勝手に街道を通す姫
その闇のブレスは、一撃で山を削りとった。
『こんな物で良いのか?』
本来の、巨大な竜の姿に戻ったBBBの言葉に、ヤーリテは、隣に立つ、眼鏡をかけた細身の青年、リン=L=マジの方を向く。
「こんなもんで良いの?」
遠眼鏡で、観測し、リンが告げる。
「もう少し真直ぐにして欲しいですね。出来ますか?」
その言葉にBBBが舌打ちする。
それだけで、隣に居た、ブレーダが慌てる。
「リン、そんな細かいことは、良いだろうが!」
しかし、リンは、譲らない。
「細かくありません。この道は、新たな街道として整備する道です。こんな資源も何も無い場所に国を作るのです、関税が生命線になる以上、重要な事です」
「そういうことだから、もう一発、お願いね!」
ヤーリテの言葉に、BBBが思いっきり不服そうな顔をする。
『なぜ、最強と言われる俺が、お前達の為にそこまでしないといけないのだ?』
ヤーリテが笑顔で言う。
「だったら戦う?」
BBBは、苛立ちを籠めてダークブレスを放ち、街道になる様、山を抉るのであった。
「これでしたら、短期間で街道が出来るでしょ」
そうリンが告げて、雇った人員の使い方を考え始める。
BBBが小竜の姿に戻って不貞寝するのを見ながら、ブレーダがリンを見る。
「しかし、文官の癖に度胸があるな」
ヤーリテが苦笑する。
「そうじゃなきゃ、父ちゃんに真面目な忠言して、クビにならないって」
「ご飯が出来ましたよ!」
ユアの呼ぶ声に、ヤーリテが考え事に没頭するリンを引っ張り仮王宮(元山賊のアジト)に戻っていく。
その姿を見てブレーダが呟く。
「それにしても怒涛の一ヶ月だったな」
ブレーダは、首都ジックを出てからの一ヶ月を思い出す。
「何からはじめるんだ?」
ブレーダの言葉にヤーリテが言う。
「まずは、治安の確保。マジックスの国王軍を恐れて隠れ住んでいる山賊達を排除するよ」
「どうやってだ? ここは、奴等にとって庭みたいな物だ、それこそ国王軍が総出で山狩りでもしない限り、完全に狩り出せないぞ」
ブレーダの言葉にヤーリテが余裕たっぷりな顔で答える。
「あちきの魔法がなんだったか、忘れたの?」
「幻覚だろ?」
意味が解らず答えるブレーダにヤーリテが手でバッテンを作って答える。
「ブーブー、ハズレ。あちきの魔法の属性は、夢と幻。罰ゲームは、山賊と同じ目にあってもらうよ」
「どういうことだ?」
悩むブレーダであった。
その夜、ブレーダは、何故か山賊として、町を襲っていた。
そして町娘が当然、姿をゾンビに変貌して、逆に襲ってくるのであった。
必死に抵抗し、逃げるブレーダ。
しかし、逃げるのに成功したのは、少なく、大半の山賊がゾンビに殺される。
それを尻目にブレーダは、必死に逃げるが地面が底なし沼の様に変貌し、足が沈んで逃亡を困難にする。
そしてどんどん山賊達を淘汰し、近づいてくるゾンビの集団にブレーダが叫ぶ。
「来るな!」
ブレーダは、そう叫びながら目を覚ます。
荒い息をするブレーダ。
「夢なのか?」
「大丈夫ですか?」
ユアがそう言って水を差し出す。
「ありがとう」
水を飲んで落ち着いた所でブレーダが言う。
「なんなんだ、あれは?」
傍に居たBBBが舌打ちする。
『DDの夢魔法だ。この山一帯を全てにかけてある。今頃、山賊共が何度も悪夢にうなされているだろうよ』
顔を引き攣らせるブレーダ。
「もしかして山賊を追い出すって悪夢でか?」
呆れた顔をするブレーダにユアが言う。
「たぶん、これ以上有効な方法は、ありません。力で追い出した所で、こっちの隙を突いて戻ってくるでしょうから、自分達の意思でこの山に戻らないようにする必要があるのです。その上、この方法なら、山賊を辞める人間も出てくる筈です」
「本当に大丈夫か?」
ブレーダの言葉に、BBBが笑いながら言う。
『いまさっき、叫びながら起きた男の言葉とは、思えないな』
顔を真赤にするブレーダであった。
翌日、ヤーリテがブレーダを呼び出して金貨が詰まった皮袋を渡して言う。
「これを持って向かいに行って」
ブレーダが皮袋をお手玉しながら意地悪そうな顔で言う。
「これ持って逃げ出すかもしれないぞ?」
ヤーリテが呆れた顔をして言う。
