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※本話にはホラー描写を含みます。苦手な方はご注意下さい。

 寒気がする。

 私はまた、夢を見ていた。

 

 夢の中で、少女は男と旅をしていた。

 どうして一緒に旅をしているのか思い出せなかった。

 更に、この男と出会う前のことを思い出そうとすると呼吸ができなくなって、立っていられなかった。


 深い森林の目の前だった。

「ここは、雪が降る季節になれば木々は枯れ、あたりは白く染まる。ようやく見つけた。お前の故郷だ」

 少女は男といろんな場所を巡っていた。

 だが、男の目的を知ったのは今日が初めてだった。

「……私、の……故郷?」

「恐らくな。嫌なら待っててもいい。俺だけで行く」


 あの真っ赤な景色。


 殺した人たちで作った。


 隠さなくてはいけないものだ。


「なに突っ立ってるんだ?行くぞ」

「……」

 だが、男は少女の森に足を突っ込んで行ってしまった。

 

 晴天を遮断した森は薄暗く、肌寒かった。

「本当にこんな所にあるのか?」

 男は茂みをかき分けて進む。

「道もないのか?」

「……」

 少女にとってこの状況は好都合だと感じた。


 どうか、このまま見つかりませんように。


 でも、その時は来てしまった。


 あたりが赤黒くなる頃、男は遂に見つけてしまった。


 広場のような場所に出た。

 出てしまった。


「ここか……」


 森が途切れた。

 木々に囲まれた村がそこにはあった。

 見渡す限り人の姿はなかった。

 吹き抜ける風は不吉な冷たい音をしていた。

 小さな靴がぬかるんだ土の上に転がっていた。

 あちこちに白い欠片が落ちていた。

 破れたままの窓ガラスには、赤黒い夕暮れが写り込んでいるだけだった。


「……ここがお前の故郷か?」


「うん」


 少女は頷いた。


「そうだよ」


 男は近くにあった家の軋む扉を押し開けて中に入った。

 部屋は更に暗くて寒かった。

 僅かな夕暮れの光が、部屋を照らしていた。

 食器が崩れたままテーブルの上に放置してあった。

 部屋のあちこちに、さっきも見た白い欠片が転がっていた。

 真っ赤な血痕が陰に隠しきれずについていた。


「なんだ、ここは……」


 男は白い欠片を拾い上げた。


 パキッと音を立てて折れた。


 男はしばらく黙っていた。


「……これは」


 ゆっくりと振り返る。


「これは、お前がやったのか?」


 男は静かだった。


 薄闇に少女の影が蠢く。


 キキィィィ……。


 虫食いの扉が閉まった。


 少女は扉の前に立っていた。


「そう。私がやった」


 僅かに光の漏れる虫食い穴を少女が塞いだ。

 視界が真っ暗になった。

 

 やがて、徐々に、視界が明るくなる。

 身体が動く。目が覚めた。

 そこに映る景色は見覚えのある車内だ。

 そこで、私の身体が揺さぶられていた。

「し、シラちゃん。大丈夫?」

 ナナシの声だった。

「大丈夫か?」

 レインもいた。

 寝汗でべったりと張り付いた汗が冷たくて気持ち悪かった。

「……」

 私はわかる。

 あの夢の後、私が何をしようとしたのか。

 だから、私は人ではない。

 死ななくてはいけない。

「大丈夫だ」

 レインは、いつもよりも、力強い声で言った。

「何度も言わせるなよ。もう、お前なら分かるだろ?」

「……うん。でも」

「でも、じゃない。自分と対話するのを勧めたのは俺だが、自分とばっかり話してると、変な方向行くぞ?」

 レインはハンカチで私の汗を拭いた。

「主観だけじゃなくって客観も大事なんだよ。つまり、内省するってことだね」

 ナナシの声も優しかった。

「内省って……。それじゃ分からないだろ。要するに、俺たちもいるんだ。お前の考えたことを俺たちで答え合わせすればいい。いかに悲劇のヒロインぶってるか分かるぞ」

 レインは自信満々だった。

 どうして、ここまで私を信じるのだろうか。

 でも、レインの拭いてくれた部分はもう、気持ち悪くなかった。

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