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お気に入り小説5

初恋の従妹を庇った貴方を許せなかったのに、政略であることと貴方の覚悟を見せられたので、婚約を継続しました。

作者: ユミヨシ
掲載日:2026/02/08

リセリア・ハルディ公爵令嬢が、これみよがしに、ディール王太子の傍に行って、


「ねぇ。ディール様。あの女と婚約解消してわたくしと婚約致しません?」


ディール王太子は青い顔をして、


「なんてことを言うんだ。私の婚約者はミルデリク公爵令嬢マリディシア。婚約解消だなんてとんでもない。それに君との婚約は有り得ないだろう」


リセリアは微笑んで、


「血が近すぎたっていいじゃありませんか。いつまでも、ミルデリク公爵家に王宮をいいようにされたくはないでしょう。私、ディール様をずっとお慕いしておりましてよ。」


「それでも、私の婚約者はマリディシア。マリディシアだ。二度と話しかけないでくれ」


マリディシア・ミルデリク公爵令嬢はその様子を取り巻き達と共に眺めていた。


ミルデリク公爵家が王宮で権力をふるっているのが、面白くないと思っているのがハルディ公爵家だ。


ハルディ公爵家に現国王の妹が降嫁している。

だから、リセリアはディール王太子の従妹に当たるのだ。

血が近すぎるからと婚約者から外された。


リセリアにとって、それが面白くないらしい。


本当に鬱陶しい女、リセリア。

幼い頃から、何かと絡んできて。

そんなにわたくしとディール王太子殿下が婚約したのが、許せなかったの?

