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姫王伝  作者: 鈴神楽
10/17

勝手に温泉水の営業をする姫

「今回は、サンショウ王国にブブブ温泉の観光地誘致と温泉水の売り込みに来てます!」

 ヤーリテの言葉に、護衛の一人、ブレーダが言う。

「誰に言っているんだよ」

 ヤーリテが言う。

「気分を高めてる。問題ないわけでも無いしね」

 それを聞いてブレーダが不思議そうな顔をする。

「事前準備が万全の姫王様としては、珍しいな」

 シーネが不機嫌そうに言う。

「不思議とお前の敬語は、馬鹿にした雰囲気があるのだが?」

 ブレーダがあっさり頷く。

「よく解ったな」

「貴様!」

 怒るシーネを無視するブレーダにヤーリテが説明する。

「ここは、宰相が強すぎる権力を持ってる。簡単に言えばお山の大将タイプで、何でも出来ると勘違いしてるからまともな駆け引きが出来ない」

 ブレーダが苦笑する。

「俗に言う、井の中の蛙、大海知らずって奴だな。それでどうする?」

 ヤーリテは、半ば投げやりに言う。

「どうもしない。上手く商売になればするし、成らなかったら別の国に行く。丁度いい相手もそこに見えてきた」

 ヤーリテが手を振る先には、以前オバ王国に訪問に来たルークス王国の王子、ルークが居た。

「これは、オバ国王、この様な所にどのような御用で」

 ヤーリテは、後ろの積荷を指差して言う。

「オバ王国に温泉が出たから、その売り込み。少しでも国を豊かにしたいからね」

 それを聞いてルークが頷く。

「それは、大変ですね。しかし、そういう事ですとこのサンショウ王国は、あまり向いていないと思いますが?」

 ヤーリテが渋い顔で言う。

「まあね、でも、新参者は、良い条件の相手だけを選べないから。駄目元で来てるの。この後は、ルークス王国にも売り込みに行こうと思っている」

 それを聞いて、ルークが言う。

「それでしたら、今回、その筋の人間を連れてきていますから、ここで商談を少し詰めませんか?」

「それは、僥倖」

 ヤーリテも応じ、数人の専門家が集まり、食事をしながら交渉が始まるのであった。



「お互いにこの旅が無駄にならなかった事を喜ばしく思います」

 双方に利益が出る形で交渉も終わりにルークが言うとヤーリテが質問する。

「詰り、そっちは、サンショウ王国との交渉に失敗した帰りって所だな」

 苦笑するルーク。

「はい。正直、話にもなりません。サンショウ王国もそう長くないですね」

「そんなに、周りが見えてないのか?」

 ヤーリテの言葉にルークが頷く。

「はい。どうも、宰相と言う立場に胡坐をかいて、ろくな仕事もしてこずに来たのでしょう。少しでも自分の予定と異なると不機嫌そうな顔をします」

 眉を顰めるヤーリテ。

「本気で宰相?」

 肩をすくめるルーク。

「自分の娘を能無し王の后にして、権力を得た男で、国内では、誰も逆らえない様子です」

 大きく溜息を吐くヤーリテ。

「潰れる王室の典型だな」

 それに対してルークが言う。

「ただ、一つだけ希望があるとしたら、世継ぎの王子、サンシェル=S=サンショウ殿下です。彼は、文武に長け、周囲の人望も厚い、立派な人物です」

「どうして、そんな王子が宰相の勝手を許しているんだ?」

 ヤーリテの質問にルークが溜息混じりに言う。

「簡単ですよ、あの国には、年長の血族を立てる教えがあります。仁義を重んじる彼にとっては、祖父には、意見が出せないと言う訳です」

 頭をかくヤーリテ。

「それは、面倒だな」

 その後、国の運営の事を少し話した後、分かれるヤーリテとルークであった。



 サンショウ王国に向う道中、ブレーダが言う。

「つまりわがまま姫王の正反対の性格の王子って事だな」

「ブレーダ、無礼だぞ!」

 シーネの大声に眉を顰めながらヤーリテが言う。

「まあ、その考えは、間違っていない。そこでよ、ブレーダ、あちきの護衛は、いいから町で王子の情報を集めてくれる」

「良いが、そんなの集めてどうするんだよ?」

 ブレーダの質問にヤーリテが言う。

