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SFのとーり!・3


 主人公はどんな人がいいかな。冒険を書きたいから男の子がいいけど、女の子が憧れるような、強くて優しくてカッコイイ人がいい。王子にしたらどうだろう。頼りにならないのは嫌だ、いざという時に助けてくれるような、ゴ○ブリもスリッパ一撃で退治してくれるような……王子様って出来るかしら。余計なことまで考えてしまった。

 王子の身分で、そうだな、宇宙を舞台に冒険する。何のためかって、ええと、王子だから、姫を探しに行くとか。そうだ、敵対している所のお姫様なんだ、言わばロミオとジュリエット。2人は出会って、恋に落ちて……って、そのまんまじゃないロミオとジュリエット、ただの宇宙版。それじゃ絶対に面白くない、作家のシェイクスピアなんてどっか行っちゃえ、オリジナルが出ないじゃないの。

 ならば出会って恋に落ちるのではなくて、2人は幼馴染にしよう。昔から2人は仲がよかった、だけど戦争が2人の仲を引き裂いてしまうの。それを宇宙で……。

 ……○ンダム? ああもう、どうしたらいいのよ! 私は模索する。


 私が何を思いつこうと、無駄なのかなって思えてきた。既に世にはよく似たストーリーで溢れていて、過剰なんだ。太刀打ちできるわけないじゃない、賞をとるなんて無理だって、きっと誰でも言うだろうし、私もそう思ってる。じゃあ何でチャレンジするんだって、……何故なんだろう。


「私は何を書きたいんだろうか……」


 書く前に私は記憶を辿って、思い出してみた。父のように書けたらいいなと。難しい専門用語は私を苦しめたけど、解ると世界観は私を受け入れてくれて、とても楽しかった。世界が広がったような気がしたの。「ここが宇宙かぁ……」父の書く世界は好きだった……親子だからかもしれないね。

「王子様が女の子を助けてくれる……」

 ぼんやりと、そう呟いた時。私は確信した。

「きっと助けてくれるんだ。ううん、『絶対』に」

 戦争は起きるんだ。敵がいるんだ。女の子は、敵の手中にある。2人は、きっと結ばれる。


 そんな話を私は書きたいんだ。SFなんて関係ない。「じゃあ、書こう」私はペンを取った。


 私のなかの[宇宙]は、まだ始まったばかり。



 ・ ・ ・



 暗いエレベータのなかは、気分を暗くさせ、力を失くさせる。唯一、ケータイで照らされた辺りだけが明るく、おかげで安心する。

 紙の上に書かれた規則正しい数字と表。私には読めない異国の字が、躍っているようにも見えた。何だか馬鹿にもされているみたいで不快だった。不満が口に出る。

「……とれないって、出たの?」

 私がSF小説大賞を得ることができるのかどうか。ロマのお姉さんの口は重く、いいことを言わなかった。期待だけが削げてしまって後に残るのは……何?

「いいえ。困難だろう、と。私にはそれしか分かりません」

 不覚にも、涙が出そうになった。目尻に湿っぽさが湧き出ていた。聞かなければよかったのかなと、ロマお姉さんを責めたくはないけど責めてしまいそうになる。

 そこに、違う声が横から来た。

「あんた占い師? 占い師のくせに分かりませんって困るじゃないか」

 男の子の声……すぐに分かる、制服っぽい方のお兄さんの声だ。隅で動かず黙って聞いてたと思うんだけど、話し掛けてきた。

「良くない結果なら、もっと言い方があるんじゃないかな。まだ応募もしていないのに」

 続けて言うお兄さんの表情は暗くてよく見えないけど、怒ってるのかしら。私のために?

「まあまあ、よしてYO。占いなんて信じたもん勝ち、信じないもOK、なのYO?♪」

 便乗したのか、また声。張り詰めた緊張感だったけど、おかげで、空気が……。濁されていっているような、よく分からなくなった。よく分からないまま私は、不安を抱えて――


 いたくない。


「難しくても、いいです」


 凜として声に出た。背筋を伸ばして。

 突破したい。この、モヤモヤから。


 もう子どもじゃないんだもの。成りたての大学生なんだ。もうすぐに成人にもなるんだ。こんな所でけつまずきたくない。

「来る気がないのなら、もっと前からここには来ないわ」

 私は決心したんだ。父みたいなSF小説家になるんだって。それがあるから小説も完成できた。SFだとか賞には自信はないけど、今の私の結果がこれなんだ。文句なんか言わせない、けど――


 ……通用、しないのかな、社会には。見えない相手に気分が萎えて、私は俯いた。


「じゃあ、見つけなきゃね」

 

 その声に、ハッとした。急いで顔を上げると、暗がりで制服っぽいお兄さんは少し笑っている。何処か、懐かしい感覚のする微笑みだった。変なの、恋焦がれるドキドキじゃない、そうじゃなくて、嬉しいドキドキ感。何なんだろう、これは。彼の微笑みマジック2011?