あの女は昔から、ディール様ディール様と付き纏っているのを見たわ。

でも、ディール様が王太子と決まった時から、わたくしが婚約者になったの。

婚約を結んだと言ったら、あの女。凄い剣幕で、


「許せない。わたくしがディール様と婚約したかったのにっ」


って、王宮の庭で言われたわ。あれは12歳の時ね。


だから言ってやった。


「わたくしが王妃になるにふさわしいから婚約を結んだのですわ。貴方はふさわしくないから婚約者から落とされたのです」


「違うわ。わたくしの血が近すぎるから。母が国王陛下の妹だから。血が近いって何よ。わたくしはずっとずっとディール様が好きだった。彼の隣で王妃になるのはわたくしよ」


掴みかかって来た。


だから、こちらも掴みかかって取っ組み合いをしたわ。


護衛騎士達が慌てて引き離したけれども。


わたくしが王妃になるの。我がミルデリク公爵家の権力は更に強くなるわ。




マリディシアの父は、ランド王国の宰相も務めているミルデリク公爵。

王妃ユリーナはミルデリク公爵の姉だ。


ユリーナには子が出来なかった。

だから、側妃の息子のディール。幼い頃からディールが王太子に任命され、ミルデリク公爵家の娘マリディシアと婚約が結ばれていた。


恐ろしいユリーナ。そしてミルデリク宰相である父。

ミルデリク一族は王宮でも権力をふるい、国王ですら、王妃に頭が上がらなかった。

現在、マリディシアとディールは共に17歳。


ディール王太子は母である側妃が美しかったので、金髪碧眼で顔が整っていた。

マリディシアも黒髪碧眼でそれはもう美しい令嬢だ。


ただ不満なのは、ディール王太子はいつも、マリディシアに遠慮がちに接してくることだ。

テラスで交流の為にお茶を飲む時でも。


「今日はいい天気だな。そなたの好きな菓子を用意させた。隣国から取り寄せた珍しい菓子だ。以前、美味いと言っていたな。食べて欲しい」


ご機嫌を取るように、色々と気を使ってくれる。


「ミルデリク宰相によろしく伝えてくれ。私はマリディシアを大切にしていると」


何だかいつも怯えているようで、それはそうだ。

ディール王太子の母である側妃の実家は伯爵家。それも、ミルデリク公爵派閥だ。

ともかく、ディール王太子はマリディシアを怒らせたくないのだろう。


マリディシアもディール王太子の気持ちが良く解る。

政略で結ばれた婚約。


でも、何だかとても寂しい。


「わたくしは怒っておりません。ですから、そんなに気を使わなくてもよいのですわ」


「しかし、君の父上や、王妃様の事を考えるとな。私が王太子を下ろされて弟達に挿げ替えるなんて言いかねない」


一応、ディール王太子には弟達はいるにはいるが、まだ幼い。10歳と8歳だ。

いずれも側妃達の子だ。


マリディシアはディール王太子に、


「わたくしと歳が釣り合いませんわ。わたくしは貴方の隣で王妃になりたいのです。あの女には負けられないわ」


「ああ、あの女。リセリア。本当にシツコイな。いまだに婚約者をガンとして決めていないなんて。あの女の母であるハルディ公爵夫人が嘆いていたぞ。父上に」


「まぁ国王陛下に。ともかく、わたくしにあまり気を使わなくてもよろしいですわ。貴方を婚約解消なんて致しませんから。貴方が浮気をしない限り」


「しない。しないよ。私はミルデリク公爵家の恐ろしさを知っているから」


その時テラスにユリーナ王妃が現れた。


「マリディシア。仲良くやっているかえ?ディールと」


「勿論ですわ。伯母様」


「それならよろしい。ディールもマリディシアを大切にするがよい」


「当然です。ユリーナ王妃様」


妖艶にユリーナ王妃は微笑む。


ランド王国の黒百合の花。そう呼ばれるユリーナ王妃はそれはもう美しくて妖艶だった。

扇を手に、


「それにしても、鬱陶しいゴミは何とかせねばならぬの。ディール。お前に始末を任せる。鬱陶しいゴミを片付けよ」


ディール王太子は青い顔をして、


「リセリアの事ですか?」


「我が愛しい姪であるマリディシアとの婚約を良く思っていないようではないか。さっさとどうにかするがいい。殺しても構わぬぞ」


「殺すだなんて。リセリアは従妹です。私の」


「なんだ。殺すことは出来ぬと?あの女と婚約をしたかったのか?」


「いえ、とんでもない。ただ殺すには気の毒だと」


マリディシアは思った。

優しい人。確かに言い寄っただけなのに、命まで取るなんてかわいそうだわ。


「伯母様。わたくしからもお願い致します。命を取るのはかわいそうですわ。だから、許して差し上げて」


ユリーナ王妃は微笑んで、


「まぁよい。あの女が先々、どんな害になるのか、その目で見ることも必要じゃな。解った。ゴミ片づけはしなくてよいぞ」


明らかにディール王太子は安堵した様子だった。


マリディシアは思う。


でも、ディール様はもしかしてリセリアの事が好きだったの?

わたくしは貴方の本当の気持ちを知らない。

わたくしに遠慮して、いつもご機嫌取りをして。貴方の本音を知らないわ。



そして、ある夜、事件は起きた。


ディール王太子の18歳の誕生日を祝う夜会が行われた。


マリディシアが夜会の会場の控室で髪を巻きなおしたり、ドレスの支度をしたりしていた。

部屋から出ようとしたら開かない。もうすぐ夜会が始まるのに。


夜会の音楽が聞こえてきた。


支度を手伝ってくれたメイド達が、

ドアを叩いて、助けを呼んでくれる。


しばらくしてやっと扉が開いた。


「マリディシア様。急ぎ会場へ。夜会が始まっております」

「さぁ早く」


メイド達にせかされて、急いで夜会に行けば、


美しい金のドレスを着てティアラを被ったリセリアがディール王太子とダンスを踊っていた。


深紅のドレスを着て、ドレスでその様子を見て立ち尽くすマリディシア。


何故、貴方がダンスを踊っているの?

ディール様はわたくしが来なかったら、探しに来てくれるんじゃないの?


