勝手に決着をつける姫
マジックス王宮のユーシャの執務室に重臣達が集まっていた。
「ヨークス国王が錯乱した証拠ならば、いくらでもございます。十分に我々に勝ち目があります」
クリの言葉をユーシャが首を横に振る。
「無駄だ、どれだけの証拠があろうとも、マジックス王国において前例が全て。実際に長い歴史の中では、錯乱した国王の指名通りに次の国王が選ばれた事もある」
クリが必死に言い募る。
「しかし、周りが認めなければきっと大丈夫です!」
その言葉にダーガが言う。
「ベニス連邦の奴らが居る。奴らは、間違いなく、傀儡にしやすい、リリン将軍の腹の子供を押すだろう」
「その様な内政干渉は、させなければ良い!」
クリが強固に主張するが、ユーシャが調査結果を見せる。
「このマジックスでも保守派の人間は、多い。その声を全て封じるには、ベニス連邦の存在が大きすぎるのだ」
クリが悔しそうな顔をする中、シャイが言う。
「全ては、貴方がベニス連邦への工作に失敗したからです」
辛辣な一言をクリが奥歯をかみ締め堪えるのを見ながらユーシャが言う。
「この状況を読んで、ベニス連邦との連携を強固にしたヤーの指示勝ちだ。予知夢を持つヤーに小細工は、通用しない。ここは、力技で事を終わらせる」
それを聞いてダーガが頷く。
「軍を進めて、オバ王国を一気に壊滅させるのですね?」
ユーシャが首を横に振る。
「そこまでやっては、こちらの非を認める様な物だ。ここは、暗殺を行う。ただし、全力でな」
それを聞いてシャイが言う。
「解りました。全力で当たらせてもらいます」
シャイの言葉にユーシャが頷くのであった。
リリンは、ジェネに案内されるままにオバ王国の仮王宮の奥の一室に入る。
「暫くは、ここで我慢してくれ」
ジェネの言葉にリリンが頷く。
「解っているわ」
短い沈黙の後、ジェネが言う。
「お前が、ヨークス陛下とそういう関係だったとは、気付かなかった」
苦笑するリリン。
「陛下との肉体関係をもったのは、貴方がオバ王国に行ってからです。私は、貴方の事が好きでしたから」
ジェネは、複雑な顔をするが答える。
「俺は、男である前に軍人だった。そう思ってくれ」
リリンが頷く。
「解っているわ。そんな貴方だから好きになった。私は、もう陛下の子供を身籠った女。そして、次期国王の生母、一生を王家に捧げるわ」
その誓いにジェネも答える。
「俺は、子を作らない。この一生を姫王様、オバ王国の為に捧げる」
そんな二人の様子を隣の部屋で聞いていたヤーリテが溜め息を吐く。
「不器用な人たち。まあ、人の事を言えた義理じゃないな」
「そんな事より、奴らは、攻めて来るんだろう?」
ブレーダの言葉にヤーリテが頷く。
「軍は、派遣してこないけど、その代わり、精鋭戦力で暗殺を仕掛けてくる。それを防ぐしか道は、無い」
そして、ヤーリテの足元に居たBBBが言う。
『SSBも出てくるだろうな』
ヤーリテが闘志狼を見ながら言う。
「流石に、後先の事を考慮してられない状況だからな」
シースは、胸を張っていう。
「リリン将軍には、指一本ふれさせません!」
続いてリンが言う。
「ベニス連邦は、完全にリリン将軍の息子を容認する方向で動いています。暗殺さえ防げば、こちらの勝ちです」
ヤーリテが苦笑する。
「それが一番大変なんだけどね」
深夜のオバ王国の仮王宮の周囲に無数の殺気が現れる。
それを束ねるように立つのは、ダーガだった。
「失敗は、許されない。確実にリリン将軍とその腹の子の命を奪うのだ!」
ダーガの命令に動き出す、マジックス王国軍の精鋭達。
侵入すると直にシースが現れる。
「やらせると思ったか! ここは、私達が食い止める!」
先の大戦で生き残った兵士達が必死に戦いを挑む。
狭い室内という事もあって、戦いは、五分五分で進んでいた。
そして、ダーガが戦いに参加しようとした時、その前にブレーダが立ちふさがる。
「あんたとの決着をつける!」
「お前に関わっている時間は、無いわ!」