「ルーク王子にも言ったけど、新参者のあちき達としては、相手をそうそう選んでいられる状況でもないからね、どうにかして商売を成り立たせるのよ」

「どうやって?」

 ブレーダの質問にヤーリテが笑みを浮かべる。

「簡単だよ、交渉が出来る相手を引っ張り出せば良いだけだ」



 サンショウ王国の王宮。

「お初にお目にかかる。あちきは、オバ王国の国王、ヤーリテ=DD=マジックス。貴国との友好的な関係を結びに参った」

 ヤーリテの挨拶に無駄に太っているだけで威厳も無いサンショウ王国の国王、サンシュル=S=サンショウが言う。

「よくぞ参った。貴国の噂は、聞いておる。我が国も友好的な関係を望む」

 無論、こんな話は、リンが事前に調整済みであるが、形式上のやりとりである。

 そんな中、ヤーリテを見下した態度で見る一人の男が居た。

「私も聞いております。自国の領土に勝手に新しい国を作る我侭姫様だと」

 シーネが剣に手をかけて言う。

「口には、気をつけてもらおう。我等の王を侮辱されて、平気で居られるほどオバ王国軍は、腑抜けでは、ない」

 その男、サンショウ王国の宰相、ジシェル=P=ヌドルが小馬鹿にするような顔で言う。

「怖い怖い。マジックス王国の軍隊を敵に回すのは、危険だからな」

 本気で剣を抜こうとするシーネを止めてヤーリテが言う。

「友好の証として、我が国で湧き出た温泉水を持ってまいった。今後は、我が国の大地の恵み、温泉を貴国の民にも分け与えたいと思っているので、それに相応しいか試してくれ」

 ヤーリテの指示で温泉水が入った壷が運び込まれる。

「これが、温泉水かね。面白い」

 ジシェルは、そういって壷に近づくと手に持った杖で壷の一部を壊し、温泉水を零してから、蓋を取り上げて言う。

「これは、困った。何も入ってないでは、無いか。随分とつまらない物を持ってこられたものだ」

 流石にこれには、周囲の人間も驚く。

「貴様!」

 シーネが激怒しようとした時、ヤーリテが笑顔で言う。

「もう一度みて見られたらどうだ」

 呆れた顔をしながらジシェルが壷を見る。

「何度見ても同じ……」

 驚愕するジシェル。

「馬鹿な、確かに零れた筈だぞ!」

 その言葉を無視してヤーリテが言う。

「我が国の贈り物に問題でもあったか?」

 悔しそうにした後ジシェルが怒鳴る。

「こんな、ただ地面から湧き出ただけの物を持ってくるなど貴国の常識の無さには、ほとほと呆れるわ!」

 そんな最悪な会談が終わり、一応賓客なので客室に通されるヤーリテであった。



「姫王、お許しがあれば、この国を攻め落として見せますが」

 シーネのかなり本気の言葉にヤーリテが言う。

「許すわけが無いだろうが。相手が箸にも棒にも掛からない奴だって事は、最初から解ってただろう。だから幻覚を使って壷の位置を誤解させた上、零したと思わせる演出もした」

「しかし……」

 不満そうな顔をするシーネを無視して、ヤーリテが自分達の通されたろくに調度品も無い部屋を見回す。

「それにしても、本気で頭が無いな。仮にも一国の国王を迎える部屋とは、思えないぞ」

 ヤーリテの言葉にシーネが頷く。

「文句を言いましょう!」

 そんな時、ノックが聞こえてくる。

「オバ国王陛下、すいませんが部屋の清掃に参りました」

「解った。お願いする」

 ヤーリテが答えると、ドアが開き、侍女達が一斉に入り、素早く、部屋の調度品を高級な物に変えていく。

 全てが終わり、侍女が頭を下げる。

「何か足らないものがありましたら、お声をおかけ下さい」

 シーネが驚く中、一人の真摯な表情の男性が入ってくる。

「先ほどの無礼。どうかお許し下さい」

 それを聞いてヤーリテが言う。

「これも貴方の手筈かしら、サンシェル=S=サンショウ殿下」

 それに対して、サンシェルが言う。

「お解りになりましたか?」

 ヤーリテが苦笑しながら言う。

「年長者である宰相がこの部屋をあちきに割り当てるという決定に口を挟めないから、割り当てられた部屋を最善な状況にする。手としては、悪くない。でも、王子の貴方の意見を優先すべきだと思われるがな」