 私に光でも差した気がした。

「そうよね。不安がいっぱいでモヤモヤだったけど、出口は見つけなきゃ。自信は無いけど、応募してもいない内からこんなとこで負けてどうするのかって。情けないね。ごめんなさい」

 言って、私の涙は引っ込んだ。出てる涙もすぐに乾くわ、負けていられない。鼻水出たって飲んでやるわ、自分のだから平気よ。うん、大丈夫。心の整理がついた。思わずガッツポーズまでやってしまった。


「違う。見つけるのは出口じゃなくて」

「え?」

「まだ気がつかないのかYO♪」


 男の声に挟まれて、私はたくましい女の像ポーズで固まって馬鹿みたいにキョトンと呆けていた。出口じゃない? 気がつく? 何のこと? 空耳?

 私のことは放っておいて、彼らは一緒になって、私に――。


「俺は、コウ。分解して、金岡にしないでくれな。鋼は鋼だから」

 彼、制服っぽいお兄さんは楽しそうだった。何故そんな顔をするの、って――。

 ……え? 『鋼』?

「おりゃー、ヨシキだYO。鋼の親友♪ オケ(OK)? ジャパン♪」

 は? 親友? ヨシキ……。

 何処かで聞いた名だと言うより、……これって。

「私には名前がありません」

 すぐ隣から、ロマお姉さんが弱り顔で話してきた。名前が、な……い。

 それは私が設定していないからだ。……ああ。

「カズヤと会わせて下さい。冒頭で、会えるはずです」

 中年女性も合わせて、言った。

 そうだ、最初に王子が訪れた地。そこで迷子を見つけて、母親に会わせる。そこで、王子は目的を見つける――


 ……これって。誰も知り得るはずがない。私だけしか知らない。

 コウの名前を決める時、「金岡って苗字はどう。ハガネハガネ、しつこい」ってテレビ観て思いながら付けたんだ。王子なんだからそんな苗字はないでしょ、って自分にツッコんだ。

 鋼の相棒は誰がいいかなって、どうせなら変な奴がいいって、見た目パンクなメガネを愛でる中華系民族で趣味は金魚すくい。動物愛好家の彼は、黄金のハムスターを探している途中で王子と仲良くなるのだけれど。パンクではなくロックを聴く。名前はヨシキ。巨大アフロで被れないくせに帽子を買う。無茶苦茶な設定はあっても、使われてはいないのがほとんどよ。

 王子のいる宮中には占い師がいて、彼に指針を示してくれる。

 彼は親子を助け、そこで知り合った女の子と、恋に落ちる。そして宇宙へ。


 どうして知ってるの貴方たちが。私だけしか知らないはずなのに、と。その答えは簡単。

 彼らは、私の書いた小説の、登場人物なんだ。名前がそうだ。紙の上から『飛び出し』た。

 子どもを含めて、ここにいる、全員が。


「……これは夢?」

 頭が痛んだ。夢なのに痛いなんて変だ。私は、可笑しい解釈をしているのだろうか。また違った不安が襲ってくる。

「夢のようで、夢じゃないね。俺らは呼ばれた、君に」

 彼、鋼は私に近づく。ドキドキと、心臓が早打ちし出している。これは恋の方の? いや違う、緊張が勝る、だ。こんな体験ってない。

 私の前に立った鋼は、見下ろして、「これは幻想じゃないよ」と真顔だった。至近距離で、背の高い彼は私にとって巨塔にも壁にもなった。彼は言う。


「『僕らは宇宙を目指し、あらゆる可能性を信じる。例えそれが、絶望のなかであったとしても』」


 王子の言葉だった。どんな困難な状況に陥っても、常に胸に刻み込まれていた言葉。彼のために、用意された言葉だった。それが、私にも通用し、目から。

 目から忘れていた涙がこぼれ落ちそうになった。どれだけ不安を抱えていたのだろう。「あぁ……」私は夢を見ているのだと、揺りかごに揺られている自分を想像した。私は夢を見ているのだわ、自分が書いた、登場人物たちが出てくる夢を。彼らは私が描いた空想、空想のなかのリアルたち。

 そして王子の貴方は、私の憧――

「行く? ……上へ」

 優しく微笑みかけている。悪いことをひとつも知らないような無邪気さも、逆にすべてを知り尽くしてしまっているような老齢さも兼ねているとも取れる微笑。どうしてこう、掴みどころがないのだろう。彼は私にとって、何なのだろうか。「行くって……上へ? でも……」

 彼が言う『上』。

 私のレベルのことを言っている? それとも……。

「行きたいけど、上は行き止まりで……」

 鋼、貴方が言ったはずじゃないか、無いって。それは嘘だったの? 私は顔で彼を責めた。皆、私と彼とのやり取りを聞いていた。

「上へあがる階段は無かったね。このエレベータも5階までしか無い。俺も10階に行きたい。でもそれは君が見つけるんだ。難しくないよ」……彼が言った。

 

 先が見えない未来へは、どうやったら行けるの?

 彼は教えてはくれない。意地悪なんだろうか?


 その時、ずっと辺りを光で守ってくれていたケータイは、「ピー」という音とともに電源が落ちた。箱のなかは暗闇に包まれる。

「うわ……」

「動かないで。大丈夫だから」

 心配の声は、やがて治まって静寂になった。すべてが、私のために用意された舞台のように。

 静かだった。


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