旅路へ
読みやすさ向上のため、文章の調整を行いました。
綺麗にしてあった物置部屋に布団を敷き、私とフレンダはそこに眠ることになった。
「シラはさ、もし花を見つけた後、どうするの?」
真っ暗な中、フレンダが小さな声で聞いた。
「……ううん。やっぱりなんでもない。おやすみなさい。シラ」
フレンダは背を向け布団の中にこもった。
しばらくして、フレンダの寝息が聞こえてきた。 私も布団にこもって目を閉じた。
私は夢を見ていた。
目の前には、少女と男の姿が映っていた。
よく晴れた日で、二人は、緑を見下ろせる煉瓦街にいた。
街は人であふれ、出店もちらほらと見える。
「どうだ?いい街だろ」
男が言った。
「……なんで」
少女は足元の浮き出た石畳を見ていた。
「うおっ。んだよ。話せるのかよ」
男は少し驚いていた。
「なんで、私を連れてるの?」
相変わらず、少女は石畳の隙間を見たりして、俯いていた。
「なんでって、そりゃ……」
男は歯切れ悪そうに答えていた中、遠くから甘い香りがしてきた。
少女は顔を上げ、甘い香りの方を見た。
男の話は聞いていなかった。
「気になるのか?」
少女は固まった。
「そうか。少し待ってろ」
男は甘い香りのする所へ行き、小包を持って戻ってきた。
「ほらよ」
封を解くと、甘い香りが溢れ出してきた。
「……」
「食べていいぞ」
少女はがっつくように甘い香りの菓子を食べた。
二人は、木々に囲まれた小さな教会に来ていた。
アーチ窓から七色の光が差し込んでいる。
脇には階段があった。
「高い所は大丈夫か?」
少女は首を縦に振る。
「そうか」
男は少女を連れて、脇の階段を登った。
上には扉があって、男はそれを開けた。
「ここから、この下の森を見下ろせるんだよ」
一面いっぱいに、緑の景色が広がっていた。
「旅、したことあるか?」
少女は首を振る。
「どうだ、この景色」
「……き、れい」
少女の薄い色の瞳は、陽光を受け、輝いて見えた。
「俺はこれから、お前を旅に連れてこうと思う……」
少女の髪がふわりと風に浮く。
男の顔は日差しに隠れて見えなかった。
今なら分かる。これは、男の優しさだった。
少し、それよりも前のことを思い出した。
少女は、凍える雪国で生まれた。
刃物を持っていた。
これ以上は思い出すことをやめた。
今、思い出してはいけないと少女が首を横に振っていたから。
翌朝、目を覚ますと、そこは教会ではなかった。
だが、私の胸には、あの緑いっぱいの景色が残っていた。
隣の布団を覗くと、もう空っぽだった。
リビングへ行くと、レインは両親と話していた。
フレンダはソティーとごっこ遊びをしている。
「おはよう!しらちゃん!」
私はソティーに引っ張られ、フレンダのいた隣に座らされた。
私も混じって、三人で遊んだ後は、昼食も振舞ってもらった。
昼食後も元気だったソティーは、私たちを外へ連れ出した。
私たちは田園の中をずっと走り続けていた。
走り遊びが終わると、私たちは田畑を見下ろせる階段に腰かけていた。
良く晴れた青空は、緑をより深く見せていた。
少し、あの時の景色に似ていた。
「ねえ、れいんってどうしておにんぎょうなの?」
ソティーが私に聞いた。
言われて気が付いたが、レイン以外は人間だった。
「シラ。大丈夫。私が話すわ。ソティー。シラは自分の記憶を覚えてないの」
「えっ。そうなんだ……。ごめんなさい。へんなこときいて」
「ううん。大丈夫」
でも、レインは他の誰よりも、見慣れたような親しみがあった。
結局、家に戻ったら夕方になっていた。
ソティーとはここでお別れだった。
玄関で、両親がソティーをなだめる。
「夜の花。見つかるといいわね」
「うん。ありがとう」
「また何かあれば、うちまでおいで」
別れ際に、ソティーが私たちに抱き着いてきて引き離すのが大変だった。
「またね~!」
ソティーの振る手が、陰になっても見えた。
私たちは再び森の中を進んでいた。
「シラはさ……その、家に戻った後はどうするの?」
私は歩く速度を落とした。
フレンダの表情を見ようとしたが、木の影が顔を隠していた。
「……お前はどうしたいんだ?」
レインが聞いた。
夕暮れに影を落とす茂みがわさわさと揺れた。
ソティーたちと見た田園の香りを思い返す。
あの夢で見た、緑いっぱいの景色が胸に蘇った。
「私……。旅に出たい」
私は顔を上げ、答えた。
静かな風が、背中から吹いてきた。