ディール王太子はリセリアとダンスを踊り終わると、扉の傍で立ち尽くしているマリディシアを見つけて、慌てて駆け寄って来た。


「待っていたんだ。だけれども、リセリアがダンスを誘って来たから」


リセリアが近づいて来て、


「大事な誕生会の夜会に遅れてくるだなんて。ディール王太子殿下の婚約者としてふさわしくないわ」


「貴方ね。貴方がわたくしを控室に閉じ込めたのね」


「あら、やだ。遅刻の言い訳をわたくしのせいにする気?」


ユリーナ王妃が優雅に近寄って来た。


二つのグラスを持って、


一つをマリディシアにもう一つをリセリアに渡した。


「せっかくのディールの誕生祝いの夜会ぞ。ここは飲み物でも飲んでのう」


マリディシアはグラスを受け取って、


「有難うございます。伯母様」


リセリアは手が震えて受け取れない。


「王妃様。わたくしは喉は乾いておりませんわ」


「わらわがせっかく持って来た飲み物を飲めぬと言うのか?」


「でも、王妃様。わたくし、飲めませんっ」


ディール王太子が手を伸ばして、


「私が頂きましょう。王妃様」


一気にグラスの飲み物を飲み干した。



ユリーナ王妃は微笑んで、


「良い飲みっぷりじゃのう。そこの小娘」


リセリアの耳元でユリーナ王妃は何かを囁いた。

リセリアは真っ青な顔で、


「申し訳ございませんでした。王妃様。どうかお許しを」


「良い良い。では行くがいい」


リセリアは会場をふらふらとしながら、出て行った。


マリディシアは思った。


あのグラスには毒が入っている可能性があったの?

伯母様ならやりかねない。

それを承知でディール様は飲み物を飲んだ?

それ程、あの女が好きなの?あの女を愛しているの?


貴方はわたくしと結婚するのよ。

わたくしの隣で国王になるの。

それなのにあの女が好きなの?


政略だって解っている。

貴方じゃなくても歳が近い王族がいればわたくしは婚約者になっていた。


でもでもでも、わたくしはずっと傍にいた貴方が好き。好きなんだわ。


涙が零れる。


ディール王太子に向かって、


「貴方はあの女を庇った。わたくしの婚約者なのに。貴方と婚約解消を致します。わたくしを待たずにファーストダンスを踊ったわ。あの女と。わたくしは貴方の事を許せない」


いつもならここでディール王太子は慌てるはずだ。

謝るはずだ。


ディール王太子は頭を下げて、


「確かにリセリアを優先させてしまった。君を待たずに。正直に言おう。私の初恋はリセリアだ。でも、初恋は初恋。遠い日の思い出で、しっかりと封印して、君の婚約者としてふさわしくあろうと努力してきた。でも、リセリアが殺されるかもしれない。とう思ったら思わず庇ってしまった。あまりにもかわいそうだろう?」


そしてユリーナ王妃に向かって、


「私がどんな罰を受けても構いません。でも母上はどうかお助けを」


ユリーナ王妃にきっぱりと言われた。


「政略だ。お前達の婚約は。気持ち等、後回しじゃ。わらわもこうして国王陛下と結婚した。婚約解消は許さぬ。ディールよ。お前は国王になる。わがミルデリク公爵家の傀儡として。お前の母親が大事ならいう事を聞く事じゃ。マリディシア。お前も自由の意志を持つことは許されぬ。解っておろう?婚約解消は許さぬ。これはミルデリク公爵家としての命令じゃ」


