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都会

 レインの目を見れなかった。

 自分も全部が見れなかった。

 視界が白黒になっていく。

「次は都会に行くぞ」

 レインの声がぼそぼそと機械音のように流れた。

「……」

「何かあったか?」

「……ううん。なんでも」

 座席の下の影に目をやった。

 ゆらゆらと動く影が私を誘っているみたいだった。

 自分が過去に何をしたかを伝えなくてはいけないのに、口にできなかった。

「何があったか知らん。だが、無理に話さなくてもいい。話せなくてもいい。いつか、話せる時が来たらそれでいい」

「……」

「お前との縁は、何か理由があって千切れるほど浅くないぞ。千切れるときはせいぜい、お前が俺を切りたくなった時くらいだ」

「でも……私」

 駄目だった。これ以上は口が動いてくれなかった。

「理由を話せないと思ってくれるほどに、俺のことを考えてくれてるんだろ?なら、大丈夫だ。また話せる時まで待っててやるよ」

 影を追う目は、いつの間にかレインを追っていた。

「だから安心しろ。前も言ったが何があっても俺はお前の見方だよ」

 レインの言葉が、絵の具を垂らしたように滲み、世界がぼんやりと色を持った。

 ようやく、私は言葉を発せられた。

「ねえ、レイン?」

「なんだ」

 私は知りたかった。

 この、温かい感情の名前を。

 だから聞いた。

「レインは私の友だち?」

「……さあな」

 レインはふっと笑った。


 汽車に揺られてからそれなりの時間が過ぎた。

 眠さで余分に温まった熱を冷ますため、車窓に軽く首を出した。

 地べたにはいくつもの路線が敷かれ、いくつもの箱型の電車がその上を走り、交錯しあっていた。お互いが決められたレールの上を走り、決して衝突することはなかった。

 線路の向こうには星とはまた違った光が大量に灯っていた。    

 それは、あの周囲の建物からだった。

 また、小さな光はゆっくりとある規則に沿って動いて見えた。

「あれは……?」

「ここが都会だ。凄いだろ」

「うん。凄い」

 気がつけば目がぱっちりと開き、眠気など忘れてしまっていた。

 電光掲示板が点滅していた。

 アナウンスが至る所から鳴りやまなかった。

 私たちの乗った汽車が、誰も居ない一番奥のホームで止まった。

「降りれるか?」

「うん」

 ホームから少し歩くと、他の電車の駅のホームにつながった。

 夜なのに眩しいくらい明るい光の下を人間が行き来していた。

 大量の足音と、控えめな会話が場の雰囲気を作り出す。

 少しくぐもっていて、所々ぷつぷつと途切れる抑揚のない電子音声が駅構内に響いた。

「そこ、右だ」

 レインの言う右側には何やら不思議なゲートがある。

「改札口だ、そこにこのカードを当てると開く……」

 周りの人間は平然とそこに向かうが、私には平然となどしてられなかった。

「人が多い……」

 改札口付近にはありえない数の人が集まり、まるで押し合うようにしてそこに向かっている。

「何言ってるんだ。この先はもっと多いぞ、この時間は」

 そう言っている間にも別方向から電車がやってきた。

 下車した人々が、更に改札口へと押し寄せてきた。


 けたたましいアナウンスにおびただしい数の人々。


 溢れ出す光の群れと機械音。


「ごめんなさい……。なんだかしんどい」

「そうだな。今日は戻るか」


 私たちは汽車の中へ戻ってきた。

「……ごめんなさい」

「気にするな、まあ、寝ろ」

 そう言われたが、私は寝ることが怖かった。

「安心しろ。俺はここにいる。まあ俺でいいのかは知らんが」

「……ありがとう」

「気にするなよ。それよりも明日は少し面倒な奴に会いに行くからしっかり寝とけよ」

 レインはめんどくさそうにため息をついて言った。

 私は、レインがいたから安心して目を閉じることができた。

ここで一区切りとなります。

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