「何を詰まらない事を言うんだよ? あんたがそんな事するか、自分が一番良く解っているだろう?」
少しも疑われていない事に戸惑いながらブレーダが、事前に説明された人物を迎えに行くのであった。
その男は、田舎町で、帳簿整理の仕事をしていたリンである。
「何のようですか? 私は、クビになってもマジックスに忠誠を誓っています」
強い意志を示すリンにブレーダがヤーリテから預かった皮袋をテーブルの上に置いて言う。
「対価は、これの十倍だ」
リンが肩を竦めて言う。
「残念ですが、私には、それ程価値があるとは、思えませんね。何を企んでいるのですか?」
ブレーダも肩を竦める。
「俺もよく知らない。ただ、コレを渡した人間からは、次の様に言えと言われて居る。『ここにある金額は、手付け。あちきが本気な事の証。あんたは、その金で新しい国を作る手を考えられる人間だと思っている。それと、まともな給金が欲しかったら、努力して黒字にしてみせろ』ととことんふざけた事を言っていたぞ」
その言葉にリンが驚く。
「まさか、姫が……。ゴルゴック山なのですか?」
今度は、ブレーダが驚いた顔をする。
「何で解ったんだ?」
リンが苦笑する。
「私が提示したのです。姫のBBBが居ればそこに新しい街道が出来ないかと。まさか本当にするつもりなのですか……」
暫く沈黙したと思うと、リンが皮袋を拾い上げて言う。
「ならば、私も本当にする為に動かなければいけませんね。まずは、街道の町まで行きます。最低限の舗装をする為の人と資材の手配をしないといけませんから」
準備を開始するリンにブレーダが言う。
「あんたは、独立なんて夢みたいな事が可能だと本当に思っているのか?」
それに対してリンが準備をしながら質問で返す。
「マジックスが王国として成り立っているのは、何でだと思いますか?」
ブレーダは、戸惑いながら言う。
「歴史とか国土とか、そういった物じゃ無いのか?」
リンは、首を横に振る。
「マジックスが王国として成り立っているのは、王族の強大な魔力です。他の全ての要素がそれを前提に成り立っているのです。逆を言えば、その前提さえあれば、新しい国を作るのは、決して不可能では、ありません」
戸惑うブレーダ。
「しかしよ、ヤーの力は、幻だろ。今の国王みたいに直接的な力じゃ無いんだぞ?」
リンが苦笑する。
「逆ですよ。姫の魔法は、歴代でも屈指の支配者向きの力なのです。直接的な攻撃力は、代用が可能ですが、あの圧倒的な夢幻魔法は、代わりになるものは、ありません」
そして、リンが金貨で人を雇い、ゴルゴック山に着いた時には、山賊は、一人残らず逃げ出していた。
リンは、文官としては、有能であった。
なんといっても人を使うことに長けていた。
雇った人々に山から得られる資材の調達をさせている間に、数人の専門家を使って街道に相応しい場所を選定し、BBBのダークブレスで山を削って街道の基礎を作らせた。
整備の様子を監視するリンにブレーダが言う。
「しかし、新しい道が出来たからって人が通るのか?」
リンが指示を出しながら答える。
「漠然と道を作っただけでは、意味がありません。この後、あと最低でも二つ街道を作ります。その後、整備し、人の流れが出来るようにするのです。そこ、手を抜かないで下さい」
意味が把握出来ず頬をかくブレーダ。
最初の街道が出来、街道の入り口に関所が作られた。
ブレーダがそこの警護をしていると、厳つい商人が格安で雇った老人役人に詰め寄る。
「ふざけるな! マジックスとは、別に関税を払えて言うのか!」
「ですから、ここは、新しい国ですので、マジックスとは、違うのですよ」
老人の言葉に、厳つい商人が睨む。
「マジックスのわがまま姫が勝手に言っている事だろうが! そんな金を支払う義務は、ない! 勝手に通るぞ!」
そこにブレーダが来て言う。
「ヤーがわがまま姫なのは、否定しないが、この街道を作ったのは、そのわがまま姫なんだ。使用料ぐらい払うのが筋だろ?」
「何だと!」
厳つい商人が威嚇してくるとブレーダは、剣を抜いて言う。
「どうしても勝手に通るって言うんだったら罪人として捕らえるぞ」
厳つい商人は、舌打ちして関税を叩きつけてくる。
