兄さんのささやかなお仕置き
8/14 よく読み返すと不自然な所が少しあったので修正しました。(念の為に言いますがAIは全く使ってません)
真夏の東京のアパートで、19歳のヒロはベッドに寝転んでスマートフォンをいじっていた。
ベッドの周りには脱ぎっぱなしの服や数冊の漫画が片付けられずにそのまま放置されていて、7歳上の義兄であるタダシは腕を組んでヒロを睨んでいる。
母親の再婚相手の連れ子であるヒロを子供の頃から愛して面倒を見てきて、ヒロの大学進学を機にこのアパートに2人で住んでいるが、最近の彼の怠け癖にはほとほと呆れていた。
「ヒロ、少しは掃除機かけるか洗濯物を畳むかしたらどうなんだ? 洗い物も掃除も洗濯も全部俺にやらせてゲームばかりしてるじゃないか。」
「だって暑いんだもん。そんな時に家事なんてしたら熱中症になっちゃうよ。」
「…………そうか。」
脳内で何かが音を立てて切れたタダシは、タンスから新品の黒地のTシャツを引っ張り出した。
Tシャツの胸元にはスタイリッシュなフォントで『Ragade anale』というイタリア語が書かれていて、セレクトショップで売られていても違和感がないデザインだ。
「じゃあ、せめてスーパーに行って夕飯の買い出しをしてくれないか? それから、これに着替えるといい。俺からのプレゼントだ。」
「へぇ、クールでかっこいいじゃん! いつの間に買ったの?」
「いや、趣味で自作したんだ。よく似合ってるよ。」
「本当に!? 兄さん、ありがとう! じゃあ行ってくるね!」
ヒロは着ていたヨレヨレのTシャツを脱ぎ捨てると、言われるがまま袖を通して意気揚々と街へ飛び出した。
彼を見送るタダシの口元は歪んでいて、クスクスと小さな笑いが漏れている。
スーパーで買い出しを済ませて食材を買い物袋に詰めていると、背が高い赤毛の青年がヒロに話しかけてきた。
「チャオ、ヒロ!」
「あ、グイド! 奇遇だね。」
話しかけてきたのは、同じ大学に通うイタリア人留学生のグイドだった。
ヒロは呑気に手を振ったが、グイドはヒロのTシャツの文字を一目見るなり何とも言えない表情を浮かべている。
まるで見てはいけないものを見てしまったかのような、哀れみが混ざった真顔だ。
「マンマミーア……ヒロ、無理シテナイカ?」
「えっ?」
「お尻痛いンダヨネ? 恥ずカシガラズに病院へ行ッた方ガイイ。ソレを堂々と主張シテイルナンテ、見テテ可哀想ダヨ……。」
「は!? 一体何の話!?」
グイドが優しく肩を叩いて去った後、嫌な予感がしたヒロはスマートフォンを取り出して『イタリア語 Ragade anale 翻訳』と検索した。
画面に表示された日本語訳を見た瞬間に絶句し、顔から血の気が引いていく。
『Ragade anale = 切れ痔』
「兄さぁぁぁぁん!!!」
ヒロは顔を真っ赤にして悲痛に叫び、買い物袋で胸元を隠しながら猛ダッシュでアパートへ向かった。
勢いよく玄関を開けて部屋に入ると、エアコンが効いた空間でタダシがソファーに座って微笑みながらメロンアイスを食べている。
「何だよヒロ、騒がしいな。」
「これ、どういう意味か分かってて僕に着せたでしょ! グイドに真顔で同情されたんだよ! 『切れ痔』の文字を胸に掲げた状態で買い出しに行かせるとかどんな公開処刑!?」
「ああ、そのTシャツか。」
タダシは目を細め、メロンアイスをスプーンで掬いながら言った。
「かっこつけたフォントにすれば、意味が分からなくても着ると思ってな。家事を散々サボって俺に押し付けたお仕置きだよ。これで懲りたか?」
「うぅ……鬼! 悪魔!」
「鬼で結構。文句を言う暇があるなら買い出しした食材を冷蔵庫に入れて、干した洗濯物を畳んでタンスにしまって、掃除機をかけてくれ。終わったらヒロにもアイスを食べさせてやるから。」
タダシがイタズラっぽくウインクしてみせると、ヒロは唇を噛み締めて台所へ向かった。
「分かったよ、やればいいんでしょ!」
ヒロはブツブツと文句を言いながら家事を始め、そんな弟の後ろ姿をタダシはメロンアイスの爽やかな甘みを味わいながら満足げに眺めるのであった。




