勝手に後継者を推薦する姫
マジックス王国の王宮、ヨークス国王の寝室。
その日もヨークス国王は、側室の女性と秘め事を行っていた。
その時、寝室の扉が開き、ユーシャが入っていく。
「どうした? こんな夜更けに何の用だ?」
不機嫌そうなヨークスの言葉にユーシャが問う。
「父上は、マジックスの現状をどう思われていますか?」
それに対してヨークスが答える。
「何の問題のない、平和な国では、無いか。まあ、ヤーのお遊びには、少し困っているがな」
ユーシャが大きく溜め息を吐く。
「ヤーは、真剣ですよ。少なくとも前々から問題にしていた、他国に較べて豊かな農地が多いに関わらず、生産量が奮わない現状の打破や、新たな交易を開発するなど、よりよい国づくりを行っています」
ヨークスが戸惑う。
「何が言いたいのだ?」
ユーシャが告げる。
「問題があるのは、この国です。圧倒的な国力と王族の魔力だけを頼りに、ベニス連邦との有利な交易でのみで国を存続させていては、マジックスは、近い将来滅びます」
ヨークスが立ち上がる。
「その様な事は、私がさせん!」
ヨークスの魔力の余波で、周囲で静電気が発生し、側室の女性が慌てて遠のくのを見てユーシャが言う。
「どれほど強力でも個人の力では、限界がある事を理解できない父上に、これ以上、マジックスを任せて置けないのですよ」
ここに至り、ヨークスもユーシャが言いたい事を理解した。
「私が邪魔で、排除しようと言うのか? このマジックス王国の長い歴史の中でも前王が存命中に代替わりした事など無い! 分をわきまえろ!」
ヨークスが睨むがユーシャが呪文を唱える。
『スプリットハンドフレア』
ヨークスの手が燃え上がる。
『サンダーストーム!』
ヨークスの雷撃が襲い掛かがユーシャは、余裕を持って避ける。
「強大な魔力のみに頼り、鍛錬もしていない父上では、思考だけの誘導では、的に当てる事もできますまい」
「黙れ! 『サンダーレイン!』」
ヨークスは、次に放ったのは、雷の雨だった、それは、強烈でマジックス王宮に多大な被害を出した。
その時点で、多くの兵が現れた、そしてその中には、リリンも居た。
「どうなさったのですか!」
それに対してヨークスが叫ぶ。
「ユーシャが反意を示し、私に攻撃してきたのだ! 今すぐ捕らえよ!」
リリンが戸惑い、見るとユーシャが答える。
「国王陛下は、錯乱していらっしゃる。その証拠に、周りの事を気にせず、魔法を使っておられる」
「ふざけるな! 『サンダーボルト』」
ヨークスの放った雷の攻撃は、ユーシャに掠りもせず、まったく関係ない兵士を即死させた。
「おやめ下さい、陛下!」
リリンが慌てて止めに入るとヨークスは、自分の手を見せて言う。
「これを見よ! ユーシャが私に魔法を使った証拠だ! 火傷になっているだろう!」
リリンがヨークスの手を見て黙ってしまう。
「どうしたのだ! 何を黙っている!」
ヨークスが怒鳴るとユーシャが小さく溜め息を吐きながら言う。
「リリン将軍、教えてあげたらどうですか? 国王陛下の手がどうなっているか?」
「しかし……」
躊躇するリリンにヨークスが命ずる。
「はっきりと答えろ!」
リリンは、覚悟を決めて告げる。
「陛下の手には、火傷一つありません」
驚き、自分の手を見るヨークス。
「馬鹿な、確かに炎を上げていた。今も、全然感覚が無いのだぞ!」
ピクリとも動かない手に戸惑うヨークスの姿に臣下の者達の視線は、痛々しい者を見る物に変わっていた。
「父上には、隠居して頂くしかない。ご安心下さい、マジックスは、私が立派に盛り立てていきます」
ユーシャが真摯な言葉を吐くが、ヨークスが抗う。
「私は、まともだ!」
兵士達が騒ぐヨークスを宥めようと傍に寄ろうとする。
「落ち着いてください、陛下!」
「今夜は、もうおそうございます。話は、明日にされては!」
その目に最早それまでの臣下としての忠誠が無い事を気付き、苛立つヨークス。
「お前達まで私に逆らうのか! 『サンダーボール』」
雷球が臣下の一人を焼き尽くす。
それを見て、今度は、恐怖の視線でヨークスを見る臣下達。
「国王陛下は、もう、まともな判断能力もなくされたか。こうなったら、臣下を護る為、息子である私が討つしかないな」
辛い決断をするようにユーシャが前に出ようとした時、リリンがヨークスにしがみ付く。