 サンシェルが真直ぐな目で答える。

「我が国では、血縁の年長者の意見が絶対、それこそが仁義。それを踏み外す事は、人として出来ません」

 小さく溜息を吐いてヤーリテが先ほど渡したのとは、違う温泉水の壷を持ってこさせて言う。

「貴殿は、温泉水と言う物の価値を知っているか?」

 サンシェルが頷く。

「はい。物によって効果が異なりますが、高い薬効があると聞きおよいんで居ます」

 ヤーリテが答える。

「オバ王国の温泉は、多種の源泉を持ち、様々な薬効が期待できる。貴国には、それを有益に使ってもらいたいと思っている」

 それに対してサンシェルが即答する。

「私は、それを判断する立場には、ありません」

 ヤーリテが言う。

「あちきは、本当ならば国王の立場にいる筈が無かった。しかし、あちきは、自分が望み、そして民に認められた国王だと断言できる」

 サンシェルが複雑な顔をする。

「それは、貴国での事。我が国では、年長に従う事こそ仁義の通った道です」

 小さく溜息を吐いてヤーリテが言う。

「この話は、平行線という訳だな。その温泉水は、持っていかれるが良い。王宮の医師ならば、その価値を正しく判断できるだろう」

「ありがたくお受け取りいたします」

 サンシェルが頭を下げて、配下の者に壷を運ばせ、部屋を出て行くのであった。



 王宮の医師が温泉水を飲み言う。

「これは、貴重な物です。出来ましたら、多少でも別けていただき、民の治療に生かさせてもらいたいのですが」

 医師の言葉にサンシェルが頷く。

「祖父殿が王族には、不要と言われた。好きにすれば良い」

「ありがとうございます。これで、多くの民が救われる事でしょう」

 医師の言葉に辛そうな顔をするサンシェル。

「国民は、それ程に疲労しているのか?」

 医師は、真剣な顔で言う。

「僭越ながら言わせていただきます。宰相の独裁により一部の豪商のみが利益をあげ、隣国との交易もままならない状態。このままでは、国が滅びます!」

 悔しそうに拳を握り締めながらもサンシェルが言う。

「それでも仁義を外した行為は、人として出来ぬ」

 医師が口惜しそうに言う。

「宰相殿にも仁義を重んじる心がおありでしたら」

「言うな!」

 サンシェルの言葉に口を噤む医師であった。



「はっきり言えば、国民の大半が、宰相が退位し、サンシェルが国王に成る事を望んでいるな。宰相が賄賂を送ってくる豪商ばかり優遇するんで、この城下町だってまともに生活できる人間が殆どいないありさまだから、当然だな」

 ブレーダの報告にヤーリテが言う。

「サンシェル王子自体の評判は? 駄馬より増し程度なら意味が無い」

 ブレーダが首を横に振る。

「こんな状況でも国民が暮らしていけているのは、サンシェル王子が色々と手を打ってるからだ。豪商達にとっては、邪魔で仕方ない存在みたいだぞ」

「そこまでの人物がどうして、あの様な宰相に勝手にさせるのだ」

 憤りが収まらないシーネ。

 ヤーリテが謳う様に言う。

「子は、親に従い、親は、子を見て我が身を正せ。後を行くものは、先に進む物が作りし道から外れる事なかれ、先に進むものは、後に行くものの事を考え、常に正しき道を選ぶべき」

 ブレーダが首を傾げる。

「何だ、それ?」

 ヤーリテが答える。

「この国で一番尊いと言われる教えで、人として生きる為には、これを常に守れと生まれた頃から言われている筈。だからこの国の人間は、年長者、特に血縁の親や祖父には、逆らえない」

「へんな話だな、それじゃあ、親が間違ってたらどうするんだ?」

 ブレーダの言葉にヤーリテが言う。

「さっきの言葉にもあるでしょ、親は、常に子供の行動を見て、自分の行動を正す事が求められるの。だからこそ、自分の行いで子供が間違った事をしていると思ったら、どれほどに沽券に関わり、利益が失われようと正すのがこの国の仁義になる」

