灯火の記憶
読みやすさ向上のため、冗長な箇所を調整しました。
「そうよね!いつまでも一緒にはいられないもんね……」
フレンダは顔を見せなかった。
あたりは一変し、不気味なほど静かになった。
ピキリ、と痩せこけた小枝の折れる音が聞こえた。
ここに来てからずっと、フレンダは震えていた。
「シラ、レイン……。その……怖く、はないの?」
「「何が?」」
レインと声が被った。
「なんで被るのよ……」
闇の中で、枝や葉を踏み鳴らす音が響く。
幽鬼じみた冷たい霧が足元を漂っていた。
「お化け出そう……」
「お化け?」
「お化け知らないの?」
フレンダは私がお化けを知らないことに驚いていた。
「な、何?あの光……」
フレンダは震わせていた身体を止めた。
「なんか蒼い炎みたいだな」
レインが淡々と言った。
「それってもしかして」
フレンダの表情が青ざめている。
魂のような蒼い炎が、提灯のように先をうっすらと照らしていた。
火の粉は綿のようにふわふわと舞い、夜空へ消えてゆく。
いつの間にかその炎に囲まれていた。
触れると少し柔らかい感触がして温かった。
「フレンダ。大丈夫?」
フレンダは蹲って震えていた。
「……。怖いわけじゃないからっ!」
「レイン。フレンダは大丈夫?」
「ああ。コイツ、怖がってるだけだろ」
「綺麗だけどね」
「そうだな」
私はこの炎がどうなっているのか気になって覗いてみた。
「あ……」
蹲るフレンダの前へ、一寸の炎が近づく。
寒さで震える身体を温めようとするようだった。
「こ、こ、こっち来ないでっ」
「フレンダ。大丈夫。怖くないよ」
「し、シラ……?」
これ以上の言葉は伝えられない。
私はフレンダの手を取り、目を見つめた。
「わ、分かったわ。シラが言うのなら」
フレンダの手に握られた服に皺が入っていた。
フレンダは、閉じていた瞳をゆっくりと開ける。
「わ……」
服に入った皺が解けた。
ーー淡く温かな蒼い炎が身体を温めてくれていた。
その炎はすごく優しくて、ずっと会いたかった人と会えたような懐かしさを感じた。
少しでもそれに触れて、見ていたいと思った。
私が炎をのぞき込むと、そこにはお父さんとの思い出が詰まっていた。
幾つもの炎は先を照らし、進むべき道を示しているみたいだった。
私たちは示された道に沿って進む。
進むにつれ、炎に映る私が成長していく。
自分の過去が映る炎を見ていると、私はふと気になった。
「ねえ、シラ」
そうだ。
シラにはこの景色の中には何が見えるのだろうか。
「何?」
「シラは今、この景色がどう映っているの?」
シラは暫く黙り込んだ。
そして答えた。
「景色……」
「そっか。そうだよね」
私が邪魔してはいけない気がした。
私も秘密にしていたい気がするから。
炎は風に煽られ、大きく揺らめく。
記憶の詰まった景色に、感情が溢れてしまいそうになった。
やがて、一寸先からは真っ暗な平地になる。
私たちはもう出なくてはならないみたいだ。
「もう、お終いかぁ」
お祭りが終わるような名残惜しさを感じた。
真っ暗な平地に足を踏み入れた時だった。
一際大きく、燃え盛る炎が目の前に現れた。
それは、最初に私の所に来てくれた炎だった。
絶対にそうだ。
この懐かしさと温かさを覚えている。
一際大きな炎は消えかかっていく。
そこには、あるものを映していた。
そうだ。帰ったら。
それを見た瞬間、ここを惜しむ気持ちは晴れた。
それはお父さんが好きな白色の紙に、私宛に書いている手紙を執筆し終えた所だった。
ごみ箱には何枚ものくしゃくしゃに丸まった紙。 それが、積みあがった想いみたいに入っていた。
私はシラを見た。
どういう感情か分からなかった。
「シラ?」
「……」
声をかけると、シラの目線が暗い道を示す。
「もう行ける?私は、十分に温まったから大丈夫よ」
「私も大丈夫」
さっきまでの明るさが嘘のようにあたりが真っ暗になった。
お祭り会場を後にしたような静けさだった。
振り返るとさっきまであたりを照らしてくれていた炎は消え、真っ暗な平地だった。
月夜を遮るものもなく、平地の草木はすくすくと伸びていた。
月に向かって進んでいると、吹き抜けの洞窟があった。
この先が楽園と地上を分け隔てているようだった。
この先に夜の花がある。
さっきの炎たちが告げてくれていた。
私たちは洞窟の中に入って行った。
「シラ。私。あなたに会えて本当によかったわ!」
声がこだました。
「どうしてそう思えるの?」
「どうしてって……。だって、私の友だちになってくれたもの。あと、ついでにレインも」
「ついでか」
「……」
シラは見えない。けれど、どう反応していいか分からず、黙っているのだと思った。
「ほら、手を出して!」
だから、シラの手を強引に握った。
「握手よ!」
無言のシラの手を、ぎゅっと握った。
「ふふっ」
私は暗闇をいいことに照れ臭く笑った。
やがて、洞窟の奥から光が見えた。
「シラはこの旅、楽しかった?」
「うん」
「本当に?シラ、ずーっと無表情だったから」
「うん。多分だけど……」
「多分?」
「私、良く分からないけど、フレンダやレインといると、なんだか落ち着いた」
私は、シラと話していると安心した。
別に大した話もしてないのに。
でも、それが友だちといることなんだと思った。
ーー光に身体が包まれる。
「ねえ、シラ。レイン」
フレンダが、月光に灯る笑顔を私たちに見せた。
「楽しかったよ……ありがとう」
吹き抜けの洞窟を出た。