「陛下、ここは、気をお静め下さい! 私は、これからも一生、陛下の臣下です。ですから、今一時、堪えてください!」
その必死の瞳にヨークスが放とうとしていた魔法を中断する。
「お前の忠義を信じよう」
ユーシャが近づき言う。
「リリン将軍、貴女の忠義に私は、深く感謝します。その忠義で、これからも陛下に、父上に仕えてください」
こうして、ヨークスが兵士達に見守られながら、王宮から隔離された塔に幽閉される事になる。
そして、リリン将軍もその幽閉の供として配置されてしまうのであった。
ユーシャの執務室。
「まさか、父上の暴走が止まるとは、思わなかった」
ダーガが大きく溜め息を吐く。
「リリン将軍の忠義がユーシャ殿下、いやユーシャ陛下に捧げられれば、良かったのですが」
クリが言う。
「ジェネ将軍が、リリン将軍に忠告して居た様で、こちらに引き込むことは、出来ませんでした」
ユーシャが肩をすくめて言う。
「済んでしまった事は、もう良い。それよりもこれからだ、ヤーが今回の事で干渉をしてくるだろうが、それを跳ね除け、私の国王の座を確かな物にする。手筈通り頼んだぞ」
「「拝命いたしました」」
ダーガとクリが答え、動き出すのを見送って、お茶の差し出すシャイ。
「これで、また一歩、覇道に向かって前進しましたね」
その言葉にお茶を飲みながらユーシャが頷く。
「そうだ。しかし、まだまだこれからだよ。そして、そろそろヤーとの決着もつけておく必要があるな」
シャイが厳しい目をして言う。
「私もです。BBBとの決着をつけなければ、なりません」
ユーシャが苦笑する。
「ヤーを屈服させた後に、手駒にするのだから、再起不能にしないでもらいたいものだ」
シャイが無言で頷くのであった。
マジックスの国王乱心の話は、オバ王国にも直に入ってきた。
リンが慌てる。
「このままでは、ユーシャ殿下が国王になり、マジックスは、大陸征服に進んでしまいます!」
シースが舌打ちする。
「折角結んだ、帝国との休戦も無駄になってしまう」
それに対してジェネが言う。
「違うな、ユーシャ殿下は、それすらも有効に使う。帝国は、内乱回復に全力を投じていて、マジックス王国まで手が回らない。その間にベニス連邦を攻略するつもりだろう」
それを聞いてリンが言う。
「そんな、ベニス連邦と、マジックス王国には、強い繋がりがあります。休戦の一件でもそれ故に、強引な侵攻が継続できなかった筈です」
ヤーリテが溜め息混じりに言う。
「宗教国シルバースよ、あそことベニス連邦は、主義の違いから、敵対関係にあった。それでも、国益の関係で貿易が続けられていたけど、儲け主義が根強いベニス連邦は、自分達の利益の為に宗教国シルバースに対して、不利な条件で貿易を続けていた。それに対する不満が限界まで高まっているの」
シースが反論する。
「しかし、シルバースには、十分な戦力がありません。彼らは、北方の蛮族の侵攻にも耐え切れず、何度となくマジックス王国に協力を求め、マジックス王国は、それに答えてきました」
ヤーリテが頷く。
「マジックスでそれを行っていたのが、兄貴のシンパのダーガ将軍で、シルバースには、強い影響力を持っている。問題になるのは、マジックス王国がベニス連邦と結んでいる協定の内容」
ブレーダが複雑な顔をしている間にリンが協定の内容を思い出す。
「確か、帝国の侵攻に対しての軍隊を中心とする支援に対する協定の筈ですが、それが何か?」
ジェネが告げる。
「マジックス王国は、ベニス連邦が宗教国シルバースに侵攻されても支援する協定を結んでいない。逆に宗教国シルバースとは、シルバースに不利益な存在の排除を行うことへの支援を協定で結んでいる。シルバースが自分達を食い物にしているベニス連邦に対する侵攻をマジックス王国が支援するのに何の問題がないという事だ」
シースが驚く。
「まさか、ベニス連邦に侵攻する用意がそんな段階から組み込まれていたなんて……」
ヤーリテが真剣な眼差しで答える。
「それが出来る兄貴だから、覇道を進めるんだよ」
重苦しい空気の中、ヤーリテが言う。
「あちきは、マジックス王宮に向かう。そして、兄貴の戴冠を防ぐよ」
「私もお供します」
リンが宣言するが、ヤーリテは、首を横に振る。