「何が独立国だ! これじゃあ町のチンピラと変わらないな!」
捨て台詞を残して街道を進んでいく厳つい商人。
ブレーダが苦笑する。
「だよな、こんなのが何時まで続く訳ないよな」
それに対して次の商人が言う。
「そうでも無いですよ。このここで関税を払ってもこの街道を使えば十分に利益が出ますからね?」
「どういうことだ?」
ブレーダの質問に商人が答える。
「ゴルゴック山の存在は、我々ベニス連邦の人間にとっては、嫌な存在でした。マジックスとの商売をするには、どうしても迂回する必要があり、その為には、かなりの余計な金が必要なんですよ。それが、ここに街道が出来る事で大幅な短縮が可能になった。それに噂では、他にも北の宗教国シルバースとも繋がる街道が作られるとなれば、その利用価値は、跳ね上がります。街道の配置次第では、ここに新しい貿易の町も出来ます」
驚いた顔をするブレーダにその商人が言う。
「しかし、山を削って街道を作るなんてとんでもない事を考える姫様には、一度会ってみたいですね」
「あちきだよ」
突然あらわれるラフな格好をするヤーリテを見て商人は、小声でブレーダに確認する。
「本当ですか?」
ブレーダが頷くと商人が頭を下げる。
「お初にお目にかかります。私は、ポン=S=ローユというベニス連邦に商人でございます。姫様のお顔を拝見でき、大変に光栄な思いです」
ヤーリテが指を突きつけて言う。
「あちきは、この国の王様!」
「そうでした、すいませんでした国王様」
改めて頭を下げるポンにヤーリテが言う。
「話は、変わるけど、今言った貿易の町だけど、貴方が中心になって作る気ない?」
驚くポン。
「どういうことですか?」
ヤーリテは、ポンを詰め所の休憩室に連れ込むという。
「リンってうちの文官と話していたんだけど、知識が深くないあちき達が指示するより自然に作らせた方が良いかと思っていたんだ。でも、あんたは、有能そうだから、あんたに任せるのも良いかもってね。秘密で優遇するよ?」
ブレーダは、乗らないだろうと思った。
町を作るなど、夢みたいな事を現実的な商人がする訳がないだろうから。
しかし、ポンの答えは、違った。
「土地と人手は、協力して頂きますよ」
ヤーリテは、手を差し出して言う。
「任せておいて、土地は、あまってるし、人も街道整理が終った人達に継続させて仕事させれば良いからね」
握手してポンが言う。
「儲けさせてもらいます。それでは、今の仕事を片付けて来ますので、詳しい話は、帰り道で」
休憩室を出たポンにブレーダが言う。
「町を作るなんて本気か?」
ポンが頷く。
「何も夢物語では、ないんですよ。さっきも言ったとおり、貿易の町が出来るのは、必然なんですよ」
ブレーダが眉を顰める。
「そこが解らない。どうしてそれが必然なんだ」
ポンが関所を指差す。
「あれが主原因です。関税って奴は、面倒で出来るだけ少なくしたい。それは、何処の商人も思うことです。そうなると相手の国までいくより こういった途中の国で売り買いした方が楽なんです」
「でも物が動けば最終的には、払う金額は、変わらないんじゃないのか?」
ブレーダの当然の質問にポンが答える。
「そうでもありません。商品には、適切な量って物がありますが、移動距離が長くなればなる程、その費用から、余裕を持つようになります。逆を言えば、短ければ売るのも買うのも適切な量になり、当然関税も減る事になります。それにシルバースとの街道も出来るとなれば、かなりの物がここでやり取りされる事になります。そうなったら、取引の町の中心人物になるのは、先行投資も発生しますが、それに見合う以上の儲けが見込めますからね」
ブレーダが唸る。
「商売って難しいんだな」
ポンが目を輝かせて言う。
「ええ、今度の件だって失敗したら、今までの貯えを失うどころか、多大な借金を背負う事になるでしょうが、こんなチャンス逃すのなら商人をやっていません」
こうして、ヤーリテの国づくりにまた一人の人間が参加する事になるのであった。
BBBの圧倒的な力の発動です。
それにしても、淡々としたストーリー。
戦闘シーンは、皆無なこのシリーズが人気でるのかな?