 シーネが驚く。

「それでしたらどうして宰相は?」

 ヤーリテが肩をすくめて言う。

「だからこの国がおかしくなったの。相互性があるこの教えを一方が守り、一方が無視する事で本来の働きが失われた」

 呆れた顔をしてブレーダが言う。

「そんな奴は、とっととおんだしちまえば良いんだよ」

「それが出来ないのがこの国の人間なんだよ」

 ヤーリテが苦笑混じりにそう答えるのであった。



 サンショウ王国の城下町のとある薬問屋同士の会話。

「聞きましたか、温泉水の話?」

「聞いたぞ。王子も余計な事をしてくれる」

「なーに、宰相様にお願いすれば良いのです」

「そうですね。宰相様でしたらお金でどうとでも出来ますからね。本当に我々商人には、ありがたい宰相様だ」



 数日後の王宮の宰相の部屋にサンシェルが呼び出されていた。

「サンシェルよ、どうして勝手な事をしたのだ!」

 サンシェルが頭を下げる。

「祖父殿が王族には、不要と言われましたので、民に下げ渡しました」

 それを聞いて激昂するジシェル。

「民などほっとけば良いのだ! 民など、我々の為に尽くす為だけの存在なのだからな。今すぐ温泉水を全て廃棄しろ」

「解りました」

 頭を下げ、ジシェルに見えないところで悔しそうな顔をするサンシェル。

「そういえば、あの小娘は、今だ、この王宮に居るのか?」

 慌てるサンシェル。

「オバ王国には、強力な軍隊があり、国王自身も強力な魔法の使い手と聞いております。自由にさせておくべきだと思われます」

 それを聞いて憤怒するジシェル。

「貴様、祖父である私に意見をすると言うのか!」

「そうでは、ございませんが……」

 言葉を濁すサンシェルにジシェルが言う。

「お前が仁義も心得ぬ愚か者だとは、思わなかったぞ! 暫く謹慎していろ!」

「謹んでお受けしまう」

 自室に下がるサンシェルであった。



 そして、ジシェルは、自らヤーリテ達の部屋にやって来た。

「我が国の迷惑も考えられず、長い滞在。どんな教育を受けていたのか。親に成代わり私が教育してあげましょう。ここは、貴国では、無い。とっとと立ち去るが良い」

「何だと!」

 遂に剣を抜くシーネ。

 ジシェルの周りの兵士も剣を抜く。

「愚かな者の配下は、愚か者と言う事か。この兵の数の差で勝てるとも」

「兵士は、殺すな」

 ヤーリテの命令にシーネとシーネが連れてきた数人の騎士が頷く。

「お任せ下さい」

 次々と兵士を打ち倒していくシーネ達。

 困惑するジシェル。

「もっと兵を呼べ!」

 増援が呼ばれるが常にレッケス帝国との前線に出ていたシーネ達とその戦力に頼って居たベニス連邦の一国の兵士とでは、比べ物に成る筈も無く、圧倒的有利で戦いが進んでいた。

 そんな騒ぎの中、国王、サンシュルとサンシェルが現れる。

「これは、どういうことですか!」

 サンシェルの言葉にジシェルが叫ぶ。

「小娘の配下の騎士が剣を抜いて襲い掛かって来たのだ」

 サンシェルが驚いた顔をしてヤーリテを見る。

「真実なのでしょうか?」

 ヤーリテが言う。

「今の一言で十分でしょう。貴国の宰相は、オバ王国の国王であるあちきに無礼な態度をとった。それは、オバ王国を馬鹿にする事。それを容認し続ける程、オバ王国の誇りは、低くない。戦争を覚悟してもらおう」

 焦るサンシュル。

「戦争なんて出来ない!」

 ヤーリテが真剣な顔で言う。

「解った。サンショウ国王の言葉もある、今回は、そこの宰相の首一つで無かった事にしよう」

 それを聞いて慌てるジシェル。

「ふざけるな! 何故私が死なねば成らないのだ! 早くこの小娘達を処刑しろ!」

 兵士達が躊躇する。

 目の前で圧倒的な力を見せるシーネ達もそうだが、その後ろには、ジェネ達と言う、ベニス連邦を何度も護った英雄的将軍が居るのだ到底、ベニス連邦の一国でしかないサンショウ王国では、勝てないと言うのは、明確だったからだ。