「リンには、オバ王国とベニス連邦との政治的交渉の継続に力を注いで欲しい。ベニス連邦の後ろ盾が必要になるからね。任せたよ」
真剣な顔で頷くリン。
「お任せ下さい、奴らに、つけ入る隙を作らす真似は、しません」
「警護は、何時も通り俺が行くぞ」
ブレーダの言葉にヤーリテが目を見て問いただす。
「ブレーダ、抜けるんだったら今だけ。この先は、ダーガ将軍とも直接対決になる」
ブレーダは、いきりたつ。
「親父の事は、関係ない!」
しかし、ヤーリテが悲しそうな顔をして言う。
「皆の前だから弱音を吐かせてもらうけど、あちきだって好きで兄貴と争っていない。それでも、このままじゃ駄目だと思うから仕方なくこの道を選んだ。でもブレーダは、違う。あちきとの賭けの結果としてここに居る。賭けの清算は、終わった、冒険者に戻ったらどうだ?」
ブレーダが戸惑う中、シースが言う。
「姫王様の言うとおりだ、これ以上無駄に骨肉の争いをする必要がないぞ。姫王様の警護は、俺がやる」
返事の無いブレーダを尻目にヤーリテが旅立ちの準備をしようとした時、ブレーダが覚悟を決めて叫ぶ。
「国の事なんて正直、関係ない、俺は、親父を超えたい! その為には、親父の正面に立つ必要があるんだ!」
「もう戻れなくなるぞ?」
ヤーリテが確認するとブレーダは、強い意志を籠めて頷いた。
そして、ヤーリテは、ブレーダを護衛にマジックス王宮に向かうのであった。
ヤーリテが到着した王宮では、既に大半の者がユーシャを国王と認めて居た。
「最初に言っておくが、他国の国王であるお前にマジックス王国の王位は、譲れない」
謁見の間でのユーシャの言葉にヤーリテが頷く。
「その様な事の為に来た訳では、ない。あちきは、帝国との休戦条約についてリリン将軍に確認することがあり、やって来た。本来ならヨークス国王にも同席していただきたいのだが無理ですな?」
周りがざわめく中ユーシャが頷く。
「父上は、錯乱しておられるのでな。リリン将軍との対面は、こちらで準備しよう。それまで、自分の部屋で待っていることだ」
それを聞いてヤーリテが驚く。
「まだ、あちきの部屋が残っているのか?」
ユーシャが苦笑する。
「そうだ。そしてこれからも無くなる事は、無い」
複雑な空気がそこには、あった。
ヤーリテが自室に戻る道の最中、ダーガ将軍が居た。
「先に行っている」
そういい残してヤーリテが進む中、ブレーダが足を止める。
「親父、俺は、ヤーリテの、オバ王国につき、親父の敵となる」
「未熟者のお前に何が出来るのだ?」
ダーガの言葉にブレーダが淡々と答える。
「俺は、あんたを超えるために冒険者になった。そして、ヤーリテと一緒にオバ王国に関わって解った。何かを護る者の強さを。国の為といって母親を見殺しにしたあんたの事は、一生許さないし認められない。だから、俺は、俺が護りたい者の為にあんたと戦う」
それを聞いてダーガが苦笑する。
「ようやく、一人前の顔になったな。しかし、それでは、まだ私には、届かない。それを教えてやる事になるだろう」
そういって歩みを再開するダーガの後姿を見続けるブレーダであった。
リリンとの対面は、王宮の一室で行われる事となった。
沈黙するリリンにヤーリテが告げる。
「安心して、見張り達には、あちきが幻覚を見せているから、何も伝わらない」
リリンが悔しそうに言う。
「自分が情けないです。護るべき陛下をこの様な目にあわせる事になるなんて」
拳を握り締めるリリンにヤーリテが質問する。
「兄貴の魔法って何だか知っている?」
リリンが頷く。
「炎の魔法ですね?」
ヤーリテは、首を横に振る。
「本質的に違う。兄貴の魔法は、魂への干渉。普段は、解り易く炎って形に変化させている。今回、親父にやったみたいに手の魂だけを低温で燃やして、火傷を残さず手を動かなくするなんて事も可能なんだよ」
驚くリリンにヤーリテが続ける。
「そしてあちきの力は、夢と幻、その中には、予知夢も含まれている」
それを聞いてリリンが戸惑う。
「王族の魔法の秘密は、王族だけの機密の筈です、それをどうして私に?」
ヤーリテは、リリンのお腹を触って言う。
「この子の魔法名は、CH、物理現象など無視して熱に直接干渉する強力な魔法を使えるようになる筈だよ」
リリンの顔が蒼白になる中、ヤーリテは語る。