ダーガは、その告げて剣を振り下ろすが、それを受け止めてブレーダが言う。
「行かせる訳がないだろう!」
二人の剣は、激しく交わり続けるのであった。
傍らシャイを控えさせながら、戦場を見下ろすユーシャ。
「流石に、簡単には、行かないな。シャイいや、SSBよ、お前の力を見せろ」
ユーシャの言葉にシャイが頷き、ドラゴンの姿に戻した。
SSBが大きく息を吸い込み、激しいブレスを放った。
『シャイニングブレス』
しかし、その前に突如、黒い龍、本来の姿のBBBが現れた。
『ブラストブレス』
両者のブレスがぶつかり合い、相殺された。
そして、ヤーリテが姿を現すのを見てユーシャが言う。
「幻覚で隠れていたか。しかし、今回は、ひくつもりは、無いぞ」
ヤーリテが言う。
「解っている。こっちもひけないからね」
緊張が高まる中、ドラゴンたちの攻防が始まった。
神の使徒である闘志狼は、その様子を密かに監視するのみであった。
闇夜の中の戦い、どちらが有利でどちらが不利かもわかりづらい中、ダーガは、自分の部下達がどんどん減っていく事に気付いた。
「ここまで圧倒される訳が無い!」
叫ぶダーガの腹に拳の一撃を入れるブレーダ。
「気を散らしてると直に終わるぞ!」
目の前にブレーダに意識を集中しながらもダーガは、考え、答えを出した。
「指揮官の有無がここまで差が出ると言うのか!」
ダーガの想像通り、ダーガがブレーダに集中している間にジェネとシースが的確な指示を出して、マジックスの精鋭部隊を追い詰めていっていた。
「お前と遊んでいる時間が無くなった。これで終わらせる!」
次の瞬間、ダーガの姿が闇に消える。
「親父お得意の闇魔法かよ!」
ブレーダが気配を探りながら油断無く構える中、ダーガの一撃が背後からブレーダを襲う。
『ソードカーニバル』
その呪文と同時にブレーダの周囲に魔法の剣が現れ、ダーガの剣を一瞬だけ遅らせる。
『ダッシュソード』
その一瞬が加速したブレーダの一撃を間に合わせた。
「まさか、お前にやられる時が来るとは、思わなかったぞ」
利き腕を半ばまで切り裂かれたダーガがそれでも不敵に言い放つ。
ブレーダが剣を突きつけて言う。
「この技は、ヤーリテの幻覚対策に覚えた。まさかそれをあいつの手助けするために使う事になるなんて意外だぜ」
ダーガが残った手で剣を構えて言う。
「だが、私は、まだ戦える。お前にそれだけの覚悟があるか!」
そういって、先ほどまでの切れが無いが恐ろしいほどの気迫と共にブレーダに切りかかるダーガ。
ブレーダが正面からそれを受け止め、剣を振り下ろした。
地面に倒れたのは、ダーガだった。
「親父は、どうしてユーシャ王子に付いたんだ?」
ダーガは、大量の出血でかすむ目で息子を見ながら言う。
「あの人だったら、この世界から戦いをなくしてくれると思ったからだ。あいつは、何時も言っていた、争いが無い世界になれば何時も一緒にいられるのにってな」
あいつが誰を指すのかは、ブレーダにも解った。
「馬鹿野郎! そんな言葉を気にする前にもっと傍に居てやればよかっただろうが!」
「私は、軍人だ。戦うことしか出来なかった。それだけだ」
その言葉を最後に息絶えるダーガをただ抱きしめるブレーダであった。
その後ろでは、ジェネ達がマジックスの精鋭の制圧を始めていた。
天上の二体のドラゴンの争いは、熾烈を極めていた。
『お前は、どうしてあのオスに従うのだ!』
BBBの言葉にSSBが答える。
『あのお方は、魂だ! あの気高き魂の色に魅入られてしまった。あのお方の為だったら命も惜しくは、無い!』
地形すら変化させる両者のブレスだが、双方の力が互角な為、どちらにも致命傷を与えられない。
そんな中、動きを見せたのは、SSBであった。
ブレスを放とうとしたBBBに対して、特攻をかけた。
BBBがブレスを放つ前にその牙がBBBの首にかかる。
『お前は、自分の名、SSBを捨ててまで勝ちたいのか!』