わたくしは、自分の意志を持つことが許されない。

そうだったわ。ミルデリク公爵家の娘として生まれた時から決まっていた。


ディール王太子の顔を見つめて、はっきりと宣言した。


「婚約は継続致します。でも、これからはわたくしをないがしろにすることは許しません。いいですね?ディール王太子殿下」


「勿論だ。マリディシア」


ディール王太子に手を差し出されて、


「改めてダンスを踊ろう」


「ええ、よろしくお願い致しますわ」





リセリア・ハルディ公爵令嬢は王立学園にも来なくなった。

精神を病んで屋敷に閉じこもっているらしい。


マリディシアの心は枯れ果ててしまった。

あの飲み物をディール王太子が飲んだ時から、リセリアを庇った時から。


そうね。わたくしは何を期待していたのかしら。

愛し愛される夫婦になりたかったのかしら。

所詮は政略。政略なのに……


王宮の庭を散策していたら、声をかけられた。


10歳のパルス第二王子と、8歳のリゲル第三王子だ。


二人は駆け寄ってくると、パルス第二王子ははっきりと言った。


「兄上が頼りないようなら、私を婚約者にして下さい。私ならマリディシアを泣かせない」


リゲル第三王子もつたない口調で、


「私もです。私もマリディシアを泣かせない」


二人の母である側妃達から吹き込まれたのだろう。

マリディシアは思った。


この二人のどちらかでも、良い訳よね。ただ歳の差はあるけれども。

でも、わたくしは‥‥‥


「ごめんなさい。わたくしはディール王太子殿下の婚約者なの。気遣ってくれて有難うございます」


パルス第二王子は、


「いつでも困った事があったら言って下さい」


リゲル第三王子も、


「わ、私も力になります」


幼いのにしっかりした二人の王子。

ディール王太子が近づいてきた。

そして、二人に向かって、


「マリディシアは私の婚約者だ。お前達には渡さないぞ」


そう言って、マリディシアの手に手を添えて、連れて行く。

テラスで、二人でお茶を飲む。


「リセリアに毒杯を渡した」


「え???今、何て言ったの?」


「毒杯を私の名で渡した」


ディール王太子はカップを両手で持って手が震えていたが、きっぱりとマリディシアを見つめて。


「けじめだ。君の心を傷つけた。これを償うためにはどうしたらよいか。ユリーナ王妃に渡されたんだ。毒を。これをリセリアに飲ませるように」


毒の包みを懐から出して見せるディール王太子。


「これと同じ毒をハルディ公爵家に送った。リセリアは今朝、毒を飲んだそうだ」


震える手でカップに毒を入れるディール王太子。

そして、きっぱりと、


「私が王太子に、国王にふさわしくないと思ったら、この紅茶を勧めてくれ。飲むようにと」


「貴方はそれでいいの?死んでもいいの?」


「マリディシアを傷つけた。リセリアを庇った為に。これは私のけじめだ。隣に立つにふさわしいと思ったらこの紅茶を捨ててくれ」


マリディシアはバシっと紅茶のカップを手で払いのけた。

床に落ちたカップが割れて紅茶が零れる。床が黒く黒く染まっていく。


はっきりと言ってやった。


「貴方に傷つけられた事は確かですわ。でも、わたくしと貴方は政略。そこから逃げようとするなんてズルい。生きてわたくしに償って頂戴。貴方まで死ぬなんて。そんなにあの女を愛していたの?」


「違う。君の心を傷つけた。だから、私は」


「あああああっ。お願い。死ぬなんて言わないで。わたくしは貴方の事を愛しているわ。貴方に愛されなくても政略でも愛しているわ。ずっとずっと遠慮してわたくしを気遣って、何だか寂しかった。わたくしは貴方に本当に愛されたかったのっ」


涙が零れる。

ディール王太子が抱き締めてくれた。


「すまなかった。私の愚かな行いのせいで。これからは共にランド王国を良くしていくために歩んでいこう」


この人を許せる。この人と共に歩いていける。

愛しているっ。離したくない。

そう思えた。



一年後、ディール王太子とマリディシアは結婚した。

お似合いの夫婦だと王国の人々は祝福した。


二人はいつまでも仲睦まじく、ミルデリク公爵家の権勢は更に強まって、ランド王国は二人の治世になって栄えに栄えたと言われている。



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