「兄貴は、ユーお兄ちゃんは、覇道を進み、マジックスを大陸制覇出来る大帝国にする運命を持っているの。マジックスの為には、その方が良いのかもしれない。でもあちきは、あたしは、それがいやだったのよ。だってその予知夢中のユーお兄ちゃんは、何時も辛く、悲しそうだった。笑顔も無く、人から恨まれて、信じられる人間も居ない、絶対の孤独に陥っていたの。ユーお兄ちゃんをそんな風にしたくないから、あたしは、あちきに、国王になる事を選んだ」
リリンは、ようやく全てを理解した。
「そうだったのですか、我々は、殿下達の事を何も知らず、何も気付かずに居たのですね」
ヤーリテはリリンの言葉に答えず、最後の決断を迫る。
「貴女には、覚悟がある?」
リリンが頷く。
「はい。この事に気付いた時には、迷っていましたが、今確かに覚悟を決めました」
お腹をさするリリンであった。
そして、謁見の間にリリンと供にやってきたヤーリテが言う。
「ユーシャ殿下、あちきは、貴方の王位継承に異議をもうしあげます!」
それを聞いて、ユーシャが余裕の笑みを浮かべて言う。
「いきなりどうしたのだ? さっきも言ったが今更お前が、マジックスの国王になるというのは、誰も認めないぞ」
ヤーリテも笑みを浮かべて言う。
「さっきも言いましたけど、そんな気は、ありません。王位を継承するのは、リリン将軍のお腹に居る弟です!」
その一言に謁見の間が驚愕する。
「兄貴だったら、わかるでしょ? リリン将軍のお腹に新しい命が宿っていて、それが王族の者として相応しい魔力を宿している事を」
ユーシャが立ち上がり、リリンを凝視する。
「間違いないな。確かにリリン将軍のお腹には、父上の子供が宿っている。しかし、素養もろくに解らない者を新たな国王とするつもりか?」
それに対してリリンが答える。
「ヨークス陛下から、次の国王には、この子をと指名がありました。マジックス王国において、前国王の指名こそ絶対の筈です」
それに対してクリが慌てて割ってはいる。
「ヨークス陛下は、錯乱していらっしゃる。正しい判断が下せるとは、思えません!」
それに対してヤーリテが言う。
「錯乱していると主張しているのは、ユーシャ殿下の一派だけです。現場に居たリリン将軍は、それを認めていません。第一、ヨークス陛下の寝室にユーシャ殿下が居た時点で何かしらの工作があったと思われても仕方ないと思いますが?」
クリが悔しそうに下がり、ユーシャがヤーリテと視線をぶつけ合う。
「どの様に決着をつけるつもりだ?」
ユーシャの言葉にヤーリテが答える。
「事が王位、当事者だけの話し合いでは、決着は、つかないでしょう。そこで、領主と協定を結ぶ国々からの代表者立会いの元、ヨークス陛下の意見を確認する。その場で錯乱しているかも、王位継承権もはっきりするはずです」
ユーシャが頷く。
「確かに、そうすれば誰にはばかる事無く、王位が決まると言う訳だな。その通りに段取りを組もう」
ヤーリテも頷き言う。
「それまでの間、リリン将軍は、あちきの国で預かる。ここでは、敵が多すぎる」
それに対してユーシャが言う。
「それは、構わないが、もしも、リリン将軍、ひいては、我らの弟の身に何かあった時の責任は、お前にある事を忘れるな」
ヤーリテはあっさり頷く。
「解っています。全力で護り通します」
それは、宣戦布告であった。
ヤーリテと共にオバ王国に向かう前にリリンは、ヨークス国王と対面していた。
「暫くお傍を離れる事になりますが、お体だけは、大切にしていてください」
それに対して、ヨークスが頷く。
「解っておる。お前のお腹の子を次の国王に指名するまでは、死ぬわけには、行かないからな」
「陛下、その様な悲しいことを言わないで下さい。我々は、陛下が天寿全うする事を心から願っております」
リリンの言葉にヨークスが懇願する。
「良いのだ。それよりも、子供達を頼む。特にユーシャを光の道に戻してやってくれ」
リリンが頷く。
「この身にかけましても、殿下達をお救いしてみせます」
「頼んだぞ」
ヨークスの言葉を受け止め、リリンは、ヤーリテと共にオバ王国に向かうのであった。
遂にユーシャが父親の排除を実行に移しました。
そして、ヤーリテの思いが語られました。
ヨークスによる後継者指名の儀式、それが大陸の未来を左右する。
しかし、ユーシャは、ただ待つだけでは、なかった。