BBBが驚愕する中、SSBが更に牙を押し込み言う。
『あのお方の為だったら、人の真似だってするわ!』
悔しげな顔をしながらもBBBは、地上に落下をし始める。
勝利を確信したSSBだが、その視界、自分達の落下先に気付き驚愕する。
『拙い! このままでは、あのお方の上に落ちる!』
咄嗟に無理な状態でBBBを押し出し、落下場所を変えようとした。
しかし、押し出された筈のBBBは、あっさり空中で停止し、無防備なSSBに向かって渾身のブレスを放った。
ブレスの直撃にSSBが大ダメージを受けて地面に墜落するのであった。
その様子を地上で見ていたユーシャが苦々しい顔で言う。
「どうしてだ? SSBの方が強い覚悟を持っていた筈だ!」
ヤーリテが悲しげな顔をして言う。
「彼女が女だからだ。兄貴だけに拘ったSSBは、勝負より兄貴の安全を優先した、あくまで自分達の勝負に拘ったBBBと違ってな」
「ダーガも敗れ、SSBも敗れた。残ったのは、私だけだ。しかし、まだだ、私一人でもやれる」
ユーシャがそう告げた時、その前にリリンが現れる。
「ヤーリテ殿下を殺す事になりますよ?」
ヤーリテがリリンの前に立ち塞がるのを見てユーシャが言う。
「それでも、覇道を諦める訳には、行かないのだ!」
ユーシャがヤーリテ達の魂を燃やそうとした時、その背後から剣が現れて、ユーシャの胸を貫いた。
涙を堪えるヤーリテを見てユーシャは、憑き物が落ちた様な顔をして言う。
「そうか、そこのリリン将軍は、幻だな」
その言葉通り、ヤーリテの後ろに居たリリンが消え、ユーシャの後ろに現れる。
「ユーシャ殿下、貴方をこのまま闇の道に進ませるわけには、行かなかったのです」
ユーシャが満足げに頷く。
「ご苦労だった、お前のお陰でヤーをこれ以上傷つけなくて済む」
そしてユーシャがヤーリテに手を伸ばして言う。
「ヤー、最後にもう一度、抱きしめさせてくれ」
ヤーリテがユーシャに抱きつき言う。
「ユーお兄ちゃんの馬鹿!」
「悪い兄ですまなかった」
優しくヤーリテを抱きしめながら言うユーシャにリリンが言う。
「どうしてですか? 殿下達は、お互いを大切に思っていた筈です、それがどうしてこんな結末を迎えなければいけなかったのですか?」
ユーシャが言う。
「ヤーを抱きしめるのは、本当に久しぶりだ。最後に抱きしめたのは、ヤーが口調を変える少し前だったな」
ヤーリテは、涙を流しながら言う。
「男っぽい口調を使っていれば、ユーお兄ちゃんの気持ちも変わるかもって思ったんだもん」
ユーシャが苦笑する。
「ヤーがどんな態度をとっても、ヤーへの気持ちは、変わらなかったよ」
リリンも二人の関係に気付く、だからこそ口に出来なかった。
「私は、愛に生きる事は、出来なかった。だから覇道に逃げた。それだけだったのだよ」
そして一番愛した人間の腕の中でユーシャは、一生を終えるのであった。
その後、ユーシャとダーガの不慮の事故死と処理され、マジックス王国は、リリンの子供が継ぐ事になった。
ヨークスは、それまでの怠惰な生活を改めて、国の為、生まれてくる子供の為によりよい国作りに勤しむ。
そんな中、ダーガの跡を継いでブレーダがマジックスの将軍となった。
大陸征服を諦めない帝国。
商売中心のベニス連邦。
宗教国として体面に拘るシルバース。
そして変わっていくマジックス王国。
大国を相手に、ヤーリテは、兄を失った悲しみを乗り越え、心を通わせた臣下と共にオバ王国の国王として、対等に渡り合い続けるのであった。
詰り、禁断の愛って奴です。
ユーシャは、実の妹を愛していたのです。
ヤーリテもそれも知り、ヤーリテ自身もユーシャに兄以上の好意を持っていた。
お互いが相手を思いやり過ぎて、決して結ばれる事が出来なかった二人。
兄は、妹への思いを堪える代償として野望を突き進み。
妹は、自分への思い故に暴走する兄を止めようと周りの迷惑を考えず動いた。
そんな話がこの話だったのです。




