻影のみ、マジックスの兵が実害の無い、幻影に恐れるな!」
それだけで一気に兵士達の中から戸惑いが消える。
これこそ、他国での連戦を勝利し続けた将軍のカリスマである。
そして、ジェネが巨大なヤーリテの幻影を見上げる。
シースが少しだけ引き攣った笑みで言う。
「姫様もこっちの混乱を企んだろうが、失敗だったな」
ジェネは、答えず、待ち続けた。
『ジェネ、給金は、ろくに出せないから、それで良いって兵士だけ連れて、あちきが作った国、オバ王国の将軍になりなさい!』
この一言は、後世に姫王と呼ばれるヤーリテの初めての自国名の公言とされる事になる。
シースは、万が一の可能性に恐怖しながらジェネを見るとジェネは、馬鹿笑いをしていたので安堵し、言う。
「姫様も馬鹿な事を言うよな」
シースも笑う。
ジェネは、思う存分笑ってからシースに告げた。
「そういう事だが、お前は、どうする?」
シースの顔が一気に引き攣る。
「もしかして、お前、今の言葉に従うつもりなのか!」
ジェネが言う。
「当然だろう。遅いくらいだが、姫もマジックスの事を考えてだろうがな」
シースが慌てて言う。
「リリン将軍の前で敵だったら、戦って勝つだけって言ってただろうが!」
ジェネが呆れた顔をして言う。
「だから、味方になっただろう」
シースは、気付いてしまった。
「お前、最初から、姫様にこう言わせたいだけの為にこんな茶番を仕組んだな!」
ジェネは、答えなかった。
結局、国王の政治への無関心や自分達への態度の悪さと姫時代からの付き合いが深いヤーリテへの感情で、少なくない兵士がオバ王国の兵士になったのであった。
一週間が過ぎ、ヤーリテは、無人の街で、待ち合わせをしていた。
その隣には、BBBだけが居て、その手には、紙の束がある。
そして、問題の人物、ヤーリテの兄、ユーシャが秘書のシャイだけを連れて現れた。
「お待たせ。連絡があった、同盟の件だけど、了解したよ。正直、ジェネ将軍がそちらにつくとは、思わなかったよ。ヤーのカリスマには、驚きだね」
ヤーリテが自分側の条約の紙を渡す。
「とにかく、これで、こっちに来た兵士の家族にも余計な手出しをせず、給金の代理支払いも頼めるって事でいいよな」
ユーシャは、書面を確認する。
「うん、問題ないよ。今まで通りにベニスへの出兵にジェネを使わせてもらえる限りは、その条約は、守る」
シャイが差し出した紙を確認してヤーリテが背中を向ける。
そんなヤーリテにユーシャが告げる。
「ねえ、もう王様ごっこは、止めないかい?」
ヤーリテは、舌をだして言う。
「嫌、あちきは、本気で王様になるんだから」
ユーシャが小さく溜息を吐く。
「そうか、残念だよ」
そして呪文を唱える。
『我が魔法名、SFの元に、魂の炎を弱まれ。魂炎弱』
ユーシャがヤーリテを行動不能にした事を確信するが、ヤーリテは、そのまま歩き続けて居た。
驚くユーシャにヤーリテが告げる。
「無駄だよ、兄貴には、あちきの魂の炎を誤認識する幻覚かけてあるから」
ユーシャの細目が開かれる。
「どうやって知った?」
ヤーリテが少し悲しげに言う。
「皆は、誤解してる。兄貴の魔法は、父ちゃんみたいな物理的な物でない。SF、スプリットファイアーの名が示すように、魂の炎を操る事。普段は、それを物理化してるだけ。その力の本質は、もっと根本で絶対的な物。でも、そんな能力じゃなければ兄貴もそんな目をする事がなかったのかもね」
振り返ったヤーリテの前には、普段からは、想像できない覇気を孕んだ目をしたユーシャが居た。
「答えになっていないぞ」
ヤーリテが頭をかきながら言う。
「あちきのDD、ドラゴンドリームは、絶対的な力をもったドラゴンにも有効な夢幻を意味する。その力の中には、予知夢もある。それで、何度も見たよ、兄貴があちき達が得た竜の力も使って覇道を進み、見事に覇王になる姿を。でも、覇王になった兄貴には、何も残って無かった。愛も信頼も何もかも、あるのは、孤独な覇王の称号のみ。兄貴にそんな人生は、おくらせない。だからあちきが兄貴に対抗する王になるんだよ」