「何をしてるのだ! 処刑されたいのか!」

 ただ傲慢に叫ぶだけの宰相を見て、兵士の一人が言う。

「こいつの為に戦争なんて出来るかよ!」

 それが起爆剤になった様に広がっていく。

「こいつの所為で俺達がどれだけ苦労した事か!」

「こんな奴の為に国が滅ぼせるかよ!」

「そうだ! 全部、こいつが悪いんだ! 処刑してオバ国王に差し出せ!」

 兵士達に詰め寄られるジシェル。

「お前達、こんな事をしてただで済むと思っているのか! 処刑されたいのか!」

 それに対して一人の兵士が言う。

「このままじゃ、この国がオバ王国に攻められて俺達の家族もただですまない。そうなる位なら俺一人の命くらい差し出してやる」

 振り上げられる剣。

「待つのだ!」

 サンシェルが間に入る。

「落ち着くのだ」

 サンシェルの登場で兵士達も動きを止める。

「よくやった。貴様等、絶対に罰してやるからな!」

 ジシェルの言葉に兵士達の怒りが暴走寸前まで高まっていた。

 それを知りながらもサンシェルは、何も出来なかった。

 そんな時、ヤーリテが言う。

「あの時に貴殿は、言った。人として仁義を外す事は、出来ないと。しかし、貴殿は、大きな間違いをしている」

 サンシェルが言う。

「何を間違えているというのですか?」

 ヤーリテが胸を張っている。

「多くの民を従える王族は、人である前に王族である。その為に人としての道から外れてもなさねばならない事がある。民を救うために何が必要かは、解っているな。もしも今その判断を間違えれば間違いなく多くの民の命が失われるぞ」

 サンシェルが激しい葛藤に襲われる中、ジシェルが言う。

「我等は、特別なのだ。民の事など無視すれば良い!」

 その一言がサンシェルを決心させ、兵士の一人に向って手を差し出す。

「剣を貸すのだ」

 その表情に兵士は、逆らえず剣を渡す。

「おお、自らの手で私を護るのだな? お前ほど仁義を重んじる者は、居ないぞ!」

 ジシェルの勝手な解釈と異なりサンシェルは、振り返る。

「他の者を人の道から外すわけには、行きません。私自身の手で、祖父殿の首を落とします」

「何を考えている! 血を分けた祖父を殺すと言うのか! そんな畜生にも劣る真似をするつもりか!」

 ジシェルの言葉にサンシェルが言う。

「畜生道に落ちる行為なのは、承知の上。それでも私は、王族として、民の為に成さねばならないのです」

 ジシェルが懇願する。

「止めろ! 止めてくれ!」

「この罰は、死後、必ずお受けします!」

 サンシェルの剣がジシェルの首を刎ねた。

 祖父の返り血を浴びサンシェルがヤーリテに生首を差し出す。

「これが、我が国の誠意です」

「貴国の誠意確かに受け取った」

 ヤーリテが生首を受け取り、この場は、収まるのであった。



 その夜の王宮の秘密通路。

「その男は、二度と表舞台に出すんじゃないよ」

 ヤーリテの言葉に気絶しているジシェルを背負ったサンシェルが頷く。

「解っております。オバ国王のご好意には、感謝の言葉もありません」

 肩をすくめるブレーダ。

「姫王様も人が悪い。宰相の首を刎ねる直前で幻を作って誤魔化すなんて」

 苦笑するヤーリテ。

「無駄に命を奪う必要は、無いでしょう。でもあの時の覚悟だけは、忘れないでね」

 サンショウは、真剣な顔で頷く。

「解っております。人として仁義を重んじるのも大切ですが、私には、人としての道を踏み外そうとも王族としての責務を果たす義務がある事を二度と忘れません」

 死んだはずのジシェルを隔離するために去っていくサンショウを見送るヤーリテ達であった。



「売り込みは、成功だったよ」

 帰国したヤーリテの報告にリンが言う。

「その様で。それと、先ほど入った情報なのですが、サンショウ王国の国王が退位し、王子が新たな国王になることが決まったそうです。サンショウ王国では、前国王が存命中に王位が継承される事は、初めてと周囲に驚きをよんでいます」

「動き出したみたいだな」

 ブレーダの言葉にシーネが言う。

「きっとあのお方は、立派な国王にお成りになります」

「さてと、こっちも負けてられないぞ」

 ヤーリテが嬉しそうに不在の間にたまった仕事をするのであった。

義理と人情秤にかければって感じのお話です。

偉い人は、特別で、特別なりの苦労があるって事です。

次は、今回も話題に上がった、優秀な将軍、ジェネ将軍を取り戻そうとクリが悪巧みをします。

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