馬鹿笑いをするユーシャ。
「なるほどな、ヤーが王になる理由は、それか。やはり、ヤーは、マジックス王族の血を強くひいている、身内に甘すぎる。ヤーこそ、マジックスの王に相応しいのかもしれない。だが、俺は、違う。お前の予知夢の俺が覇王の称号以外が、無い理由は、簡単だ。俺に必要なのがそれだけだからだ!」
辛そうな顔をするヤーリテにユーシャが告げる。
「何にしても、これで俺の覇道への道が一つ決まった。ヤー、お前とお前の従わせし竜の力を得る」
その言葉にBBBが反応する。
『人間が、お前の力は、並みの竜なら通用するかもしれないが、我にも有効だと思うな!』
それに対して、今まで大人しくしていたシャイが前に出る。
「BBB、お前の相手は、私、SSBだ!」
次の瞬間、シャイは、白き輝く竜と変貌する。
それに合わせる様にBBBも元の黒き巨大な竜の姿に戻る。
お互いの竜が睨み合う、それだけで空間が捩れそうな魔力が飛び交う。
『我が、BBB、ブラックブレイクブレスの名の意味をその身でしれ!』
『私の、SSB、シャイニングスターブレスの前に、闇は、消え去るのみ!』
世界すら歪める光と闇のブレスがぶつかり合おうとした瞬間、その中央にトーが現れ、その両者のブレスを吸収する。
その光景には、竜達も、ユーシャも驚く。
そして、ユアが現れた。
「そこまでだよ、貴方達の力は、強大すぎる。もしも本気で争うのなら、あちきの使徒、八百刃獣の一刃、闘志狼が止めるよ」
本来の強い眼差しを持った巨大な狼の姿に戻った、トーこと、闘志狼が牽制する。
「この圧倒的な魂の力……神か?」
ユーシャの言葉にユアは、答えず、説明を続ける。
「でも、干渉するのは、他界にも影響がある直接対決のみ。それ以上の干渉は、しない。それで良いですよね?」
ユアの言葉にヤーリテが頷く。
「それで、十分。兄貴、勝負だ。あちきは、オバ王国を大きくする、兄貴は、マジックスを成長させる。そして、直接対決以外の方法で相手の国を取り込んだ方が勝ちだ。ただし、元の大きさのハンディとして父ちゃんは、そのままだぞ」
ユーシャは、もう一度ユアを見て、忌々しそうに言う。
「解った。その勝負を受けよう。ただし、負けた場合は、ヤーの全てをもらうぞ」
ヤーリテが頷く。
「あちきが勝ったら、兄貴に覇道を捨ててもらう」
ユーシャが自信有り気に言う。
「ヤーに負ける程度では、覇道とは、言わん。帰るぞ」
『はい』
SSBが人の姿、シャイに戻り、ユーシャの後に続く。
BBBも小竜の姿になってヤーリテに問う。
『お前は、あれが神だと知っていたのか?』
それに対して、ユアが答える。
「正確に言うなら、神の分身。姫は、予知夢で貴方達が戦った時にあちきがとめる事を知っていただけ」
ヤーリテが頷く。
「とりあえず、これでようやくスタートラインに立てた。兄貴を覇道の呪縛から解き放つため、あちきは、あちきの王道を、姫王の道を突っ走る!」
強い決意を固めるヤーリテであった。
オバとマジックスとの表向きには、兄妹間での穏便な話し合いで決まったとされる同盟は、世界を変える大波を生み出す事になるのであった。
遂に明らかになったヤーリテが王を目指す理由。
途中、ヤーリテが変わっているのは、あちき達と言うのは、ヤーリテとユーシャの二人って意味です。
今回は、ヤーリテ、ユーシャ、BBBとSSBの魔法名の意味が出てきました。
他の人の魔法名の意味も主役をはる時にだして行こうかと思います。
これからが、本編で、ヤーリテが周辺の国と同盟結んだり、国力を高めたりしていきます。
最初は、姫時代から仲が良かった王女の結婚式に出る為にベニス連邦に所属する小国に向かう。
そこでは、王すら蔑ろにする豪商が居たって話です。




